忍者夢短編
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心の起点は
「それじゃあ、私に五車の術をかけてください」
突然の私の問いに、は組のみんなはポカンとした。皆が皆、口を同じOの形をしているのだから面白い。
土井先生が忍務により不在のため、学園長の思いつきで私が代理で授業することになったのだ。今まで は組に限らず1年生の代理授業を何度か行ったけど、やっぱりは組の授業はやっかいだけど面白い。
授業が進んだのは一番最初の時だけで、後は全く進まなかった。特に乱太郎、きり丸、しんべヱの三人なんて、私が言った言葉に対して、よくもそんな言葉遊びみたいな聞き間違いをするから感心してしまう。
突っ込むこちら側も、柔軟な発想で挑まなければならない。そして突っ込んでいるうちに半鐘が鳴るのだ。
土井先生が胃を痛めてしまうのも分かる。
なので、今日の授業は四則演算でもなく、漢字の読み書きでもない。忍術だ。
というのも、この間、教室に置き忘れられていたしんべヱくんの「忍たまの友」を読んで、現代でも通じる忍術に興味を持ったからだ。
そして閃く。素人の私だからこそ、分かりやすく忍術を教えることができるんじゃないかと。
とは言え素人のくせに忍術を教えてもいいものか、迷った末に、山田先生におずおずと授業計画を話してみたら、許可してくださった。
面白そうだからと、山田先生も教室の後ろでニヤニヤしながら見ている。
現に、ポカンとしているは組の反応が面白くてくつくつと笑っている。
「今日は計算や漢字はやらないのですか?」
一番最初に口を開いたのは庄左ヱ門くんだった。
「はい。授業にならないんで、やりません」
どストレートな私の物言いに、山田先生含めて、みんな軽くずっこけてくれた。
「今日は、忍術について、皆が私に教えてください」
「わたしたちが、朱美さんに?」
教室内がざわつくなか、私は話を続けた。
「五車の術を私にかけてください。あ、五車の術が何か分かりますか?そうですね、相手を喜・怒・哀・楽・恐の感情にさせて油断させたり隙を作らせる術ですね」
この辺であの三人組がお決まりのおとぼけをかましてくるので、質問を皆に投げかけたが、すぐに答えるという先回りをすると、手を挙げようとしていた三人組みは再びずっこけてくれた。
「説明するなら聴かないでくださいよぉ朱美さん」
正しく「トホホ」な表情の乱太郎くんとしんべヱくん。
先読みされたことが気に食わないのか、ムッとした顔できり丸くんはもう一度手を挙げた。
「じゃあ、俺からやりまーす」
「はい、どうぞ」
きり丸くんが真っ先に挙げてくれたのは意外だった。
「ちゃんとできたら、今日のお昼奢ってください」
「なんで復習問題にご褒美与えなきゃならないの」
とは言っても、別に私は担任じゃないし、ご褒美によって、きり丸くんが五車の術をマスターしてくれたら嬉しい。
分かった、と私は頷いた。
「朱美さん…。朱美さんの料理は、めっっっっちゃめちゃ旨い……って土井先生が言ってました」
「えっ」
「この間のお昼の煮物なんかべた褒めしてましたよ」
「そ、そう…!?実はちょっと自信あったんだー」
私の顔は自分でもビックリするくらい締まりのない顔をしているに違いない。土井先生がそんなこと言っていたなんて知らなかった。
褒められるのは嬉しい。それが土井先生だと知ると、心はもっともっと弾んでくる。
でもこんなこともあった、きり丸くんは続ける。
「やっぱり練り物はいくら朱美さんが作ってくれたものでも食べられない!とも言ってました」
途端、私の心はみるみるうちに怒りに染まる。
「あー!やっぱりそうなんだ!この間のおでんの時も、こっそりしんべヱくんにあげてたの知ってるからね私は!?せっかく食堂のおばちゃんと栄養考えて一生懸命作ってるのに!」
「腹立ちますよねー。だから今度の夏休みに、朱美さんには土井先生の家でご飯作ってほしいなーって思ってるんですよ」
「…は?」
「ね!?おれが作ると、どーしても雑草入りの雑炊とかになっちゃうし…」
