冬芽が見つめし竜胆は
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……寒い。もう少し厚手の上着を着てくるべきだった。
そんなことを考えながら上り坂を歩く。
「しかし珍しいこともあるものよなァ、ぬしがあれほど散財するとは思わなんだ」
「あ、あれは必要経費です!確かに多少無駄なものも買ってしまったような気もしますけど……」
今日は刑部さんと街へ出かけた。その結果が両手に抱えている紙袋たちだ。
私たちが同棲を始めてから迎える初めての冬。
中心街から少し……いや、かなり離れた郊外の山のほうで暮らす私たちにとって、この時期の寒さは何よりも天敵だった。
冬用の布団とこたつを買いに行ったつもりだったのにもかかわらず、湯たんぽやらなにやら、挙句の当てには小さなクリスマスツリーまで買ってしまった。
しかも本来の目的である布団とこたつは宅配で届けてもらうので、今手に持っているものは本来買うはずではなかったものたちだ。
「まあそれもよかろ、時にはムダも必要よ。われも近頃はよく星を眺める……側から見ればムダな時間やもしれぬが、われはこのムダを好いておる」
「この辺りは星が綺麗に見えますもんね」
「やはりわれは星を見るほうが落ち着くらしい。街の電飾はさほど好かぬ」
「あぁ……分かります。イルミネーションの周りって常に人が多いですから。あれはあれで綺麗ですけど、ちょっと疲れちゃうんですよね」
「そうか、ぬしもそう思うか」
「はい、刑部さんと一緒です」
────今でもたまに思う。
私の隣に刑部さんがいるのって、なんだか不思議な感じがする。
「そうか、ぬしもモノ好きよなァ」
……やっぱり不思議だ。こうして普通に会話をしていることも、帰る家が同じことも。
*
私たちの出会いは学生時代、色々あって私が刑部さんのもとへお使いへ出向いたことがきっかけだった。
お使いといっても、「石田三成くんからの伝言です。放課後すぐに生徒会室に向かう予定でしたが、あとから遅れて来るそうです」と生徒会室にいる刑部さんへ伝えるだけのことだった。
……今思えば三成くんも人使いが荒い。偶然通りかかった私に向かって、
『そこの女子。生徒会室にいる刑部へ私の伝言を伝えろッ!内容は─────』
と『よろしく』の一言もないまま徳川くんとまた言い争いを始めてしまったのだから。
断るにも断れないこの状況。仮に今口を挟めば依頼人・石田三成くんの標的は徳川くんから私に移るだろう。
それに私は人の頼みを断ることに対して苦手意識があった。断るための言い訳が思いつかないし、何より断る勇気がなかった。
そんな当時の私が穏便に断るスキルと勇気を持ち合わせているはずもなく……言われるがままに私は「ギョーブさん」とやらに会いに行くこととなったのだ。
なんで一般生徒の私が生徒会室に行かなきゃいけないんだろう。生徒会って怖そうだし……そもそもギョーブさんって誰?そんな人いたっけ……!?
などと若干狼狽しながら生徒会室へ向かったことはよく覚えている。
そして生徒会室に辿り着いた私は刑部さんに三成くんから預かった伝言を伝えることになるのだが、それはもう酷かった。
『あ、ええと……ギョーブ?さん?です……よね?い、石田三成くんからのご伝言を預かっておりまして……その……えっと、遅れる、とのことでした……!し、失礼いたしました!!』
自分でもはっきりと覚えていないが、多分こんな感じだったと思う。一個上の初対面の先輩に話しかけなければいけないという緊張からなのか、終始しどろもどろだった。そして刑部さんからの返答を待たず、伝えるだけ伝えて逃げるようにして生徒会室を後にしたのだ。
これが、私たちの出会いだった。
*
「……今思うと、やっぱり不思議ですね。私と刑部さんがこうして一緒にいるというのは」
「なに、われがぬしを追ったまでのことよ。ある意味必然よ、ヒツゼン」
「ひ、必然?偶然じゃなくて、ですか?」
私たちが出会ったのは三成くんが私に声をかけたからだ。あの出来事がなければ、私と刑部さんは互いに認知することなく卒業していたかもしれない。
「……いやはや驚いた。とうの昔に察しているとばかり思っておった」
「え?ど、どういうことですか?」
「ヒヒッ、なまえは聡いようで案外鈍い……われは校内の花壇前をよく通りかかったであろ」
「ええ、確かに……私は園芸部だったので毎日その付近にいましたね。刑部さんは確か生徒会の見回りで……」
「嘘よ」
「え?」
「見回りなどしておらぬ。あれはぬしと会うための口実よ」
「こ、口実……!?なんでわざわざそんなことを!?」
「われにも分からぬ。何故か、なまえと言葉を交わしたいと思うてな」
……な、なんで!?
あんなに狼狽しながら刑部さんに話しかけた私と会話をしたかった?
