竹中半兵衛
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私には前世の記憶がない。
いや、普通はないことが当たり前なのかもしれないけど─────。
*
「そうか、君には前世の記憶がないんだね」
「は、はい……戦国時代に生きていただなんて信じられないですよ」
もしかしたら私たちは、側から見たら相当変な話をしているのではないだろうか。
家族連れも多い日曜日の公園で、こんな話をしているのはきっと私たちくらいだ。
「確かに、この時代を生きていると忘れそうになるよ。今の僕たちは武器を持つこともなければ、戦地へ赴くこともないからね。そういう生き方をせざるを得ない人々も、遠い異国の地には大勢いると聞くけれど……」
─────彼は竹中半兵衛さん。私が通う学園の副生徒会長だ。
私が半兵衛さんと知り合ったのは半年前。つまり私があの学園に入学した時だ。
『なまえ、なのかい……?』
入学初日の通学路で突然名前を呼ばれて、腕を掴まれた時はどうしようかと思った。
当時の私にとって半兵衛さんは全然知らない人だったわけだし、正直普通に不審者かと思った。
……半兵衛さんには絶対に言えないけど。
「この半年間、君に伝えるべきかどうか迷っていたんだよ。何も知らない君に、昔のことを言っても仕方がないんじゃないか……とか、色々と考えてしまってね」
「す、すみません。私の記憶がないばかりに気を遣わせてしまったみたいで」
「謝る必要なんてないさ。まあ、かつての恋人に何も憶えられていなかったというのは少々応えたけどね」
……あぁ、胸が痛む。何も覚えていないのに胸が痛むというのも変な話だけど。
今日は半兵衛さんから前世の話を色々と伺ったけど、いちばん驚いたことは間違いなくこの件だ。
「……恋人、だったんですよね?私たち。なんか全然、その……なんていうか、慣れないです」
衝撃の事実をまだ受け入れることができず、言葉も途切れ途切れになる。
正直まだ前世のことだって受け入れきれていないのに、こんな事実を受け入れる余裕があるわけがない。
「それは困ったね、早く慣れてもらわないと。君を秀吉にも紹介したいんだ」
「秀吉、さん……って、生徒会長にですか!?」
「そう、君のよく知る生徒会長だ」
「な、なんだか話が大きくなってきてません?」
「そうかい?君を新しい生徒会役員として紹介しようと思っているのだけれど」
「そ、そうなんですか……ん?ちょっと待ってください、新しい生徒会役員って?」
「言葉通りの意味だよ」
「……私を?」
「そうだよ、三成くんや大谷くん、左近くんもいることだし」
「いやその、みつなり?くん達とやらもわからないですって」
「彼等とはね、戦国時代に同じ軍で戦っていたんだよ」
「なんですかその中学校で同じ部活でしたみたいなノリは」
「あぁ、僕は軍師だったんだけど」
「それはあれですか?野球部でキャッチャーやってたんだけど、みたいなことですか?」
「えっ、僕って野球部っぽいかい?」
「いや全然……いや例えであってそういうことじゃないですから!」
なんだか話が盛大に逸れているような気がする。なんで半兵衛さんが野球部っぽいか否かの話になっているんだ。
「なんだかすっかり話が逸れてしまったね。先ほど話した通り、君を新しい生徒会役員として生徒会の面々に紹介したい。勿論、君が嫌でなければ」
「は、はぁ……」
「それと、これも君の返事次第だけれど……前世での恋人としてではなく、いまの恋人として君を紹介したい」
「今の……?え、えぇっ!?」
「何年間も君の姿を探してようやく巡り会えたんだ。やっと掴んだ君の腕を、僕が易々と離すはずがないだろう?」
「あ、あの、半兵衛さん」
「君が『はい』と言わないのであれば、僕はどんな手段だって使うよ」
「そ、それって……」
「それだけ必死なんだよ、本当に君が好きなんだ」
……必死?あの半兵衛さんが?
半兵衛さんが必死になることなんて、あるのだろうか。
「─────前世で君と恋仲になった後、僕は君への想いを断ち切ろうとした。あの時は秀吉に天下を、豊臣に無限の栄華をもたらすことだけを考えなくてはいけなかった」
「……そうだったんですね」
「でも結局、君への想いを断ち切ることはできなかった。その時に気づいたよ。君への想いが消えることはないんだと」
「半兵衛さん……」
「前世のことは憶えていなくたっていいさ、僕が全部憶えているから。でもこれからの僕の……いや、僕たちのことは君にも憶えていてほしい」
「……はい」
「これも、僕の我儘だけど……君の好きな人は僕だけであってほしい」
「あ、あの半兵衛さん」
「なまえ、僕は」
「あの、半兵衛さんごめんなさいちょっとキャパオーバーです!」
こ、こんなのさすがに無理だ。こんなにたくさん愛の言葉を受ける余裕なんてない!