きり丸くんの突拍子のない提案に私は驚く。
どうして土井先生の家に行かなくてはならないのか。きり丸くんも一緒に住んでいるから、一緒にご飯を食べたら楽しそうではあるし、きり丸くんに栄養のある物食べさせたいけれど。
するときり丸くんは、急に俯き、しんみりとした口調に変わる。
「なーんて…おれが朱美さんの料理を家でも食べたいなーなんて思ってるだけなんすけどね」
私はハッとした。詳しくは聞いていないし、聞くつもりもないけど、きり丸くんが土井先生と一緒に暮らしている事、アルバイトを頑張っている事から、私は何となくきり丸くんの事情を察していた。
「三人で食べたいなー…なんて」
「きり丸くん…」
三人で食べる風景を私は思い浮かべた。
囲炉裏を囲む三人。まるで家族みたいで…。
それは、私も欲しい温もり。
一言多くて、したたかな、学園内で見せてくれるきり丸くんとは違う、寂しそうなこどもの顔をしていた。
気がつけば私は目が潤み、今にも涙が零れそうだった。
「うん。分かっ」
「それにぃ、朱美さんがいれば、バイトをたくさん入れられるしぃ!!」
急に目が銭になって、あれもこれも出来ると言いながらエヘエヘと笑い出すきり丸くんのギャップに、今度は私がずっこけてしまう。
先ほどのきり丸くんの言葉と表情は、もちろん本音なのだろうが、こちらも本音なのだろう。
「ちょっと、私をただ働きさせる気?」
「そこ突っ込むの」
後ろで様子を見守っていた山田先生が突っ込んだ気がしたけれども、私は気にせず、きり丸くんに詰め寄った。
「朱美さん、給料貰ってるからいいじゃないっすかー。手助けだと思ってお願いしますよー」
「やだやだ。タダ働きなんて絶対嫌」
首を激しく振って、拒否しまくる私の大人気ない姿を呆れて見ている は組の視線なんて気にしない。
「ウチに泊まったら、土井先生の寝顔見放題ですよ」
私はピタリと首の動きを止めた。
「洗濯とか子守する土井先生とか」
「他は」
「随分食いつきますね」
「他は」
「とにかく、色んな土井先生が見られますよ」
色んな土井先生。
私はニヤつく口元を手で隠す。
楽しそう。
そして、そんな色んな土井先生を見られるきり丸君が羨ましいと思ってしまった。
「どうです?今度の夏休み」
「う……」
は組みの教室が、これほど静かな時があっただろうか。
皆は私の答えを待っていた。
「行きたい、です」
やったー!と、きり丸くんだけではなく、何故か皆も喜んでいることが不思議だった。
「五車の術、大成功~!お昼もゲット~!」
と、ダブルピースを決めて喜ぶきり丸くんに、皆はおめでとうと盛大な拍手を送っている。
私はハッとした。
まんまときり丸くんの術にはまってしまった。そして、夏休みの約束までもしてしまった。
しかも、土井先生のことで、私はなんとも締まりのない顔や欲まみれの態度を、皆の前で、しかも山田先生にも晒してしまった。
「やりぃ!じゃ、夏休み、よろしくお願いしまーす」
「きりちゃん、おめでとう」
「土井先生もよろこぶね」
皆はニコニコ。山田先生は額に手を置いて呆れている。
「ちょ、ちょちょちょちょ、夏休みは行かないから!!」
「えー。そりゃないっすよ先生!」
「ハイハイ、この話はもうお終い!」
私は手を叩いて仕切り直しを試みる。
「朱美さん、土井先生に対して面白いくらい反応しますよね」
庄左ヱ門くん、そういう指摘いいから。
この話はお終いだから。
「ほんと、ほんと。朱美さん、土井先生のこと好きなの?」
「はいはい、次次次!!誰か五車の術ー」
喜三太くんの言葉を掻き消すように私は、バンバンと黒板を叩く。
私がムキになって話題をそらせばそらすほど、皆はガヤガヤと騒ぎ出す。
それこそ、怒車の術にはまっていたのだと、後になって気づいたのだけれど。
結局、山田先生によってこの騒ぎは鎮火され、この日を境に、は組の代理授業はしばらく頼まれなくなってしまった。
「とまぁ、そんなことがあったんだよ」
数日後の真夜中。澄ました顔で茶をすする伝蔵から報告を受けた忍務帰りの半助は、翌日、どんな顔で朱美に会えばいいのか大層悩んだのだった。
