毛利元就
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_______現代からかなり遡り、時は群雄割拠の戦国時代。
私の前世は、とある武将の娘であった。
城主である父はみんなから慕われていたし、私も父のことは誇りに思っていた。
……でも、そんな父を悩ませる輩がいた。
『毛利、元就……』
毛利元就。
冷酷、非情、手段を選ばない策略家____。
自らの兵に向かって『捨て駒』と言い放った時は、自分の耳を疑った。
……なんて人だ、と思った。
彼が治める国と私の父が治める国は、長年に渡って敵対していた。
敵対、と言ってもずっと戦っていたわけではない。お互いに、どう手を出すのか探り合う状態が長いこと続いていたのだ。
いわゆる、膠着状態というものだ。
一時期毛利元就は、うちの城によく訪れた。
……私と彼は、顔を合わせる度に嫌味を言い合った。
『貴様の父は目も当てられぬほどの馬鹿よ。娘である貴様はさらに酷いようだが』
『また懲りずに父上に会ってきたわけ?毛利さんここ数日毎日来てますけど、うちに婿入りでもする気なんですか〜?』
……今考えると、かなり大人気ない。
私も、毛利元就も。
当時の私たちは、顔を合わせる度に嫌味を言い合う仲だった……はずなんだけど。
「なんでこうなっちゃったと思う?」
「……そればっかりはわからねえなあ」
お手上げだ、とでも言いたそうに空を見上げる元親。
見上げる空は戦国時代のものではなく、現代のものだ。証拠として一応言っておくと、上空には飛行機が飛んで……いや、あれは忠勝さんかもしれない。
____現世の私たちは今、高校生として学校の屋上にいる。
彼と私が屋上にいるのは、人に聞かれてはいけない話をするためだ。
彼____長曾我部元親も、私と同じく前世の記憶がある。
この学園には、何故か戦国時代で出会った人間が多く通っている。しかし、前世の記憶は全員が持っているわけではない。
元親や私のような人間は、少ない。
故に、こうして人が来ないような場所で話しているのだ。
____そして、おそらく毛利元就も前世の記憶を持っている。
元親いわく、現世で毛利と初めて話したときに確信したらしい。
「何度も聞いて悪いけどよ、毛利となまえのところは敵同士だったよな?俺の記憶違いじゃねえんだよ……な?」
「ちゃんと敵だったよ。顔合わせる度に嫌味言いまくってたくらいだし」
「そ、そうだよな!……しっかし、あの毛利がねえ」
____私たちが、前世の話を持ち出してまで毛利元就の話をする理由。
その理由を話すためには、数週間前に遡る必要がある。
*
数週間前____。
『……入信?私が?』
『イエス!あなたがザビー教に入信すればサンデーも喜びます』
校内でも怪しい、と噂になっているザビー教。
私は、そのザビー教の関係者である大友宗麟から声をかけられた。
これで入信を勧められるのは何回目だろうか。
____"当時"からその怪しさは変わっていないようだ。
『いやいやいや……私と彼は敵対関係なんだってば』
"彼"とはサンデー毛利……つまり、毛利元就のことである。
彼が喜ぶはずがないのだ。
だって彼と私は敵であって_____
『……それは"前世"での話でしょう?』
____驚いた。この子……大友宗麟、前世の記憶持ちだったのか。
『今世でも同じことだよ。私と彼は昔から敵だよ』
『あぁもう!敵だからなんだというんです!昔から頭がかっったいんですよなまえは!いいでしょう!?敵を想うことがあったって!僕は親切なので言っておきますけどね、サンデーはなまえのことが前世からずっと好きなんですよ!?それなのに……ヒッ!』
『……え?何、急に』
うだうだと話が長いので、後半はまったく彼の話を聞いていなかった。
急に悲鳴を上げたことに驚いて彼を見ると、怯えたような表情をしていた。
『ぼぼぼぼ僕は何も言ってません!!!あぁっそうだ急用があったんでしたそれでは!!』
『……えぇ?』
あんなに喋っておいて、何も言ってないことはないだろう……私は心の中でツッコミを入れた。
『____貴様』
背後から声が聞こえた。この声は間違いない、大友宗麟が話していた"奴"____。
『毛利、元就……?』
いつの間に私の背後に……?
____あぁ、先ほどの大友宗麟の表情を思い出して納得した。
あの時から私の背後にいたのか。
『…………』
彼は黙ったままだ。そっちから声をかけてきたのに、黙ったままってのはどういうことなの?
『……あの、何か?』
『____れよ』
『え?』
彼が何か呟いたのは分かったけど、はっきりと聞こえなかった。
『……大友の話は忘れよ』
『…………ええと』
大友の話?
……えっ、入信のこと?
『我が……ている……話のことぞ』
『はい?』
『何度も言わせるでないわ!我が前世から貴様を好いているという話のことぞ!』
うわっ、急に大きな声出さないでくれません?びっくりするじゃないで……あれ?
ちょっと待て、今理解し難い単語がいっぱい出てきたような気がするんだけど。
我が、前世から、貴様を、好いて……?
