1 改めてよろしく
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日も出ぬうちに、朱美は忍術学園内の離れの庵に座して、一人の老人と一匹と向かい合っていた。
世界はまだ眠りについている群青色の空気の中、それでも燈台の芯に火は灯さなかった。
「では本日より、伊瀬階 朱美を忍術学園の食堂のおばちゃんの調理補助、事務員及び雑用係として認めよう」
かつては天才忍者と呼ばれた大川平次渦正。
この学園の長である。
その天才忍者の相棒として苦楽を共にした忍犬ヘムヘムは、彼の隣で神妙な表情を浮かべ、正座している。
渦正が厳かに告げると、朱美は額を畳へと近づけた。
「ありがとうございます」
「細かい雇用形態は後ほど、吉野先生とおばちゃんと決めるとしよう。さっそく朝食の準備に取りかかりなさい」
「はっ」
朱美は頭を上げ、姿勢を正す。
山間から徐々に日が顔を出してきたのだろう。
庵の障子戸から差し込む光が白みを帯びてきて、大川平次渦正の豊かな白髪が、更に白く染まる。
頬や目元に刻まれた皺を更に増やして、彼はくしゃりと笑った。
「またよろしく頼むぞ、朱美ちゃん」
「ヘムヘム!」
彼の隣の忍犬も笑う。
「はい!」
朱美は勢いよく頷いた。
「それでは、失礼します」
「うむ」
彼女が立ち上がり、庵を出て、遠ざかる足音が聞こえなくなったとき、一人と一匹は同時に顔を見合わせ、頷き合った。
押入から布団を取り出し、バサリと広げ、敷き布団と掛け布団の隙間に身を躍らせ、横になる。
「もう一眠りじゃ」
「ヘムゥ…」
不思議なことに、庵は先程より騒がしくなった。
轟音が障子戸を突き破り、止まり木を探す鳥達は逃げ去っていったのだった。
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