「それじゃあ、私に五車の術をかけてください」
突然の私の問いに、は組のみんなはポカンとした。皆が皆、口を同じOの形をしているのだから面白い。
土井先生が忍務により不在のため、学園長の思いつきで私が代理で授業することになったのだ。今まで は組に限らず1年生の代理授業を何度か行ったけど、やっぱりは組の授業はやっかいだけど面白い。
授業が進んだのは一番最初の時だけで、後は全く進まなかった。特に乱太郎、きり丸、しんべヱの三人なんて、私が言った言葉に対して、よくもそんな言葉遊びみたいな聞き間違いをするから感心してしまう。
突っ込むこちら側も、柔軟な発想で挑まなければならない。そして突っ込んでいるうちに半鐘が鳴るのだ。
土井先生が胃を痛めてしまうのも分かる。
なので、今日の授業は四則演算でもなく、漢字の読み書きでもない。忍術だ。
というのも、この間、教室に置き忘れられていたしんべヱくんの「忍たまの友」を読んで、現代でも通じる忍術に興味を持ったからだ。
そして閃く。素人の私だからこそ、分かりやすく忍術を教えることができるんじゃないかと。
とは言え素人のくせに忍術を教えてもいいものか、迷った末に、山田先生におずおずと授業計画を話してみたら、許可してくださった。
面白そうだからと、山田先生も教室の後ろでニヤニヤしながら見ている。
現に、ポカンとしているは組の反応が面白くてくつくつと笑っている。
「今日は計算や漢字はやらないのですか?」
一番最初に口を開いたのは庄左ヱ門くんだった。
「はい。授業にならないんで、やりません」
どストレートな私の物言いに、山田先生含めて、みんな軽くずっこけてくれた。
「今日は、忍術について、皆が私に教えてください」
「わたしたちが、朱美さんに?」
教室内がざわつくなか、私は話を続けた。
「五車の術を私にかけてください。あ、五車の術が何か分かりますか?そうですね、相手を喜・怒・哀・楽・恐の感情にさせて油断させたり隙を作らせる術ですね」
この辺であの三人組がお決まりのおとぼけをかましてくるので、質問を皆に投げかけたが、すぐに答えるという先回りをすると、手を挙げようとしていた三人組みは再びずっこけてくれた。
「説明するなら聴かないでくださいよぉ朱美さん」
正しく「トホホ」な表情の乱太郎くんとしんべヱくん。
先読みされたことが気に食わないのか、ムッとした顔できり丸くんはもう一度手を挙げた。
「じゃあ、俺からやりまーす」
「はい、どうぞ」
きり丸くんが真っ先に挙げてくれたのは意外だった。
「ちゃんとできたら、今日のお昼奢ってください」
「なんで復習問題にご褒美与えなきゃならないの」
とは言っても、別に私は担任じゃないし、ご褒美によって、きり丸くんが五車の術をマスターしてくれたら嬉しい。
分かった、と私は頷いた。
「朱美さん…。朱美さんの料理は、めっっっっちゃめちゃ旨い……って土井先生が言ってました」
「えっ」
「この間のお昼の煮物なんかべた褒めしてましたよ」
「そ、そう…!?実はちょっと自信あったんだー」
私の顔は自分でもビックリするくらい締まりのない顔をしているに違いない。土井先生がそんなこと言っていたなんて知らなかった。
褒められるのは嬉しい。それが土井先生だと知ると、心はもっともっと弾んでくる。
でもこんなこともあった、きり丸くんは続ける。
「やっぱり練り物はいくら朱美さんが作ってくれたものでも食べられない!とも言ってました」
途端、私の心はみるみるうちに怒りに染まる。
「あー!やっぱりそうなんだ!この間のおでんの時も、こっそりしんべヱくんにあげてたの知ってるからね私は!?せっかく食堂のおばちゃんと栄養考えて一生懸命作ってるのに!」
「腹立ちますよねー。だから今度の夏休みに、朱美さんには土井先生の家でご飯作ってほしいなーって思ってるんですよ」
「…は?」
「ね!?おれが作ると、どーしても雑草入りの雑炊とかになっちゃうし…」
きり丸くんの突拍子のない提案に私は驚く。
