麦と真珠
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「さ、猿飛、これって……!?」
なまえは怯えた様子で壁に刺さった矢を見ている。
怯えるのも無理はない。きっとなまえに戦の経験はないだろう。飛んできた矢を間近で見ることだって初めてのはずだ。
「身を起こすな!今はそのまま伏せてろ!」
敵の正体や力量が分からない今、下手に動くのは得策ではない。
そして気になるのはこの矢の狙いだ。俺を狙ったのか?……それともなまえ?
いや、なまえを狙うなら俺がいない時に狙うだろう。
……ってことは高確率で俺様狙いか。
「舐められたもんだな、俺様も……」
*
─────昼の襲撃から数刻が経ったが、例の矢が飛んできたこと以外は特に何も起こらなかった。
殺すつもりなら矢を何本も放つだろう。そうじゃないってことは脅しか、はたまた……。
「私、実物の矢って初めて見たよ」
なまえは飛んできた矢をまじまじと見ている。突然矢が飛んできた時はあれだけ驚いていたのに、もう平然としている。
まあ星を見るために城の屋根に飛び出すくらいだもんな。一応幽閉されてるのに。下手したらその辺の足軽よりも肝が据わっているかもしれない。
「それにしても、すごいねこの矢。ここにある書物で見た絵とは全然違う……今はこういうものも使うの?」
「いや、普通は矢にこんな華美な装飾は施さない。俺様も全然わからないけどさ、献上品とか美術品とか……多分そんなのなんじゃない?」
それにしても、かなり趣味の悪い矢だ。
ていうかなんなのさ、この矢羽は。紫と黒が入り混じっている上に、ところどころ金色だ。いったい何処の鳥の羽根むしってきたんだよ!?それともわざわざ染めたのか?
こんな矢を戦で使ってるヤツなんて見たことがない。
改めて矢を手に取ってみると、矢尻付近に謎の紋とともに異国の言葉であろう文字が彫られていることが確認できた。
……いや、器用すぎない?なんのためにこんなとこに彫ってんのさ。
「これって……南蛮語?」
横から矢を覗いたなまえがそう呟いた。
……驚いたな、なまえは異国の言語が分かるのか?
「残念ながら俺様はあんまり詳しくなくてさ。なまえは分かるのか?」
「ここにある書物の中にいくつか南蛮のものがあって、それを見たことがあるの。簡易的な字引きもあったから簡単な単語は今でも覚えているけど……この矢に書いてある言葉の意味はわからないや」
「結構博識なんだな、なまえ」
「まあね。ここには本しかないから……世間では南蛮語ってよく使われるものなの?」
「いや、よく使われてはいないな。俺様が知ってる範囲では……」
─────南蛮かぶれの眼帯武将が俺様の脳裏をよぎる。
どう足掻いてもあの軍しか思い浮かばない。
「うん、まあ一部……ごく一部だな」
「そうなの?じゃあ、この日ノ本では限られた人たちのみが使用している言語なの?」
「そうだな。貿易してる武将とか、あっちの宗教の信者とかな。話せる奴のほうが珍しい」
「じゃあ、猿飛の周りにはいない?南蛮語を話せる人」
「少なくとも武田にはいないな。ま、俺様が存じ上げてるのは奥州の独眼竜くらいかな」
「……ドクガンリュウ、さん」
……ん?この流れってもしかして?
「ねえ猿飛、その人に」
「解読を頼みたいって?」
いやそうだよな。そういう流れになるよなあ……!
なまえは言おうとしていたことを俺様に言い当てられたからなのか、かなり分かりやすく目を泳がせている。
「い、言ってみただけ!言ってみただけだから!こんなことを頼むのは図々しいって分かってるし、もし何かツテがあるなら……って思っただけ!私はとても遠出なんてできないし、猿飛は忙しいでしょ?奥州ってここからかなり遠いと思うし、そんな大変なこと頼めないよ」
「ちょっとなまえちゃんさあ、俺様のこと舐めてる?俺様が日頃どれだけ日ノ本飛び回ってると思ってんの!?奥州なんて近い近い!日頃の任務の片手間に行って来れるっての」
……って何言ってんの俺様!?
ヤバいな、ちょっとカッコつけすぎた。流石に嘘。片手間は嘘!
「ほ、本当に!?」
「ま、俺様に任せときなって」
だから何言ってんの俺様!思考と口に出る言葉が全然一致してないんだけど!?もしかしてなまえも何かしらの術習得してる??俺様なんか術にかかってる!?
「あの、猿飛」
「ん?」
「ありがとう」
……やっぱり術にかかっているのかもしれない。ちょっとひねくれた俺様に、なまえのまっすぐな素直さは眩しいらしい。
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