そ、それはつまり。
『毛利元就が?前世から、私を?好、き……?』
『忘れよと言うたのが聞こえなかったのか貴様は!』
毛利の顔が心なしか赤い気がする。え、怒ってる?
『いや忘れるも何も、初耳といいますか……』
『なっ……もしや貴様、大友の話を聞いていなかったとでも?』
『え?いや聞いてましたよ、途中までは』
『聞いておらぬではないか……!』
私の回答を聞くや否や、彼は怒っているんだか呆れているんだかよくわからない表情をした。
『な、ならよいわ。聞いておらぬならそれでよい』
何故か安堵した様子の毛利。
……ん?待てよ、なんか腑に落ちないぞ。
一回状況を整理しよう。
まず、大友宗麟がなにか話をしていたが私はほぼ聞いていなかった。
毛利は大友の話は忘れろといった。
____で、大友の話というのが「毛利元就が前世から私を好いている」って話で。
『えっ?いや、なんでそんな話になったんですか?前世から好き、って……』
腑に落ちない理由はこれか!
腑に落ちないというか、理解できないというか。なんか軽く混乱しているような気もする。
だって、急に理解できる話題じゃないでしょ!?
『……ッ!そもそも、貴様が!』
『え?』
『…………貴様と話している時間なぞないわ。我はこれから吹奏楽部の活動がある』
毛利はそう言うと、早足で音楽室の方向へと向かっていった。
____そもそも、私が?
……毛利が何を言おうとしたのかは、まったく分からなかった。
*
____という出来事が数週間前にあったわけで。
「そもそもさあ、前世から好きっていうのはマジな話なの?そこからもう理解できないんだけど」
「いや俺に聞くなよ……」
元親が困ったような表情をした。
それもそうだ、元親にとっても毛利は前世からの敵なわけだし。
……なんかごめん元親。
「なんか、もう本当に何がなんだか……最後に毛利が何を言いかけたのかもわからないしさあ」
____そもそも、貴様が。
毛利はあの時、そう言った。
私が何をしたっていうのよ……。
「……このまま俺たち二人だけで話してたら埒が開かねえ気がしてきたぜ」
「え?誰かに相談するの?」
正直、相談できる人はかなり絞られる。
前世の記憶があって、なおかつ私や毛利と関わりがある人でないと厳しい気もするし。
「ああ。いっそ毛利に直接聞けばいいんじゃねえかと思ってよ!」
「えっ!?本人に!?それはやめてよ!」
「何でだよ!いちばん手っ取り早いだろ!?」
「無理だよ!手っ取り早いとしても私が無理だよ!そんなこと直接聞けない!」
さすがに本人に向かって聞けるわけがない。
"前世から私のこと好きだっていうのは本当なんですか?"
……いや無理。絶対無理。そんなメンタルは、あいにく持ち合わせてない!
前回だって、貴様と話すことはないとか言われたんだし。まともに取り合ってくれるかどうかも微妙なところだ。
「なまえが無理だってんなら、俺が聞いてやってもいいからよ!」
「……そもそも毛利が元親に話すかなあ」
「そ、それは聞いてみねえとわからねえだろ!?」
____というわけで、元親が毛利に直接聞いてみることになったんだけど。
正直不安でしかない。大丈夫かなあ……。
*
____翌日。
私は若干そわそわしながら登校した。何か嫌な予感がしていたからだ。
そして嫌な予感は見事に的中した。
珍しく元親がホームルームの数十分前に登校しているではないか。
「お、おはよう元親……こんなに早く教室にいるなんて珍しい……デスネ……」
「おお!今日は毛利の下駄箱に果たし状入れてきたからよ!これで毛利も逃げねえだろ!」
……は、果たし状?
「え?あの、果たし状というのは……」
「昨日言っただろ、毛利に直接聞くって。だから放課後に体育館裏に呼び出した」
や、やり方が不良すぎる!
……っていうか、下手したら毛利が臨戦態勢でやって来そうで怖いんだけど。
喧嘩売られてるとか思われてない?大丈夫?
「ちなみになんて書いたの?果たし状」
「あぁ……"なまえについて聞きたいことがある。放課後に体育館裏に来い。逃げんなよ?"……ってな感じで書いたぜ!」
「しかも私の名前まで出したのか……!!」
怖い、放課後が怖すぎるよ元親。
……まあでも、毛利のことだし来ないか。
こんな果たし状とか無視するでしょ、きっと。
*
____放課後。
私と元親は体育館裏へ向かった。
元親は体育館裏口の方で毛利を待つらしく、私は近くの倉庫裏に隠れるように言われた。
まぁ、私本人がいたら毛利も話しにくいだろうし。
……そもそも話してくれるかどうか怪しいけど。来てくれるかどうかすらも怪しいし。
どうせ来ないでしょ。果たし状に応じるようなヤツじゃないでしょ、多分。
「……我を斯様(かよう)な場所へ呼び出すとはな」
……いや、来るのかよ!!!
