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とある冒険者の話

ああ、きつい、きついなあ。

血反吐を吐きながらそんなことを思う。
骨も筋肉も内臓も内部機構もぐちゃぐちゃだ。久々にこんなひどいことになった。
幸いなのは私のコアに気付かれなかったことか。
いや、ここまでボロボロにされたらそれが幸いなのか分からないけれど。

(全く……前から馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど)

まさか惑星と接続して、生物、大地、水、空気、ありとあらゆるモノに私への敵意を持たせて攻撃手段とするなんて――本当に馬鹿、とんでもない阿呆だ。

惑星と接続するということは、この星全てが彼になるということなのだから、
そんなの、気が狂うどころでは済まないだろう。
何かが存在するだけで自我なんて即座にぶっ飛んでしまう。

(まあ、でも)

私と戦うということは、私に勝とうとするということは、そういうことなのだろう。
残念ながら、喜しくも、この戦いは私の勝利で終わったのだが。

私の力は世界に依存しない。
私の本来の力は、記憶と意志によって育ち、発するものだから。
故にどれだけ星が敵意を持とうとも、如何なる不利な状況でも、
私は私を引き出せる限り、どこまでも戦い続けることができる。

――ああ、これでこの物語の可能性は潰れる。

厳密になかったことにはならないが、
少なくとも分岐しようとすれば自壊する程度の傷にはなっただろう。
そして今ここにあるこの惑星も、あと数分ほどで自壊する。
真核であり神である彼が死んだのだから。

(さて、私が死ぬのと、星が死ぬの、どちらが早いのやら……)

……しかし、死ぬのは……本当に、疲れるな。


――――――
――――
――


――……。

……目が、醒める。
宇宙空間のような場所に意識だけが浮いている。
ああ、リポップ待機の所か。久々に来た。
ここまでがっつり死ぬのも久しぶりだから、まあ当然といえば当然か。
                
肉体の再構成がまだ終わっていない”感じ”がある。
それはつまり、行き先を選ぶ時間があるということだ。

流石に今回は大分疲れた。
活動停止なんてことは出来ないとはいえ、ちょっと休憩できるところに行きたい。
お仕事をサボれそうなところ、
世界の揺れに幅があってもセーフそうなところ――

(……お?)

意識の先に、覚えのない美しい星があった。
その惑星は1つしかないようにも、複数重なっているようにも見える。
どういう物語なのかは知らないが、そこそこ幅の許容値が大きそうだ。

(あの星でちょっと休むとしますかね)

コードH13582、星名《ハイデリン》。
星に降り立つイメージを強くし、惑星内での存在生成を行う。

――……?
何かに阻まれるような感覚と共に、
キィン、と耳――があったらうざったく感じるだろう音が響く。

【……――ますか】

なんだこの声。
あー、これはもしかしてあれか?
私の大嫌いなアレだろうか。

【……きこえ――ますか】

うわあやっぱりそうだ。上位存在ってやつだ。
あーやだやだ、導かれる系の話か。
まあ楽といえば楽だから休憩には良さそうだけど……

【……聞こえているようですね』
『はいはい聞こえてますよなんですかー』
【あなたはこの星に降り立つことはできません】
『はいは……なんだって?』

思わず聞き返してしまう。
この上位存在、私のことをちゃんと認識できているのか。

【あなたの力は強すぎる。エオルゼアに降り立っても、蛮神にしかなれないでしょう】
(ばんしん……?)
【蛮神はこの世界を脅かすもの。
故にこの世界を守るものとして、あなたを降り立たせるわけにはいきません】

ばんしん。バンシン。
――うーん、「しん」だし、まあ神のことだろう。
この世界に降り立ったら私はそのバンシンとやらになってしまうらしいが、
私の存在的には間違っちゃいないというかむしろ正解に近いので、
本来ならば上位存在の指示に従い、この惑星は諦めるべきなのだろうが――

『イヤですー。アンタがなんと言おうが絶対そのエオルゼアって地に降り立ってやるから。
私、アンタみたいな存在大嫌いなんだもん』

全力で拒否する。
何故嫌いな奴の静止に従わなければならないのだろうか。

【……であれば、あなたが入り込む依代を作り、あなたの力を削ぎ落とします】
『うわー代案出してきた腹立つ〜!まあ、けどそのくらいの制限はかかってあげる。
言っとくけど、見た目は私の好きにさせてもらうから!』
【構いません。が、あなたの最大の能力……改変能力でしょうか。
それは確実に削ぎ落とし、封じさせてもらいます】

