2 この世の常
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大借物競走の夜。
学園長には私のお願いによって、教員、忍たま、くのたまの皆にご馳走が行き渡り、心の底からほっとした。
海の幸、山の幸が集う食堂のテーブルは、自然とビュッフェスタイルとなり、食堂の席に座れなかった人は、皿に好きなおかずを装り、食堂の外で食べ始める。
すると、それでは明かりが足りないと言って、松明や燭台を持ち出し、それでも雰囲気が足りないと誰かが言い出して、机や椅子を持ち出して、気がつけば外の方が楽しそうで、殆どの人が外で食べ始めていた。
私が皆のために持ってきたお菓子や缶詰も好評で、チョコやクッキーを手にしては、その形や色に驚きの声をあげ、食べるとその甘さに驚愕していた。
特にくノ一教室の生徒たちは、夢の国で買った缶や箱のデザインに騒いでいる。
私は今、乱太郎くんのリクエストにより、半助さんの隣に座り、ご馳走を食べている。
昨晩は先生方による私の歓迎会で、今日は生徒達による歓迎会のためか、土井先生を除く先生方は夕食を食べ終わると、あっという間に長屋へ戻ってしまっていた。
「こうしている今もスケッチされてるんですよね」
向かい側には、真剣な表情で私達と紙を交互に見て筆を走らせる乱太郎くんがいる。
「気にせず食べよう」
なんて、半助さんは涼しい顔。
大借物競走であんな告白をして、しかも参加した皆に聞かれてしまっていて、当然、この夕食時に半助さんの台詞は全校生徒と教員に瞬く間に広まった。
それなのに、半助さんはしれっとしている。
「恥ずかしがったら負けだ」
「ということは本心は」
ちらりとこちらを見た半助さんは、小さく微笑んていた。
「めちゃくちゃ恥ずかしいよ」
「やっぱり」
「たが、言った言葉に嘘はないからな。恥じるのも変な話だろう?」
赤くなる私をよそに、半助さんはテンポ良くご飯と副菜とお刺身を食べている。
皆のニヤついた視線が痛くて堪らなくて、私だけなかなか箸が進まない。
「ずるい」
「忍者だからね………ごちそうさま」
くすりと笑い、半助さんは手を合わせた。
「乱太郎、描けたか?」
「はい!土井先生、朱美さん。ありがとうございました!!」
半助さんは乱太郎くんに微笑み、盆を片付けるために立ち上がった。
「みんな、君と話したがってる。邪魔しちゃ悪いから、とっとと退散するよ」
「えー………」
それ則ち、私は皆から総攻撃を受けるということで。
案の定、土井先生が食堂から出て行けば、皆は一斉に私の座るテーブルに駆け寄ってきた。
「朱美さん!土井先生とラブラブじゃないですか!?」
やはりくノ一は恋の話題に敏感だ。トモミちゃん、ユキちゃんがずいと顔を寄せてきた。
そして三郎くんが腕を組みながらニヤニヤと私を見ている。
「『超格好いい』土井先生からの告白。聞かせていただきましたよ!」
「お二人で朱美さんの世界でどのように過ごされていたのでしょう?!」
「それって同棲……つまり、夫婦みたいなものですよね?!」
「写真、とやらを見せてください!!」
「朱美さんの世界の豆腐と豆乳、頂きました!」
「向こうのバイトって儲かるんすか」
「向こうのナメクジさんは元気ですか?」
たとえ全て聞き取れたとしても、一気に返せる訳がない。そして最後の質問は答える必要があるのだろうか。
「待て!皆がそんなに一度に尋ねて朱美さんが困惑しているだろう」
さすがは学園一冷静な男である仙蔵くん。
皆を窘めてくれた。
「まずは先程の大借物競走での土井先生との事を聞こう。それから朱美さんの世界での同棲生活の話について、併せて写真とやらを見せていただきながら質問をしよう。今日は学園長先生からも無礼講だと仰っていただいている。遅くまで食堂を使っていいことになった。明日は休校日だ。みんな、いいな?焦らず一つ一つ問いただしていこう」
「え。問いただす?」
皆、仙蔵くんの指示に「おおー」と拳を上げている。
いつか結んだ彼との同盟を破棄したくなった瞬間だった。