声にして、君に伝えよう
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「おいおい!主役がいなくてどうすんだよ〜!」
「イチャイチャしてんじゃねー!クソ島!!」
「あかりさん、こっちおいで〜!」
飲み物を手に持った2人が皆のいる場所に戻ると、バーベキューの網がかかった2つのテーブルに群がる彼らが一斉に野次やブーイングを飛ばしてきた。白川もトングで肉をひっくり返しながら野次を飛ばしている。
自分の名前を呼ばれたあかりは、笑顔で手を振るサチの方へ嬉しそうに走り出す。月島も彼女の後を追うように歩みを進めた。
「少しは男見せたのかなぁ〜仏頂面眼鏡君は!」
サチは、ニヤニヤと厭らしい笑みを月島に向けながら、あかりを肘で突いた。「仏頂面眼鏡君」という言葉に反応した月島はピクッと青筋を立てている。
あかりは先程耳元で囁かれた彼の言葉を思い出してしまい、頭から煙を噴き出しながら両手で自分の顔を覆った。
「ちょ、ちょっと...!そんな変なことしてないでしょ…!?」
「赤葦さーん、月島がムッツリでキモイです〜」
「....今に始まったことじゃないっす」
トングを持ちカチカチと鳴らしながら肉の焼き加減をみていた赤葦は、サチの言葉に興味なさそうな表情で返事をした。
爆笑が沸き起こっている最中、月島は眉間に皺を寄せながら赤葦を睨みつけたが、彼は特に気に止める様子もなく肉をひっくり返している。
そんな中、1人笑いもせずつまらなそうな表情を浮かべる桃は月島の元へ近づいて行った。
「蛍くん、はい、お肉だよ!いっぱい食べてね!」
「はぁ、どうも...」
野菜やお肉が綺麗に盛られた紙皿を、笑顔で月島に差し出す桃。月島は頭を小さく下げて紙皿を受けとり、お肉を食べ始めた。
「お〜さすが桃ちゃん女子力ぅ!」
「えぇ〜そんなことないですよぉ。普通ですぅ」
桃のファンのようなメンバーもちらほらいるようで、可愛らしくウィンクすると数人は顔を赤めていた。
「食べる?」
「あ、ありがとうございます。いただきます」
月島は桃を気にも留めない様子で、あかりに視線を移すとお箸を手渡した。あかりは嬉しそうにお肉を口に入れて咀嚼している。
「(あんたが食べるために渡したんじゃないんですけど!!!)」
桃に、キッと睨みつけられたあかりはその意図を汲み取れず、ニコッと笑って頭を下げた。
「え、と...桃さんがよそってくださったお肉、とても美味しいです。ありがとうございます」
桃は額に青筋を浮かべながら、ふんっとそっぽを向き月島の隣に戻っていく。その2人の様子にサチはクックッと愉快そうに笑っていた。
暫く談笑しながら和気藹々とした雰囲気のなか、白川が手を叩き大きな声を上げた。
「そろそろあれ、やるぞ!」
サングラスを頭にかけた白川はニヤリと笑うなか、誰も白川の意図がわからず首を傾げている。
彼はどこからともなくバレーボールを取り出した。
それを見るなり、その場にいた全員が凍りついているようだった。
「う、嘘だろ...」
「海に来てまで...!?」
「ちなみにトーナメント制だ!!!優勝ペアにはなんと、かの有名な!有名テーマパークのペアチケット!!だー!!」
チケット2枚をかかげる白川に、絶望の色を見せていた男たちは、雄叫びをあげた。
「よっし!!テメェら!準備にかかれ!!」
砂浜に駆け出していく彼らの瞳はギラついており、あかりは展開の早さに声も出なかった。一方心底嫌そうな顔をしている月島は、白川が座っていた椅子に置かれている「トーナメント表」と手書きで書かれた紙を見た。
「は!?男女混合...!?」
ちらっとあかりの方を見ると、その言葉が聞こえたのか体を硬直させて箸を落としている。
