君の初めては、僕のもの
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白川から進呈されたプランDX決行の日。
仕事を定時で切り上げたあかりは、ソワソワした足取りで家に帰ると、再度化粧や身なりを整えて家を出た。
夏らしい青色のショートワンピースに身を包み、こっそりサチに教えてもらった方法で髪を巻く。ピンク色のリップを唇に乗せたあかりは、家路に着く人々とは反対方向に向かって軽快な足取りで歩いていた。
予め月島と約束をしていた場所まで電車で向かい、到着すると、落ち着かない様子で髪を整え彼を待つ。
「(髪型、ちゃんとできているでしょうか...!慣れないことになんだか落ち着きません...!)」
ふわりと巻いた髪が気になり、そわそわしてしまうあかりが俯いていると急に大きな影に覆われて、彼がきたのかとハッと顔を上げた。
「こんばんは〜、ひとり?」
そこには見知らぬ男の顔があった。
金髪で耳にピアスをいくつもあけている、若い男だ。直感で「怖い」と感じたあかりは、口をキュッと結び首を横振った。
「...っいえ、人を...待って、います」
「こんな可愛い子を待たせるなんて、悪い奴だねぇ」
自分が勝手に早く待ち合わせ場所に着いてしまっただけなのに、と思いながら再びあかりは首を振った。男はニヤリと笑い、前で組まれた彼女の手を取ろうと手を伸ばした。
「その子、僕の連れなんで」
待ったをかけるように男の腕を掴んだのは、にこりと笑う月島だった。息を切らしながら冷ややかな瞳で睨みつけると、男はその迫力と身長差に怯んだようで、顔を歪めて小さく舌打ちをし逃げるように消えて行った。
「あのさぁ、君ね...」
去っていく男の後ろ姿を見つめながら、スーツ姿の月島は呆れたように溜息を吐いた。「ちょっとは警戒心を...」と言いかけたとき、あかりは慌てて頭を下げた。
「ありがとうございます!月島くん...!」
顔を上げた彼女の安心し切った微笑みを受けて、月島は完敗だというように、顔を片手で覆うと彼女の手を取った。
「ホテル、こっち。行くよ(今日に限って何でそんな可愛い格好してるわけ...)」
「(ほ、ホテル...!なんか緊張します...!)」
「ホテル」という単語に慣れないあかりは羞恥に目を瞑り手を引かれるまま歩みを進めた。
あれよあれよという間にチェックインを済ませて、宿泊する部屋の扉を開けると、目の前に広がった光景にあかりは思わず目を見開いた。
高層40階に用意された部屋は、ラグジュアリーなクイーンサイズのベッドがひとつ用意されていた。
扉もなく繋がったもう一つ奥の部屋にはアンティーク調のテーブル、椅子が見晴らしのいい窓際に並べられていた。
その二つの部屋に跨って、ガラス越し一面に夜景が広がっている。
「す、すごい....!!こんな素敵なお部屋....!」
「う、うん...すごいね」
月島も、目の前に広がる夜景に思わず狼狽えている。
同時にあまりに目立ちすぎるベッドに視線を送った2人は俯き、少し気まずい雰囲気が流れた。
「とりあえず、プール行く?」
月島は無表情を取り繕ったまま、緊張が顔に出ている彼女に声をかけた。あかりはピクリと肩を震わせ、慌てて頷いたのだった。
ナイトプールの場所はちょうど2人のいる階で長い廊下を進むと開けた場所に男女に分かれる脱衣所があり、2人はそこで分かれた。
暫くの時間が経った後、着替え終えた2人はプールの手前で落ちあい入口の扉を開けた。
2人は目の前の光景に対照的な反応を示した。
ナイトプールとだけあって水辺はピンク色のネオンで照らされている。キラキラと輝いた水辺には数人の女性たちがキラキラ光るネオンと遊びながら写真を撮ったり、水に浮く2人用の浮き輪やボールで遊んだりして、笑い声が響いていた。