しかもわりと早く来たし!
「遅かったじゃねえか、毛利」
元親が不敵な笑みを浮かべる。
いや遅くないよ!むしろ早かったよ!だいぶ早く来てくれたよ!
「単刀直入に聞くけどよ、……お前、なまえのこと好きなのか?それも前世から」
い、いきなり!?もう聞くの!?まだこっちの心の準備ができてないんだけど!?
だってさあ、仮に好きとかなんとか言われたらどうすればいいの?
____いや、そんなことあるはずないでしょ!?何考えてるんだろう、私。
「…………」
「…………」
……元親の問いに、毛利はまだ答えない。
長い沈黙が訪れる。
元親、若干イライラしてる?
ここからだと元親の表情はよく見えるけど、毛利は私に背を向けるように立っている。残念ながら毛利の表情はよく見えない。
……まぁ、見えたところで鉄仮面なんだろうけど。
「いいかげん何か言ってくれてもいいんじゃねえか?」
「……貴様になまえを渡す気なぞ毛頭ないわ」
………え?
「「は?」」
私と元親の声が重なった。
え?どういうことなの?
「……わ、渡さない?どういうことだ?」
明らかに元親が動揺している。
そりゃそうだ。私だって動揺してるんだから。
「そのままの意味ぞ。我は、なまえを貴様に渡す気は毛頭ないと言ったのだ」
「いや、だからなんで俺に渡さねえって話になってんだ!?」
す、すごい。私が思っていることを全部元親が言ってくれている!
「何故だと?貴様が果たし状を寄越したことが発端ではないか!」
「はぁ!?いや、それはお前に逃げられねえようにと思ってだな……」
「故にこうしてわざわざ来てやったのだが?」
「て、てめえなあ……」
ま、まずい。元親が毛利の高圧的な態度にいらいらしている。
いやわかるよ、むかつくよね元親!私も前世で散々そう思ってきたから分かるよ!
でも抑えて!今は抑えて!
……と心の中で訴えていると、元親と目が合った。
「……別になまえのために喧嘩するつもりはねえよ。俺ぁただ確認したかっただけだ。」
よ、よかった。喧嘩沙汰になることはとりあえず避けられたみたい。
「あー、とりあえず好きってことなんだよな?なまえのこと……」
う、うわぁ!めちゃくちゃストレートに聞いた……!
「____貴様に言うつもりはない」
「否定しねえってことは好きなんだな」
「……貴様と違って我はなまえに好かれておる。故に貴様なぞ敵ではないわ」
「「……はぁ!?」」
また元親と私の声が重なった。
いやいやいや、どういうことなの!?好きになった記憶なんてないんですけど!?
また元親と目が合う。
(どういうことだよなまえ!?)
……という元親の心の声が聞こえた気がした。
(知らない!何も知らない!!)
……と私も心の中で言い返す。
「な、なんでなまえに好かれてるって確証があるんだ?」
「敢えて言うとすれば……婿に来る気なのかと縋られたことがあったわ」
……はい?
いやいやいや……ないないない!!絶対ないですけど!?
だって毛利と私が顔合わせた時なんて嫌味しか言ってないわけで。
一時期毛利が父に会いに来てた時なんて、それこそ毎日____。
『また懲りずに父上に会ってきたわけ?毛利さんここ数日毎日来てますけど、うちに婿入りでもする気なんですか〜?』
私の前世の発言がフラッシュバックする。
……え?もしかしてこのこと言ってる?
いや、これは嫌味で言ったのであって私に全くその気はなかったのだけど____。
まさか本気でそう捉えられてしまったとは。
嫌味が通じない馬鹿な人ではないと思ってたんだけどなあ。
「ふふん、やはり"サンデーの思考"がところどころで見られますねぇ」
「うわっ!?」
びっくりした。突然声がしたと思ったら、背後に大友宗麟が立っていた。
「うーん、サンデーの時の思考も現代に受け継がれているとザビー様に報告してよさそうですねぇ……ここ数週間でかなりサンデーの要素が強くなっているような気もしますし」
「え、ど、どういうこと?」
サンデーの時の思考?
確かに前世でもサンデー毛利とかなんとか名乗ってた時期があったような気もする。
毛利元就とは別の思考回路があるってこと?
「まぁ、なまえになら教えてもいいでしょう!サンデーはですね____」
……例によって話が長かったのでこちらでまとめると。
・"毛利元就"である時は押さえ込んでいる様々な感情(恋愛感情もそうらしい)がサンデー毛利に覚醒?すると一気に溢れてしまうことが多々ある。毛利元就とサンデーは、もはや別人格。
・大友宗麟たちの熱心な勧誘によって、今の毛利元就はサンデーに覚醒する直前らしい。
・だから、今は毛利元就の思考とサンデー毛利の思考が混ざり合っている状態で____。
「……って、つまりはどういうこと?思考が混ざり合うとどうなるのよ」
「んなっ!こんなに丁寧に説明したというのにまだわからないんですか!?つまりですよ、サンデーである時は"なまえが自身のことを愛している"と思い込んでしまうのですよ!その思考が混ざってしまって____」
「えっ!?何それ厄介すぎない!?」
……なるほど?