「ビーチバレーって2対2です、よね...わ、わた、私はどなたと...」
「僕」
「....へ?」
小刻みに震えながら、涙目で月島に問うあかり。
自分を指さしながらあっけらかんとした顔で答える彼に、ピシッと体に稲妻が走り抜けるような衝撃を受けたあかりは、もはや声も出ないようだった。
「むむむりですよ...あんな腕がもげそうなスパイク打つ方とビーチバレーなんて...!」
「さすがにハンデはあるみたいだよ」
トーナメント表の下部を指差し、あかりはそこに注目した。
どうやら男同士のペアの場合のみ、片方の目を目隠すための眼帯をつけてプレイしなければならないというものだった。
「理不尽」とその場にいた誰もが思っているなか、不意に気の抜けるような声が聞こえてきた。
「ねぇ?勝負しよぉ、あかりさん」
「桃さん...?」
後ろから声をかけられ振り向くと、緩く巻かれた髪を指先で遊ばせる桃が立っていた。彼女はあかりの耳元に口を寄せて、そばにいた月島に聞こえないように耳打ちした。
「私が勝ったらぁ、蛍くんのこと諦めてくれない?」
「なっ、…そんなこと…」
「あなたが勝ったら、蛍くんのこと諦めてあげるから」
その言葉に目を見開いたあかりは口をきつく結んでいる。彼女はふふっと可愛らしく笑いながらあかりから離れた。
「…だ、誰かを想う気持ちって、賭け事でどうにかなるものじゃないと…思います」
「そうかなぁ?気持ちを作るきっかけにはなり得ると思うけどなぁ〜」
あかりの反論にも動じない桃は、余裕の笑みを浮かべている。
「じゃ、決定ね。残り少ない時間、蛍くんはあなたに預けといてあげる。」
「ちょ、私はまだ…!!」
狼狽えるあかりの横を通り過ぎ、口元を歪ませながら耳元で囁く桃。あかりは振り向いて彼女を引き留めようと声を上げたが、何も聞こえないとばかりに桃は足を止めることなく遠ざかって行った。
そんな2人の様子を見つめていた月島は怪訝な表情を浮かべながら、立ち尽くすあかりの元へ足を進め口を開いた。
「ねぇ、今あの子と何の話を…」
「っ、あ…が、頑張りましょうね、月島くん!」
問いかける彼の言葉を遮るあかりはぎこちなく笑った。そんな表情の彼女に月島は「なにかあったんだな」と勘付いたものの、小さなため息を吐くことしかできなかった。
トーナメント表によれば、それぞれ1回戦目で勝利すればその次に当たることになっていた。
「ルールは簡単!15点マッチ!3回以内にボールを返す!男同士のペアはこの眼帯つける!面倒なルールは不要!以上!」
あっという間に簡易的なコートができあがり、その真ん中で、白川が腰に手を当て声を張り上げた。
バーベキューのスペースとコートの間で、立見する者や砂の上に直接座って見学する者、まだ肉を食べ続けている者など、皆思い思いの場所で観覧している。
第1戦目は桃と佐藤ペアVS男同士のマッチだ。
「あの方が、桃さんの彼氏さん...」
あかりがそう呟きながら「確か、ベンチに入っていたような」と先日の試合の記憶をたぐり寄せているなか、サチは悪戯っ子のように歯を出して笑った。
「そー、佐藤って言うんだけど、桃にゾッコンなんだよ〜!相手チームは桃のファンだし、こりゃ試合にならないだろうね!」
「きゃぁ、こわぁあい!」
「任せて、桃ちゃん!」
サチの言葉を聞いた直後、なんともわざとらしい悲鳴が響く。そのせいで思わずスパイクの威力も弱まったようだ。佐藤は得意げにレシーブをあげた。
「桃ちゃん、俺の方にボールを!」
「はぁい、ちゃんと決めてねぇ(わかってるっつーの)」
桃の言葉に佐藤は俄然やる気になっている。
慣れた手つきで彼の方へパスを繋げると、佐藤は見事なスパイクを決めた。
「きゃー、すごーい、カッコいい〜!」
「ほんと!?やった!!桃ちゃんに褒められた!!」
