きみに首ったけ!
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「月島くんの隙をみたいの!!」
「う、うん……」
放課後、とある教室でバンッ!と机を叩く女の子、葵は目の前で眉を垂らした困り顔の幼なじみ、山口忠を涙目で睨みつけている。
葵の言い分としては、最近付き合い始めた月島蛍という彼に一切の隙がないのが不満であるとのことだった。
「だってさー、完璧なんだもん…かっこいいし、なんでもスマートにこなすし…」
「あ、わかる!ツッキーは本当にかっこいいよねぇ。でもそれっていいことじゃない?」
「そーなんだけど…たまにはさ、雨の日に傘忘れたり、誰もいないと思って歌ってたら人がいたとか、そういう隙を見たいって思わない?」
「(それって全部自分の経験談じゃ…)う、うん…?」
日直当番である彼は机に日誌を広げながら、苦笑を浮かべた。わかるような、わからないような、と言った山口は彼女の勢いに若干引きながらも悩ましげな声を上げている。
「まぁ、ほどほどにね?」
「うん!わかった!やってみる!」
「(話聞いてたかな…まぁ、なんだかんだツッキーは葵のこと好きだし、大丈夫、かな…)」
何かに燃えている葵に半ば呆れ顔の山口は、再び視線を手元の日誌に戻しようやくそれを書き上げたのだった。
そしてその翌日。
目をギラギラさせた葵は登校中、沢山の生徒に混じりながら月島を探した。背の高い彼はすぐに見つかり、人の波に逆らう形で彼の元へ向かった。
月島も、何故か学校の方から向かってくる葵に気付いたようでヘッドフォンを首にかけ怪訝な表情を浮かべた。
「おはよう。なんでわざわざ戻ってきたの」
「おはよう!だって、月島くんを見つけたから!」
「………あ、そう」
渾身の笑顔を向けるも、彼はふいっと顔を逸らしてしまい眼鏡を直す素振りを見せたせいでどんな表情をしているか読み取れなかった。
悔しげに口を尖らせる葵に、月島はその理由がわからず首を傾げている。彼の横で「ぐぬぬ」と唸る葵は思いついたように声を上げながら空を指差した。
「あ!月島くん!あそこにUFOが!!」
「…どうしたの、頭大丈夫?」
「くっ…月島くんのバーカ!」
「えぇ…」
そう吐き捨てて走り去る葵の背中を見つめながら、より一層彼女の言動に首を傾げる月島は「まぁいつものことか」とまたヘッドフォンを耳に装着し学校へと向かったのだった。
そこから葵の猛進撃が始まるのだった。
彼が席を立ち教室を出たタイミングで、次の授業で使う教科書にいたずら書きをしたメモを挟む。その内容は担当の先生の似顔絵と「どうだ!」という謎の文字を添えて、彼が思わず授業中に吹き出す場面を想像しくくく、と笑いながら自分の席に戻った。
その後授業が始まり、月島は教科書を開きそのメモを見つけた。先生の似顔絵と謎の言葉にまた内心首を傾げる。
「(…どうだって言われても……)」
その様子を後ろから見ていた葵はまるで無反応の彼にギリギリと悔しそうに歯軋りしながら次の作戦を考えるのだった。
授業が終わり、その後は体育の時間を迎えた。
着替え終わったあとクラスは体育館へ移動し、バスケットボールの試合を行うためチームわけをしている最中、葵はふらりと月島の背後へ回り膝カックンを試みた。
しかし膝の位置が違いすぎて通用せず、自分の膝が彼のふくらはぎに当たるだけだった。
「なにしてんの」
「むぅ…手強い…!」
「はぁ…ほら、女子はあっちデショ」
呆れた表情を浮かべる月島は、女子たちが集まっている方に顎で彼女を促している。
「こら、神永ー!集まれー!」
「くっ…!油断しないでよね!」
「えぇ…」
ピシッと指を指すと月島の返事を待たないうちに、彼女は先生の元へ走り去って行った。
「あはは、葵頑張ってるなー」
「なに、何か知ってるの?山口」
「あっ、いや…うーんと…」
うっかり失言をしてしまった山口は口に手を当てる。しかし、月島の鋭い眼光に観念した様子で口を開いた。
「なんか、隙をみたいらしいよ。ツッキーの」
「はぁ?なにそれ…隙…?」
「俺もよくわからないけど…」
山口も詳細はよくわかっていないようで、それを察した月島はため息を吐いた。
「…まぁ、面白いからほっとく」
月島の視線の先には、懸命に何かを考え込む彼女の姿があった。山口はうんうんと頷きながら「やっぱり彼女のこと大好きだな」と優しい笑みを親友に向けるのだった。
そして体育を終え、教室で着替えながら葵はまだ考え込んでいた。
結局体育の時間では男女別のため手出しができず、遠巻きに彼を見ていても転んだりミスしたりすることもなく、逆にその背の高さを生かしてシュートを決めまくるなどカッコいい場面しか見ることはなできなかった。
「(めちゃめちゃカッコよかった…じゃなくて!)」
首を横に振り、次の作戦を思いついた葵は着替えを終えると廊下にいるであろう月島を探した。幸運なことに、彼は自分に背を向ける状態で山口と話をしているようだった。
油断しているな、と感じた葵はそーっとその背後に近づき「わっ!」と背中をとんっと押した。
しかし、その背中は揺らぐことなく「今度はなんだ」と言わんばかりに月島は振り向いた。
「なっなんで驚かないの…!」
「逆にそれで驚く人いる?」
「いるよ…!ね、忠!」
「ど、どうかな…(たぶん葵は驚くんだろうな…)」
薄ら笑いを浮かべる月島に狼狽える葵。急に話を振られた山口は適当にはぐらかしている。
「こうなれば、強行手段!」
葵は精一杯背伸びをして彼の眼鏡に手を伸ばし始める。すぐにそれを察知した月島は彼女の腕を掴み、鼻で笑った。
「残念でした」
「うぅ…!悔しい…!」
パッと手を離すと、解放された葵は「お、覚えてなさい!」とどこかの悪役か、というセリフを吐き捨ててどこかへ走り去って行った。
そしてあっという間に放課後を迎えてしまった葵は頭を抱えていた。
「(月島くんの隙を見ることは一生叶わないんだ…そんな…)」
絶望の表情を浮かべながら、椅子に座ったまま頭を机に預けている葵を見かねた月島は彼女の机の前に立つと頭をコツンと指先で弾いた。
ビクッと体を震わせて顔を上げると、バツの悪そうな月島が立っていた。
「今日、部活自主練になったから…もう帰るけど」
「そうなの!?一緒に帰る!」
いつも夜遅くまでバレーに打ち込んでいる彼と帰宅を共にできるタイミングはあまりない。先程の絶望感のことは綺麗に忘れ、素直に喜んでいる葵はまるで飼い犬のように全力で喜んでいた。少なくとも、月島の目には彼女の尻尾と耳が見えているらしい。
「(その満面の笑み、心臓に悪いんだよ……)ちょっと体育館に顔出すから、昇降口で待ってて」
「うん!わかった!」
彼の背中を見送ったあと、葵はハッとした。突然舞い込んできた朗報に今日の目的をすっかり忘れてしまっていたのだ。
「危ない、危ない」とまた下校中になんとか隙を見れるように作戦を考えながら荷物をまとめ昇降口へ向かうのだった。