つまり……私の嫌味を都合よく解釈したサンデー毛利のせいでこうなってるってこと!?
で、覚醒直前の毛利も都合よく解釈してしまってる、みたいな?
「あと今の彼は不安定なんですよねえ。まぁサンデーであろうとなかろうと、彼がなまえを好きであることには変わりないんですけど」
「えっ……?何、毛利は結局私が好きなの?」
「あぁもう本当に鈍いですねなまえはっ!……まぁこの際です。ふたり仲良く入信なさい!さぁ!!」
「いや入信はしないけど……」
____この時、私は大友に気を取られていてすっかり忘れていた。
近くに毛利(と元親)がいたことを。
「____して、貴様らはそこで何を騒いでおる」
「「あ……」」
まずい。
毛利にバレた……!!
「こっ、これはですね!ザビー教の活動の一環でして____」
「黙れ。早々に此処を去れ」
大友を睨みつける毛利。今の毛利にサンデー毛利の片鱗は全く見られない。
……つまり、わりと怖い。
「ひ、ヒィっ!本日の布教活動は終了です!」
流石の大友も今の毛利の怖さには勝てなかったようで、おぼつかない足取りで逃げていった。
「なまえ」
「は、はい……?」
や、やばい。今度は私がターゲットだ。
「我を追いかけて此処まで来たというのか?まったく、貴様は本当に我を____」
……?????
え、なんでこの人ちょっと嬉しそうなの?
「え、いや、あの、違う____」
毛利と元親の様子を見るために来たわけだから、間違ってはいないのかもしれないけど。
でも、嬉しそうに言われるようなことではない。絶対にない。
「よくわからねえけどよ……なまえ、毛利は何か盛大に勘違いしてるみてえだぜ?」
元親が困ったような、呆れたような表情をしている。
おそらく私と大友が話している間も、毛利からよくわからないことを聞かされていたのだろう。
「……なんかもう、色々とどういうことなの?」
「俺に聞くな!俺もわからねえよ!」
……それもそうだ。元親は下手したら私より混乱している可能性がある。
「____何はともあれ、なまえ」
毛利が私の顎に手を添える。
な、なにこの少女漫画みたいな、ドラマみたいな展開は!?
「今世では我の妻となれ」
「「はぁ!?」」
また元親と私の声が重なった。
特に元親は相当驚いたらしく、かなり大きな声が響いた。
「ぐっ……そう大声を出すでないわ……ゔっ……頭が、割れ……」
元親の大声を直に食らってしまったからなのか、毛利がその場にうずくまった。
「え、ちょ、大丈夫!?」
「おい、大丈夫か毛利!?」
急に体調を崩したのだろうか。
その場にうずくまった毛利は、小声で呻いている。
「元親、これ、保健室まで運んだほうが____」
私がそう言いかけた瞬間、うずくまっていた毛利が立ち上がった。
「____我は何を言っている?妻?なまえを……?」
私を見つめた毛利と、目が合った。
____毛利の顔が、一気に青ざめた。
「____我は、貴様に……何と、述べた?」
毛利の顔色がどんどん悪くなっている気がするのは気のせいだろうか。
「……妻になれとかってこと?」
……私が喋った途端、見るからに毛利の顔が引きつった。
「…………先程までの我は、あの怪しげな宗教のせいで気が触れておった。故に先程までのことは忘れよ。すべて忘れよ!」
毛利が早口で捲し立てる。
先程までの我?怪しげな宗教……ってザビー教のことだよね?
そういえば大友が、今の毛利はサンデーの思考が混ざってるとかなんとか言ってたけど。
……もしかして、正気に戻った?
"サンデー"の思考がなくなった?
「そもそも我は、あのような面妖な宗教に頼る気なぞ微塵もない。斯様なものに頼らずとも、なまえを手に入れる策は前世から講じて____」
「……おい毛利、それは言っていいやつなのか?」
……すかさず元親からツッコミが入る。
あまりにも流暢に話すから聞き流すところだったけど、やっぱりおかしかったよね今の。
「____ッ、なまえ!」
「は、はい!?」
「せいぜい覚悟するがよい!現世では我が貴様を骨抜きにしてやろうぞ!」
毛利は、私に向かってびしっと人差し指を突き出した。
……えーっと。
なんて返事したらいいんだろう、これ。
「現世では、って……それじゃやっぱり前世は毛利がなまえに惚れて____」
「ええい長曾我部は黙っておれ!そもそも貴様はなまえの何なのだ!」
「な、何って言われてもよ……」
コイツ(毛利)をなんとかしろ、と言わんばかりの視線を私に送る元親。
……私だってできることならなんとかしたいよ!
(なまえ、こりゃあ相当厄介なことになりそうだぜ?)
