償いの薬師
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あらゆるものを欲しがり、
与えれば無邪気に笑い、
その姿を見て親は喜び、また欲しがるものを与えた。
待ち望んだ子どもであったから、甘やかすのは致し方ないと自分も周りも目を瞑ることができたのは彼女の歳が7つになったあたり。
この間、世継ぎは生まれなかったし、徐々に民は貧しくなっていった。
加えて、隣のカエンタケ城の領土拡大は続いている。
彼らはただの裕福な親子ではない。
一国を背負い、導き、民を護らねばならない。
ただの親ばかと甘やかされた娘のままでは許されないのだ。
しかし、周りの声は届かず
ついにこの国は滅ぼされることになった。
美しく成長し、15となった彼女が「あの時」頷いていれば。
彼らが父と母としてではなく、城主とその奥方として命じていれば。
口にはしなかったが、城の重臣は皆、怨み言を心の中で呟いていた。
そして、怨み言として呟くほどに、既に彼らの心は城主から離れていたのだ。
せめて彼女だけは生かさねば。
彼女と彼女の両親が犯した業を少しでも軽くしてやらねばならない。
「欲しがってはならぬ
受け取ってはならぬ
与え続けるのじゃ
それが亡き父と母の幸せになるのじゃ」
呪文のように彼女に言って聞かせ、
そして自分のこれまでの知識を教え、
逃げ延びた小さな村でひたすら奉仕をした。
逃げ延びるまでの道中に見た景色と小さな村での生活と自分の言葉が、彼女を変えた。
無邪気で何も知らなかった彼女は、これまでの行いを悔いて、ただひたすら村人の病や怪我を癒やすことに専念した。
やがて自分も病にかかり、近々、この世から別れなければならないと悟った。
重い病だったから、彼女に教えねばならぬことが多々あったのに、それを伝えきる前に弱りきってしまった。
病身かつ老体に鞭打ち、独り残される彼女に宛てた文と古い知り合い宛の文を彼女が居ぬ間になんとか書いて、村の者に届けさせたのを見送り、再び床に就いた。
この手紙は少し離れた町の紅屋に村の者から渡され、そしてその紅屋は自分からの手紙と知れば、然るべき所へと届けてくれるだろう。
残される彼女の未来を想いながら、そっと目を閉じた。
それが最期だった。