償いの薬師

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 カエンタケの出城は、コガネダケ領を出て少し先にある。

 カエンタケ城主が出城に着くなり、出城全体の空気は一層引き締まり、士気も高まる。
風に靡く旗さえも、勇ましさが増したように思えた。
 その眼光は鋭く、中肉で貫禄のある体型であるものの、動きには隙が無かった。

「ドクタケの者が…?」

 出城中央の広間で、息子である若君からの報告に、城主は肘掛けに持たれながらも眉を寄せた。

「父上。何故、北のドクタケが我々を妨害するのでしょうか。まさかコガネダケは既にドクタケ城まで掌握しているのでしょうか?」

 床についた拳を一層強く握り発言する若君に、城主はそっとため息を付いた。

 ならばコガネタケは池井穂毛村を犠牲にせずドクタケを使ってさっさとカエンタケを牽制したであろう。

 次期城主の彼を手鳥足取り教えたことは無かったが、これまでの自分の背中を見て何一つ学んでいなかったのだと父は悟った。

「それとも……これはツキウラタケの仕業なのでしょうか…?ツキウラタケの者が他にも生き延びて、北で既に勢力を拡大させ、実はドクタケ城主と手を組んでいるのでしょうか?!」

 それほどの執念とドクタケと組める武力があれば、かつてのカエンタケとの戦で敗れることはなかっただろう。
 聞く話によれば、あのドクタケ忍者の二人組は、姫のことなど目に入れてなかったようだ。
 鬼気迫る勢いで語る息子に、カエンタケ城の行く末を憂いながら、城主は首を振る。

 ツキウラタケといえば、生き延びていた姫がコガネタケ領池井穂毛村で捕らえられたという。
 この出城の牢に居るらしいが、城主にとって彼女の生死はどうでも良かった。

 さきほどの息子の報告では嬉々として彼女の処刑について語っていたが、カエンタケ城主にとって膠着状況となっていた戦でコガネタケを攻める理由ができた存在としか見ていなかった。
 今は、己の領地拡大が重要だ。

「お前はどう思う。あの場に居たのだろう」

 視線を忍頭に向けた。
 この男は自分が視線を向けても怯むことなく、まっすぐにこちらを見返してくる。

「ドクタケは北の地方では、自ら戦を仕掛けるばかりでなく、周りの城同士で戦を起こさせるやっかいな城だと聞き及んでいます」
「ならば本当にドクタケの仕業か」
「それは分かりませぬ。ですが、わが城に手を出す理由がありません」
「タソガレドキ、オーマガドキがいるからな。奴等を無視してここまで手を広げる理由が無い」
「そうであれば、ドクタケの名を騙り、攪乱を目的としたものかもしれません」

 それでは何故遠方の城の者が手を出すのか。
 コガネダケの策略か。いや、そう思わせるためのまた別の存在がいるのか。

 いずれにせよその目的は、カエンタケへの牽制だろう。

 ひじ掛けにもたれ、カエンタケ城主は窓の外へと視線を投げた。

 今こうしている間も、先発隊はコガネタケの出城に攻撃を仕掛けていることだろう。

「ドクタケ」はどう出るか。

 城主は木枠から見える切り取られた空を見て、この戦の先を案じた。
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