初めてのナイトプールに感動の声を上げるあかりの横で、月島はその場の雰囲気に少し嫌そうな表情を浮かべた。
「飲み物持ってくるけど....カクテルとノンアル、どっち?」
空いている1人用のビーチチェアにタオルを投げる月島はその隣に座っておくように顎でその隣を差した。
「ええっと...カクテル、で」
緊張気味の彼女の返事に月島は、ふっと笑いながら数メートル離れた先のカウンターへ向かった。
先日の海の時はほとんどパーカーを羽織っていたため彼の裸は見ていなかったが、今は何も羽織らず引き締まった背中と腰が露わになっている。
あかりが彼の後ろ姿に見惚れていると、数人の女性たちが月島の後ろに並び何やら話しかけているようだった。布面積が一般の水着より少ないセクシーな水着を身に纏う女性ばかりだ。
「(....あ、あれは....もしかして、逆ナン....という...!?)」
月島は近寄る女性たちを手で制止しながら、あかりがいる方を指差している。すると彼女たちは数メートル先のビーチチェアにポツンと座るあかりを見ながら、納得のいかない様子で声を上げた。
「(ですよね...私なんて月島くんに釣り合わないですよね...水着も子供っぽいですし...)」
自分の水着を見ながらしょんぼり顔を浮かべるあかりは、体育座りをしながら不安げな眼差しを彼に向けた。
一方月島は上っ面の笑顔を張り付けて、群がる女性たちの対応をしていた。オーダーした飲み物が出てくるまでの間、そこから動くことができないようだ。
「お兄さん背高ぁい!」
「良い体してる〜!なにかやられてるんですかぁ?」
「...いえ、なにも」
彼女たちの質問に最低限の文字数で答える月島は、内心うんざりしていた。そんな彼の様子に気付くはずもない彼女たちが楽しげに笑うなか、そのうちの1人が月島の体に触れ始めた。
驚いて後ずさる月島に、何故か彼女たちの歓声が湧く。
「ちょっと...(もうなんなの...うざすぎるんだけど....)」
「あ、照れてる〜可愛い〜!!」
「筋肉超かた〜い!やばいやばい!」
照れるというよりもドン引きしている月島はあからさまに不機嫌そうな表情を浮かべた。そこで「お待たせしました」と月島がオーダーしたドリンクが出来上がり、素早くそれを取るとあかりの元へ逃げるようにその場から立ち去った。
彼女たちからはブーイングを背中で受けつつ、ビーチチェアで体育座りをするあかりにドリンクを手渡した月島はげんなりしている様子だった。
手渡されたそれを受け取るあかりはお礼を言うと、頬を膨らませ視線を逸らした。
「....なに、嫉妬してるの?」
「してませんっ」
「へー、じゃあなんでそんな顔してるの」
「普通の顔ですから!」
月島は真隣のビーチチェアに腰掛けて、ぽてっとした大きめのグラスに注がれたカルーアミルクに口をつけながら、膝に肘を置き頬杖をついている。
「(ああっ、私本当可愛くないです...)」
「(この子の膨れ顔、昔から好きなんだよねー…)」
月島はなんとか無表情を保ったまま、彼女の黒い髪に触れた。先程までおろしていたくるくると巻かれた髪はポニーテールに纏められている。
「珍しいね、髪」
「...サチさんに教えてもらいました」
いつもと違う部分に気付いてもらい、少し嬉しそうに表情を明るくさせたあかり。だが、ハッとしてまだ拗ねてるモードを続行させる彼女に、月島は思わず吹き出した。
「な、何で笑うんですか...!」
「いや...、わかりやすいよね、君って」
メガネをずらして目尻を擦りながら笑う月島に、疑問符を頭上に浮かべるあかりはカクテルが入った細長いグラスに口をつけた。
「月島くんは、ああいう...セクシーな水着の方が...お好み、でしたか」