明らかに棒読みの桃と正反対の表情で心の底から喜んでいる佐藤に、周りは哀れみの目を向けている。
「あの子、初心者じゃないんだね」
「そうみたいです...私たち、勝てるでしょうか...」
「まぁその前に1回戦目勝たないと、彼女たちと当たらないけどね」
「ゔっ...」
月島はコート上のボールを視線で追いながら、隣で体を強張らせる彼女の不安を煽るかのように意地悪な笑みを浮かべている。
「そんなに勝ちたいの?」
「……はい。絶対に、負けられません」
珍しく真剣な表情を浮かべるあかりに、月島は「わかった」と、ふっと笑いながら緊張を和らげるように優しく頭を撫でた。
そしてあっという間に、桃&佐藤ペアが圧勝の形で勝ち進んだのだった。
「やったぁ!さすが佐藤くん、余裕だったね!」
「う、うん....!(砂浜のせいで体力が....)」
ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ桃と、息を切らし辛そうな状態で無理矢理笑顔を作る佐藤。やはり慣れない足場では思うように動きが取れないようだ。
「次、月島& 雨音ペア!」
名前を呼ばれ無表情の月島と緊張でガチガチのあかりがコートに入る。
相手は男同士の眼帯ペアだ。
「あかりさん頑張ってー!女を見せろー!」
サチの勇ましい応援が飛ぶ中、試合は月島のサーブから始まった。相手は片目が見えない中綺麗なレシーブでボールを上げ、スパイクのモーションに入る。
思い切り振り下ろされた手はボールにしっかり当たり、あかりはボールから目を離さずレシーブの構えをしていたその時。
ボールはあかりのいるコートではなく、相手コートに落ちていた。
「うおおお!ドシャットー!」
「出た〜!おとなげねー!!」
歓声と落胆の声が入り混じるなか、月島はニヤリと笑って悔しそうに尻餅をつく相手チームを見下ろした。
「すみませーん。このゲームなんでもありらしいので。」
「ぐぅぅ!!悔しい....!!」
「月島くんすごいです!!ナイスブロック!」
「....喜びすぎでしょ」
あかりは手を叩きキラキラした瞳で喜んでいる。
月島は目を逸らし、少し顔を赤くさせながらボールを片手にサーブのスペースまで移動した。
また相手コートに飛んだボールを綺麗にレシーブしトスをあげる。
今度は月島のブロックを警戒した相手チームは、空いてるスペースに視線を送った。だがそこにはあかりの姿があり、思わず力が抜けてスパイクが打てなくなってしまった。
「(む、無理だ...!あんな華奢で綺麗な妖精にボールをぶつけるなんて...!)」
「(お、俺も無理だぞ...!妖精じゃない、あれは女神だ...!どストライクなんだよ...!!)」
眼帯ペアは座り込みながら、コソコソと何やら話し込んでいる。
「はい、次いきますよー」
月島は無慈悲にサーブを繰り出す。
そのボールはネットインで、眼帯ペアの手は届かず、ボールは相手コートに落ちていった。
「次、行きまーす」
悔しがる隙も与えない月島が打ったボールは、相手コートへ飛んでいく。2人はレシーブ、トス、と繋げてスパイクを打った。
相手はあかりのいないスペースを狙いスパイクを打つ。月島のワンタッチにより威力は若干弱まるが、それでもクラブチームのスパイクだ。
月島はハッと後ろを振り向くと、あかりがボールに食らいつくようなレシーブでボールを高く上げた。
「うおおおお!!!ナイスレシーブ!!!」
「まじかよ!!」
あかりのプレイに歓声が上がる。
月島も驚きながらツーアタックかトスを上げるかで考えを巡らせていた。
「(あかり砂に突っ込んでるし、ここまで走らせなくても...ここはツーで...ん!?)」
「月島くん、あげてください!」
その思考回路がシャットアウトされたのは、すでに彼女が助走をつけて走り出そうとしていたからだった。