(そう、みたいだね……)
____前世では敵同士であったはずの毛利と私。
今世では、もっと複雑な関係になりそうです。
私の前世は、とある武将の娘であった。
城主である父はみんなから慕われていたし、私も父のことは誇りに思っていた。
……でも、そんな父を悩ませる輩がいた。
『毛利、元就……』
毛利元就。
冷酷、非情、手段を選ばない策略家____。
自らの兵に向かって『捨て駒』と言い放った時は、自分の耳を疑った。
……なんて人だ、と思った。
彼が治める国と私の父が治める国は、長年に渡って敵対していた。
敵対、と言ってもずっと戦っていたわけではない。お互いに、どう手を出すのか探り合う状態が長いこと続いていたのだ。
いわゆる、膠着状態というものだ。
一時期毛利元就は、うちの城によく訪れた。
……私と彼は、顔を合わせる度に嫌味を言い合った。
『貴様の父は目も当てられぬほどの馬鹿よ。娘である貴様はさらに酷いようだが』
『また懲りずに父上に会ってきたわけ?毛利さんここ数日毎日来てますけど、うちに婿入りでもする気なんですか〜?』
……今考えると、かなり大人気ない。
私も、毛利元就も。
当時の私たちは、顔を合わせる度に嫌味を言い合う仲だった……はずなんだけど。
「なんでこうなっちゃったと思う?」
「……そればっかりはわからねえなあ」
お手上げだ、とでも言いたそうに空を見上げる元親。
見上げる空は戦国時代のものではなく、現代のものだ。証拠として一応言っておくと、上空には飛行機が飛んで……いや、あれは忠勝さんかもしれない。
____現世の私たちは今、高校生として学校の屋上にいる。
彼と私が屋上にいるのは、人に聞かれてはいけない話をするためだ。
彼____長曾我部元親も、私と同じく前世の記憶がある。
この学園には、何故か戦国時代で出会った人間が多く通っている。しかし、前世の記憶は全員が持っているわけではない。
元親や私のような人間は、少ない。
故に、こうして人が来ないような場所で話しているのだ。
____そして、おそらく毛利元就も前世の記憶を持っている。
元親いわく、現世で毛利と初めて話したときに確信したらしい。
「何度も聞いて悪いけどよ、毛利となまえのところは敵同士だったよな?俺の記憶違いじゃねえんだよ……な?」
「ちゃんと敵だったよ。顔合わせる度に嫌味言いまくってたくらいだし」
「そ、そうだよな!……しっかし、あの毛利がねえ」
____私たちが、前世の話を持ち出してまで毛利元就の話をする理由。
その理由を話すためには、数週間前に遡る必要がある。
*
数週間前____。
『……入信?私が?』
『イエス!あなたがザビー教に入信すればサンデーも喜びます』
校内でも怪しい、と噂になっているザビー教。
私は、そのザビー教の関係者である大友宗麟から声をかけられた。
これで入信を勧められるのは何回目だろうか。
____"当時"からその怪しさは変わっていないようだ。
『いやいやいや……私と彼は敵対関係なんだってば』
"彼"とはサンデー毛利……つまり、毛利元就のことである。
彼が喜ぶはずがないのだ。
だって彼と私は敵であって_____
『……それは"前世"での話でしょう?』
____驚いた。この子……大友宗麟、前世の記憶持ちだったのか。
『今世でも同じことだよ。私と彼は昔から敵だよ』
『あぁもう!敵だからなんだというんです!昔から頭がかっったいんですよなまえは!いいでしょう!?敵を想うことがあったって!僕は親切なので言っておきますけどね、サンデーはなまえのことが前世からずっと好きなんですよ!?それなのに……ヒッ!』
『……え?何、急に』
うだうだと話が長いので、後半はまったく彼の話を聞いていなかった。
急に悲鳴を上げたことに驚いて彼を見ると、怯えたような表情をしていた。
『ぼぼぼぼ僕は何も言ってません!!!あぁっそうだ急用があったんでしたそれでは!!』
『……えぇ?』
あんなに喋っておいて、何も言ってないことはないだろう……私は心の中でツッコミを入れた。
『____貴様』
背後から声が聞こえた。この声は間違いない、大友宗麟が話していた"奴"____。
『毛利、元就……?』
いつの間に私の背後に……?
____あぁ、先ほどの大友宗麟の表情を思い出して納得した。
あの時から私の背後にいたのか。
『…………』
彼は黙ったままだ。そっちから声をかけてきたのに、黙ったままってのはどういうことなの?
『……あの、何か?』
『____れよ』
『え?』
彼が何か呟いたのは分かったけど、はっきりと聞こえなかった。
『……大友の話は忘れよ』
『…………ええと』
大友の話?
……えっ、入信のこと?
『我が……ている……話のことぞ』
『はい?』
『何度も言わせるでないわ!我が前世から貴様を好いているという話のことぞ!』
うわっ、急に大きな声出さないでくれません?びっくりするじゃないで……あれ?
ちょっと待て、今理解し難い単語がいっぱい出てきたような気がするんだけど。
我が、前世から、貴様を、好いて……?
