私の中の、酷く醜い感情
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「はぁ……(ほんっと、疲れた)」
赤葦たちと別れた月島は1人電車に揺られ、飲み会の出来事を思い出し、小さく息を吐いていた。
「(あー…会いたい)」
スマホを開くと、その画面は通知がなにもないことを知らせている。時刻は23時半を回っていて、もう眠っているだろうかとスマホの画面を落とし、最寄駅で下車すると早足で家へ向かった。
日付を超えた頃、ようやく家にたどり着いた月島は疲れ切った表情で階段を登り家の玄関を開いた。
灯がついたリビングへ足を進めると、あかりはリビングの椅子に腰掛けてマグカップを両手で持ち飲み物を飲んでいた。
「ただいま。まだ起きてたんだ」
「…おかえりなさい。月島くん。なんだか眠れなくて」
あかりは瞳に影を落としたが、すぐニコッと笑って肩をすくめた。その表情はどこか悲しげで、月島はいつもと様子の違う疑問に思ったが仕事で疲れているのか、と都合の良い解釈をした。
「お風呂、沸いてますから入って下さいね」
「あ、ありがと」
あかりはマグカップを中身を飲み干すと、席を立ちキッチンへ向かった。だが月島とすれ違った瞬間、思わず鼻を掠める匂いに足を止めた。
「…あかり?」
「…いえ、なんでもありません」
あかりは月島の声に我に返ったように、足早にキッチンへ向かった。
「(やっぱりお酒臭いかな…お風呂入ろ)」
スーツのジャケットを脱ぎ、椅子の背もたれにかけた月島は、そのままお風呂へ向かった。
キッチンでマグカップを洗い終えたあかりはリビングの扉が閉まる音を確認してから、ため息を吐いた。
「(あんな写真、信じられないです…月島くん…)」
白川から写真だけポンっと送られてきた一枚の写真。それは暗がり中2人の男女がまるでカップルのように抱き合ってるような写真だった。その男性の横顔はどう見ても、見間違えるはずのない月島だったのだ。
信じたくない、だがその写真に写るもの全てが真実を語っているように思えて、あかりは白川に返事をすることもできずリビングの椅子に座ったまま考えて込んでいた。気づけば日付を超えており、何も知らない月島が帰宅し、今に至るというわけだ。
「(女の人の、香水の匂い…近い距離でずっと呑んでいたんでしょうか)」
彼の横を通った際に、思わず足を止めてしまうほどの知らない匂い。気付いていない彼を見るあたり、鼻が麻痺してしまっているのだろう。それくらい長く彼女のそばにいたのかもしれない。
「(ああ、…嫌です…自分の中にこんな醜い感情が…)」
考えれば考えるだけ自己嫌悪に陥っていく。これ以上考えてもいいことはない、とあかりは首を横に振り先に寝ようとしたが椅子にかけられたジャケットが皺になってしまうと、ハンガーを持ち寄り窓際にかけようとした時だった。
カサっと落ちてきた紙に目が止まる。
「…ん?何か落ちて…」
ジャケットをかけてそれを拾うあかりは目を見開いた。そこに書かれていたのは可愛らしい文字で電話番号と思われる数字とメッセージが記載されていたのだ。
<月島クンから抱きしめてくれて嬉しかった♡
好きになっちゃったかも♡
連絡待ってます♡080-××××-××××>
その内容に愕然とするあかりは、写真に映る2人を思い出して唇をキュッと結んだ。
本当に彼が、何度も自分に触れたその手で、別の女性を抱き締めたのだろうか。
あかりの感情はぐちゃぐちゃで、彼から真実を聞かなくてはいけないとわかっていながらも、もし彼が誤魔化そうとしたり、何らかの嘘をついたとしたら。
どんな理由であれ、きっと信じることができなくなってしまいそうで、それがなによりも怖かったのだ。