刑部さんの感性が謎すぎる。私に対して気味が悪い、とか思わなかったのだろうか。
「ヒ、ヒヒヒ……ッ、ぬしはすぐに表情(カオ)に感情が浮かぶなァ」
「なっ……い、今のは刑部さんの発言が……!というかちょっと笑いすぎじゃないですか……!?」
そんなことを考えながら上り坂を歩く。
「しかし珍しいこともあるものよなァ、ぬしがあれほど散財するとは思わなんだ」
「あ、あれは必要経費です!確かに多少無駄なものも買ってしまったような気もしますけど……」
今日は刑部さんと街へ出かけた。その結果が両手に抱えている紙袋たちだ。
私たちが同棲を始めてから迎える初めての冬。
中心街から少し……いや、かなり離れた郊外の山のほうで暮らす私たちにとって、この時期の寒さは何よりも天敵だった。
冬用の布団とこたつを買いに行ったつもりだったのにもかかわらず、湯たんぽやらなにやら、挙句の当てには小さなクリスマスツリーまで買ってしまった。
しかも本来の目的である布団とこたつは宅配で届けてもらうので、今手に持っているものは本来買うはずではなかったものたちだ。
「まあそれもよかろ、時にはムダも必要よ。われも近頃はよく星を眺める……側から見ればムダな時間やもしれぬが、われはこのムダを好いておる」
「この辺りは星が綺麗に見えますもんね」
「やはりわれは星を見るほうが落ち着くらしい。街の電飾はさほど好かぬ」
「あぁ……分かります。イルミネーションの周りって常に人が多いですから。あれはあれで綺麗ですけど、ちょっと疲れちゃうんですよね」
「そうか、ぬしもそう思うか」
「はい、刑部さんと一緒です」
────今でもたまに思う。
私の隣に刑部さんがいるのって、なんだか不思議な感じがする。
「そうか、ぬしもモノ好きよなァ」
……やっぱり不思議だ。こうして普通に会話をしていることも、帰る家が同じことも。
*
私たちの出会いは学生時代、色々あって私が刑部さんのもとへお使いへ出向いたことがきっかけだった。
お使いといっても、「石田三成くんからの伝言です。放課後すぐに生徒会室に向かう予定でしたが、あとから遅れて来るそうです」と生徒会室にいる刑部さんへ伝えるだけのことだった。
……今思えば三成くんも人使いが荒い。偶然通りかかった私に向かって、
『そこの女子。生徒会室にいる刑部へ私の伝言を伝えろッ!内容は─────』
と『よろしく』の一言もないまま徳川くんとまた言い争いを始めてしまったのだから。
断るにも断れないこの状況。仮に今口を挟めば依頼人・石田三成くんの標的は徳川くんから私に移るだろう。
それに私は人の頼みを断ることに対して苦手意識があった。断るための言い訳が思いつかないし、何より断る勇気がなかった。
そんな当時の私が穏便に断るスキルと勇気を持ち合わせているはずもなく……言われるがままに私は「ギョーブさん」とやらに会いに行くこととなったのだ。
なんで一般生徒の私が生徒会室に行かなきゃいけないんだろう。生徒会って怖そうだし……そもそもギョーブさんって誰?そんな人いたっけ……!?
などと若干狼狽しながら生徒会室へ向かったことはよく覚えている。
そして生徒会室に辿り着いた私は刑部さんに三成くんから預かった伝言を伝えることになるのだが、それはもう酷かった。
『あ、ええと……ギョーブ?さん?です……よね?い、石田三成くんからのご伝言を預かっておりまして……その……えっと、遅れる、とのことでした……!し、失礼いたしました!!』
自分でもはっきりと覚えていないが、多分こんな感じだったと思う。一個上の初対面の先輩に話しかけなければいけないという緊張からなのか、終始しどろもどろだった。そして刑部さんからの返答を待たず、伝えるだけ伝えて逃げるようにして生徒会室を後にしたのだ。
これが、私たちの出会いだった。
*
「……今思うと、やっぱり不思議ですね。私と刑部さんがこうして一緒にいるというのは」
「なに、われがぬしを追ったまでのことよ。ある意味必然よ、ヒツゼン」
「ひ、必然?偶然じゃなくて、ですか?」
私たちが出会ったのは三成くんが私に声をかけたからだ。あの出来事がなければ、私と刑部さんは互いに認知することなく卒業していたかもしれない。
「……いやはや驚いた。とうの昔に察しているとばかり思っておった」
「え?ど、どういうことですか?」
「ヒヒッ、なまえは聡いようで案外鈍い……われは校内の花壇前をよく通りかかったであろ」
「ええ、確かに……私は園芸部だったので毎日その付近にいましたね。刑部さんは確か生徒会の見回りで……」
「嘘よ」
「え?」
「見回りなどしておらぬ。あれはぬしと会うための口実よ」
「こ、口実……!?なんでわざわざそんなことを!?」
「われにも分からぬ。何故か、なまえと言葉を交わしたいと思うてな」
……な、なんで!?
あんなに狼狽しながら刑部さんに話しかけた私と会話をしたかった?
刑部さんの感性が謎すぎる。私に対して気味が悪い、とか思わなかったのだろうか。
「ヒ、ヒヒヒ……ッ、ぬしはすぐに表情(カオ)に感情が浮かぶなァ」
「なっ……い、今のは刑部さんの発言が……!というかちょっと笑いすぎじゃないですか……!?」
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