きみに首ったけ!
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沢山の生徒たちが下校していくなか、葵は昇降口の外で月島を待っていた。
すると一際大きな声で「ぎゃはは」と笑い声が聞こえ思わずそちらの方に目を向けると、3年生と思われる男子生徒たちが数名靴を履き替えているのが見えた。
葵は内心騒がしいなと思いつつ、彼らから視線を逸らしそっぽを向いていると彼らがにやにやと嫌な笑みを浮かべながら声をかけてきた。
「君、1年?かっわいいじゃん」
「おいおい、校内でナンパする奴があるかよ」
「いーじゃん、可愛いし!」
突然彼ら4人は葵を囲うように立ちはだかった。3年生らしい体格に圧倒されながら、葵は眉をひそめて口を開かず無視を決め込んでいた。
「えー無視ぃ?名前なんて言うの?これからゲーセン行くんだけど君も行かない?ってか行こうよ!」
「…!ちょ、ちょっとやめてください」
1人の男がそういいながら、葵の肩に腕を回す。それにはさすがに無視出来ず、その腕から逃れようとするも力が強く敵わない。
「よっしゃ、行こうぜ〜!」
抵抗しているにも関わらず、そんなことは関係ないとばかりに男たちは葵を取り囲んだまま歩き出した。足を止めたくとも強く引っ張られ、嫌々でも進んでしまう。
どうしよう、と焦りの表情を浮かべながら周りを見渡すも生徒たちは一線置き関わりたくないという意思を示しているようだった。
「(つ、月島くん…っ)」
葵は祈るような気持ちで彼の名前を何度も呼んだ。
ーーーーーーーーーーーー
「ツッキー!!」
バンッと体育館の扉を開ける山口は、大量の汗をかきながら月島の名を叫んだ。
今日は社会人バレーの練習に参加するためもう帰宅する旨を、主将である澤村に伝えるべく体育館に来ていた月島は、突然の大声にビクリと肩を震わせ振り向いた。
それはその場にいたバレー部メンバー同じで、何事だ?と首を傾げている。
「……なに」
「た、大変なんだ…!昇降口で、3年生たちに葵が絡まれて…!」
「…っ」
山口の言葉に、月島は一瞬目を見開き舌打ちをすると、目の前にいた澤村に「失礼します」とだけ告げて足早に体育館を去っていった。
「だ、大丈夫かな、月島…3年の怖い人達って…」
顔面蒼白で心配そうな声を上げたのは3年の東峰で、どうやら思い当たる節があるようだった。そんな彼の肩をポンと叩いたのは澤村だ。
「大丈夫、お前の方が断然見た目怖いから」
「そういう心配をしてるんじゃない…って、えぇ…俺の方があの人たちより怖いの…?」
「どー見てもそうだべ!」
ケラケラと楽しげに笑う菅原に、より一層落ち込む東峰。
そんな3年生の愉しげなやり取りを横目に、山口はもう見えなくなった月島の後ろ姿を思い出しクスッと小さく笑っていた。
「(あんな焦ってるツッキー、初めて見たかも)」
「や、山口くん…ど、どうしましょう…!月島くん、殴られて怪我でもしたら…!!」
突然山口の近くに寄ってきた谷地が小動物の様に体を小刻みに震わせながら不安を吐露する。その言葉によって冗談めいた会話をしていた3年生がピシッと体を硬直させて固まった。
それから数秒の間を置いて、澤村が口を開いた。
「旭と田中、ちょっと来てくれ。スガ!ちょっと任せるぞ」
「あいよー、月島を頼んだぞー」
澤村はバレー部強面TOP2の田中と、嫌がる東峰を引っ張り出して体育館を出たのだった。
ーーーーーーーーーーーー
昇降口から5mほど引っ張れるように進んでしまった葵は、なんとか抵抗を続けていた。
「行くなんて言ってないです…!離してください!」
「離してくださいっ!だって〜かわいい〜」
「いーじゃん、ちょっとだけ付き合ってよ」
ゲラゲラと下品な笑いが響く。
何を言っても取り合ってもらえず、困り果てた葵はもうどうしようもないのか、と目をぎゅっと瞑った。
「おい!!なんだよてめぇ!!」
