今日は佐助がバレンタイン(何日か過ぎたけど……)のお手製チョコを手土産に、私の部屋に遊びに来ている。
きっかけは、私が数日前に『佐助のお手製チョコ食べたいなあ』とぽろっと溢したことだ。

『……俺様がなまえのお願い断れないの、知ってて言ってるでしょ』

と、最初はやや不満そうではあったけど……。

『まあ見せてあげよっかな？俺様の本気』

───と最終的には言っていたので、佐助の本気チョコをご賞味する機会に恵まれてしまった。


そして本日、目の前に用意された代物は……。


「お、おいしそう〜……！」
「ま、俺様お手製だからね。当然でしょ」


さ、さすが佐助。めちゃくちゃ美味しそうなものを作ってきた。いわゆる生チョコみたいなやつだ。うん、安定して美味しいやつ……！

「じゃあ早速いただきま〜……」
「なまえ」
「ん？」
「はい、あーんして？」

「えっ」


────平和にチョコを食べる予定だったけど、どうやらそうもいかないらしい。
私の隣に座る佐助は、ピックに刺した生チョコを私に向けている。


「俺様が作ってきたチョコ、食べたいんでしょ？ならはい、あーん」

「えっ、いや、普通に自分で食べ」

「ダメ」


……だ、だめ！？なんで！？ダメってことはないでしょうよ！
ここにきておあずけだなんて、佐助は一体何を考えているんだ。


「ダメ……とは？」

「俺様はねえ、なまえが食べたいって言うからこうしてわざわざ作ってきたわけ。ご褒美くれたっていいでしょ？俺様に」


なんで私にチョコを食べさせることがご褒美になるんだろう。佐助の思考が本当にわからない。
ていうかそもそも……


「そっちが私にあーんするのがご褒美なの？佐助が私にあーんされるんじゃなくて？」

「…………そっちもいいな。よし、どっちもやろっか」

「あれっ、私もしかして余計なこと言った！？」

「かもね。ま、俺様は嬉しいけど〜？」


ニヤニヤする佐助。どうやら私は墓穴を掘ってしまったらしい。

「ってなわけではい、あーん」

「あ、あの、ちょ、近……！」

ソファに座っている私の脚の間に、佐助はわざわざ自身の膝を割り込ませてきた。その上、ソファの縁……つまり私の頭の丁度真横あたりに手を添えるものだから、私は完全に逃げられない状況だ。
これは何になるんだろう。壁ドンならぬ、ソファドン……？って、そんなこと考えてる場合じゃない。
困惑する私を見て、佐助は嬉しそうに私を見下ろしている。
な、なんなんだこいつ……！

「なまえちゃん、食べないの？食べないなら俺が食べ」
「食べます」

────これが本能ってやつなのだろうか。佐助がチョコを食べようとした瞬間、私は佐助の手首を掴んでいた。
もう恥じらいも何もない。目の前の獲物を奪われそうになっているのだから。

「……もうちょっと恥じらった上で駆け引きしてくれてもいいじゃない？」
「佐助は私に何を求めてるの？ていうか早く食べたい」
「はいはい、俺はなまえのそういう媚びないところが好きですよってね」

観念した佐助は、チョコが刺さったピックを渋々差し出した。
よし、ようやくチョコにありつけたぞ。
……ん、おいしい。口どけがなめらかだし、甘さも丁度いい。

「……佐助好き！すっごく好き！」
「と、突然告白だなんてなまえもなかなか大胆なこと」
「すっごく好きだよこのチョコ！本当においしい！」
「…………俺様の純情返してくれない？」