伊達政宗
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____突然だが、私は今旅行中である。
そしてここは宿泊しているホテルのプールサイド。
……ちなみに言っておくと、私は泳ぐのが苦手だ。
「大丈夫だってなまえ!このプール深くないし!」
「それは、そうなんだけど……」
プールサイドで怯える私に対して、プールの中にいる友人ふたりは楽しそうだ。
そもそも私は泳ぐのが苦手、というかプールや海が苦手なのかもしれない。
……小さい頃にプールで溺れたことを、未だに思い出してしまうから。
「せっかく可愛い水着も買ったんだし、この際だから入っちゃいなって!」
そう。水着も買っちゃったのだ。
『別にプール入んなくてもいいから!着るだけでいいから!』
____とか散々言われたから。
入らなくていいって、言ってたよね!?
「む、無理に入らなくてもいいんじゃない?なまえ、プール苦手なんでしょ?」
「う、うん。だから私のことは気にせず、二人で楽しんで!?」
「そっかあ……な、なんかほんとごめん!その、そこまで苦手だって知らなくて」
「えっ!?いやそもそも水が苦手な私が悪いわけで」
「でも強引に誘ったのはあたしじゃん!?」
「まあまあ二人とも。こんなプールの中と外で遠慮しあわなくても……」
申し訳なさそうにする友人を見ると、なんだか私のほうに非があるのではないかという気がしてくる。
「……わ、私、入ってみるよ!ふたりもいるし、案外いけそうな気がするっ」
____嘘です。全然いけそうにないです。
いや何言ってんだ私は。水に挑むことを宣言してしまったのですが。
全くもっていけそうにないのに、なんで私はこんなことを言ってしまったんだ?
「が、がんばれなまえ!いける!」
「無理そうだったら、やめてもいいからね!?」
プールに友人たちの声が響く。
……お、落ち着け私。大丈夫、大丈夫だから。
まずはプールのへりに腰掛けて、足を水に浸からせる。
________大丈夫、大丈夫よなまえ。
ここは子どもの頃に溺れた深いプールじゃない。ちゃんと立ってさえいれば、胸から上は確実に水の外に出るんだから。
あとは勢い。勢いでなんとか……!!
も、もうどうにでもなれー!!!
*
「_______いや私、なんであんなに怖がってたんだろ」
「ほんとだよ!こんなに早く慣れてくれると思わなかったわ!!」
「まあまあいいじゃないの。好都合よむしろ」
相当おっかなびっくりな感じでプールに挑んだ私。
……数十分後には、プールをめちゃくちゃエンジョイできるようになっていた。
「えー……楽しいわ……浮き輪もなんかかわいいのいっぱいあるし……」
「手のひら急に返すじゃん……あとその貝のやつ気に入ったの?よかったね……」
そう……私はついに対面した。
わりとSNSで見る貝の大きい浮き輪に!
「う〜ん、これでしばらく浮かんでいられるな……」
「あはは、なんか水着のテイストも相まって女神感出てるよなまえ」
「なまえ神〜、あたしあっちのウォータースライダー行きたいんだけど〜」
「え〜私はまだこいつと浮かぶ……」
「うーん……私もウォータースライダーは気になるなあ。ふたりで行ってきてもいい?すぐ戻るからさ」
「よいよい〜、わらわはもうひとりでも平気ゆえ〜」
「それは女神キャラなの?……じゃあ、このへんでゆっくり浮かんでてね」
「ん〜、いってらっしゃ〜い」
ふたりはプールから上がり、ウォータースライダーの方へと歩いていった。
それにしてもこの浮き輪、乗るのがちょっと大変だったけど乗り心地はめちゃくちゃいいな……。
_______これ、寝れるな?
遊び疲れてやってきた程よい眠気に負けて、私は目を閉じた。
*
「_______あれ、……ほうがいいのか?」
「やっぱり…………なんじゃねえのか?」
「とりあえず……様の判断に従おう……」
……ん?
________あ、やばい。がっつり寝ていた。
とりあえず、まだ二人は戻ってきてないみた…………
え、どういうこと?
