願掛けは、嫌いだけれど
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すっかり暑さも落ち着いてきた9月下旬、月島がお風呂に入っている間、あかりはリビングの椅子に腰掛けスマホの画面と睨めっこしながら唸り声をあげていた。
なんと言っても、9月27日、月島の誕生日が近づいていたのだ。
プレゼントやお祝いの方法などを考えながら、候補をネットで探っていたがなかなかピンとくるものがなく、かと言って本人に聞くのも味気ないと悩み続けていた。
「(そもそも知ったのが遅すぎました…危うく過ぎてしまうところで…本当サチさんと赤葦さんには感謝です…)」
先日サチと通話している際、月島の誕生日を知らないことに驚愕したサチはすぐ赤葦に聞いて、それを教えてくれたのだ。
「と…、…ちょっと、聞いてる?」
「わっ!!すみません、ぼーっとして…!」
気付かない間にソファに座る自分の後ろに立っていた月島はタオルで髪を乾かしながら首を傾げていた。
「お風呂どーぞ。」
「ありがとうございます、行ってきます!」
パタパタと風呂場へ向かったあかりの後ろ姿を見つめながら違和感を感じた月島は壁にかかっていたカレンダーに視線を送った。今日は24日で、後3日もすれば自分の誕生日だ。
「(まぁ、教えてないし知らないはず…)」
月島は悩ましげな表情を浮かべながら顎に指先を添えて考える素振りを見せた。
彼女のことだから、きっと知ってれば祝いもするだろうし色々気を遣ってプレゼントまで用意してくれるのだろう。
「(最近大変だったし、無理させるのはイヤだし、なんかすごい頑張りそうだし……)」
すると、カレンダーと睨めっこしている月島のスマホのバイブが振動する。「応答」の表示にスワイプしスマホを耳に近づける月島は口を開いた。
「もしもし、母さん。どうしたの」
「あ、蛍!?いま、お父さんが階段から落ちちゃって、病院に運ばれて…!」
月島は電話越しの母親の動揺を帯びた声に目を見開いた。一通り事情を詳しく聞き終えると、「じゃあ、明日」と言い電話を切る。
「(大したことないといいけど…父さんも良い歳だしな…とりあえず明日明後日は地元に帰って、最悪月曜会社休んで…)」
そのままスマホで新幹線のチケットを行き分のみ購入すると、ふぅ、とため息を吐きながらソファに座ったまま天井を見上げた。
母さんは少し大袈裟なところもあるし、聞けばそんな高いところから落ちたわけではない。わかってはいるがどこか落ち着かず、すっかり先程の悩みなど忘れてしまっていた。
「いいお湯でした〜」
「あ、あかり。急なんだけど、父さんが階段から落ちて病院に運ばれたらしくて…」
母とのやりとりを話すと、あかりは目を見開き、顔面蒼白になっていった。
「だっ、大丈夫なのですか…!?」
「まだわからないんだけど、意識がないみたい。明日から少しの間宮城に帰るから、1人にさせちゃうけど…」
「そんなこと気にしないで下さい…!何事もなければいいのですが…」
彼女の反応に、少しホッとしたような表情を浮かべた月島は今にも泣き出しそうなあかりの頭を撫でた。
「状況わかったら、連絡する」
珍しいほどの彼の優しい声色に「ああ、彼が1番不安なんだ」と気付いたあかりは首を横に振りながら、撫でてくれる大きな手を両手で握りしめた。
「大丈夫ですよ、月島くん。絶対、大丈夫」
「…ありがと」
月島は握りしめられた手の温もりを感じると、表情を少しだけ緩ませて彼女の頭をポン、と撫で自室へ戻っていった。
「…月島くんの、お父さん…」
昔、幼い頃によく月島兄弟と遊んでいたためもちろん何度か顔も合わせたことがあり、よくしてもらっていた記憶が蘇る。
とても寡黙な人だったが、あかりが遊びに行くと表情を和ませて、「蛍と明光には内緒だよ」といってよくお菓子をくれたことを思い出していた。
「(あの穏やかなお人柄と表情が大好きで…どうか、無事でいてくださるといいのですが…)」
あかりは祈るような気持ちで、瞼を閉じて眠りについた。
そして翌朝早くに家を出る月島を見送るあかりは彼と同居してから初めて1人の夜を迎えることとなったのだった。