それからどれくらいその場から動かなかったのかはわからない。程なくお風呂から上がった月島がリビングへ戻ると、座り込むあかりに気付き慌てた様子で「どうしたの?」と声をかけた。
「あ…いいえ、なんでもありません」
スッと立ち上がったあかりは無理矢理口角を上げると、手に持っていた紙切れを彼の胸元に押し付けた。
月島は咄嗟に押し付けられたそれを両手で受け取った。
「な、なに…」
「お水、飲んだ方がいいですよ。おやすみなさい」
できる限りの笑顔を作って、あかりは月島の表情を見ないまま自室へ戻った。胸元に突きつけられた紙切れを見た月島は「うわ」と眉間に皺を寄せた。
「(…くそ、あの馬鹿女…仕込んだのはあの時か)」
抱き締めた覚えがない月島は、アリサの顔を思い出し苛立ちを露わにさせた。帰り際、変に自分に抱きついてきた彼女を思い出す。
そんなことにも気付けず、結果あかりを傷付けることになってしまったことに、自分に対する憤りを感じざるを得ない。
アリサが仕込んだ紙切れをゴミ箱に放り投げて、あかりに言われた通り、水を飲みながらため息を吐く。
「(もー最悪。もしかして、赤葦さんも…いや、あの人は大丈夫か。なんだかんだで)」
リカの言葉を華麗に交わす赤葦を思い出す月島は、鼻で笑いながら水を飲み干した。
「(明日、ちゃんと説明しよう。練習は休みだし…)」
彼女の部屋の扉を見つめながら、小さく息を吐き、月島は自室へ戻っていった。
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翌朝、目が覚めた月島は若干の二日酔いを抱えながらリビングへ向かうと、既に朝ごはんを作り終えたあかりは椅子に腰掛けて温かいお茶を飲んでいた。
彼に気付いたあかりはニッコリと笑顔を浮かべて「おはようございます」と挨拶をする。
「お、おはよう(怒ってはない、のか……?)」
「お味噌汁、温めましょうか」
「あ、やるから、大丈夫…」
ぎこちなく頷く月島がキッチンへ行こうとすると、あかりはガタッと音を立てて席を立った。驚いて立ち止まった月島に変わらない笑顔を浮かべて「座っててください」と言うとあかりは彼の横を通り過ぎて火をかけた。
「(なんか変…?いや、気のせい…?)」
椅子に腰掛ける月島は重たい頭を抱えながら、彼女の言動を気にしていたが、頭痛のせいで正常な判断ができず明らかな違和感も見逃してしまっていた。
そんな考えをしているうちに味噌汁が目の前に運ばれ、「ありがとう」とお礼を述べてから口をつける。
あかりは笑顔を貼り付けながら月島の前の椅子に腰掛けることなく、自室へ向かった。
「もし食べれそうだったら冷蔵庫におかず入ってますから食べて下さいね。お米もあるので」
「あ、はい…どうも…」
ニコッと彼に笑いかけるあかりは彼の返事を聞くと自室へ入っていった。
二日酔いにはちょうどいい薄味付けの味噌汁が体内に染み渡っていくのを感じながら、月島は彼女の後ろ姿を見送った。
味噌汁を飲み干し、若干頭痛が落ち着いた月島は目頭を抑えて考える素振りをみせた。
「(おかしい…彼女が自室に籠るなんて。やっぱりあの紙切れのこと、気にしてるんだろうか……)」
月島の考えは間違いではなかったが、自室に行ってしまった彼女の部屋の扉を開ける度胸もなく、時間が経てば自然に出てくるだろうと考えに至った彼はとりあえず待つことにしたのだった。
そしてすっかり二日酔いが治った午後、頭がクリアになった月島は朝イチで紙切れのことについて話さなかった自分を恨んでいた。
「(あーくそ、話すタイミング悉く逃してるな…)」
彼女の様子がおかしいのは明らかだった。だが今更弁解しても伝わらないような気がして、月島は解決策を悩み頭を抱えた。