周囲を見渡すと、私が思い描いていた光景とは違うものが目に入った。
「おい、女神が起きたぞ!?」
「ち、近づいて大丈夫なのか俺たち?」
まず、ガヤガヤ騒いでいるお兄さんたち。甲冑らしきものを着た人、和服っぽいものを着た人……なぜか視界に入る人がみんな和風テイストだ。
そして何より目立つのは城。ザ・日本の城。
私が今浮き輪で浮かんでいるところも、城の池?お堀って言うんだっけ?みたいな……そんな感じの和風仕様になっている。
……ホテル、こんな日本風だったっけ?
かなり規模の大きいホテルだとは聞いてたけど、こんなお城エリアがあるだなんて聞いてなかったのですが。
もしかして私、寝てる間にけっこう流されちゃった感じ?
……あ、じゃあ今見えてるお兄さんたちってホテルの従業員さん?こんなに本格的な格好してるんだ、すごいなあ。本当の戦国武将みたいだもん。
____って、とりあえず従業員の人にここがどこなのか聞かなきゃじゃない?
「あの、すみません……ここってどこですかね?私、ウォータースライダーとかある辺りから流されちゃったみたいで〜」
「ここは青葉城だけど……うぉ、うぉーた?なんとかってのは分からねえな」
……え?青葉城?
青葉城って聞いたことあるな、確か仙台の……
え、仙台?
「あ、あー……そういう設定?」
ここは当時の青葉城ですよ〜、みたいなテーマパーク独特の設定?でも私たちが宿泊するホテル、テーマパークの系列とかではないはずなんたけど……。
「そういう女神様はその……い、いったいどうやってこの城へ!?」
「め、女神……?とりあえず私は、ウォータースライダーがあるエリアから流れて_______」
「おい!政宗様と小十郎様がいらっしゃったぞ!」
……マサムネ?こじゅうろう?
それにしても、女神ってどういうことなんだろう。これもテーマパーク的な設定?女性のお客様を女神って呼ぶ、みたいな?
「Hey, Venusが現れたってのは本当か?」
現れたのは眼帯のお兄さんと、ちょっと任侠を感じるお兄さん。
「政宗様!迂闊に近寄らないほうがよろしいかと……敵の罠という可能性も」
「こんな無防備なVenusが罠ってか?笑わせるぜ」
が、眼帯のお兄さんがこちらに向かってズカズカ歩いてくる。
え、な、何?ちょっと怖いんですけど。
「Hmm……」
こ、この眼帯のお兄さん、私をジロジロと品定めするように見てくる。
そのうえ、眼帯お兄さんの後ろに佇む任侠のお兄さんはなぜか私を睨んでくるし……なぜか、刀いつでも抜けます!みたいな体勢だし。
「なるほどな」
「何か分かりましたか、政宗様」
「_______あぁ小十郎。Venusってのは結構カワイイ顔してるんだな?」
「政宗様……!」
……可愛いって言っていただけるのは嬉しいんだけど。正直今はどういう状況なのか全然理解できなくて、照れとかそういう感情が一切湧いてこない。
な、なんなんだこの人。どういうキャラ設定なの?軟派な武将?
「あ、あの!私、とにかく戻らないといけなくてですね。ウォータースライダーのエリアって、どう行けば_______」
「アンタ……南蛮語が分かるのか!?」
「いやもうそういうのいいですって!」
い、いつまで続くの!?このロールプレイ!
いいかげん普通に教えてほしいんだけど!?
「もう本当に教えていただけませんか……?友人たちを待たせているんです……」
「生憎だが、俺たちはお前が何処からやって来たのか分からない……そういう格好をした民族は初めて見るもんでな」
任侠のお兄さんは、まるで目のやり場に困るとでも言いたそうに私の格好を見る。
し、仕方ないでしょ水着なんだから……!
「プールで泳いでたんです!そりゃこういう格好しますよ……」
「Pool?アンタのとこは、泳ぐときにそんな格好すんのか?」
……待って、流石におかしい。
お兄さん達と話が全然噛み合わないというか、流石にロールプレイの範疇を超えているというか。
_______ここ、本当に泊まってたホテル?
「まさか……」
ひとつの可能性が脳裏をよぎる。
こんなのありえない、ありえないと思うけど……!
