地上二百メートルの出会い
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ここはビルの60階。
久々の休みの日に訪れた展望台。
地上から200メートルの景色に息を呑む。
コンクリートジャングルとは良く言ったもので、窓から見える地上の景色は鼠色のビルが凹凸に敷き詰められている。
私はカフェテリアでコーヒーを買って、眺めのいい窓際の椅子に腰かけた。
平日の昼で、人はそれほどいないから好きな席に座れた。
雲一つない空とゴチャついたコンクリートジャングルとの対比が興味深い。
視線を窓から展望台の中へと戻せば、一人の男性がコーヒーを購入して、私の座っている近くの席に座った。
この人も一人で来たのだろうか。
背はまぁまぁ高かった。
紙コップのコーヒーを飲む横顔から、鼻筋が通っていて精悍な顔立ちだと分かる。
ふぅ、とコーヒーを一口飲んでそっと息を吐き出していた。
その一連の流れをまじまじと見てしまったのは、きっと彼の見目の良さだろう。
髪は、陽に焼けて痛んでいるのか、目に少しかかるくらい伸びている前髪が少しはねている。
あ。目があってしまった。
彼はきょとんとした表情だ。
先程までコーヒーを飲んでいた横顔と比べ、あどけなかった。
とりあえずといった様子で、彼は頭を軽く下げ、視線を窓の外へと移したのだった。
じっと見ている変な人、と思われたに違いない。
気まずくなって、私は席を立ち、エレベーターで降りることにしたのだった。
ーーー
それから数日後。
再び私はあの展望台に訪れた。
あそこから見える夜の景色はどんなものなのだろうと気になって、仕事帰りに寄ってみたのだ。
夜の展望台はそれなりに人がいた。
この間の昼に訪れた時のようにのんびりと景色を堪能することはできなさそうだ。
何よりカップル客が多くて、一人の私は場違いに感じて気まずかったが、窓から見えた景色にため息を漏らす。
地上は金の粒を一面に散らしたように、光で溢れている。
星の光は無い。
けれども人間達が築き上げた文明の光がここに広がっている。
時を忘れて、私は眺めていた。
「星は、見えないのだな…」
隣からの声に私は窓から声がした方へと視線を向けた。
ずっと外を見ていたし、やや混んでいる状況で、隣が誰かはそれ程気にならなかったけれど、深みのあるその声に惹かれたのだ。
まあまあ背の高い男性が私の隣に立っていた。
少し痛んでいる焦げ茶色髪。
そして、真冬のような鋭く冷たい瞳でガラス越しの空を見上げていた。
彼の隣には、恋人同士の男女が仲睦まじく談笑している。
彼一人で来たのだろうか。
それならば、先程のは独り言だったのだろうか。
その男性が私の方に視線を向けた。
目と目があった時に生まれた既視感に、私は混乱する。
この間の昼の展望台で会った男性が頭に浮かんだのだ。
精悍な横顔。でも、あどけない表情も見せた、あの男性だ。
今目の前の男性と雰囲気は全く異なるのに。
「……」
その男性は私を見下ろし、凝視していた。
切りつけてくる冬の北風を思い起こさせる鋭い視線に、私は思わず頭を下げ、その場を離れたのだった。
帰りのエレベーターで、重力を感じながら私は二人の男性を交互に思い浮かべる。
先程の彼の瞳は、きっと現代の夜空より濃い闇色を宿していた。
先日見かけた彼は、晴天によく映える優しげな表情を浮かべていた。
なぜ、二人を重ねてしまうのだろう。
約60階分の高さを降りきって、エレベーターの扉が開く。
謎は深まるまま、私は帰路に着くことにしたのだった。
久々の休みの日に訪れた展望台。
地上から200メートルの景色に息を呑む。
コンクリートジャングルとは良く言ったもので、窓から見える地上の景色は鼠色のビルが凹凸に敷き詰められている。
私はカフェテリアでコーヒーを買って、眺めのいい窓際の椅子に腰かけた。
平日の昼で、人はそれほどいないから好きな席に座れた。
雲一つない空とゴチャついたコンクリートジャングルとの対比が興味深い。
視線を窓から展望台の中へと戻せば、一人の男性がコーヒーを購入して、私の座っている近くの席に座った。
この人も一人で来たのだろうか。
背はまぁまぁ高かった。
紙コップのコーヒーを飲む横顔から、鼻筋が通っていて精悍な顔立ちだと分かる。
ふぅ、とコーヒーを一口飲んでそっと息を吐き出していた。
その一連の流れをまじまじと見てしまったのは、きっと彼の見目の良さだろう。
髪は、陽に焼けて痛んでいるのか、目に少しかかるくらい伸びている前髪が少しはねている。
あ。目があってしまった。
彼はきょとんとした表情だ。
先程までコーヒーを飲んでいた横顔と比べ、あどけなかった。
とりあえずといった様子で、彼は頭を軽く下げ、視線を窓の外へと移したのだった。
じっと見ている変な人、と思われたに違いない。
気まずくなって、私は席を立ち、エレベーターで降りることにしたのだった。
ーーー
それから数日後。
再び私はあの展望台に訪れた。
あそこから見える夜の景色はどんなものなのだろうと気になって、仕事帰りに寄ってみたのだ。
夜の展望台はそれなりに人がいた。
この間の昼に訪れた時のようにのんびりと景色を堪能することはできなさそうだ。
何よりカップル客が多くて、一人の私は場違いに感じて気まずかったが、窓から見えた景色にため息を漏らす。
地上は金の粒を一面に散らしたように、光で溢れている。
星の光は無い。
けれども人間達が築き上げた文明の光がここに広がっている。
時を忘れて、私は眺めていた。
「星は、見えないのだな…」
隣からの声に私は窓から声がした方へと視線を向けた。
ずっと外を見ていたし、やや混んでいる状況で、隣が誰かはそれ程気にならなかったけれど、深みのあるその声に惹かれたのだ。
まあまあ背の高い男性が私の隣に立っていた。
少し痛んでいる焦げ茶色髪。
そして、真冬のような鋭く冷たい瞳でガラス越しの空を見上げていた。
彼の隣には、恋人同士の男女が仲睦まじく談笑している。
彼一人で来たのだろうか。
それならば、先程のは独り言だったのだろうか。
その男性が私の方に視線を向けた。
目と目があった時に生まれた既視感に、私は混乱する。
この間の昼の展望台で会った男性が頭に浮かんだのだ。
精悍な横顔。でも、あどけない表情も見せた、あの男性だ。
今目の前の男性と雰囲気は全く異なるのに。
「……」
その男性は私を見下ろし、凝視していた。
切りつけてくる冬の北風を思い起こさせる鋭い視線に、私は思わず頭を下げ、その場を離れたのだった。
帰りのエレベーターで、重力を感じながら私は二人の男性を交互に思い浮かべる。
先程の彼の瞳は、きっと現代の夜空より濃い闇色を宿していた。
先日見かけた彼は、晴天によく映える優しげな表情を浮かべていた。
なぜ、二人を重ねてしまうのだろう。
約60階分の高さを降りきって、エレベーターの扉が開く。
謎は深まるまま、私は帰路に着くことにしたのだった。