上手な甘えかた
「ぶぇーっくしょい!」
月島の体調全快後、案の定風邪を引いた黒尾はベッドの上で不細工なくしゃみをかましていた。熱は微熱程度で本人もピンピンしている様子ではあるが、念には念をと月島は彼をベッドに寝かしつけていた。
「だから言わんこっちゃない…もー、大丈夫ですか?」
幸い休日ということもあり、月島はうどんと薬、ゼリーを持ち寄り、鼻を啜る黒尾に声をかけた。
「だーいじょぶ、だーいじょぶ!けーちゃんの風邪だと思えばご褒b…ぶえっくしょい!!」
「馬鹿なこと言ってないで大人しくしてください」
本当に体調の悪い人間なのかと疑問に思うほどいつものおちゃらけた調子だが、ずびずびと鼻を啜っているところを見ると確かに風邪を引いているのだろう。
呆れたようにため息を吐きながら、月島はお盆を黒尾の膝の上に乗せた。
「食べれそうですか?」
「けーちゃんがふーふーしてくれたら食べれるかも」
「全く……」
しょうがないな、と言わんばかりの顔でベッドの上に腰掛ける月島は、器用に箸でうどんを蓮華に乗せそっと息を吹きかけた。
「ふー…ふー……はい、どうぞ」
「(えっ、なにこの幸せ…)うっ、美味しい…」
涙を流しながらそれを口に入れる黒尾は、体の不調が吹き飛ぶほどの喜びを感じているようだ。
「…大袈裟」
「俺は蛍ちゃんに教えてあげてんの!これくらい甘えなさいよーってね!」
「はぁ…全然参考にならないですけど…」
絶対後付けでしょ、と考えながら食事を黒尾の口元に運ぶ。自分にはこんな甘え方は無理だし、そもそも「あーん」とか性に合わない。そんなことを考えながら、月島は彼の口にお粥を運んでいた。
食事を終えて薬を飲ませ、片付けを済ませた月島はコソッと寝室を覗いた。どうやら黒尾は眠りについたらしい。
普段、どちらかの体調が悪い時や、喧嘩した時などは別の布団で寝る暗黙のルールのようなものがある。
しかし月島は10秒ほど考えて、静かに黒尾と同じベッドに潜り込んだ。
「(ん、蛍ちゃん…?珍しいな…)」
月島は布団の中で黒尾の手に自分の手を絡ませながら、彼の腕を抱き締め寄り添うように目を瞑った。
珍しい恋人の行動に黒尾は驚きながら、精一杯の甘えを見せる彼の頭を優しく撫でながら、共に眠りにつくのだった。
おわり。