「え、いや、そんなことはないけど(どこをどう見たらその発想にいたるんだろう...)」
体育座りのまま、その視線ははしゃぐ女性たちに注がれている。今度は月島の頭上に疑問符が散らかっていた。
「じゃあ、どんなのがお好みですか...!」
「はい....?」
「教えてくれたら許しますっ」
「(許す....?あぁー...僕怒られてるのか)」
突然ジトっとした目で月島を見つめ、口を尖らせるあかり。突拍子もない質問に狼狽える月島は、そこで初めて自分の状況を把握したようだった。
暫しの沈黙のなか、いざ自分の好みを彼女に話すとなるとまるで拷問のように感じ、視線を逸らしながら眉間に皺を寄せた月島はぎこちなく口を開いた。
「っ...き、きみの、........」
「?...すみません、もう一回...」
「だ、だから...君の...」
「........?」
「〜っ、きッ、君が着てるようなのが好みだって言ってるでしょ!」
半ばやけくそ状態の月島の顔は真っ赤に染まり、それが建前ではなく本音であることはあかりにも伝わったようだ。同時に顔の熱も移ったようで2人は羞恥に俯いていた。
「ちょっと...言わせといて無言やめてくれる」
「ゔぅ…すみません…(てっきり、大人っぽい方がお好きかと...)」
今度は月島が恨めしげな表情で彼女を睨むと、あかりは隠しきれない照れ笑いを浮かべていた。
「よ、よーし、月島くん!プール入りませんか!」
すっかり上機嫌のあかりは立ち上がり、ピンク色に光るプールを指差した。「はいはい」と、しょうがなく笑う月島はカルーアミルクを飲み干してメガネを外し立ち上がった。
———————————
「つ、月島くん....待って、待ってください....」
「(あれだけ運動神経いいのに、典型的なカナヅチだったとは...)」
既に水に浸かる月島は躊躇う彼女の手を取ったまま無表情で見上げていた。
「海は大丈夫だったのにね」
「海は足がつくじゃないですか...!でも月島君の身長で肩まで浸かってるってことは、私完全に沈みます!」
「浮くと思うけど」
「私は浮かないタイプなんです....!」
「浮けない、の間違いでしょ」
そんなやり取りを繰り広げながら、あかりは眉尻を下げプールサイドに腰掛けて脚だけを水に浸している。
「僕に掴まればいいんじゃない」
「そ、そんな破廉恥なこと...!ただでさえ眼鏡をかけていない姿に胸が痛いのに....!」
「ちょっとよくわかんないけど(.....破廉恥?)」
彼の提案に両手で赤らめた顔を覆うあかり。「また訳わからないことを」と思いながら月島は至る所に浮いている浮き輪やボールなどに目を向けた。
「じゃあこれに掴まれば」
「わぁ、イルカの浮き輪ですか...!可愛いです!それにします!」
月島はイルカの浮き輪を彼女の前に差し出した。その可愛らしいデザインの浮き輪に、あかりは嬉しそうに頷いた。
「い、いきます...!」
ゴクリと喉を鳴らし、覚悟を決めたようにあかりは宣言すると両手をプールサイドに付き腰を浮かせて少しずつプールに身体を沈めた。
「本当に足つかない...!怖い...!!」
水中で足をバタつかせるあかりは必死にプールサイドにしがみついている。月島は彼女を助けることなく事の成り行きを見守りながら、笑いが止まらないようだった。
「月島くん...!笑いすぎです...!」
「いや、...っ不恰好すぎ、でしょ...っ」
バレーの時とは正反対で、必死にしがみつくその後ろ姿が月島のツボにハマっているようだ。
まだ笑いが止まらない様子の彼はイルカの助け舟を出した。
あかりはそれに恐る恐る手を伸ばし、なんとか尾ビレに掴まることに成功した。
「はー、面白かった。」
「まだ何も面白くないですよ...」