_______トリップ。
現代とは異なる時代や世界に飛ばされる現象。
私は今まさに、この現象に巻き込まれているのでは?
「あ、あの、あなたは一体……」
「オレか?オレは奥州筆頭、伊達政宗だ。アンタは?」
「まじか〜〜……!!」
青葉城、伊達政宗。これが本当だったら私は……。
体の力が一気に抜ける。
_______あ、まずい。
私、水上にいるんだった。
ばちゃん。
見事にバランスを崩した私は、貝の浮き輪から落ちた。
「ゔっ……」
なんとかもがいて、浮き輪に手を伸ばす。
と、届かない……!もう少しなのに!
_______そして私は、同時にあることに気づいてしまった。
……この池、足がつかない。
顔が一気に青ざめる感覚がした。
幼少期に溺れた時の記憶がフラッシュバックする。
ど、どうしよう、私このまま_______。
うまく息ができない。
こんなことなら、ちゃんと泳ぎ方習っておくんだったな……。
「!?あいつ……ッ」
「小十郎!?」
「片倉様っ!?」
任侠のお兄さんや眼帯のお兄さん……あ、伊達政宗か……と、その部下っぽい人たちが騒ぐ声が聞こえる。
……だめだ、流石に苦しい。
もう、色々とだめかもしれない_______。
「がはっ……あ、え……?」
突然呼吸が楽にできるようになる。
私、何かに支えられて……?
「_______まったく、泳げねえならなんでこんなとこにいたんだ?」
……視界に入ったのは任侠のお兄さん。小十郎?って呼ばれてた、人?
どうやら私は、小十郎さんに助けられたらしい。
「わ、わた……し……」
「……すまん、苦しいなら無理をするな。理由は後で聞く」
_______いや、この人めっちゃいい人なのでは?任侠のお兄さんとか呼んでごめんなさい!
私はひたすら、心の中で小十郎さんに謝った。
*
「_______I got it. とりあえず、現時点では何故ここに辿り着いたのか分からないってコトか」
「そう……なりますね」
小十郎さんから救出された私は、とりあえずお城の中で話を聞いてもらえることになった。
その格好じゃ寒いだろ、とのことで着替えも貸してくださいまして……。まさに至れり尽くせり状態。
____私は政宗さんたちに軽く自己紹介をして、事情を説明した。
一応、トリップの可能性については伏せた。正直、どう説明していいかわからなかったからだ。
「……ところで、なまえがいたとこは南国なのか?普段からあんな格好してんのか?」
「違っ……あれは水浴びするときにする格好っていうか!普段からあんなの着ないです!普段はあんなに露出してません!」
「…………そうか」
「なんでちょっと残念そうなんですかねぇ!?」
「政宗様……話が逸れていらっしゃいます」
それとなく軌道修正してくれる小十郎さん。いい人ムーブが止まらないなこの人。
「まぁ、とにかく現時点ではまだ何も分からないんだろ?なら好きなだけここにいりゃいいさ」
「ありがとうございますっ……!」
や、優しい。この人たちなんでこんなに優しいんだろう。なんかもう、泣きそうなんですけど……!
「んな泣きそうな顔するな。まぁそういう顔も嫌いじゃねえがな」
「……泣き顔すきなのは流石にヤバくないですか?」
「……政宗様、小十郎はもう何も言いませぬぞ」
泣きそうだったのに、一気に涙が引っ込んでしまった。
「悪ィな、わりとアンタの顔がタイプでな……アンタじゃなきゃこんなこと言わない」
「小十郎さん、なんなんですかこの人」
「政宗様になんという態度を……と言いたいところだが、今のは圧倒的に政宗様が悪いな。本当にすまない」
……小十郎さん、苦労人なのかな。
ていうか政宗さんはさっきからなんなの?