それと同時に、まだ体のどこかに残っているアルコールを感じた月島は、重たい身体を起こして走りに行くため準備をして外へ出た。
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「(買い物へ行かないと…あまり外に出る気にはなれないのですが)」
あかりは夕飯のメニューを考えながら冷蔵庫の前で項垂れていた。
昨晩のことで悩みすぎた彼女の目の下にはクマができていて、酷い顔だと本人も自覚するほどやつれていた。
「そもそも、なんで何も言ってこないんですか…やましい事があるからですか…?」
睡眠不足も相まって、何のフォローもない月島に複雑な感情を抱くあかりは、はぁっ、と重たいため息を吐くと、化粧で顔色を誤魔化して買い物に行くために外へ出た。
一通り必要な食材や日用品を購入し、賑やかしい商店街を通り抜けようと思ったが人混みを歩く元気はなく人気のない脇道に逸れてとぼとぼ歩いていた。
「(月島くんも、こんな年増より普通の若い女の子と遊びたくなるのでしょうか…今まで私がいる時はそんな素振り見せたこともなかったのに…)」
白川から送られてきた写真を思い出し、思わず涙が込み上げそうになりグッと堪えて上を向いた。
「(そういえば、以前サチさん、月島くんのことムッツリって言ってましたっけ…これがムッツリ…?)」
海へ行った時、サチがふざけて「月島がムッツリで〜」と言っていた事を思い出しながら何度目かもわからない深いため息を吐いていると、突然腕を引き寄せられバランスを崩した。
その直後、真横を車が通り過ぎていき、自分が轢かれそうになっていたことに気づいたあかりは自分の腕が引かれた方へ顔を向けた。
そこにはランニング途中、息を切らした月島が難しい顔をして立っていた。
「危ないデショ」
「…ありがとう、ございます(あ、イヤホン…)」
先日の誕生日でプレゼントしたイヤホンを付けてくれていることに気付くも、とても喜べるような心境ではなくそれから目を逸らした。
なんとなくお互いに気まずい空気が流れていくのを感じながら、あかりは「帰りますね」と呟くとぺこりと会釈して家の方向に足を進めた。
このまま彼女を見送るのもおかしい気がして、咄嗟に
その腕を掴む月島は「ちょっと待って」と声をかけた。
その瞬間、写真の光景が脳裏をよぎったあかりは振り向きざまにその手を払い除け、後退りをした。
彼女に手を払われた月島はその衝撃で、体を硬直させた。酷く動揺している飴色の瞳が哀しげに揺れる。
「っ、すみま、せん」
見たことないような彼の表情に、何かが胸を刺したようなズキズキとした痛みを感じながらあかりは足早にその場から去った。
その後ろ姿を呆然と立ち尽くしながら見つめている月島の足は、まるで沈めた錨のようにその場から動くことができずにいた。
彼を拒絶するような態度を取ってしまったあかりは、酷い後悔に苛まれながら無事に家に辿り着き、購入した食材を冷蔵庫にしまった後ソファに体を沈めた。
「(助けてくれたのに、私、なんてことを…)」
両手で顔を覆うあかりの頭からは月島の酷く傷ついたような表情が離れない。ただ、あの紙切れの内容が本当だとしたら、と考えたらどうしてもその手を払い除けたくなってしまったのだ。
あかりはまだ痛む胸を抑えながら、夕食の準備に取り掛かった。作り終える頃、ガチャっと玄関の開く音がして、思わず体を強張らせた。
「……ただいま」
リビングの扉を開けた月島は複雑な表情でキッチンに立つあかりに目を向けた。
「お、おかえりなさい。えと…ごめんなさい、さっきはびっくりしちゃって…あはは、ぼーっとしてダメですね。助けてくれてありがとうございます」
沈黙が怖いのか、饒舌に喋るあかりは月島が口を開く隙を与えないように無理矢理笑顔を作って言葉を続けた。
