「さすがに拉致は犯罪ですよ、黒尾さん」
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「ここのレストランさー、最近超人気らしいよ!イケメンしかいないって!」
「ほんとー?うわぁ、すごい並んでる…」
都内のある界隈で人気名高いレストラン『ねこどり。』は賑わう商店街の一角にあった。
女性たちと、一部のマニアックな男性客で連日大賑わいを見せるその店は、その日も慌ただしく客が出入りを繰り返していた。
「やーん、孤爪君超可愛い…!」
「月島君の眼鏡姿最高だわ…!」
「え〜黒尾さんが一番っしょ〜」
「赤葦さんの手料理を食べれるなんて本当幸せ…!!」
店内で料理を待つ女性客達の熱い視線は、それぞれ4人のウェイターに注がれている。彼女たちは思い思いの感想を抱きながら、恋する乙女の表情を浮かべていた。
「お待たせいたしました。シーフードグラタンです。」
「月島君、超カッコいい…!連絡先教えてくださいっ!」
「大変お熱いので、お気をつけください」
パリッとした白いワイシャツの上に制服である黒いベストを着用した月島は、女性の申し出をにこりと笑顔を浮かべてスルーした。その笑顔の裏には「めんどくさい」という文字が見え隠れしている。
4人の中では最年少だが194センチの高身長で頭脳明晰、やや性格に難ありな彼は蔑まれたい願望持ちの女性からの人気が非常に高い。
女性からのアプローチを気に留める様子もない彼は、一礼するとテーブルから去った。
見事に振られたはずの女性は、彼の笑顔にやられたようで顔を真っ赤にし、その目はハートマークが浮かんで見える。
「お待たせしました…オムライス…です」
次にそのテーブルへ料理を運んできたのは孤爪だった。4人の中で1番背の低い彼は、金色の髪が肩くらいまで伸び、それをハーフアップに結んでいる。その根本は黒い地毛が伸びてきているが、本人は全く気に留めていないようだ。
「研磨君可愛い〜!!わ〜っ、髪長いね〜」
オムライスを頼んだ女性が孤爪の髪に触れようとする。ビクッと肩を震わせてジリジリと距離を取ろうとする彼の姿はまるで猫のようで、女性の母性本能をくすぐった。
「お客様、申し訳ありませ〜ん。店内でのお触りは厳禁ですのでお控えくださーい」
孤爪の前に現れたのは彼より20センチほど身長の高い黒尾だった。彼がニヤリと笑みを浮かべると、周囲の女性達から歓声があがる。
どうやら、黒尾と孤爪の2人はセットで人気が高いらしい。
「ちょっと、クロ…目立つからやめて…」
「え〜、研磨がお触りされる前に飛んできたんですけどぉ」
「その言い方、なんかやなんだけど…」
黒尾は相変わらずの笑みを浮かべて孤爪の金色の髪に触れる。それな対し煩わしいと言わんばかりの顔で追い払う彼はまるで不貞腐れた子供のようだ。
そんな2人のやり取りに、鼻血を噴き出す者や、卒倒する者、悶絶する者など反応は様々である。
トレーに乗せたオムライスを片手に運ぶ月島はそんな2人に「よくやるよ」と顔を引き攣らせながら、ここ数週間通ってくれている赤葦ファンの常連客の元へ持っていく。
ガラス張りになっている厨房で料理をする赤葦は、彼女に気付くと、手を止め口角をあげると軽く頭を下げた。
その笑顔を向けられた女性はさらに彼の虜になっているようだった。
常連の顔を覚えるのが早く、特別感を醸し出すのが上手な赤葦は、アピールが控えめな慎ましい女性ファンが多かった。
また、厨房で彼が真剣に料理をしている姿がガラス越しに眺めることができることも、人気の理由のひとつだった。
そんな彼ら4人でやりくりしているレストラン『ねこどり。』は連日大盛況である。
開店11時から20時まで、殆ど客足が途絶えることなく、ほとんど休憩も取れないほどの忙しさだが、彼ら持ち前の体力でなんとかそれをカバーしているようだった。
お店自体はテーブルを詰めれば50名ほどは余裕で入りそうだが、孤爪の強い要望といかんせん人手不足のためMAX36席としている。
月島と黒尾の背は190センチを超え、体も大きいため動きづらくなることとお客さんに圧迫感を与えないためにも今の席数はちょうどいい塩梅だった。
