白の食卓と五色の正義
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「赤なんだよ赤。王道でありながら、いや、王道だからこそ赤が難しい」
食堂のテーブルには久々知くんが真心を込めて作った豆腐料理が並んでいる。
湯豆腐、揚げ出し豆腐、麻婆豆腐、肉豆腐、豆乳ドーナツ、杏仁豆腐…等々。
今日は、不定期に開かれる、五年生と私の「豆腐の会」の日だ。
久々知くんの手料理とともに、ぐだぐだととりとめの無い話をするのだ。
「いっそ、金、銀、バイオレット…あ、菫色ね。そしてシアン……えーっと青緑っていうのかな。そういうのも視野に入れて考えた方がいいかな」
「なるほど、選択の幅が増えますね」
テーブルの上は白の割合が多いが、私達の話題は様々な色が並んでいる。
優柔不断の雷蔵くんだけではなく、私と共にテーブルを囲む久々知くん、勘右衛門くん、八左ヱ門くんは腕を組んで頭を捻らせていた。
「小平太くんが黄で、長次くんが黒、仙蔵くんが青なのは確定でいいね?」
「もうそれでいいです」
「そこは固定しましょう」
八左ヱ門くんと勘右衛門くんは何度も頷く。
その時、三郎くんが遅れて食堂にやって来た。
誰も箸を付けず難しい顔をして固まっているから、彼は何事かと私達の顔を見回しながら座る。
「何だ何だ、とうとう朱美さんも豆腐に飽きたんですか?」
「そんなわけ無いだろう三郎…………ですよね?」
久々知くんは批難めいた返事をしたけれど、不安そうに私に確認してきたから、笑顔で首を横に振った。
「そんなことないよ。ていうか、三郎くんを待ってたんだよ。みんな揃ってから頂きますしたかったし」
「それは申し訳ない。では!」
皆、手を合わせ「いただきます」と頭を下げた。
「で?何に悩まれていたんです?」
三郎くんに、先程までの話を共有することにした。
私の世界にある娯楽の話をしているうちに、戦隊モノの話題へと流れ着いたのだけれど、そこから忍たま達を戦隊に当てはめると何色なるか……それなら六年生で当てはめると誰になるのだろうと、盛り上がったのだった。
それぞれの色のイメージを挙げれば、
「青は立花先輩だろうな」
冷静枠は即決だった。
だが、それ以降答えが浮かばなかった。
「武闘派で熱血な食満先輩、潮江先輩が赤だと思うのですが…」
「優しくて思いやりのある善法寺先輩も赤が似合うと思うのです」
「あー」と、私は心から同調した。
そうして、誰が何色ポジションかの議論が続き、先生から頼まれた用事を済ませて遅れて参加してきた三郎くんが来たのである。
戦隊の話も含め、三郎くんに話せばゲラゲラ笑う。
「相変わらず変な話をされますね」
「相変わらずって何よ」
「それで、朱美さんは桃色ですか」
「いや、桃色は滝夜叉丸くんか三木ヱ門くんだから」
知らんがな、的な沈黙が流れた。
実際、桃色と考えて真っ先に浮かんだのは彼らであった。
背景に華麗に花びらをまき散らしながら鮮やかに敵を倒す二人の姿を想像しながら、私は麻婆豆腐を堪能する。
この時代、よくまあ作れたものだと感心してしまうが、細かいことは気にしないでおこう。
「私は皆を補佐する役がいいな。または敵の女幹部」
「なんだか朱美さんらしいですね」
相変わらずとか、私らしいとか。
五年生の私のイメージが気になるところだけれど、湯豆腐も早く食べたいし、デザートにも行きたいところだし、食に会話にと忙しくて、その話題を掘り下げるのはまたの機会にしようと決めた。
「じゃあじゃあ、土井先生は?!」
三郎くんが嬉々として尋ねてきた。
皆も気になっていたようで、箸を置いて身を乗り出してきた。
「そこなんだよ」
渋い顔をする私に彼らの期待は一層高まったように感じた。
「朱美さんが補佐役なら土井先生は指令役で、お二人は恋人…とか?」
「それも魅力だよね」
私のアイディアの発展させたものを提案した勘右衛門くん。
そこで三郎くんは意地の悪い笑みを見せた。
「どうせ戦隊達が出動したらイチャつくんだろ」
「地球の平和がかかってるのにイチャつきなんかしないよ!」
「想像の話で本気で怒らないでください!」
まあまあ、と久々知くんは私にお茶を差し出してきた。
さんざん悩んでいた雷蔵くんも何か閃いたようで、ぽんと手を打った。
「いっそお二人で敵幹部というのはどうでしょう?」
「朱美さんはともかく土井先生が敵役なのはキツイな」
苦笑する八左ヱ門くんに、皆は頷いていた。