月島は口角を上げて高めのトスをあげる。
「(わ、優しいトス...!)」
タイミングを合わせて走り出し思い切り飛び上がる。広がる袖が舞うようで、思わず見惚れている者もいる。それは月島も例外ではなかった。
そして次の瞬間、宙にあったボールはあかりの手によって相手コートのネット真下に叩きつけられた。
ボールが落ちた瞬間、静寂に包まれた直後揺れるような雄叫びと歓声が響いた。
「すげぇえ...!!!」
「あのスパイクなんだよ!!素人じゃねーのか!!」
「砂浜の妖精...!!」
思い思いの歓声が飛び交う中、あかりは嬉しそうな顔で月島の元へ駆け寄った。
「ナイストスです!すごい打ちやすくて...月島くんの優しさを感じました...!!」
「べ、別にそういうんじゃないけど...」
彼女の純粋な喜びと言葉が伝わり、月島は眼鏡を直すふりをしながら顔を逸らした。
「...ナイスキー」
「!...はい!」
月島は顔を逸らしたまま拳をあかりに向ける。嬉しそうに微笑むあかりは月島の手に、自分の拳を優しく当てた。
そうして月島&雨音ペアは15-5という余裕の点差で初勝利を納めたのだった。
「お疲れ!あかりさんすごいじゃーん!超上手くてびっくりしたよー!!」
「いえ、月島くんにフォローされてばかりで...!」
サチが満面の笑みを浮かべてタオルをあかりに手渡す。「ありがとうございます」と言い汗を拭いながら、月島に視線を送った。彼は眼鏡を外してスポーツドリンクを飲んでいる。
「よーし!次は私だ!あかりさんに負けてらんない!がんばるぞー!」
「次はサチさんの試合ですね!楽しみです...!頑張ってくださいね!」
「まっかせてよー!ね、京!」
「ケイ...?」
サチは胸を張り拳を軽く当てながら別の方向に視線を送った。「京」と呼ばれたその人は、無表情でストレッチをしていた。
「サチさんの彼氏さんって、赤葦さん...!?(おふたりの時は下の名前でお呼びになるのですね...!)」
「...はい」
驚愕の声を上げるあかりに、赤葦は特に表情を変えることなく頷く。そばで眼鏡を拭いていた月島は、興味無さそうな顔をして欠伸をしていた。
「よーっし!勝ちまくって、チケット獲得するぞー!おー!」
やる気満々のサチは赤葦を見つめながら、楽しそうに拳を上に突き上げた。その笑顔に、赤葦はクスッと笑いながら「調子に乗って、怪我しないでくださいね」と釘を刺している。
そして2人はコートに入り、あかりと月島も試合が見れる場所まで移動した。
サチは中学時代からバレーを続けており、砂浜に足を取られながらもスパイクやレシーブは目を見張る上手さだった。
赤葦は現役セッターとだけあり、最初は慣れない足場に一瞬困惑の表情を浮かべたが、すぐに調整し完璧な
トスを上げた。
「2人の息ぴったりですね!!とても上手です!」
「よくあの足場であそこまで動けるよね...」
相手は眼帯ペアのため、慣れない視界と足場によりなかなか点を取ることができない。
あっという間に15点をもぎ取ったサチと赤葦。全身で喜びを表すサチは笑顔で両手を赤葦に向けた。
自分の両手を軽く当てる赤葦も、どことなく嬉しそうな表情を浮かべている。
「お、お強い...!サチさん強可愛いです...!」
「(つよかわ...?)」
一方、プレーに感動し拍手を送るあかりが発した聞き覚えのない言葉に、月島は首を傾げている。
「どーだったよ、私たちの試合!」
「サチさん!赤葦さんも、お疲れ様でした!とてもお強いのですね...!思わず感動してしまいました...!」
「だってさ〜、京!やったね!」
「あ、はい。ありがとうございます」
タオルで汗を拭いながら、あかりの言葉に喜びを頬に浮かべて赤葦の頭をくしゃくしゃ撫でるサチ。
