「よく、頑張ってたと、思うよ」
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5人は早々に掃除を終わらせ家に帰宅し、食事を取りお風呂を上がると、赤葦と黒尾以外の3人は気絶するようにソファとリビングの机に突っ伏す形でそれぞれ眠ってしまった。
赤葦は、月島も孤爪も深月を気にかけさりげなくフォローをしていたのを知っていたため「無理もないな」と小さく笑った。
赤葦と黒尾は、熟睡状態の月島と孤爪を2階まで運び、それぞれベッドに寝かしつけた。黒尾はそのまま自室に籠り、赤葦は電気を消すため1階へ向かった。
途中でふと、ソファで眠る深月に視線を送ると、タオルケットがはだけていることに気付き、そっとそれをかけ直す。
「(不思議な人だ。こう眠ってると、女性か男性かなんて、わからなくなるな)」
誰もいなくなったリビングで、眠る深月を見つめる赤葦。
その顔立ちは可愛らしくもあり、佇まいさえ美しく見せるのに、時折噛み付くような、怒りさえ感じる嫌悪に揺れる瞳に、強く興味が沸いていた。
見つめているうちに、深月の身体がピクリと動き悩ましげな声を上げながら寝返りを打った。
8月の熱帯夜、冷房を軽く付けているとはいえさすがに暑いようでタオルケットを剥ぐと、深月は着ていたワイシャツのボタンに手をかけ徐に外し始めた。
「(暑いのか…?ん?サラシ…?)」
胸元から覚束ない指先で外されていくボタン。
赤葦はその場から動けず、それを止めることもできないまま、ただはだけていく肌に視線を送っていた。
そして、視界に映ったのはサラシ。胸を潰すように巻かれたそれはキツめ身体に巻きつかれ、首の下からは小さな谷間が見えている。
赤葦は後退り、思わず開けた口が塞がらないようだった。
「(ま、まさか…女、性……!?)」
だが誰が降りてきても可笑しくないこの状況で、赤葦はとにかくその肌を隠すためにタオルケットをかけた。
そして深月が眠るソファの右にローテブルを囲むように置かれている1人掛け用の小さなソファに腰掛けた赤葦は、指先で目頭を押さえながら思考回路を巡らせた。
考えれば、確かに納得のいく点もある。
職場をクビになり続けて転々としていたと言っていたが、これだけ整った顔をしていれば男女関係で散々な目に遭うのもわからなくもないし、それが理由で男性嫌いになることもあり得ることだ。
そうすれば昨日の黒尾の身体を弾いた手とその拒絶を表す表情と声にも納得がいく。
「(いや、でもまだわからない…胸筋が異常に発達してるとか、そういうキツく縛るのが趣味とか…)」
巡る思考回路が麻痺して、何が正常な判断かわからなくなった赤葦はスッと立ち上がると熱いコーヒーを淹れそれに口付ける。
「(いや待て、そんなわけないだろ…!)」
その熱さと苦味にようやく冷静さを取り戻したようだ。
そして同時にやはり深月は女性だ、と気付いた赤葦は再び思考回路を回転させた。
仮に今黒尾にそれを伝えたとして、万が一深月がクビ的な展開になったとしたら、人手不足の問題は振り出しに戻ることになる。そもそもこんな訳の分からない店に、人が来るわけがないのだ。
そして今は誰も深月の性別に気付いている様子はない。
孤爪は若干違和感を感じている程度、月島は恐らく性別がどっちでもそこまで興味はなさそうだ。
そして、何よりも気になるのは何故偽ってまで男として生きているのかということだ。あの日、空腹で彷徨っていた、とは言うがそれも本当かどうかは定かではない。
「(まぁ、彼女もそこまでするほどの何かがあるんだろうし…とりあえず、様子を見ることにするか…)」
はぁっ、とため息を吐く赤葦は自室からタオルケットを持ち寄り、毛布と交換した。暑くて剥いでしまったら、また誰がこの光景を目の当たりにするかわからない。
「(話し言葉とか、身の振り方も今のところは問題なさそうだし…バレるとしたら無意識な時だからそこは見ておかないと…)」
そして明日には必ず倉庫と化した2階の部屋を片付け、少しでもバレるリスクを減らそうと心に決めるのだった。彼女のためでもあるが、正直赤葦自身も気が気ではないのだ。
ふぅ、と小さく息を吐きながら1階の電気を落とし、すやすや眠る深月を横目に赤葦はゆっくりと階段を上がり自室へ戻っていったのだった。
Next!