すると男の1人が敵意むき出しの声を張り上げた。その声に体をビクッと強ばらせて目を開けると、後ろには額に汗を滲ませた月島が立っていた。身長190cmに迫る彼は、葵の体に腕を回す男の手を掴み、3年の男たちを見下ろしている。
「ってぇなぁ!離せ!!」
ギリッと力が込められた腕の痛みに耐えきれず、男は苛立ちと焦りを含んだ表情を浮かべ月島の手を振り払った。
「月島くん…!」
そのタイミングを逃さず、月島は葵を背後に隠すように引き寄せた。
月島たちは昇降口に背を向ける形で、男たちと対峙している。3年たちは少なからず月島の圧と身長の高さにびびっているようだ。
「てめぇ…1年のくせに生意気だな」
「先輩たちこそ、3年のくせにダサいことしてるんですね」
鼻でふっと笑う月島の言葉に短い緒が切れたようで、一人の男は逆上し殴りかかろうとした。葵はどうすることも出来ず、「ひっ」と息を詰まらせしゃがみ込み目を瞑る。
しかし、その拳を振り下ろされることなかった。男たちは顔面蒼白になり、コソコソと話し合いをするとバツの悪そうな顔でその場から去っていってしまったのだ。
月島が変に思い後ろを振り向くと、昇降口の影からどす黒いオーラを放ったバレー部の主将が仁王立ちしており、その両隣には中指を突き立て恐ろしいほど顔にシワを深く刻ませた田中、そして人殺しでもしていそうな表情を浮かべる東峰が立っていたのだった。
東峰に関しては恐らく緊張しながら普通に立っているだけのようだが。
<俺たちの可愛い後輩に手ぇ出すんじゃねぇぞ>
直接耳に聞こえて来る訳では無いが、なんとなくそんな声が聞こえてくるようだった。
「(うわ、こっわ…そら逃げるわ)」
内心男たちを哀れに思いながら、頼もしい先輩たちにぺこりと頭を下げる。すると澤村は仁王立ちのままビシッと親指を突き立て、田中はポーズこそ変わらないものの舌を出し歯を出して笑っていた。遠慮がちに笑いながら月島に手を振る東峰は、「ほら、体育館戻ろう」と2人を促し、3人は去っていったのだった。
そんななか、まだしゃがんで目を瞑る葵の前に同じようにしゃがみこみ、月島は声をかけた。
「葵、大丈夫?」
「…っあれ、あの人たちは…!?」
パチッと目を開け、視界に映る月島の顔に驚いた葵は辺りを見回した。もちろん男たちの姿はない。
「帰ってったよ」
「えっ…!?な、殴られたりとか…」
「いや、なにも」
その言葉を聞くなり、葵は心底安心したような溜息を吐いた。
「怪我は?」
「大丈夫!月島くんが来てくれたらなんともなかったよ!」
安心感に包まれたようにへにゃりと笑う葵に、月島はぶわっと顔を赤くさせて口に手を当てながら顔を背けた。
「はぁ…ホント、君は隙ありすぎ。」
「ご、ごめんなさい…あ、」
葵は思い付いたように声を上げ、辺りをキョロキョロ見渡した。昇降口から来る生徒がいないことを確認すると、不思議そうな表情を浮かべる月島の頬に自分の唇を寄せた。
「〜〜っ!?」
「えへへ、隙見ーっけ!」
悪戯っ子のようにはにかんで笑う葵に、月島は顔を真っ赤に染めながら思わず後ろに尻もちをつきそうになる。間一髪バランスを保ちながら、それを誤魔化すように立ち上がった。
「ホント、馬鹿じゃないの…!」
「やっと月島くんの隙見れたー!嬉しい!」
「意味わかんないから…ほら、帰るよ」
理解不能だと言わんばかりの顔を耳まで真っ赤にさせた月島はそっぽを向いている。そんな彼の言葉に、葵は眉を八の字にして首を横に振った。
「あっちょっと待って…!足が痺れて…!」
「はぁ…ホント馬鹿」
そうため息を吐く月島はしゃがみこんで動けない彼女に手を差し出す。葵は何とかその手を取り、「いたたた」と声を上げながらぎこちなく立ち上がった。
未だ頬に触れた柔らかい感触が熱を帯びたまま悶々としている月島を他所に、葵は彼の手を掴みながらじんわりと痺れる足の痛みに耐えているようだ。
「あーっ!いたたっ!引っ張らないで…!」
「知らない。早く行くよ」
仕返しだとばかりに彼女の言葉を無視する月島は手を掴んだまま進んでいく。2人は、手を繋いだまま仲良く学校を出ていったのだった。
君に首ったけ!
(君の前では隙だらけ!)