涙が出るほど笑ったようで月島は目を擦っている。彼の目の前でぷかぷかと水に浮きながら、疲弊した様子のあかりは困り顔で口を尖らせた。
「月島くん、泳げるんですか?」
「まあ、人並みにはね」
「さすが器用ですね...!月島くんって、出来ないことないんですか...?」
感心の声を上げながら、運動神経も良く、料理や家事もスマートに熟してしまう月島を見つめた。
彼は指先で顎に当て少し考えた後、口を開いた。
「....車の運転....?」
「それ免許取ってないだけなのでノーカンです」
「....じゃあない」
考えることを諦めた月島の言葉に「やっぱり!」と何故か悔しそうな表情のあかりは口を尖らせている。
「まぁでも、人並み以上にできることはあんまりないけど。」
「そんなもの、一つあるだけで100点満点ですよ!」
心無しか彼の声のトーンが落ちたのを感じたあかりはそれを疑問に思いながら、明るい声色でニコっと笑いかけた。
釣られるように、ふっと笑みを溢した月島はまた意地悪な笑みを浮かべた。
「今の君が言うと、説得力あるね」
「それ褒めてます...?」
イルカにしがみつくあかりは小難しい顔をして首を傾げている。少し考えた後、褒められてないことに気付いたあかりは悪戯心で「えいっ!」と彼に片手で水を掛けた。
結構な量の水が顔面にかかった月島は、無言でイルカの鼻を鷲掴みにし向かいのプールサイドの方へ歩き出した。
「月島くん...!?どこへ!?」
「悪戯っ子にはお仕置きしないとね」
にっこりと胡散臭い笑顔を浮かべる月島に顔を引き攣らせながらイルカにしがみつくことしかできないあかり。
数メートル離れた真ん中あたりに着くとイルカの鼻から手を離し、月島はひとりで彼女に背を向け元いた場所に戻った。
「じゃ、頑張ってー」
「月島くん待ってください...!む、無理です!ごめんなさい、無理です...!」
まるで聞こえていないとでもいうように、変わらずニコニコと笑う月島はプールサイドに腰掛け無言で彼女を見つめた。
「ゔぅ...っ...進まない...」
「バタ足って知ってるー?」
挫けそうな声のあかりに、嘲笑を浮かべながら煽る月島はとても楽しそうである。
「そうそう、その調子ー」
「(くぅ...月島くん生き生きしてます...!)」
なんとか覚束ないバタ足で少しずつ進みながら、月島の座るビーチサイドを目指すあかり。
尾ビレにしがみつくその腕には限界が近づいてきていた。
「(あ、限界っぽいな)」
月島は再びプールに入ると、3メートルほど離れたあかりの元へ歩き出しイルカに手を伸ばそうとした瞬間、彼女の手が浮輪から離れてしまった。
ちゃぷん、という音と共に目の前で無抵抗に沈んでいくあかり。月島はギョッとしてすぐ潜り、水中でぎゅっと目を瞑り口を抑えるあかりを下から抱き留めて水面に浮上させた。
「ぷはぁ....っ!」
「ごめん、やりすぎた...(まさか無抵抗で沈むとは…)」
対面で抱き上げたまま、月島は申し訳なさそうな表情で彼女を見つめた。
「...いえ!助けてくれると思っていたので、大丈夫です」
悪戯っ子のように歯を出して笑うあかりに、ホッと安堵の表情を浮かべる月島。
密着したまま、濡れた髪から滴る水と、少し赤らんだ頬、潤んだ瞳が、月島を見つめている。
「...綺麗」
片手で抱きかかえ、反対の手の指先であかりの顎をなぞる。その濡れた唇に吸い寄せられそうになるのを、月島は「これ以上はだめだ」とギリギリのところで耐えた。
すると惚けていた表情で彼を見つめていたあかりは、ハッと我に返ったように声を上げた。
「は、裸....!!」
「今更...ってちょ、暴れないで...!」
腰に回る彼の手から逃れようとするあかりは焦って足をバタつかせ、手で体を押しのけた。
「...あ」