うげ〜なんでこの上位存在そこまで把握してんの?
この世界に私らに近い能力持ちでもいんの?
ぞわわ、とない背に走る嫌な感覚だけを覚えながら、私は思考を巡らせる。

(まあ、でも――)

能力やら何やらを色々そぎ落とされるのは実のところ、歓迎できるデバフだったりする。
何故なら、今回の戦いによる肉体と魂の損壊がひどすぎて、
数日くらいではとても元の状態に戻ることができないと
気づいてしまったからだ。

恐らく人間だろうその依り代に入れるくらい魂と能力が制限されるのなら、
私の本来の能力はほとんど使えないはずなので、
当初の予定通り仕事はほぼほぼサボれるだろう。
この上位存在に与えられた条件を喜ぶのはめっちゃムカつくが、
そこはそれ、私とこいつの利害が偶然一致してしまったのだからしょうがない。

『腹は立つけど、アンタの条件全部飲んであげる。
だからまずは、ハイデリンに入れさせなさい』
【――分かりました。ようこそ、我が星へ。
あなたを光の戦士として歓迎いたします】

……光の戦士。
なるほど、その情報ですぐ先の未来は見えた。
つまり私は――《主人公》にされるというわけだな?

気持ちだけ溜息をついて、意識を星の中へ落としていく。
あのむかつく上位存在がよこしてきたベースを手に、
好みの種族、好みの見た目に変えていく。

そうだ。最低限、見た目は私に近づけておかねば。
私という存在が無事修復されたら、仕事ができるように。
ここの形だけは整えておく必要がある。
青いツインテールに、青い瞳……まぁ、これだけ合っていればいいか。

ざっくりと作った依り代の少女に、名前をつけてやる。

(うーん、そうだなぁ……)
『……スノーリァ・リノス』

名づけられた依り代の少女――スノーリァは、
私よりもはるかに先にエオルゼアへと降り立っていく。
そして少女は、まるで最初からこの世界で生きていたかのように歩き出した。

【あなたの旅は、あの少女の人生の途中から始まります】

よろしいですか、と上位存在が確認を取ってくる。
全く構わない。こいつに指示されるのは超気に食わないけど。
何しろ――私はずっと、どこかの物語の途中に入り込んで生きてきたのだから。

『いつでもいいよ』
【では、神々に愛されし地エオルゼアへ――】

はっ?
聞き捨てならない称号が聞こえて声が出そうになる、
が、時すでに遅し、意識はどんどんとスノーリァへ吸い込まれて――

『待てーーー、待て待て待て!ちょっと待て!!
私、神々嫌いなんだけどーーーーーーー!?』


――――――
――――
――


――……。

「!」

はっ、と意識が戻る。
なんだろう、今のは。
何かが私の中に入ってきたような感覚があったけれど……。

「大丈夫かい?エーテル酔いでもしたかね」

気さくに話しかけてくる同乗者。

「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

微笑んで礼をする。
妙な感覚はすぐに消えたし、体調も悪くない。
とはいえ、黒衣森は私が住んでいたところよりもエーテルは若干濃いようだし、
エーテル酔い、というのもあるのかもしれない。
……モーグリがこんなに楽しそうに飛び回っているのだから、きっと何かあるのだろう。

―――――――

気分転換も兼ねて、同乗者としばらく会話をしていたら、
あっという間にグリダニアに到着した。
同乗者に改めて礼を言い、まずは、とエーテライトプラザへ向かう。
巨大なエーテライトに触れ、交信をし――息を吸った。

……私、スノーリァ・リノスの冒険が、この森都グリダニアより始まるのだ。
外への好奇心、外への興味――平々凡々な感情から、平均的な家を飛び出した。
普通の日々が、いよいよ終わろうとしている。
高鳴る胸を改めて落ち着かせ、私は冒険者ギルドへと向かった。

―――――――――――――――――――

『……そんなありきたりな冒険者の一歩。
これが《スノーリァ・リノス》の始まり。
そして《私》は、この少女が主人公になっていくのをここで見守る』

『見守って、見守って、見守って――
本当にヤバイとき、《私》が助けてあげるのだ』

『それが、この世界での《私》の役割。
……役割がないことが、《私》の役割だ』
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