「お風呂、沸いてるので入っちゃってくださいね。もう10月といえど、走ると暑いですよね。私も買い物で汗かいちゃって…」
すると眉間に皺を寄せた月島はあかりの方へ歩みを進めて近づいた。その威圧感と気まずさに圧されて後ずさるあかりの後ろには冷蔵庫が待ち構えており、ヒヤリとした感覚が背中を走る。
「あかり。話があるんだけど」
「……っ、聞きたく、ありません」
「なんで」
唇を結び首を振るあかりに、月島は顔を顰めて聞き返すが、その理由を話す気はないらしく頑なにまた首を横に振った。
「…そう」
酷く冷たい声が彼女の頭上へ降ってくる。
あっ、と思った時には既に遅く、月島はあかりに背を向け「お風呂、入ってくる」とだけ告げて去っていってしまった。
「(あんな冷たい声、初めて…でも、今は…話す勇気がない、です)」
あかりは我ながら面倒くさい性格だと呆れ果てながら、パタリと閉まったリビングの扉を見つめた。
一方、月島は湯船に浸かりながら天井を見上げ悶々と考えていた。
「(話聞く気がないならどうしろっていうのさ…たかだかあの紙切れ1枚で、ちょっと大袈裟なんじゃないの。そもそも不可抗力なんだけど!)」
言葉通り完全に不可抗力だったあの飲み会の出来事を思い出し、イライラを募らせる月島は一段と不機嫌そうな顔をしている。
「(まあ、呑み行って帰ってきた彼氏の服からあんなの出てきたら…)」
ふと、先日山口から教わったことを思い出す。もし逆の立場だったなら、自分はどんな気持ちになるだろうか。そしてどう行動するだろうか。
飲み会で遅くに帰宅した彼女の服から一枚のメモ紙が落ちて、そこに同じ内容が書かれていたら。
「(…その男、殺したい)」
自分でもドン引きするレベルの発想に呆れながら「いやいやそうじゃないだろ」と浴槽のお湯を顔にかけた。
「(信じたくないし、そんな紙切れなんて信じないけど、本当のことを聞くのが怖いかも、しれない…話をしないとだめだってわかってても)」
想像しただけでもチクリと胸が痛むのを感じた月島は、明日また話を切り出してみようと心に決めて、小さく息を吐いた。
その後、なんとも言えぬ気まずさを抱えたまま食事を済ませた2人は、どちらも口を開くことなかった。
いつもなら2人でソファに座りテレビを見たり他愛のない話をしながら夜を過ごすのだが、リビングの椅子に腰掛ける月島にあかりは「おやすみなさい」と声をかけて早々に自室へ篭ってしまうのだった。
翌朝、バレーの練習のため起床した月島がリビングへ向かうと、机上にはお昼用のお弁当が用意されていた。
そばに置かれたメモ紙には「朝食は冷蔵庫に入っていますので、温めてくださいね」と書かれていて、こんな時でも彼女らしいなと思う一方、その光景はもの寂しい気持ちにさせた。
いつもは起きてともに朝食を食べ、「頑張ってくださいね」と送り出してくれるあかりは部屋から出てこない。
月島はそのことを気にしながら、朝食と身支度を済ませてお弁当をカバンにしまい玄関で靴を履いていると、遠慮がちにガチャリと音を立ててリビングの扉が少しだけ開かれた。
「あかり…」
「い、行ってらっしゃい、です」
隙間から覗くあかりは、伏し目がちにそう言うと、一瞬ちらっと月島の目を見てからすぐに扉を閉めた。だが一部磨りガラスになっているため、彼女がまだそこから立ち去っていないことは明らかだった。
「…行ってきます」
彼女が傷付き怒っている事も重々承知していた月島だが、その言動の愛らしさに思わず笑みを抑えきれずクスッと笑いながら、自宅を出たのだった。
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「月島ぁ〜、悪ぃ悪ぃ!この前呑みすぎちゃってさぁ〜!」
