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冷たい雨と、温かいココア、それから

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「(といってもなにを話せば…?)」


ひとつ小さな傘の中、2人は肩を並べて帰り道の坂を下っている。同じクラスとはいえ話したのことない月島にどんな話題を振ればいいのかもわからず、は緊張を保ったまま歩き続けていた。

雨は依然、しとしとと降り続いている。


「…そ、そういえば、月島さんは何でこんな時間まで残ってたの?」


「テスト近いし、今日部活無かったから図書室で勉強」


「偉い…!そっか、テスト近いんだった…私も勉強しなきゃなぁ」


勇気を振り絞った質問にちゃんと答えを返してくれたことに安堵しつつ、予想外の返答に驚く。


「でも君、勉強できるじゃん」


「え?そ、そうかな…(たしかに苦手ではないけど…)」


「ま、まぁ、特進クラスだし…できない人はいないでしょ」


何かをはぐらかすような言い方に首を傾げながら、彼の言葉に納得しマフラーに顔を埋めながら「たしかに」と笑った。


「今日は雨降らない予報だったのに、大外れだったなぁ」


「…最近天気変わりやすいしね」


「言われてみれば…あ、もしかしてそれで折り畳み傘持ってたの?」


「いや、いつも持ってるけど…」


当たり前でしょ、と言わんばかりの彼に何故だか負けた気分に陥ったは肩を落とす。その様子を見た月島は、ふっと鼻で軽く笑った。


「(あっ、笑った…!いや、笑われた…?)」


「……なに」


「あっ、えっと…月島さんって、思ったより怖くないんだな、って」


怪訝な表情に気押されながら、咄嗟に言葉を返す。しかし自分の口から出た言葉にハッとして、慌てた首を横に振った。


「いやっ、ごめん…!えーっと、なんていうか…」


「…テンパりすぎ。」


「ゔ…スミマセン」


マフラーで目元まで覆いながらバツの悪そうな顔で失言を謝罪する。そんな彼女を横目に、月島はまた小さく笑った。
そしてあっという間に坂ノ下商店の手前までたどり着くと、店の前に軽トラが止まっており雨の中荷物を下ろしている人物が目に止まった。

その人物は金髪混じりの髪をオールバックにしてタバコを咥えている成人の若い男性で、月島を見るなり手に持っていた荷物を足元に落としたのだった。


「つ、つつ月島…!?お前…!」


「違います」


傘の下に2人の男女、その光景を見た彼の思考回路が手に取るように読み取れた月島は面倒臭そうな表情を浮かべながらすかさず否定をした。


「お知り合い?」


「坂ノ下商店の店主で部活のコーチしてもらってる鵜飼さん」


月島が必要最低限の情報を答えると、は驚愕の声を上げながら慌てて頭を下げた。


「そんなかしこまらなくてもいーよ、俺先生じゃねーし!あ、ちょっと待ってろ!」


どこか楽しげな表情の鵜飼はご機嫌な様子で店へ入っていく。そして数秒で戻ってきた彼の手には2つの缶が握られていた。


「ほら、今日さみーし風邪引くんじゃねーぞ!」


ポイッと手渡された缶を見ると、温かいココアだった。冷え切った指先がじんわりあったまっていくのを感じながら、はまた頭を下げた。


「あったかい…!ありがとうございます!」


「どうも…」


「いーってことよ!じゃあな、気ぃつけて帰れよ!」


ニカッと笑う鵜飼に月島もペコリと頭を下げながらその場を去ろうとした。すると通り過ぎざま、鵜飼に肩を叩かれた月島が咄嗟に後ろを振り向くと、彼はニッと笑い親指を突き立てていた。


「(めんどくさい勘違いされてるな…まぁ、いいか…)」


はぁ、と小さく白い息を吐き、特に否定することもなくまた前を向き直り彼女の歩幅に合わせて歩みを進めるのだった。


「はーあったかい…!鵜飼さん、優しい人だね!」


「…うん(面白がってただけだと思うけど…)」


温かい缶をカイロの代わりとして頬に当てながら嬉しそうに微笑むを見ていた月島は、眉間に皺を寄せながら視線を逸らした。


「あ、私家こっちなんだ。ありがとうね、傘入れてくれて」


は次の曲がり角を指差した。そこから100m程の距離に家があるため、走ればすぐだし濡れる覚悟だった。


「いや、すぐなんでしょ。送るよ」


「え、でも…」


「5分も10分も変わらないし…これで君が風邪引いたら寝覚め悪いでしょ」


彼はそう言いながら足を止めることなく曲がり角を曲がる。


「ふふ、優しいね。月島さん」


「べ、別に…!」


嬉しそうにはにかんで見せるに、月島は彼女のいる反対側に顔を背けた。


「(…?照れてる…?いや、まさかね…)」


彼の反応を疑問に思っていると、言葉どおりすぐに家の前までたどり着いた。


「じゃ、僕は帰るから」


「あっ…ちょっとまってて!」


早々にその場を去ろうとする月島に慌てて声をかけ、は返事を聞く前にバタバタと家の中へ入っていった。

そしてすぐにまた玄関が開き、現れたが手に持っていたのは可愛らしいデザインの淡いピンク色のタオルだった。しかしその表情は非常に気まずそうである。


「ご、ごめん…何か拭くもの、と思ったんだけどちょうどいいのがこれしかなくて…」


「あ、うん…ありがと」


の体が濡れないようにと気遣い傘を傾けていた月島の体は見事に半分ほどしっとり濡れていた。それに気付いたはタオルを探しに家へ入ったがとても人に渡せる状態じゃないタオルばかりで、唯一真新しいものがそれだったのだ。


「ごめんね、私が傘持ってなかったせいで…風邪引かないといいんだけど」


月島の濡れた部分にタオルを当てながら、彼の髪からも雫が落ちかけていることに気づき、そこに手を伸ばす。
すると予想外の近さに驚いた月島は狼狽えながら一歩後ずさった。


「ちょ…っ(ち、近いんだけど…!)」


「あっ…!」


突然遠ざかった彼の髪に驚いたはバランスを崩し彼の体に正面からもたれかかってしまった。その状態のままお互いに一瞬状況が把握できないとばかりに時が止まっているようだった。

雨粒が傘に当たる軽い音だけが、2人の耳に届いている。


「……っ、ちょっと」


「…わっ、ご、ごめんなさい…!!か、髪の毛が濡れてたから、その…!!」


その声にハッとして体を離すと、手に持ったままのタオルを月島に押し付けた。
咄嗟にそれを受け取った月島はに背を向け、口を開く。


「…じゃあね。これ、今度返すから」


「あ、うん…!気をつけてね!」


彼の後ろ姿を見送り、見えなくなるとは玄関の中へ入り思わずその場にしゃがみ込んだ。

顔に熱が集中しているのがわかる。思わぬハプニングと、途中で見せた彼の頬の緩んだ表情が蘇り、心臓がバクバクと音を立てた。


「(ただのクラスメイトなのに…!)」


両手で顔を覆い、その指の隙間から目に止まったのは鵜飼に奢ってもらったココアだった。

まだほんのり温かい缶を頬にぴたりとつけながら、彼の後ろ姿を思い返し、明日はどんな顔をして会えば良いのだろう、と思案を巡らせるのだった。




(占いが最下位だって、となら悪くない!)

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