赤葦は特に嫌がる様子もなく、されるがままになっている。
「さー、次はあかりさんの番だよ!月島、負けたら承知しないからね!」
「は、はぁ...」
「頑張ります...!月島くん、よろしくお願いします!」
サチに背中をバシッと叩かれた月島は、力無く返事をする。あかりは拳を作り小さくファインディングポーズを決めている。
「じゃ、行くよ」
気を張るあかりに、月島は一瞬表情を緩めながら彼女の横を通り過ぎると同時に頭に手を置いた。
その優しさに溢れるような笑顔を浮かべたあかりは、「はい!」と返事をしながら駆け出した。
「お手柔らかにお願いしまぁす」
「勝って桃ちゃんとテーマパークデート...!!」
酷く温度差のある2人と対峙する月島とあかり。
桃は髪をくるくると指先で弄びながら、月島にニッコリ笑いかけた。佐藤はブツブツと呟きながら、その瞳には闘志が燃えたぎっているようだ。
「今度は作戦変更でいきませんか?」
あかりが月島パーカーの袖をつまむと、彼は屈んで耳を傾けた。
「これまで基本的に月島くんがセットアップしてくださいましたが...私に任せていただけませんか?」
「....?」
「....すみません。佐藤さんのスパイク、結構強烈で...もしブロック通過したら腕がもげるのではないかと...」
あかりの提案した理由により納得した月島は「わかった」と小さく頷き、次に意地悪な笑みを浮かべた。
「まぁ、まずは君のサーブが入らないことには始まらないけどね」
「ゔっ...が、がんばります...!(た、確かに先程の試合のミスはほとんど私のサーブミス....久しぶりすぎて感覚が…)」
「ちょっとぉ〜なにコソコソしてるわけぇ?超不愉快なんですけどぉ〜」
桃は眉間に皺を寄せて口を尖らせている。
慌ててボールを持っていたあかりは謝りながら笛の音と共にサーブを打った。
「きゃあ〜こわい〜」
声を上げながら綺麗なレシーブでボールを佐藤に送る。佐藤はオーバーハンドパスの形を取ったが、その手は早い段階でツーアタックのモーションへ変化した。
月島は瞬時に判断し前に出る。奇襲のツーはギリギリのところで月島が拾った。
「ちょっとぉー、拾われてるよぉ」
「ご、ごめん桃ちゃん!(くそー、月島め...!)」
相手コートの会話を聞きながら、あかりは月島が繋いだボールをレフト後方まで追いかける。
「お願い、しますっ!(砂が重たすぎて体勢が...でも!!)」
「(あんな無理な体勢から...!?)」
オーバーで後ろのネット際にいる月島の方へ、高めのトスをあげるあかり。月島はそのトスに目を見開きながら、そのまま相手コートに叩き落とした。
相手コートの砂にめり込むボールに、歓声が沸き起こる傍ら桃と佐藤は動けず絶句しているようだった。
一方、あかりはというと、砂の抵抗に反発しようとした勢いが止まらず前につんのめり顔からダイブしていた。
「いたたぁ...あ!やりましたね、月島くん!」
「君、勢いつけすぎ...怪我するよ」
月島は座り込むあかりの元へ駆け寄り手を差し伸べる。
「あはは、すみません!楽しくてつい...」
あかりは心の底から楽しそうに笑いながら、その手を取り立ち上がると、水着についた砂を払った。
彼女の頰についた砂を優しく取り払う月島は、心なしが表情が緩んでいるようにもみえる。
「あ、ありがとうございます...(顔に砂が...は、恥ずかしい...!)」
「そこ!イチャイチャしなーい!!」
ピピッ!と笛の音と共に白川からの注意が入る。
周囲からドッと笑いが起こる中、2人は顔を赤らめて元の位置に戻った。
「い、いきます!」
あかりのサーブに佐藤が対応し、桃がトスをあげる。すると佐藤は渾身の力を振り絞り、ボールを叩きつけた。
そのボールはあかりの顔めがけて飛んで行き、その鋭い回転とスピードに思わずしゃがんで避けてしまった。