どうして土井先生の家に行かなくてはならないのか。きり丸くんも一緒に住んでいるから、一緒にご飯を食べたら楽しそうではあるし、きり丸くんに栄養のある物食べさせたいけれど。
するときり丸くんは、急に俯き、しんみりとした口調に変わる。
「なーんて…おれが朱美さんの料理を家でも食べたいなーなんて思ってるだけなんすけどね」
私はハッとした。詳しくは聞いていないし、聞くつもりもないけど、きり丸くんが土井先生と一緒に暮らしている事、アルバイトを頑張っている事から、私は何となくきり丸くんの事情を察していた。
「三人で食べたいなー…なんて」
「きり丸くん…」
三人で食べる風景を私は思い浮かべた。
囲炉裏を囲む三人。まるで家族みたいで…。
それは、私も欲しい温もり。
一言多くて、したたかな、学園内で見せてくれるきり丸くんとは違う、寂しそうなこどもの顔をしていた。
気がつけば私は目が潤み、今にも涙が零れそうだった。
「うん。分かっ」
「それにぃ、朱美さんがいれば、バイトをたくさん入れられるしぃ!!」
急に目が銭になって、あれもこれも出来ると言いながらエヘエヘと笑い出すきり丸くんのギャップに、今度は私がずっこけてしまう。
先ほどのきり丸くんの言葉と表情は、もちろん本音なのだろうが、こちらも本音なのだろう。
「ちょっと、私をただ働きさせる気?」
「そこ突っ込むの」
後ろで様子を見守っていた山田先生が突っ込んだ気がしたけれども、私は気にせず、きり丸くんに詰め寄った。
「朱美さん、給料貰ってるからいいじゃないっすかー。手助けだと思ってお願いしますよー」
「やだやだ。タダ働きなんて絶対嫌」
首を激しく振って、拒否しまくる私の大人気ない姿を呆れて見ている は組の視線なんて気にしない。
「ウチに泊まったら、土井先生の寝顔見放題ですよ」
私はピタリと首の動きを止めた。
「洗濯とか子守する土井先生とか」
「他は」
「随分食いつきますね」
「他は」
「とにかく、色んな土井先生が見られますよ」
色んな土井先生。
私はニヤつく口元を手で隠す。
楽しそう。
そして、そんな色んな土井先生を見られるきり丸君が羨ましいと思ってしまった。
「どうです?今度の夏休み」
「う……」
は組みの教室が、これほど静かな時があっただろうか。
皆は私の答えを待っていた。
「行きたい、です」
やったー!と、きり丸くんだけではなく、何故か皆も喜んでいることが不思議だった。
「五車の術、大成功~!お昼もゲット~!」
と、ダブルピースを決めて喜ぶきり丸くんに、皆はおめでとうと盛大な拍手を送っている。
私はハッとした。
まんまときり丸くんの術にはまってしまった。そして、夏休みの約束までもしてしまった。
しかも、土井先生のことで、私はなんとも締まりのない顔や欲まみれの態度を、皆の前で、しかも山田先生にも晒してしまった。
「やりぃ!じゃ、夏休み、よろしくお願いしまーす」
「きりちゃん、おめでとう」
「土井先生もよろこぶね」
皆はニコニコ。山田先生は額に手を置いて呆れている。
「ちょ、ちょちょちょちょ、夏休みは行かないから!!」
「えー。そりゃないっすよ先生!」
「ハイハイ、この話はもうお終い!」
私は手を叩いて仕切り直しを試みる。
「朱美さん、土井先生に対して面白いくらい反応しますよね」
庄左ヱ門くん、そういう指摘いいから。
この話はお終いだから。
「ほんと、ほんと。朱美さん、土井先生のこと好きなの?」
「はいはい、次次次!!誰か五車の術ー」
喜三太くんの言葉を掻き消すように私は、バンバンと黒板を叩く。
私がムキになって話題をそらせばそらすほど、皆はガヤガヤと騒ぎ出す。
それこそ、怒車の術にはまっていたのだと、後になって気づいたのだけれど。
結局、山田先生によってこの騒ぎは鎮火され、この日を境に、は組の代理授業はしばらく頼まれなくなってしまった。
「とまぁ、そんなことがあったんだよ」
数日後の真夜中。澄ました顔で茶をすする伝蔵から報告を受けた忍務帰りの半助は、翌日、どんな顔で朱美に会えばいいのか大層悩んだのだった。
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