練習場の体育館に足を踏み入れるや否や、後ろから首に腕を回し体重をかける白川に、月島は不機嫌そうな顔をしていた。
「そんなレベルじゃないんですけど…」
「いやぁ、黒尾が合流したとこまでは覚えてんだけど
さぁ〜」
「は?それ本気で…!?」
豪快に笑う白川の言葉に、月島は思わず目の下をヒクヒクとさせて目を顰めている。
まさか、諸悪の根源が自らの行いをさっぱり忘れているなんて、思いもよらなかったのだ。
「白川さん、帰らせないように月島の変な写真撮って脅したり大変だったんですよ…」
ウォーミングアップ中だった赤葦が呆れた表情を浮かべながら腕や背中の筋肉を伸ばしている。白川は身に覚えのない話に心の底から驚いている様子でスマホを開いた。
「さっさと消してくださいよ、全く」
「まじか、全然覚えてねーわ…うわ!お前、あかりさんという存在がありながらなに抱き締めあってんだこのやろー!!!」
「はぁ!?ちがいます、あの女が勝手に…!」
画面に写し出された写真を月島に向ける白川は額に青筋を立てて御立腹のようだった。元はと言えば誰のせいでこうなったのか、と月島は納得のいかない声をあげている。
「きゃー最低!野蛮!ムッツリ!メガネ!」
「なっ…あ、赤葦さんもなんとか言ってください…!」
「白川さん、その写真誰かに送りました?」
女のような口調で体をくねらせる白川と助けを求める月島を見兼ねて、赤葦は小さく息を吐いてから口を開いた。
その問いかけに白川は「まっさか〜」と言いながらメッセージをチェックする。直後、みるみる顔が青ざめていき赤葦は「やっぱり」と全てを悟った。
「ちょ、まさか送ったんですか…!?」
「わ、悪い…しかもあかりさんに…」
あかりのメッセージ欄を月島に向ける。そこには確かに同じ写真が送信されていて、その横には「既読」マークがしっかり付いている。
「はぁぁぁ……どーりで…」
そりゃあんな態度にもなるわけだ、と酷く納得した月島は片手を額に当てて大きなため息を吐いた。
冷や汗だらだらの白川は赤葦の後ろに隠れ、月島の顔色を伺うようにチラッと覗き見ている。
「もしかして、月島…喧嘩した?」
「喧嘩というか…話もしてくれないですし、手も振り払われましたよ…おかげさまで」
フン、と鼻で笑う月島。鋭い視線を感じた白川は「あちゃー」と声をあげながら相変わらず赤葦の背中に隠れ続けていた。
「しかも訳わかんないメモ紙まで仕込まれて…」
「ああ、月島もだったんだ。やられたね…俺もサチさんに見られて後が大変だったよ」
呆れた表情でため息を吐く赤葦の様子だと、喧嘩ごっこが本当の喧嘩に発展してしまったようだった。だが、すでに仲直りしているようで「さすが赤葦さんだな」と月島は感心した。
「(いや、感心してる場合じゃないし…)」
「まっ、まぁ、月島!大丈夫だ!お前なら!な!」
その言葉とは裏腹に、まだ赤葦の背中から出てこない白川。さすがに反省しているようだ。
月島は無責任な彼の言葉にゴゴゴっと背後からどす黒いオーラを沸き立たせながらジトっと睨みつけた。
「……さあ、練習、やりましょうか」
「(苛立つ月島はよく見るけど、本気でキレてるところなんて初めて見たな…)」
一転して笑顔を浮かべる月島は親指をコートに向ける。ヒッと肩を上げる白川は姿勢をピシッと正して大きく頷いた。そして何故かウォーミングアップ中のチームメンバー達も背中に悪寒が走りビクッと体を震わせている。
そんな月島と彼らを横目に、我関せずの赤葦はウォーミングアップを再開させた。
その日、白川は一度も気持ちよくスパイクを打たせてもらえず、最終的に「すみませんでしたぁぁ!」と練習場中に響き渡る声をあげながら土下座を繰り返したのだった。