「す、すみません...!(絶対腕持ってかれますあんなの...!)」
「よく避けれたね、今の(あいつ、わざと狙ったな...)」
月島の読み通り、佐藤はわざとあかりを狙ったようで、ギャラリーからは大ブーイングが起こっている。
「次は取ります。...絶対に負けられませんから」
月島の言葉に、冷や汗を流しながら自分に言い聞かせるように決意を堅くするあかり。
次は佐藤のサーブだ。ここでも強烈な力でボールがあかりの位置目掛けて飛んでくる。
月島はその瞬間に彼女と場所をスイッチし、レシーブしボールを上げた。
「(佐藤さん、結構本気モードで打ってくるんだよな...)」
「(すごいです、月島くん...!負けてられません!)」
佐藤のテーマパークチケットに対する執念に引き気味の月島を他所に、俄然やる気に満ち溢れているあかりはまたトスを上げた。
月島のスパイクは桃と佐藤の間に目掛けて打ち放たれる。お見合い状態となった2人の間にはボールがめり込まれていた。
「ナイスキー!月島くん!」
月島を見つめて、拳を上に突き上げ無邪気に喜ぶあかり。眼鏡の位置を指先で直す月島は、満更でもない表情を浮かべている。
そうして苛烈なラリーが続く中、試合は14-13で月島達の優勢となっていた。
「ね〜ぇ、このままじゃ負けちゃうよぉ〜」
「はぁはぁ、がんば、る、からっ..はぁ、」
「(チッ、使えないわね...しょうがない)」
桃は猫撫で声を出しながら、息を荒げる佐藤に体を擦り寄せた。
「あとで、ご褒美あげるからぁ、ね?」
「...!がんばるよ....っ!!!よおおし!!」
そんな2人のやり取りにあかりは顔を赤らめながら両手で顔を覆っている。
「どうしたの」
「な、なんか前方から破廉恥な感じが...!!」
その反応に疑問を抱いた月島は不思議そうな表情を浮かべ首を傾げている。そして次に片方の口角をあげて未だに前が見れないあかりを見つめた。
「ねぇ。勝ったら僕にもご褒美、くれるよね」
「へっ!?ごご、ご褒美、ですか...!?」
「はい、サーブよろしく」
慌てふためくあかりに小さく笑いながら、何事もなかったかのようにボールを彼女に優しく投げた。
それを両手で受け取ったあかりは「ご褒美ってどうしたらいいんだろう」と悶々と思考を巡らせながらサーブのポジションへ駆け出した。
呼吸を整えてサーブを打つと、桃の方へ飛んで行ったボールはしっかり彼女に対応されてしまった。
そして佐藤がトスを上げて桃がスパイクを打つ。
これまで、弱々しいスパイクしか打ってこなかった桃だったが、彼女はニヤリと笑いながらそれまでのプレイと比にならない強さでスパイクを打った。
驚きを隠せない月島とあかりは反応が遅れ、ボールは力無く砂地に転がってしまった。
「やったぁ!」
桃はぴょんぴょん跳ねて喜びを表現している。そこで大きな歓声が上がり、桃コールが始まった。
得点は14-14。
周りの声援も桃色一色だ。月島たちは追い込まれてしまう形となった。
「(クソ、してやられたな... あかりは...)」
月島はパーカーで汗を拭いながら、チラリとあかりに視線を送った。
「(戦意喪失...してる感じは微塵もない、か)」
あかりは、ふーっと長く呼吸を吐き出し集中を高めながら、相手のサーブを待っているようだった。その様子に片方の口角を上げながら、月島も釣られるように前を見据える。
次は佐藤のサーブだ。
時間の都合上デュースがない試合のため、ここで落とせばもう試合終了である。
その緊張感のなか佐藤のサーブは安定しており、ボールは綺麗な放物線を描き反対側のコートに飛んでいく。
あかりがレシーブで拾うと月島がトスを上げた。そしてあかりは助走をつけて高く跳び上がり、相手コートのネット真下を狙ってそのボールを打ち付けた。
