黎明を走って
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委員会活動中、長次の問にきり丸は答える。
「ぼくが考えたわけではないですよ。大木先生です。まあ、落ち込んでいる朱美さんを元気にさせたいとは相談しましたけど」
朱美と杭瀬村に行ったとき、大木に相談すれば、彼は迷うことなく助言をした。
半助の危機感を煽れと。
そのためには、伝蔵や利吉の力も必要だと。
「それは失敗するなあと思ったんすよ。だってそれって土井先生が朱美さんのことが好きなことが前提じゃないですか」
それを大木にも伝蔵にも利吉にも言えば笑われるか怒られる始末。きり丸は不服だった。
「土井先生も朱美さんのことが好きだったなんて、知らなかったな………まあでもいっか。朱美さん、笑顔になったし」
予算の相談のためにやってきた久々知兵助は文次郎に答える。
「実習が終わって学園内を歩いていれば、これから授業の土井先生から急用だと仰って買い物を頼まれたんですよ。でも全然急用じゃなくて」
雨の中、高級菓子店の入口で空を見上げている一人と一匹を見つけて、兵助は「もしかして」と思った。
「『雨が降りそうななか悪いな、頼む』と仰っていたけど、それなら正直に『傘を渡してこい』と仰っていただければよかったのに」
彼女達の分と自分の分の2本の傘を持っていったのに。
「まあ、濡れることは別にいいんですけどね」
フリーの売れっ子忍者の利吉は、実習帰りの小平太と出会い、質問に答えた。
「父から『半助を責っ付いてやれ』と言われたときは耳を疑ったよ」
それでも彼女を誘ったときの半助の顔を見たとき、面白いなと思ってしまったのも事実。
「さすがに口説くのはあれが限界だったな。でも、これが忍務であればちゃんとやったさ。そこは誤解しないでほしい」
彼女を口説くなど………利吉は己を抱きしめ身震いしたが、くすりと笑った。
「でも。土井先生って案外嫉妬深いんだな。意外だったなぁ」
留三郎は食堂の近くの壁を修補しながら大木雅之助に尋ねれば、彼は腕を組んで答える。
「全く。二人とも何を迷っていたのか分からん」
彼女が来れば決まって変装した半助が後を付いて来たのだ。
色恋に対して詳しくはないが、あくまで怒車の術として、彼を煽ろうと決めた。
彼女を抱きしめれば、いや、頭を撫でても、いや、話しかけるだけでも半助の気配は面白いほど変わるのだ。
決してこちらを見ないが、大木が半助から視線を逸らせば、明らかに刺すような視線を感じるのだ。
「土井先生には悪いと思ったが、そわそわする土井先生を見るのも、怒る朱美を見るのも楽しくなってしまってな。つい目的を忘れそうになっしまった!」
彼は一際大きな声で笑った。
保健委員会の仕事中に伊作は新野に尋ねてみた。
「土井先生も分かりやすい人だ。なにせ部屋で眠っている伊瀬階さんの手をずっと握っていたというのですから」
診察の度に彼女の部屋に近づけば、半助は何事もなかったように彼女の部屋を出て行く半助を不思議に思っていたが、伝蔵がこっそり教えてくれたのだ。
密書を届けるよう指令を受けた仙蔵だが、学園長は雑談としてぽろりと溢した。
「あのくせ者は土井先生が倒したんじゃ。珍しく石を投げおっての」
ま、若い頃のわしの方がもっと強かったがの。と、元天才忍者は胸を張った。
六人は校庭の隅に集まり、話をつなぎ合わせた。
というのも、とある休校日のとある光景を見て驚愕したからだ。
その日、朱美ときり丸は杭瀬村に行ったのに、帰ってきたのはきり丸だけだった。
風邪を引いた朱美は大木の家に泊まったのだときり丸が説明すれば、くノ一達は色めき立った。
ところが次の朝、朱美は半助と共に正門を潜って帰ってきたのだ。
心の底から笑顔の彼女がそこにはいた。
「つまり、もともと土井先生は朱美さんが好きだったと」
「でもなかなかくっ付かないから」
「………きり丸は大木先生に………」
「そして大木先生は利吉さんも巻き込み」
「色々発破をかけて、めでたく結ばれたというわけか?」
「だがそれだけであのお二人はそう簡単に結ばれるものか?」
六人はそれぞれ考えるも、答えは導き出せなかった。否、導き出す必要もないと思った。
何が起こったのかは、それは二人だけの秘密なのだろう。
それでいい。
その結果、二人は幸せそうなのだから。