その内装は月島の希望で、白が基調となっている。丸く切り取られたような窓の縁やテーブルなど木目調の家具がところどころに置かれていて、清潔感のある大人女子向けの内装で評判も良かった。
照明は黒尾の好みで「ムーディで暗めな感じがいい」という希望があったが赤葦が即却下し、日の光のような自然な明るい照明になっている。赤葦曰く、テーブルに運ばれた料理の見た目を更に美しく見せる大事な照明だから、と拘りがあるらしい。
そしてようやく夜19時半ラストオーダーを迎えた4人は最後のお客さんを見送ると、疲労困憊の様子で店を閉め掃除をしていた。
「疲れた…ねぇ、クロ、そろそろ人雇おうよ…」
「いやほんと、そうなんだけどさ…やっぱ慎重になっちゃうっていうか。ほら、研磨も変なやつだと嫌だろ?」
モップ掛けをしながら項垂れる孤爪の何度目かもわからない要望に、黒尾は小さく息を吐いて思い返していた。
応募が来るのは女性ばかりで、4人の誰かに近付きたいという邪念を抱いた人ばかりで、かと言って男性の応募はゼロ、黒尾も嫌気がさし書類選考でひたすら落とす日々が続いていた。
「まぁー、あと1番は見た目?ツッキーみたいな美形でもくれば話は別なんだけど」
黒尾はテーブルを拭く月島を横目に、へらっと笑った。聞こえないふりをしている月島は早々にテーブルや椅子を拭き終えると厨房へ向かっていった。
「っつーわけで、もうちょっとお願いしますよ、研磨クン」
「……はぁーせめて休み、増やしてほしい…疲れてゲームもできない…」
月島の後ろ姿を見つめる黒尾に、孤爪は猫背になりながら盛大なため息を吐いた。
「こらこら、週休2日あげてるでしょーがっ」
「月木やだ…土日がいい…」
「そこかき入れどきだから!」
黒尾と研磨が「ヤダ」と「ダメ」を繰り返している一方、厨房で明日の仕込みをしている赤葦は、不機嫌そうな月島に声をかけていた。
「月島、お疲れ様。今日も大変だったね」
「お疲れ様です。僕は別に……」
赤葦に背を向けて洗い物をしている月島は、つんっと口を尖らせている。どうやら彼も疲労困憊のようだ。
「赤葦さんこそ大変じゃないですか。ホント、人増やさないとそのうち倒れますよ」
「俺は大丈夫。割とこの仕事好きだしね」
赤葦は遠回しに心配をしてくれている月島に、ふっと笑みを溢しながらこっそり作っていた賄い飯をスプーンに乗せる。
「月島こっち向いて」
「なんですか、今忙しいんで…っんむ!」
月島は文句を垂れながら仕方なく後ろに振り向いた。するとニヤッと笑った赤葦の顔が近くにあり驚くと同時に、口の中に放り込まれたのは余ったお米と野菜を炒めた炒飯だった。月島好みの若干薄めの味付けである。
「機嫌直して?」
「……赤葦さん、餌付け好きデスネ」
「月島、何でも美味しそうに食べてくれるからね」
月島の言葉通り、ほぼ毎日賄い飯やどこかで買ってきた甘いお菓子をまるで餌付けのように与えていた。赤葦は、満更でもなさそうな月島の表情にクスッと笑っている。
「あ、そういえば今日食事当番だよね。あとやっとくから先帰ったら?」
「ん…もうちょっと綺麗にしてから帰ります。今日は、昨日の夕飯の残りもあるし」
赤葦の申し出を断り、洗い物を続ける月島。
しょうがないな、と呆れた笑みを溢す赤葦は彼の背中をポンっと叩き、再び明日の仕込みを再開させた。
素早く洗い物を済ませ、明日の自分ががっかりしないように、洗い場中心に周辺を綺麗に整えた月島は、赤葦の言葉通り一足先に家に帰ることにした。
「黒尾さん、僕食事当番なんで先帰りますね」
「おーお疲れ!そーか、今日はツッキーの手料理か〜」
「今日も超疲れてるんで、手抜かせていただきマス」
「ツッキーまで人手不足アピールですか!?」
レジ締めをしていた黒尾は孤爪に言われた台詞を思い出しながら、心の中で涙を流す黒尾。
彼の言葉に否定も肯定もせず無表情のまま「じゃ、お先です」と告げて月島は店を後にした。
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