月島の声と同時にぶくぶくと沈んでいくあかり。本日2度目の救助でまた即座に引き上げ、今度はビーチサイドに座らせた。
「本当馬鹿じゃないの...」
「ゔ...面目ありません....」
半泣きで眉毛をへの字にさせているあかりに、月島は呆れた笑みを溢しながらプールから上がり「ちょっと待ってて」と声をかけた。
言葉通り、30秒ほどで戻ってきた月島は受付で借りた白いバスローブをあかりの肩にかけた。
「わぁ、あったかい...!ありがとうございます!」
「あとこっちきて」
同じくバスローブを羽織る月島から差し出された手を取り立ち上がったあかりは不思議そうな表情を浮かべながらもついて行くことにした。
———————————-
「わぁ、すごい!こんなお洒落な....!」
そこはギラギラのネオンで照らされていたプールが嘘のように落ち着いた雰囲気の場所で、目の前に広がる夜景、2人用のビーチベッドが並べられていた。
グリーンカーテンでビーチベッドが区切られていて、隣の目を気にせず2人の時間を過ごすことができる、いわばカップルシートだ。
「白川さん、なぜか予約してたみたい。」
「ど、どなたと来られる予定だったのでしょうか...なんだか申し訳ない気もしますね...」
「まあいいんじゃない。頑張ったご褒美みたいなもんだし」
眼鏡をかけた月島は再度貰ってきたドリンクを小さなテーブルに置き、ビーチベッドに片側に腰掛けて背を預けた。
「そんなところで立ってないで、こっちきたら?」
「(月島くん、寝転んでるだけなのに...色気が...)は、はい...!しっ、し、失礼いたしまする!」
「ぷっ...なにそれ、武士かなにか?」
真っ赤な顔をしたあかりが意を決して片側に寝転ぶ月島に頭を下げる。わかりやすく緊張しているあかりの様子が可笑しくて、月島は思わず吹き出した。
笑う月島に構う余裕もなく緊張気味のまま、恐る恐るベッドに腰掛けてぎこちなく横になるあかり。
「ねぇ、なんでそんな緊張してんの」
「....っ!(ちっ、近い...!)」
ニヤリと笑みを浮かべながら彼女の耳元で囁く月島。
あかりは耳のくすぐったさと、くらっとするような甘い声に思わず彼の方を見た。
月島の意地悪っぽい顔は予想以上に近くにあり、思わず固まってしまう。
「聞いてる?」
「すみません...!なにやら心臓が変で....っ」
「変なのは君でしょ」
ガバッと起き上がり心臓に手を当てるあかりに、しょうがないな、と身体を起こした月島は背もたれを調整する。
「はい、これでいい?」
「....もしかして、意地悪しました....?(背もたれ調節できることわかってた感じが...!)」
ベッドチェアの背もたれの角度を45度くらいに調節した月島は改めて片側に座り隣をぽんぽんと叩いた。
彼女の問いには言葉無くにっこりと笑顔だけを返している。
その笑顔を肯定と捉えたあかりはぷくっと頬を膨らませて隣に座った。さすがに緊張はしていない様子だ。
「ああいうネオンが煩い所より、こういう場所の方が落ち着く...」
夏の夜の暖かな風が駆け抜ける。短い前髪を揺らしながら、月島は「ふぅ」と息を吐き目の前に広がる夜景を眺めた。
「大丈夫ですか?お疲れになったのでは...」
そんな彼を心配そうな眼差しで見つめるあかりに、月島はまた意地悪な笑みを浮かべた。
「1日に2回も人を救助するなんて思いもしなかったし」
「ゔっ....元はと言えば月島くんが...!」
「先にふっかけてきたの誰だったっけ」
「.........そうでした」
思い返せばそうだった、とあかりは両手で顔面を覆っている。そんな姿に月島は、ふっと肩を揺らして笑った。
情けない姿ばかり見せている自分に呆れつつ、それで彼が笑ってくれるならそれもいいかな、とあかりも釣られて笑った。