そ、それはつまり。
『毛利元就が?前世から、私を?好、き……?』
『忘れよと言うたのが聞こえなかったのか貴様は!』
毛利の顔が心なしか赤い気がする。え、怒ってる?
『いや忘れるも何も、初耳といいますか……』
『なっ……もしや貴様、大友の話を聞いていなかったとでも?』
『え?いや聞いてましたよ、途中までは』
『聞いておらぬではないか……!』
私の回答を聞くや否や、彼は怒っているんだか呆れているんだかよくわからない表情をした。
『な、ならよいわ。聞いておらぬならそれでよい』
何故か安堵した様子の毛利。
……ん?待てよ、なんか腑に落ちないぞ。
一回状況を整理しよう。
まず、大友宗麟がなにか話をしていたが私はほぼ聞いていなかった。
毛利は大友の話は忘れろといった。
____で、大友の話というのが「毛利元就が前世から私を好いている」って話で。
『えっ?いや、なんでそんな話になったんですか?前世から好き、って……』
腑に落ちない理由はこれか!
腑に落ちないというか、理解できないというか。なんか軽く混乱しているような気もする。
だって、急に理解できる話題じゃないでしょ!?
『……ッ!そもそも、貴様が!』
『え?』
『…………貴様と話している時間なぞないわ。我はこれから吹奏楽部の活動がある』
毛利はそう言うと、早足で音楽室の方向へと向かっていった。
____そもそも、私が?
……毛利が何を言おうとしたのかは、まったく分からなかった。
*
____という出来事が数週間前にあったわけで。
「そもそもさあ、前世から好きっていうのはマジな話なの?そこからもう理解できないんだけど」
「いや俺に聞くなよ……」
元親が困ったような表情をした。
それもそうだ、元親にとっても毛利は前世からの敵なわけだし。
……なんかごめん元親。
「なんか、もう本当に何がなんだか……最後に毛利が何を言いかけたのかもわからないしさあ」
____そもそも、貴様が。
毛利はあの時、そう言った。
私が何をしたっていうのよ……。
「……このまま俺たち二人だけで話してたら埒が開かねえ気がしてきたぜ」
「え?誰かに相談するの?」
正直、相談できる人はかなり絞られる。
前世の記憶があって、なおかつ私や毛利と関わりがある人でないと厳しい気もするし。
「ああ。いっそ毛利に直接聞けばいいんじゃねえかと思ってよ!」
「えっ!?本人に!?それはやめてよ!」
「何でだよ!いちばん手っ取り早いだろ!?」
「無理だよ!手っ取り早いとしても私が無理だよ!そんなこと直接聞けない!」
さすがに本人に向かって聞けるわけがない。
"前世から私のこと好きだっていうのは本当なんですか?"
……いや無理。絶対無理。そんなメンタルは、あいにく持ち合わせてない!
前回だって、貴様と話すことはないとか言われたんだし。まともに取り合ってくれるかどうかも微妙なところだ。
「なまえが無理だってんなら、俺が聞いてやってもいいからよ!」
「……そもそも毛利が元親に話すかなあ」
「そ、それは聞いてみねえとわからねえだろ!?」
____というわけで、元親が毛利に直接聞いてみることになったんだけど。
正直不安でしかない。大丈夫かなあ……。
*
____翌日。
私は若干そわそわしながら登校した。何か嫌な予感がしていたからだ。
そして嫌な予感は見事に的中した。
珍しく元親がホームルームの数十分前に登校しているではないか。
「お、おはよう元親……こんなに早く教室にいるなんて珍しい……デスネ……」
「おお!今日は毛利の下駄箱に果たし状入れてきたからよ!これで毛利も逃げねえだろ!」
……は、果たし状?
「え?あの、果たし状というのは……」
「昨日言っただろ、毛利に直接聞くって。だから放課後に体育館裏に呼び出した」
や、やり方が不良すぎる!
……っていうか、下手したら毛利が臨戦態勢でやって来そうで怖いんだけど。
喧嘩売られてるとか思われてない?大丈夫?
「ちなみになんて書いたの?果たし状」
「あぁ……"なまえについて聞きたいことがある。放課後に体育館裏に来い。逃げんなよ?"……ってな感じで書いたぜ!」
「しかも私の名前まで出したのか……!!」
怖い、放課後が怖すぎるよ元親。
……まあでも、毛利のことだし来ないか。
こんな果たし状とか無視するでしょ、きっと。
*
____放課後。
私と元親は体育館裏へ向かった。
元親は体育館裏口の方で毛利を待つらしく、私は近くの倉庫裏に隠れるように言われた。
まぁ、私本人がいたら毛利も話しにくいだろうし。
……そもそも話してくれるかどうか怪しいけど。来てくれるかどうかすらも怪しいし。
どうせ来ないでしょ。果たし状に応じるようなヤツじゃないでしょ、多分。
「……我を斯様(かよう)な場所へ呼び出すとはな」
……いや、来るのかよ!!!
しかもわりと早く来たし!