「アンタの名前_____なまえっていう響きもかなり好きだ」
「……え、もしかして女の子大好きな感じですか?誰に対してもこんな感じ?これ通常運転ですか?」
「いや、俺もこんな政宗様を見たのは初めてだ。なまえ、どうやらお前は____」
「あぁ、オレはアンタを気に入った。口説き落とすつもりだから覚悟しな」
「えっ」
「まさかVenusを口説く日が来るなんて思ってもみなかったぜ!Ha-ha!」
「え?いや、あの〜……」
助けを求めようと小十郎を見る。
……小十郎さんも頭を抱えていた。
「と、ところで小十郎さん!最初、私のこと敵の罠じゃないか〜とか言ってましたよね!?なんで……助けてくれたんですか?」
なんとか話題を変えようと思って、小十郎さんに話しかけた。
……ところでこの話題、正解なのだろうか。
「いや、あの溺れ方は流石に……な」
『憐れむ』ってこういう表情のことを言うんだろうな……。どうやら私の溺れ方は相当なものだったようだ。
そうだよね、あんな溺れ方する忍やスパイなんていないよね。
「ま、小十郎もなまえを気に入ったってことじゃねえか?」
「政宗様ッ」
……小十郎さん、大変だな。
政宗さんの言うことにいちいちつっこんでいる気がする。
「Ha-ha! まぁよろしく頼むぜ女神サマ?」
私に向かって手を差し伸べる政宗さん。
……あ、握手しようってことか。
「は、はい!よろしくお願いしま_______」
握手が交わされようとした瞬間、私は政宗さんに抱き寄せられた。
「なッ……!?」
「ほんと隙だらけだなアンタ。そういうところも嫌いじゃねえ……けど隙を見せるのはオレの前だけにしろよ?you see?」
政宗さんが耳元で囁くから、なんだかおかしくなってしまいそうだ。
……いや、私なんでこんなことされてるの!?
「____政宗様」
「Sorry, venusには刺激が強かったか?」
私を離すやいなや、ニヤリと笑う政宗さん。
絶対sorryなんて思ってないだろ!
……私、ここでやっていけるのだろうか。
弱気になる気持ちを抑えつつ、政宗さんを睨んでみる。
「It's the best……アンタに見つめられるなんてオレは幸せ者だな」
「なんでそうなるんですか!?」
_______本当に、大丈夫なんでしょうか。
そしてここは宿泊しているホテルのプールサイド。
……ちなみに言っておくと、私は泳ぐのが苦手だ。
「大丈夫だってなまえ!このプール深くないし!」
「それは、そうなんだけど……」
プールサイドで怯える私に対して、プールの中にいる友人ふたりは楽しそうだ。
そもそも私は泳ぐのが苦手、というかプールや海が苦手なのかもしれない。
……小さい頃にプールで溺れたことを、未だに思い出してしまうから。
「せっかく可愛い水着も買ったんだし、この際だから入っちゃいなって!」
そう。水着も買っちゃったのだ。
『別にプール入んなくてもいいから!着るだけでいいから!』
____とか散々言われたから。
入らなくていいって、言ってたよね!?
「む、無理に入らなくてもいいんじゃない?なまえ、プール苦手なんでしょ?」
「う、うん。だから私のことは気にせず、二人で楽しんで!?」
「そっかあ……な、なんかほんとごめん!その、そこまで苦手だって知らなくて」
「えっ!?いやそもそも水が苦手な私が悪いわけで」
「でも強引に誘ったのはあたしじゃん!?」
「まあまあ二人とも。こんなプールの中と外で遠慮しあわなくても……」
申し訳なさそうにする友人を見ると、なんだか私のほうに非があるのではないかという気がしてくる。
「……わ、私、入ってみるよ!ふたりもいるし、案外いけそうな気がするっ」
____嘘です。全然いけそうにないです。
いや何言ってんだ私は。水に挑むことを宣言してしまったのですが。
全くもっていけそうにないのに、なんで私はこんなことを言ってしまったんだ?
「が、がんばれなまえ!いける!」
「無理そうだったら、やめてもいいからね!?」
プールに友人たちの声が響く。
……お、落ち着け私。大丈夫、大丈夫だから。
まずはプールのへりに腰掛けて、足を水に浸からせる。
________大丈夫、大丈夫よなまえ。
ここは子どもの頃に溺れた深いプールじゃない。ちゃんと立ってさえいれば、胸から上は確実に水の外に出るんだから。
あとは勢い。勢いでなんとか……!!
