21 あなたを待つ日々(1)
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子の刻の正刻。
朱美の部屋には六人の忍たま達が集い、心もとない燈台の灯りに照らされながら、机の上に置かれた懐中時計を見つめていた。
真下の6の文字が砂のようにはらはらと落ちていくが、その粒は文字盤に溜まることなく消えていった。
その様子を朱美、仙蔵、兵太夫、三治郎、伝七、乱太郎、きり丸は息を止めて見ていた。
秋の只中。夜風は既に冷たく、羽織り物をしても心許ない。
きり丸は夏休みに土井と共にこの様子を見たことがあるが、常識を超えたこの現象は初めて見たときのような衝撃が走る。
「有り得ない……だが、こうして目の前で……」
「信じられない……」
仙蔵と伝七は誰に話しかける訳でもなく独りごちる。
兵太夫と三治郎は興奮気味に懐中時計を手に取り、裏返したり、灯火にかざしてみたりした。
「分解したいなー」
「ネジ一本も見当たらないなんて」
「そうなんだよね。普通、分解できるはずなんだけど」
朱美も頷く。
「この文字が全部消えてしまったら朱美さんは……」
乱太郎は寂しげに俯いた。
揺れる灯火にあわせ、彼のクセの強い髪や眼鏡の影も、寂しさを表すかのように揺れる。
しん、と冷たい空気が積もる。
「文字が消える意味、消える時刻を鑑みるとその考えもあり得る……確実ではないが、恐らく」
最高学年であり、学園一冷静な男と称される彼が濁すような言い方をしても、一年生の彼らにとっては確定事項のように感じた。
秋の夜の冷たい空気よりも重くひんやりとした雰囲気に耐えかねて朱美は戯けたように笑う。
「もしも春になってもこのままだったら、今後もよろしくね」
きり丸もニッと口角を釣り上げる。
「じゃあ、放課後も休みの日も、子守も内職もお願いしますね!」
「やるから宿題してね」
「やだ」
即答するきり丸に朱美は「コラ」とわざと怖い顔をして窘めれば、皆はやっと笑顔になった。
「では、わたしたちはこれで失礼いたします」
「えー!まだお話していたいですよ」
仙蔵が立ち上がると、兵太夫を始め、一年は口を尖らせた。
困ったように笑う仙蔵は首を振る。
「明日も授業がある。それにこれ以上騒ぐ声がしたら隣の山田先生や土井先生も黙ってはいないだろう」
教員の名前を出せば、素直に立ち上がる後輩達の幼さに仙蔵は内心微笑ましく感じる反面、一人前の忍びにはほど遠い事を嘆いた。
「では伊瀬階さん。我々はこれで」
戸の前で仙蔵は綺麗な礼をする。結わえている彼の真っ直ぐな髪が垂れる様も、また綺麗であり、朱美は毎回見とれてしまう。
きり丸と彼が元の世界に行ったとしたら、シャンプーのCMに出るよう、目を銭にさせながらきり丸は強く進めるのだろうな、なんて具体的な想像をした。
一年生もぺこりと頭を下げて「お休みなさい」と声を揃え、仙蔵と共に忍たま長屋へと静かに歩いていった。