「遅かったじゃねえか、毛利」
元親が不敵な笑みを浮かべる。
いや遅くないよ!むしろ早かったよ!だいぶ早く来てくれたよ!
「単刀直入に聞くけどよ、……お前、なまえのこと好きなのか?それも前世から」
い、いきなり!?もう聞くの!?まだこっちの心の準備ができてないんだけど!?
だってさあ、仮に好きとかなんとか言われたらどうすればいいの?
____いや、そんなことあるはずないでしょ!?何考えてるんだろう、私。
「…………」
「…………」
……元親の問いに、毛利はまだ答えない。
長い沈黙が訪れる。
元親、若干イライラしてる?
ここからだと元親の表情はよく見えるけど、毛利は私に背を向けるように立っている。残念ながら毛利の表情はよく見えない。
……まぁ、見えたところで鉄仮面なんだろうけど。
「いいかげん何か言ってくれてもいいんじゃねえか?」
「……貴様になまえを渡す気なぞ毛頭ないわ」
………え?
「「は?」」
私と元親の声が重なった。
え?どういうことなの?
「……わ、渡さない?どういうことだ?」
明らかに元親が動揺している。
そりゃそうだ。私だって動揺してるんだから。
「そのままの意味ぞ。我は、なまえを貴様に渡す気は毛頭ないと言ったのだ」
「いや、だからなんで俺に渡さねえって話になってんだ!?」
す、すごい。私が思っていることを全部元親が言ってくれている!
「何故だと?貴様が果たし状を寄越したことが発端ではないか!」
「はぁ!?いや、それはお前に逃げられねえようにと思ってだな……」
「故にこうしてわざわざ来てやったのだが?」
「て、てめえなあ……」
ま、まずい。元親が毛利の高圧的な態度にいらいらしている。
いやわかるよ、むかつくよね元親!私も前世で散々そう思ってきたから分かるよ!
でも抑えて!今は抑えて!
……と心の中で訴えていると、元親と目が合った。
「……別になまえのために喧嘩するつもりはねえよ。俺ぁただ確認したかっただけだ。」
よ、よかった。喧嘩沙汰になることはとりあえず避けられたみたい。
「あー、とりあえず好きってことなんだよな?なまえのこと……」
う、うわぁ!めちゃくちゃストレートに聞いた……!
「____貴様に言うつもりはない」
「否定しねえってことは好きなんだな」
「……貴様と違って我はなまえに好かれておる。故に貴様なぞ敵ではないわ」
「「……はぁ!?」」
また元親と私の声が重なった。
いやいやいや、どういうことなの!?好きになった記憶なんてないんですけど!?
また元親と目が合う。
(どういうことだよなまえ!?)
……という元親の心の声が聞こえた気がした。
(知らない!何も知らない!!)
……と私も心の中で言い返す。
「な、なんでなまえに好かれてるって確証があるんだ?」
「敢えて言うとすれば……婿に来る気なのかと縋られたことがあったわ」
……はい?
いやいやいや……ないないない!!絶対ないですけど!?
だって毛利と私が顔合わせた時なんて嫌味しか言ってないわけで。
一時期毛利が父に会いに来てた時なんて、それこそ毎日____。
『また懲りずに父上に会ってきたわけ?毛利さんここ数日毎日来てますけど、うちに婿入りでもする気なんですか〜?』
私の前世の発言がフラッシュバックする。
……え?もしかしてこのこと言ってる?
いや、これは嫌味で言ったのであって私に全くその気はなかったのだけど____。
まさか本気でそう捉えられてしまったとは。
嫌味が通じない馬鹿な人ではないと思ってたんだけどなあ。
「ふふん、やはり"サンデーの思考"がところどころで見られますねぇ」
「うわっ!?」
びっくりした。突然声がしたと思ったら、背後に大友宗麟が立っていた。
「うーん、サンデーの時の思考も現代に受け継がれているとザビー様に報告してよさそうですねぇ……ここ数週間でかなりサンデーの要素が強くなっているような気もしますし」
「え、ど、どういうこと?」
サンデーの時の思考?
確かに前世でもサンデー毛利とかなんとか名乗ってた時期があったような気もする。
毛利元就とは別の思考回路があるってこと?
「まぁ、なまえになら教えてもいいでしょう!サンデーはですね____」
……例によって話が長かったのでこちらでまとめると。
・"毛利元就"である時は押さえ込んでいる様々な感情(恋愛感情もそうらしい)がサンデー毛利に覚醒?すると一気に溢れてしまうことが多々ある。毛利元就とサンデーは、もはや別人格。
・大友宗麟たちの熱心な勧誘によって、今の毛利元就はサンデーに覚醒する直前らしい。
・だから、今は毛利元就の思考とサンデー毛利の思考が混ざり合っている状態で____。
「……って、つまりはどういうこと?思考が混ざり合うとどうなるのよ」
「んなっ!こんなに丁寧に説明したというのにまだわからないんですか!?つまりですよ、サンデーである時は"なまえが自身のことを愛している"と思い込んでしまうのですよ!その思考が混ざってしまって____」
「えっ!?何それ厄介すぎない!?」
……なるほど?