も、もうどうにでもなれー!!!
*
「_______いや私、なんであんなに怖がってたんだろ」
「ほんとだよ!こんなに早く慣れてくれると思わなかったわ!!」
「まあまあいいじゃないの。好都合よむしろ」
相当おっかなびっくりな感じでプールに挑んだ私。
……数十分後には、プールをめちゃくちゃエンジョイできるようになっていた。
「えー……楽しいわ……浮き輪もなんかかわいいのいっぱいあるし……」
「手のひら急に返すじゃん……あとその貝のやつ気に入ったの?よかったね……」
そう……私はついに対面した。
わりとSNSで見る貝の大きい浮き輪に!
「う〜ん、これでしばらく浮かんでいられるな……」
「あはは、なんか水着のテイストも相まって女神感出てるよなまえ」
「なまえ神〜、あたしあっちのウォータースライダー行きたいんだけど〜」
「え〜私はまだこいつと浮かぶ……」
「うーん……私もウォータースライダーは気になるなあ。ふたりで行ってきてもいい?すぐ戻るからさ」
「よいよい〜、わらわはもうひとりでも平気ゆえ〜」
「それは女神キャラなの?……じゃあ、このへんでゆっくり浮かんでてね」
「ん〜、いってらっしゃ〜い」
ふたりはプールから上がり、ウォータースライダーの方へと歩いていった。
それにしてもこの浮き輪、乗るのがちょっと大変だったけど乗り心地はめちゃくちゃいいな……。
_______これ、寝れるな?
遊び疲れてやってきた程よい眠気に負けて、私は目を閉じた。
*
「_______あれ、……ほうがいいのか?」
「やっぱり…………なんじゃねえのか?」
「とりあえず……様の判断に従おう……」
……ん?
________あ、やばい。がっつり寝ていた。
とりあえず、まだ二人は戻ってきてないみた…………
え、どういうこと?
周囲を見渡すと、私が思い描いていた光景とは違うものが目に入った。
「おい、女神が起きたぞ!?」
「ち、近づいて大丈夫なのか俺たち?」
まず、ガヤガヤ騒いでいるお兄さんたち。甲冑らしきものを着た人、和服っぽいものを着た人……なぜか視界に入る人がみんな和風テイストだ。
そして何より目立つのは城。ザ・日本の城。
私が今浮き輪で浮かんでいるところも、城の池?お堀って言うんだっけ?みたいな……そんな感じの和風仕様になっている。
……ホテル、こんな日本風だったっけ?
かなり規模の大きいホテルだとは聞いてたけど、こんなお城エリアがあるだなんて聞いてなかったのですが。
もしかして私、寝てる間にけっこう流されちゃった感じ?
……あ、じゃあ今見えてるお兄さんたちってホテルの従業員さん?こんなに本格的な格好してるんだ、すごいなあ。本当の戦国武将みたいだもん。
____って、とりあえず従業員の人にここがどこなのか聞かなきゃじゃない?
「あの、すみません……ここってどこですかね?私、ウォータースライダーとかある辺りから流されちゃったみたいで〜」
「ここは青葉城だけど……うぉ、うぉーた?なんとかってのは分からねえな」
……え?青葉城?
青葉城って聞いたことあるな、確か仙台の……
え、仙台?
「あ、あー……そういう設定?」
ここは当時の青葉城ですよ〜、みたいなテーマパーク独特の設定?でも私たちが宿泊するホテル、テーマパークの系列とかではないはずなんたけど……。
「そういう女神様はその……い、いったいどうやってこの城へ!?」
「め、女神……?とりあえず私は、ウォータースライダーがあるエリアから流れて_______」
「おい!政宗様と小十郎様がいらっしゃったぞ!」
……マサムネ?こじゅうろう?
それにしても、女神ってどういうことなんだろう。これもテーマパーク的な設定?女性のお客様を女神って呼ぶ、みたいな?
