赤い星が消えるまで
――――――――
――――――
―――……
「黄金なんて、もういらない!!」
――……ああ。お前は必ず、この結末に行き着いてくれるんだな。
どんな道筋をたどっても、どれだけ悪意が大きくなろうとも、必ず。
(――なら、オレも応えなくちゃな)
久しぶりに感じた妹の熱と重みを愛おしく思いながら、オレは胸の奥の決意を新たにする。
(そうだ――……記憶のないオレができたことを、記憶を取り戻したオレが諦めるわけにはいかない)
みっともなくて、恥ずかしい。情けなくて、役に立たない。
弱くて臆病なオレが手に入れた、宝石のように輝く記憶。
――――きっと、忘れません。
(……きっと、忘れない)
今度こそ、何があっても。
------------------------
「…………」
赤い星が消えた夜空をじっと眺める。いつか望んでいた風景は、しかし悪意の闇に包まれていた。
……ついにここまで来た。魔王ウルノーガの元へ、いよいよ明日乗り込むのだ。
正直言って、オレは驚いていた。魔王ウルノーガが勇者の星――つまり、ニズゼルファの封印された肉体をぶった斬り、奴が復活する可能性を潰したからだ。
(確かに邪神が蘇れば、魔王が排除される可能性もなくはないが……)
「カミュ?」
思案にふけっていたオレの元に相棒がやってくる。
「まだ起きてたの?早く寝ないと明日に響いちゃうよ」
「お前も起きてんじゃねーか」
「へへ、バレた」
少しいたずらっぽく笑った相棒の頭を軽く小突く。そのまま、サラサラの髪に優しく触れた。
「……緊張してるの?」
「そりゃこっちのセリフだ。夜は爆睡のお前が珍しい」
「まあ……、うん。ドキドキしてるよ」
そう言って瞼を伏せる。髪に触れていた手で、静かに頭を撫でてやる。
「大丈夫だよ、今のお前なら。……救いたいんだろ、みんなのために」
「うん。今を生きているみんなのためと、失われた全てのために。……希望を託してくれたベロニカのために、救いたい」
「…………」
彼の頭をゆったりと撫でていたオレの指先が少しだけ震える。気づかれないように取り繕ったつもりだったが悟られてしまったようで、心配そうな瞳でみつめられた。
「バーカ、なんて目で見てんだよ。ほらさっさと休め、救いたがりの勇者サマ。お前が寝たらオレも休むから」
「……うん、わかった。おやすみ、カミュ」
「ああ、オヤスミ」
ベッドに戻るアイツの背を見送る。一度だけチラリとこちらを見やったので、いいから、と手を振った。
「…………ベロニカ」
オレは、ナメていたのだ。
道筋は違ってもなんやかんやで再びみんな集まって、世界を救えると信じていた。
……一度目には起こらなかった世界の崩壊や、命の大樹の燃える様を見てもまだそんな甘ったれたことを考えていたのだ。
勇者の仲間から死者が出るなんて、夢にも思っていなかった。
「…………」
見上げる空には禍々しい城が浮かんでいる。視界にそれをしっかりと捉えながら、相棒の言葉を反芻した。
「今を生きているみんなのため、失われたすべてのため、希望を託してくれたベロニカのため」
――救いたい。
「……そうだな、お前の言う通りだ、相棒」
オレは世界に闇を齎す魔王の城を睨みつける。
「必ず――必ず、救ってみせる」
小さな呟きは宵闇に溶け、オレの覚悟は血と熱に変わっていった。
……アイツが齎す朝のために、アイツと共に戦うのだ、と。
それが今のオレに出来る、「せめても」のことだった。
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「黄金なんて、もういらない!!」
――……ああ。お前は必ず、この結末に行き着いてくれるんだな。
どんな道筋をたどっても、どれだけ悪意が大きくなろうとも、必ず。
(――なら、オレも応えなくちゃな)
久しぶりに感じた妹の熱と重みを愛おしく思いながら、オレは胸の奥の決意を新たにする。
(そうだ――……記憶のないオレができたことを、記憶を取り戻したオレが諦めるわけにはいかない)
みっともなくて、恥ずかしい。情けなくて、役に立たない。
弱くて臆病なオレが手に入れた、宝石のように輝く記憶。
――――きっと、忘れません。
(……きっと、忘れない)
今度こそ、何があっても。
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「…………」
赤い星が消えた夜空をじっと眺める。いつか望んでいた風景は、しかし悪意の闇に包まれていた。
……ついにここまで来た。魔王ウルノーガの元へ、いよいよ明日乗り込むのだ。
正直言って、オレは驚いていた。魔王ウルノーガが勇者の星――つまり、ニズゼルファの封印された肉体をぶった斬り、奴が復活する可能性を潰したからだ。
(確かに邪神が蘇れば、魔王が排除される可能性もなくはないが……)
「カミュ?」
思案にふけっていたオレの元に相棒がやってくる。
「まだ起きてたの?早く寝ないと明日に響いちゃうよ」
「お前も起きてんじゃねーか」
「へへ、バレた」
少しいたずらっぽく笑った相棒の頭を軽く小突く。そのまま、サラサラの髪に優しく触れた。
「……緊張してるの?」
「そりゃこっちのセリフだ。夜は爆睡のお前が珍しい」
「まあ……、うん。ドキドキしてるよ」
そう言って瞼を伏せる。髪に触れていた手で、静かに頭を撫でてやる。
「大丈夫だよ、今のお前なら。……救いたいんだろ、みんなのために」
「うん。今を生きているみんなのためと、失われた全てのために。……希望を託してくれたベロニカのために、救いたい」
「…………」
彼の頭をゆったりと撫でていたオレの指先が少しだけ震える。気づかれないように取り繕ったつもりだったが悟られてしまったようで、心配そうな瞳でみつめられた。
「バーカ、なんて目で見てんだよ。ほらさっさと休め、救いたがりの勇者サマ。お前が寝たらオレも休むから」
「……うん、わかった。おやすみ、カミュ」
「ああ、オヤスミ」
ベッドに戻るアイツの背を見送る。一度だけチラリとこちらを見やったので、いいから、と手を振った。
「…………ベロニカ」
オレは、ナメていたのだ。
道筋は違ってもなんやかんやで再びみんな集まって、世界を救えると信じていた。
……一度目には起こらなかった世界の崩壊や、命の大樹の燃える様を見てもまだそんな甘ったれたことを考えていたのだ。
勇者の仲間から死者が出るなんて、夢にも思っていなかった。
「…………」
見上げる空には禍々しい城が浮かんでいる。視界にそれをしっかりと捉えながら、相棒の言葉を反芻した。
「今を生きているみんなのため、失われたすべてのため、希望を託してくれたベロニカのため」
――救いたい。
「……そうだな、お前の言う通りだ、相棒」
オレは世界に闇を齎す魔王の城を睨みつける。
「必ず――必ず、救ってみせる」
小さな呟きは宵闇に溶け、オレの覚悟は血と熱に変わっていった。
……アイツが齎す朝のために、アイツと共に戦うのだ、と。
それが今のオレに出来る、「せめても」のことだった。