毛利元就

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「あ、元就さん。今日の部活なんですけど」

「日輪……」

「元就さーん」

「ハァ…………」

「も、元就さーん」

「…………」

「あー、これはだめそうだわ。今日も自主練かな……」


絶賛、梅雨!
……ということで、日輪を信仰?しているウチの部長は今日も機嫌が悪い。


「梅雨とは、なんであろうな……」


この人、ついに梅雨という現象自体を問い始めたよ。
……ていうか、ここ数日は機嫌が悪いとかそういう次元の話じゃなくなってきたな。どちらかというと、無気力っていうか。


「梅雨は梅雨です。雨がいっぱい降るんです」


「フン……梅雨とは、北海道と小笠原諸島を除く日本、朝鮮半島南部、中国の南部から長江流域にかけての沿海部、および台湾など、東アジアの広範囲においてみられる特有の気象現象で、5月から7月にかけて来る曇りや雨の多い期間のことぞ。雨季の一種よ」


「いやめちゃめちゃ詳しいじゃないですか!」


「当然よ。我の倒すべき敵ぞ」


「梅雨が!?えっ、梅雨倒すつもりなんですか!?」


「……我は毛利元就ぞ?」


「あっ、自信しかないんだ……倒せるといいですね、はい……」


……元就さん、賢いんだけどなあ。
賢いんだけど……なんかズレてるんだよなあ!


それに、梅雨も悪いことばかりではないよきっと!確かに、ジメジメしてて嫌〜な感じがしないわけではないけど……。


あ、そうだ。


「最近、国語の授業で俳句の勉強をしているんですよ」


「それがどうした」


つ、冷たいお返事……だけど、この対応こそがデフォルトの元就さん。このセリフにはちゃんと、


『へぇ、そうなんだ。どんな内容だったの?』
という意味が込められている!……はず。


それに、本当に機嫌が悪い時は無視をキメるからねこの人。大丈夫!今日は優しい!


「次の授業までに一句完成させよう!……って課題が出ました。テーマが梅雨なんです」
「……よりによって梅雨か」


眉間に皺を寄せる元就さん。
……こんなこと言ったら絶対に怒られるけど、『梅雨』という言葉を口にするたびに顔が歪むの、ちょっと面白いかもしれない。


「そ、そんな嫌そうな顔しないで下さいよ!元就さんだったら、どんな感じの俳句を作ります?」


……元就さんならきっといい感じの作品を作ってくれるはず!
それをパク……参考にすれば、私は課題を提出できるし!
元就さんが作った句を褒めれば、きっと少しは元就さんの機嫌もよくなる……はず!


「……"忌々しい ああ忌々しい 焼け焦げよ"」


……ほ、褒められる句じゃないっっ!!とてもじゃないけど!


「なんですかそれ!某番組だったら才能ナシまっしぐらですよ!ていうか本当に嫌なんですね、梅雨!」


「フン、貴様の考えていることなど容易く見通せるわ。我が詠んだ句をそのまま提出するつもりであったな?そうはさせぬわ」


ば、バレている。
……だ、だからってそんな梅雨への恨み大爆発みたいな句を作らなくてもいいのに……。


「そ、そのまま提出は流石にしないですよ!ちょっと参考にしたかったんですっ」


「どうだか」


「……でも、元就さんの力を借りたくもなりますよ」
「それほど難儀な課題ではないだろう」
「も、元就さんはそうかもしれませんけど!」


私にとってはかなり難儀なのだ。だって……


「最近、"梅雨"って言葉を耳にすると、どうしても元就さんが思い浮かんでしまって」



そう、元就さんが邪魔をするのだ。梅雨についていくら考えても考えても、元就さんが邪魔をする。すぐにお邪魔してくる。



「元就さんのことばっかり考えちゃうんです。今どうしてるかな〜……とか。今日も元気なかったな、とか」



「……なッ」



「だから、俳句が全然作れないんです!梅雨について考えれば考えるほど、元気のない元就さんの姿が思い浮かんで……どうしてくれるんですかぁ」



「…………」


何やら考え込む元就さん。も、もしかして私がこんなこと言ったから、罪悪感に苛まれている……!?

「で、でも。なんていうか、えーと。正直、晴れの日も元就さんのこと考えがちですけどね!やっぱり日輪といえば元就さん!みたい……な……?」


「…………」


さらに深く考え込む様子の元就さん。ていうか私は何を口走っているんだ。
……え、えっと。これ、どうやって話を繋ぐべきなんだろう。


「く、曇ってたり雨の日だったりすると、ちょっと悲しくなるんです。太陽が隠れちゃってるな〜……って。太陽が隠れると元就さんに隠れられたみたいで、ちょっと落ち込むんです……って変ですよね、こんなの」


「…………」


元就さんは黙ったままだ。や、やっぱり勢いに任せて変なこと口走っちゃったよね、私……。


「それはつまり、常に我のことを……」


「えっ?何ですか?」


「いや……もう我のことのみを考えるがよいわ」
「えぇ〜っ!?そしたら俳句作れないじゃないですか」
「いっそ我を想って詠めばよいであろう」


淡々と言う元就さん。わ、我を想って……って!?


「も、元就さんを!?……な、なんか恥ずかしいです。ラブレターみたいじゃないですか」
「ほう、我を想うと恋文のような句になると」
「え、それは……ちょ、にやにやしないでください!」
「分かりやすいな貴様は」

そう言った元就さんは嬉しそうに微笑んでいた……ような気がした。
ちょっとは元気になったってことかな?
……そうだといいな。
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