「Hey, Venusが現れたってのは本当か?」
現れたのは眼帯のお兄さんと、ちょっと任侠を感じるお兄さん。
「政宗様!迂闊に近寄らないほうがよろしいかと……敵の罠という可能性も」
「こんな無防備なVenusが罠ってか?笑わせるぜ」
が、眼帯のお兄さんがこちらに向かってズカズカ歩いてくる。
え、な、何?ちょっと怖いんですけど。
「Hmm……」
こ、この眼帯のお兄さん、私をジロジロと品定めするように見てくる。
そのうえ、眼帯お兄さんの後ろに佇む任侠のお兄さんはなぜか私を睨んでくるし……なぜか、刀いつでも抜けます!みたいな体勢だし。
「なるほどな」
「何か分かりましたか、政宗様」
「_______あぁ小十郎。Venusってのは結構カワイイ顔してるんだな?」
「政宗様……!」
……可愛いって言っていただけるのは嬉しいんだけど。正直今はどういう状況なのか全然理解できなくて、照れとかそういう感情が一切湧いてこない。
な、なんなんだこの人。どういうキャラ設定なの?軟派な武将?
「あ、あの!私、とにかく戻らないといけなくてですね。ウォータースライダーのエリアって、どう行けば_______」
「アンタ……南蛮語が分かるのか!?」
「いやもうそういうのいいですって!」
い、いつまで続くの!?このロールプレイ!
いいかげん普通に教えてほしいんだけど!?
「もう本当に教えていただけませんか……?友人たちを待たせているんです……」
「生憎だが、俺たちはお前が何処からやって来たのか分からない……そういう格好をした民族は初めて見るもんでな」
任侠のお兄さんは、まるで目のやり場に困るとでも言いたそうに私の格好を見る。
し、仕方ないでしょ水着なんだから……!
「プールで泳いでたんです!そりゃこういう格好しますよ……」
「Pool?アンタのとこは、泳ぐときにそんな格好すんのか?」
……待って、流石におかしい。
お兄さん達と話が全然噛み合わないというか、流石にロールプレイの範疇を超えているというか。
_______ここ、本当に泊まってたホテル?
「まさか……」
ひとつの可能性が脳裏をよぎる。
こんなのありえない、ありえないと思うけど……!
_______トリップ。
現代とは異なる時代や世界に飛ばされる現象。
私は今まさに、この現象に巻き込まれているのでは?
「あ、あの、あなたは一体……」
「オレか?オレは奥州筆頭、伊達政宗だ。アンタは?」
「まじか〜〜……!!」
青葉城、伊達政宗。これが本当だったら私は……。
体の力が一気に抜ける。
_______あ、まずい。
私、水上にいるんだった。
ばちゃん。
見事にバランスを崩した私は、貝の浮き輪から落ちた。
「ゔっ……」
なんとかもがいて、浮き輪に手を伸ばす。
と、届かない……!もう少しなのに!
_______そして私は、同時にあることに気づいてしまった。
……この池、足がつかない。
顔が一気に青ざめる感覚がした。
幼少期に溺れた時の記憶がフラッシュバックする。
ど、どうしよう、私このまま_______。
うまく息ができない。
こんなことなら、ちゃんと泳ぎ方習っておくんだったな……。
「!?あいつ……ッ」
「小十郎!?」
「片倉様っ!?」
任侠のお兄さんや眼帯のお兄さん……あ、伊達政宗か……と、その部下っぽい人たちが騒ぐ声が聞こえる。
……だめだ、流石に苦しい。
もう、色々とだめかもしれない_______。
「がはっ……あ、え……?」
突然呼吸が楽にできるようになる。
私、何かに支えられて……?
「_______まったく、泳げねえならなんでこんなとこにいたんだ?」
……視界に入ったのは任侠のお兄さん。小十郎?って呼ばれてた、人?