「改心して味方に付くっていうパターンもあるよ」
「『朱美さんはともかく』というところの突っ込みはナシですか?」
だって六年生と私とでは勝てる気がしないし。でも敵幹部にしんべヱと喜三太がいたら、仙蔵くんを無力化できそうだ。私も巻き添えをくらうだろうけど。
「あ!敵と味方で恋に落ちて、禁断の恋……!とか!」
何て良い考えだ!と言わんばかりに、発言後も得意気に私を見る八左ヱ門くん。皆も「なるほど」と声を揃えていた。
かく言う私も、色々なシチュエーションを想像して、ニヤニヤが止まらない。
「あ。いやらしい想像してる」
「悪い?」
「否定しないんですね」
指差す三郎くんを睨めば、雷蔵くんに呆れられてしまった。
これではいけない。
何とか誤魔化そうと他の話題を考えていたが、私はとても大切なことを失念してしまっていた。
「肝心なことを忘れた」
杏仁豆腐に手を伸ばそうとしたのに、これでは落ち着いて食べられない。
「一番重要なのは戦隊の名前だよ!」
〇〇戦隊〇〇ジャーが王道だろうが、〇〇マンとか、もっと斬新でも良い。
「名前、ですか?」
「忍者にとって一番どうでもいいことですけどね」
確かに闇に生きる忍びにとって、名前など拘らないだろう。
だが、戦隊モノで名前は外せない。
なにせタイトルになるのだから。
「でも面白そうだな!何か案がありますか?!」
こんな時、三郎くんと八左ヱ門くんは真っ先にノってくれる。私の知っているタイトルを教えれば、二人は目を輝かせていた。
忍たま戦隊ロクネンジャー、というド直球な私の案は無言で流されてしまった。
「いけどん戦隊こへいじゃーなんてどうだ?!」
入り口からの声に私は振り返る。
「あ。みんな」
「お、お疲れ様です……」
深緑色の装束が6人。
何とも良い笑顔で入口に立っていた。
先輩方の登場ということで、先程まで漂っていた緩い空気から一変して、五年生達の纏う気配は、張りつめたものになってしまった。
「面白い話をしているな」
「黒……か」
「赤って主役って事だよね?嬉しいなあ」
「おい留三郎。お前が敵幹部とやらだったら俺が真っ先に成敗してやる」
「お前こそ成敗してやる!」
賑やかだったのが騒がしくなった。
六年生の話からして、私達の話を最初から聞いていたようだ。
三郎くんたちは急いで皿を空けて、バタバタと片付けを始めてしまう。
先輩方をネタとして扱った気まずさから、さっさと食堂から脱出したいのだろう。
「朱美さんはゆっくりされてていいですから」
久々知くんは自分の分の杏仁豆腐を差し出してくれた。
「お、お疲れ様」
そんな群青色の五人の背中に手を振っていると、今度は深緑色に囲まれてしまった。
「それで、朱美さんは誰が赤だとお思いでいらっしゃいますか?」
隣に座った留三郎くんは笑顔だが、何だか圧を感じる。
「へたれの留三郎なんかに赤が務まるはずがない!リーダーはこの私だ!」
「何を文次郎!勝負だぁ!」
先程まで自主鍛錬を行っていたのだろうに、二人は立ち上がり、再び食堂を出て行ってしまった。残された仙蔵くん達は、お茶を淹れ、静かに飲んでいる。
小平太くんも静かなのが意外であった。
「いけどん戦隊こへいじゃーなのだから、赤は私のはずなんだが」
お茶を一気に飲み終え、湯呑みを置くと同時に、不思議そうに言う彼に私はずっこけたくなった。
もう彼の中ではタイトルが決定されたようだ。
「それはどうだろう」と、長次くんは確かに呟いた。
仙蔵くんも伊作くんも言葉にはしていないが、長次くんと同じ思いに違いない。
もしも彼らが正義のために戦うヒーローになったら。
それはそれはとても頼もしいに違いない。
私はできれば、そんな彼らとは関わることなく、一般市民として、そんなヒーロー達の闘いを見ていたいと思う。
彼らのサポート役など、振り回されっぱなしで疲れるに決まっている。
「朱美さんは補佐役ですか……それは心強い」
くすりと笑う仙蔵くんだが、優秀で学園一冷静な男に言われると皮肉にしか聞こえない。
「土井先生は我々が改心させよう……」
長次くんの中では、土井先生は敵幹部にいるらしい。
静かに彼は拳を握りしめていた。
「ぼくの不運に皆が巻き込まれなければいけど。頑張ってリーダーを務めるよ」
「赤は私だぞ?」
想像の話なのに、すっかりやる気になっている彼らを見て、やはり補佐役は勘弁願いたいなと思う一方、私がリーダーになって彼らをまとめるのも悪くはないなと思うのであった。