「そうだ、明日はどうされますか?バレーの方は大丈夫でしょうか...」
「うん、日曜練習出るしね。それより、どこか行きたい所ある?」
「そうですねぇ...(行きたいところは沢山ありますが、月島くん疲れさせてしまうのも...)」
考える素振りを見せながら、あかりはちらりと月島を見つめる。
「じゃあ、僕が決めていい?」
「えっ!も、もちろん、...でも、いいのですか?」
「うん。まあ、そんな期待しないでね」
彼の思いもよらない提案に、あかりは驚きを隠せない表情を浮かべた。正直月島はあまりそういうタイプに見えなかったからだ。
「なにその顔。」
「いえっ、なんだか意外だったというか...!」
「...初めてのデート、なんだし。いいでしょ」
照れ隠しをするように、月島は隣に座るあかりと反対方向に顔を向けて小さく呟いた。
初デート、という響きに浮かれていたのは自分だけではなかったのだ、と胸がくすぐったくなるような感覚にあかりは思わず頰が緩むのを抑えきれないようだった。
「ふふ、楽しみにしてますね」
「だから期待しないでって言ってるでしょ」
月島は羞恥を隠すように、不機嫌そうな声で口を尖らせた。そんな姿が愛らしく、あかりはどうしたってにやけてしまう口元を両手で覆っている。
その際に彼女のか細い腕についた小さな痣が視界に入り、月島は眉間に皺を寄せた。
「...身体、痛む?」
「...いえ、もう大丈夫ですよ。すみません、ご心配かけて」
露出が少ない水着であったし、今はバスローブも纏っているためほぼ目立たないが、まだ完治していない小さな痣が腕と足にあった。他人が見れば何処かにぶつけたような跡で気にも留めないだろう。
月島の視線が注がれる腕の小さな痣の上からバスローブの袖をかけて隠し、彼女は動揺を取り繕うような笑顔を向けた。
「すみません、お見苦しいものを...隠れると思ったんですけどね…」
「見苦しいって…ねえ、それ本気で言ってるの?」
乾いた声で笑うあかりに、月島は一瞬眉間に皺を寄せたかと思うと、体の向きを彼女の方へ向けた。その声には怒りの感情が込められているようにも聞こえる。
「……僕はそう思わないけど。君が僕のこと考えて必死に耐えて負った傷だし」
「…え、と…ご、ごめん、なさい(月島くん、怒ってる…?)」
彼の熱い指先が頬に触れた。真剣な眼差しに思わず心臓が跳ね上がるのを感じながら、彼の言葉に目頭が熱くなる。
だが彼は別の意味で泣きそうになっていると勘違いしたのか、ハッとして顔を逸らし短く「ごめん」と呟いた。
「....違います。嬉しいのですよ。大好きです、月島くん」
月島が体を仰向けに戻そうとしたとき、あかりは彼のバスローブの袖を掴み涙を堪えながら微笑を浮かべた。
彼女の言葉と表情に月島はぶわっと顔が赤くなっていくのを感じ、その唇に優しくキスを落とした。
「っ...、」
「...そういう顔、あんまりしないで」
唇を離した月島が余裕のなさそうな表情で一方的にそう告げると、また啄むような口付けを繰り返した。
唇が、心が、溶けてしまいそうな甘いキス。
月島は彼女の様子を見るために一度顔を離すと、蕩けるような表情でぽーっと頬を赤らめていた。
惚けている彼女の額を指先で小突き、内心余裕など微塵もない月島は彼女から身体を離した。
「(これ以上は僕が我慢できなくなる....)」
あかりは少し寂しさを感じながら「あのっ」と言いかけた瞬間、ぐぅーっと間抜けなお腹の音が鳴った。
「ふっ、色気より食い気」
「ゔっ、すみません...お腹すいちゃいました」
恥ずかしそうに俯くあかりに、月島は呆れたような表情で吹き出して笑っている。
ちょうど夕食の時間が近づいていたため、2人は着替えを済ませるとナイトプールを後にしたのだった。