どうやら私は、小十郎さんに助けられたらしい。
「わ、わた……し……」
「……すまん、苦しいなら無理をするな。理由は後で聞く」
_______いや、この人めっちゃいい人なのでは?任侠のお兄さんとか呼んでごめんなさい!
私はひたすら、心の中で小十郎さんに謝った。
*
「_______I got it. とりあえず、現時点では何故ここに辿り着いたのか分からないってコトか」
「そう……なりますね」
小十郎さんから救出された私は、とりあえずお城の中で話を聞いてもらえることになった。
その格好じゃ寒いだろ、とのことで着替えも貸してくださいまして……。まさに至れり尽くせり状態。
____私は政宗さんたちに軽く自己紹介をして、事情を説明した。
一応、トリップの可能性については伏せた。正直、どう説明していいかわからなかったからだ。
「……ところで、なまえがいたとこは南国なのか?普段からあんな格好してんのか?」
「違っ……あれは水浴びするときにする格好っていうか!普段からあんなの着ないです!普段はあんなに露出してません!」
「…………そうか」
「なんでちょっと残念そうなんですかねぇ!?」
「政宗様……話が逸れていらっしゃいます」
それとなく軌道修正してくれる小十郎さん。いい人ムーブが止まらないなこの人。
「まぁ、とにかく現時点ではまだ何も分からないんだろ?なら好きなだけここにいりゃいいさ」
「ありがとうございますっ……!」
や、優しい。この人たちなんでこんなに優しいんだろう。なんかもう、泣きそうなんですけど……!
「んな泣きそうな顔するな。まぁそういう顔も嫌いじゃねえがな」
「……泣き顔すきなのは流石にヤバくないですか?」
「……政宗様、小十郎はもう何も言いませぬぞ」
泣きそうだったのに、一気に涙が引っ込んでしまった。
「悪ィな、わりとアンタの顔がタイプでな……アンタじゃなきゃこんなこと言わない」
「小十郎さん、なんなんですかこの人」
「政宗様になんという態度を……と言いたいところだが、今のは圧倒的に政宗様が悪いな。本当にすまない」
……小十郎さん、苦労人なのかな。
ていうか政宗さんはさっきからなんなの?
「アンタの名前_____なまえっていう響きもかなり好きだ」
「……え、もしかして女の子大好きな感じですか?誰に対してもこんな感じ?これ通常運転ですか?」
「いや、俺もこんな政宗様を見たのは初めてだ。なまえ、どうやらお前は____」
「あぁ、オレはアンタを気に入った。口説き落とすつもりだから覚悟しな」
「えっ」
「まさかVenusを口説く日が来るなんて思ってもみなかったぜ!Ha-ha!」
「え?いや、あの〜……」
助けを求めようと小十郎を見る。
……小十郎さんも頭を抱えていた。
「と、ところで小十郎さん!最初、私のこと敵の罠じゃないか〜とか言ってましたよね!?なんで……助けてくれたんですか?」
なんとか話題を変えようと思って、小十郎さんに話しかけた。
……ところでこの話題、正解なのだろうか。
「いや、あの溺れ方は流石に……な」
『憐れむ』ってこういう表情のことを言うんだろうな……。どうやら私の溺れ方は相当なものだったようだ。
そうだよね、あんな溺れ方する忍やスパイなんていないよね。
「ま、小十郎もなまえを気に入ったってことじゃねえか?」
「政宗様ッ」
……小十郎さん、大変だな。
政宗さんの言うことにいちいちつっこんでいる気がする。
「Ha-ha! まぁよろしく頼むぜ女神サマ?」
私に向かって手を差し伸べる政宗さん。
……あ、握手しようってことか。
「は、はい!よろしくお願いしま_______」
握手が交わされようとした瞬間、私は政宗さんに抱き寄せられた。
「なッ……!?」
「ほんと隙だらけだなアンタ。そういうところも嫌いじゃねえ……けど隙を見せるのはオレの前だけにしろよ?you see?」
政宗さんが耳元で囁くから、なんだかおかしくなってしまいそうだ。
……いや、私なんでこんなことされてるの!?
「____政宗様」
「Sorry, venusには刺激が強かったか?」
私を離すやいなや、ニヤリと笑う政宗さん。
絶対sorryなんて思ってないだろ!
……私、ここでやっていけるのだろうか。
弱気になる気持ちを抑えつつ、政宗さんを睨んでみる。
「It's the best……アンタに見つめられるなんてオレは幸せ者だな」
「なんでそうなるんですか!?」
_______本当に、大丈夫なんでしょうか。
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