つまり……私の嫌味を都合よく解釈したサンデー毛利のせいでこうなってるってこと!?
で、覚醒直前の毛利も都合よく解釈してしまってる、みたいな?
「あと今の彼は不安定なんですよねえ。まぁサンデーであろうとなかろうと、彼がなまえを好きであることには変わりないんですけど」
「えっ……?何、毛利は結局私が好きなの?」
「あぁもう本当に鈍いですねなまえはっ!……まぁこの際です。ふたり仲良く入信なさい!さぁ!!」
「いや入信はしないけど……」
____この時、私は大友に気を取られていてすっかり忘れていた。
近くに毛利(と元親)がいたことを。
「____して、貴様らはそこで何を騒いでおる」
「「あ……」」
まずい。
毛利にバレた……!!
「こっ、これはですね!ザビー教の活動の一環でして____」
「黙れ。早々に此処を去れ」
大友を睨みつける毛利。今の毛利にサンデー毛利の片鱗は全く見られない。
……つまり、わりと怖い。
「ひ、ヒィっ!本日の布教活動は終了です!」
流石の大友も今の毛利の怖さには勝てなかったようで、おぼつかない足取りで逃げていった。
「なまえ」
「は、はい……?」
や、やばい。今度は私がターゲットだ。
「我を追いかけて此処まで来たというのか?まったく、貴様は本当に我を____」
……?????
え、なんでこの人ちょっと嬉しそうなの?
「え、いや、あの、違う____」
毛利と元親の様子を見るために来たわけだから、間違ってはいないのかもしれないけど。
でも、嬉しそうに言われるようなことではない。絶対にない。
「よくわからねえけどよ……なまえ、毛利は何か盛大に勘違いしてるみてえだぜ?」
元親が困ったような、呆れたような表情をしている。
おそらく私と大友が話している間も、毛利からよくわからないことを聞かされていたのだろう。
「……なんかもう、色々とどういうことなの?」
「俺に聞くな!俺もわからねえよ!」
……それもそうだ。元親は下手したら私より混乱している可能性がある。
「____何はともあれ、なまえ」
毛利が私の顎に手を添える。
な、なにこの少女漫画みたいな、ドラマみたいな展開は!?
「今世では我の妻となれ」
「「はぁ!?」」
また元親と私の声が重なった。
特に元親は相当驚いたらしく、かなり大きな声が響いた。
「ぐっ……そう大声を出すでないわ……ゔっ……頭が、割れ……」
元親の大声を直に食らってしまったからなのか、毛利がその場にうずくまった。
「え、ちょ、大丈夫!?」
「おい、大丈夫か毛利!?」
急に体調を崩したのだろうか。
その場にうずくまった毛利は、小声で呻いている。
「元親、これ、保健室まで運んだほうが____」
私がそう言いかけた瞬間、うずくまっていた毛利が立ち上がった。
「____我は何を言っている?妻?なまえを……?」
私を見つめた毛利と、目が合った。
____毛利の顔が、一気に青ざめた。
「____我は、貴様に……何と、述べた?」
毛利の顔色がどんどん悪くなっている気がするのは気のせいだろうか。
「……妻になれとかってこと?」
……私が喋った途端、見るからに毛利の顔が引きつった。
「…………先程までの我は、あの怪しげな宗教のせいで気が触れておった。故に先程までのことは忘れよ。すべて忘れよ!」
毛利が早口で捲し立てる。
先程までの我?怪しげな宗教……ってザビー教のことだよね?
そういえば大友が、今の毛利はサンデーの思考が混ざってるとかなんとか言ってたけど。
……もしかして、正気に戻った?
"サンデー"の思考がなくなった?
「そもそも我は、あのような面妖な宗教に頼る気なぞ微塵もない。斯様なものに頼らずとも、なまえを手に入れる策は前世から講じて____」
「……おい毛利、それは言っていいやつなのか?」
……すかさず元親からツッコミが入る。
あまりにも流暢に話すから聞き流すところだったけど、やっぱりおかしかったよね今の。
「____ッ、なまえ!」
「は、はい!?」
「せいぜい覚悟するがよい!現世では我が貴様を骨抜きにしてやろうぞ!」
毛利は、私に向かってびしっと人差し指を突き出した。
……えーっと。
なんて返事したらいいんだろう、これ。
「現世では、って……それじゃやっぱり前世は毛利がなまえに惚れて____」
「ええい長曾我部は黙っておれ!そもそも貴様はなまえの何なのだ!」
「な、何って言われてもよ……」
コイツ(毛利)をなんとかしろ、と言わんばかりの視線を私に送る元親。
……私だってできることならなんとかしたいよ!
(なまえ、こりゃあ相当厄介なことになりそうだぜ?)
(そう、みたいだね……)
____前世では敵同士であったはずの毛利と私。
今世では、もっと複雑な関係になりそうです。
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