佐藤は素早い反応でフライングレシーブを決め、ボールを上げる。先程までか弱い女の子のように振る舞っていた桃は、あげられたボールをそのまま手で打ちつけた。
月島はダイレクトスパイクに対応し、ネット際に高く上げた。
「ナイスです、月島くん!ラスト、おねがいします!」
あかりは飛び出してトスを上げるために少し飛んだ。だかそのボールはスパイクのモーションに入った月島に上がることなく、気づけば相手コートに落ちていたのだった。
月島がレシーブを上げた瞬間、相手コートの前方がガラ空きになったことに、あかりは気づいていた。月島のスパイクは強力で対応しやすいように距離を取ろうとしてしまうのだ。
トスを上げる直前ギリギリまで待ち、あかりはツーアタックに切り替えたのだった。
「この土壇場でツー返し!?うそだろ!!」
「月島の性格の悪さが移ったんじゃ...!?」
本日1番の拍手と喝采が沸き上がった。
桃は砂に尻をつけてぺたりと座り込み、佐藤は呆然としている。
「ふ...君、いい性格してるね」
「桃さんには驚かされましたので、お返しです」
鼻で笑う月島の言葉に、ネット際にいたあかりはくるりと振り返りながら舌を出し悪戯に笑った。
「勝者、月島、雨音ペア!」
白川の声に、あかりは最高の笑顔で拳を月島に向けると、彼も釣られて口角を上げながら、自分の拳をぶつけた。
「すごいよあかりさん!特に最後の!!くぅぅ!熱かった!!」
「サチさん!ありがとうございます!ホッとしました...!」
「一緒にいると似てくるって本当のことだったんですね」
「ちょっと。僕のせいにしないでください」
サチは自分のことのように喜びながら、あかりに抱きついた。サチの後ろにいた赤葦が片方の口角を釣り上げると、月島は不機嫌そうに睨みつけた。
「あ、桃さん..」
あかりは思わず声を上げる。4人の後ろに立っていたのはバツの悪そうな表情を浮かべた桃だった。
「蛍くんのことも諦める努力をするけど...でも認めないんだから!」
涙目で訴えかける桃は、どこかあどけない少女のようだったが、その瞳は真剣な色をしていた。そもそも賭けの条件は桃が設定したのだが、と内心苦笑を浮かべながらあかりは口を開いた。
「はい。無理に諦めなくても、構いません。でも桃さんのためにあんな必死にプレーした佐藤さんのこと、大事にしてあげてくださいね」
「....っわ、わかってるわよ!ふん!」
あかりの言葉にグッと歯を食いしばる桃は、ふいっと顔を逸らしてその場を去っていった。こっそり後ろにいた佐藤はあかりに視線を送り手を合わせて「すみません」とジェスチャーすると彼女の後を追いかけていった。
「ねぇ、諦めるとかなんとか…なんの話し?」
月島の問いに、あかりはびくりと肩を震わせ観念したように試合前の彼女とのやり取りを説明した。徐々に不機嫌さを増していく月島の表情に、説明し終わる頃にはあかりの声は非常に小さくなってしまっていた。
彼は眉間のシワを深く刻みながら、あかりに背を向ける。
「それで僕らが負けたら、君は自分の気持ちをなかったことにするって?」
「いえっ、なにもそこまでは…!あの、月島くん、何か誤解を…」
「随分勝手な賭けだね。」
月島の口調には怒気が混じっていたが、その瞳は寂しげに揺れている。そして遠ざかる彼の背中をあかりは追いかけることができずその場に立ち尽くしてしまったのだった。
「(....月島くんが怒るのは、当たり前です。勝手に賭け事の対象にされて、...嫌われてしまうのも仕方ありません、ね)」
「あかりさん...」
勝手に溢れる涙を抑えきれずその場で俯くとあかりを、心配そうに見つめ頭にそっと手を置くサチ。
赤葦は軽くため息を吐きながら、月島の後を追うように歩き出した。