「……いま君に伝えたのは、ほんの一部だよ」
半兵衛さんは少しだけ、むっとしたような顔をした。なんてことだ、これで一部なのか。
「でも、まあいいかな。明日もまた学校で会えるんだ。学校で愛を囁いてはいけない、だなんて校則はないからね」
「えっ」
「数百年分の愛を込めるよ」
─────9月の日差しはまだ強い。
顔の火照りはその所為なのかもしれないし、彼の眼差しの所為なのかもしれない。
いや、普通はないことが当たり前なのかもしれないけど─────。
*
「そうか、君には前世の記憶がないんだね」
「は、はい……戦国時代に生きていただなんて信じられないですよ」
もしかしたら私たちは、側から見たら相当変な話をしているのではないだろうか。
家族連れも多い日曜日の公園で、こんな話をしているのはきっと私たちくらいだ。
「確かに、この時代を生きていると忘れそうになるよ。今の僕たちは武器を持つこともなければ、戦地へ赴くこともないからね。そういう生き方をせざるを得ない人々も、遠い異国の地には大勢いると聞くけれど……」
─────彼は竹中半兵衛さん。私が通う学園の副生徒会長だ。
私が半兵衛さんと知り合ったのは半年前。つまり私があの学園に入学した時だ。
『なまえ、なのかい……?』
入学初日の通学路で突然名前を呼ばれて、腕を掴まれた時はどうしようかと思った。
当時の私にとって半兵衛さんは全然知らない人だったわけだし、正直普通に不審者かと思った。
……半兵衛さんには絶対に言えないけど。
「この半年間、君に伝えるべきかどうか迷っていたんだよ。何も知らない君に、昔のことを言っても仕方がないんじゃないか……とか、色々と考えてしまってね」
「す、すみません。私の記憶がないばかりに気を遣わせてしまったみたいで」
「謝る必要なんてないさ。まあ、かつての恋人に何も憶えられていなかったというのは少々応えたけどね」
……あぁ、胸が痛む。何も覚えていないのに胸が痛むというのも変な話だけど。
今日は半兵衛さんから前世の話を色々と伺ったけど、いちばん驚いたことは間違いなくこの件だ。
「……恋人、だったんですよね?私たち。なんか全然、その……なんていうか、慣れないです」
衝撃の事実をまだ受け入れることができず、言葉も途切れ途切れになる。
正直まだ前世のことだって受け入れきれていないのに、こんな事実を受け入れる余裕があるわけがない。
「それは困ったね、早く慣れてもらわないと。君を秀吉にも紹介したいんだ」
「秀吉、さん……って、生徒会長にですか!?」
「そう、君のよく知る生徒会長だ」
「な、なんだか話が大きくなってきてません?」
「そうかい?君を新しい生徒会役員として紹介しようと思っているのだけれど」
「そ、そうなんですか……ん?ちょっと待ってください、新しい生徒会役員って?」
「言葉通りの意味だよ」
「……私を?」
「そうだよ、三成くんや大谷くん、左近くんもいることだし」
「いやその、みつなり?くん達とやらもわからないですって」
「彼等とはね、戦国時代に同じ軍で戦っていたんだよ」
「なんですかその中学校で同じ部活でしたみたいなノリは」
「あぁ、僕は軍師だったんだけど」
「それはあれですか?野球部でキャッチャーやってたんだけど、みたいなことですか?」
「えっ、僕って野球部っぽいかい?」
「いや全然……いや例えであってそういうことじゃないですから!」
なんだか話が盛大に逸れているような気がする。なんで半兵衛さんが野球部っぽいか否かの話になっているんだ。
「なんだかすっかり話が逸れてしまったね。先ほど話した通り、君を新しい生徒会役員として生徒会の面々に紹介したい。勿論、君が嫌でなければ」
「は、はぁ……」
「それと、これも君の返事次第だけれど……前世での恋人としてではなく、いまの恋人として君を紹介したい」
「今の……?え、えぇっ!?」
「何年間も君の姿を探してようやく巡り会えたんだ。やっと掴んだ君の腕を、僕が易々と離すはずがないだろう?」
「あ、あの、半兵衛さん」
「君が『はい』と言わないのであれば、僕はどんな手段だって使うよ」
「そ、それって……」
「それだけ必死なんだよ、本当に君が好きなんだ」
……必死?あの半兵衛さんが?
半兵衛さんが必死になることなんて、あるのだろうか。
「─────前世で君と恋仲になった後、僕は君への想いを断ち切ろうとした。あの時は秀吉に天下を、豊臣に無限の栄華をもたらすことだけを考えなくてはいけなかった」
「……そうだったんですね」
「でも結局、君への想いを断ち切ることはできなかった。その時に気づいたよ。君への想いが消えることはないんだと」
「半兵衛さん……」
「前世のことは憶えていなくたっていいさ、僕が全部憶えているから。でもこれからの僕の……いや、僕たちのことは君にも憶えていてほしい」
「……はい」
「これも、僕の我儘だけど……君の好きな人は僕だけであってほしい」
「あ、あの半兵衛さん」
「なまえ、僕は」
「あの、半兵衛さんごめんなさいちょっとキャパオーバーです!」
こ、こんなのさすがに無理だ。こんなにたくさん愛の言葉を受ける余裕なんてない!
「……いま君に伝えたのは、ほんの一部だよ」
半兵衛さんは少しだけ、むっとしたような顔をした。なんてことだ、これで一部なのか。
「でも、まあいいかな。明日もまた学校で会えるんだ。学校で愛を囁いてはいけない、だなんて校則はないからね」
「えっ」
「数百年分の愛を込めるよ」
─────9月の日差しはまだ強い。
顔の火照りはその所為なのかもしれないし、彼の眼差しの所為なのかもしれない。
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