島左近
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〈ねえなまえさん、たすけて〉
〈いま1人で、なまえさんしか頼れなくて〉
〈不在着信〉
─────背筋が凍った。
メッセージアプリを開いて、真っ先に飛び込んできたメッセージがこれだったのだから。
今日の体育祭を体調不良で休んだ後輩、左近くんからのメッセージだった。
*
これは緊急事態というやつなのかもしれない。私はすぐに早退することを決意した。
クラスメイトと担任には体調不良だと伝えた上でこっそりとグラウンドを抜け出し、体育祭に浮かれる集団を避けつつ教室へ向かう。荷物を取りに行かねばならないからだ。
〈左近くん、家にいるんだよね?私これから左近くんちに向かうから、何か必要なものあれば買って行くから言ってね〉
さっき私が送ったメッセージに返信はない。既読表示はあるので確認はしてくれたんだろうけど……いや、まさか画面を付けたまま部屋で倒れてるなんてことないよね?
左近くんは一人暮らしだ。
普段は三成くんや刑部に色々と助けられているみたいだけど、今日はふたりとも生徒会役員として重要な役割を担っている。きっと左近くんのところへ赴くのは難しいだろうし、左近くんもそれを知っているから二人に連絡はしていないだろう。
……「私にしか頼れない」とメッセージに書いていたし、もしかしたらあまり人には知られたくないのかもしれない。
とりあえず家に行ってみて、本当に緊急事態だった場合は三成くんや刑部に連絡しよう。
*
「はぁ……つ、着いた……」
何とか左近くんが暮らすアパートに辿り着いた。走ってきたので息切れが激しい。
「えーと、部屋番号も合ってるし……うん、大丈夫なはず」
実は左近くんが住む部屋には何度か訪れている。といっても、貸し借りしたゲームや本を玄関で手渡ししただけだ。
とりあえずインターホンを押してみる。
「………………あれ?」
確実にインターホンは押したはずだ。念のためもう一度押してみる。
ピンポン、と音が響く。
……しかし、肝心の左近くんが出てこない。
出てくるどころか返事もないし……これってやっぱり、まずい状況なんじゃ?
一応携帯のメッセージを確認してみるが、特に通知はきていない。
とりあえず一度左近くんに電話してみよう。電話して出なかったら……管理人さんに言って扉を開けてもらうしかないな。あとは三成くんたちにも連絡して……ってそんなことを考えるのは後々!
着信履歴に表示された左近くんの連絡先をタップし、電話をかける。
……扉の先から聞こえてくるのは、左近くんの携帯の着信音だろうか。 本当に扉の前にいるんじゃないかというくらい鮮明に聞こえる。
左近くん、そこに、近くに……いるの?
「左近くん大丈夫!?そこにいるの!?」
ドアを強くノックしてドアのレバーを握る。当然鍵がかかって……あれ?
「開い、た?」
「……え?うそ、まじ?なまえさん?」
どうやら鍵がかかっていなかったらしいドアが開いて最初に飛び込んできた光景は、玄関先に座って項垂れていた左近くんが私の顔を見るなり目を丸くする姿だった。
「左近くん大丈夫!?私、あのメッセージ見て急いで来たんだけど、その……!」
だめだ、何から聞いたらいいのかわからない。とりあえず意識はあるし、ちゃんと私を認識できているみたいだし……。
「……体育祭」
「え?」
「体育祭、まだ終わってないっしょ……?なのになんで、なまえさんがここに」
左近くんが遠慮がちに聞いてくる。
なんだかいつもの左近くんと違う。元気がないというか、覇気がないというか。
「あんなメッセージ見たら、飛んでくるに決まってるよ……!」
「……っ」
私の顔を見上げていた左近くんは、少しばつが悪そうに顔を逸らした。
「ねえ、どこか痛い?病院に行ったほうがよさそうならどうにかして……」
「なまえさん、なまえさん、俺」
「俺、なまえさんに謝らなきゃなんねー……」
「左近くん……?」
「……体調悪いって言っても、別にもう大したことなくて。別に熱もないし、ちょっと尋常じゃないくらい胃が痛かっただけで」
「じ、尋常じゃないくらい痛いのは大したことだと思うよ!?」
尋常じゃなく痛いってどれくらいなんだ。
大したことないとは言っているけど、どうやら相当苦しんでいたらしい。
「原因もその、昨日の夜賞味期限が尋常じゃなく切れているモン食ったんで」
「なんで食べちゃったの!?」
「博徒の血が騒いで……」
「よりによって体育祭前日に発揮しちゃったんだ……」
「だから本当、別に大したことなくて。でもなんかすげー不安になって……気づいたらなまえさんに連絡してて。本当にすんません!」
「謝ることなんてないよ!そんなの気にしないでいいんだよ左近くん」
「いや、だって別に大したことねーのになまえさんにすがるようなメッセージ送って……それで、なまえさんうちまで走らせてさ」
「……体調悪い時は不安になるよ。私だって前に体調崩した時は寂しかったもの」
一人でいると不安になることも多い。特に自分が不安定な時は。それはきっと左近くんだって同じはずで。
「え!?いやいやいやそういう時は気軽に俺呼んでくださいってば!俺けっこう暇だし!暇じゃなくてもなまえさんのためならどこへでも行くし!?」
「な、なんか突然元気になってない!?」
「だってなまえさんが不安な時に側にいなかったとか、もう、そんなの……!まじで!」
「そんなに落ち込まないで!?あの時はまだ連絡先も交換してなかったし、多分顔見知り程度だったよ私たち」
そう、けっこう前の出来事だ。
左近くんは入学したてだったんじゃないだろうか。
「顔見知り……」
「うん、だって春くらいだったよ確か」
「あー、もっとなまえさんと早く仲良くなっとけば……いいなー、なまえさんと同じ学年の人たちって」
「え?どうして?」
「だってなまえさんと一緒に授業受けられるし、行事だって一緒に……修学旅行だって一緒に行けるし」
「左近くんと同じ学年だったら一緒に行動してたかもね。修学旅行とか」
「……なまえさんのほうが、俺より先に卒業しちゃうんでしょ?」
─────卒業。
まだ先のことだけど、いずれその日はやってくる。私の方が先に卒業する……当たり前のことなのに、少しだけ胸が苦しくなる。
「ひとつ学年が違うだけで一緒にいられる時間が違いすぎるとか……ずりーな!ホントにさ」
確かに、学年が違えば一緒に過ごす時間が少なくなるというのは必然的なことだ。
学年ごとの行事もあるし、公式行事での他学年との交流はそう多くない。
「……でも、私が一緒にいる時間が長いのって左近くんだと思うよ。放課後も一緒にいること多いし、きっと同学年の誰よりも一緒にいる」
「……え?まじ?」
これが実際、まじなのだ。
私は同学年に友達が少ない。入学直前に数週間の入院を言い渡され、私が学校に通えるようになった頃にはある程度グループの輪ができていた。そこに入り込む気力はなかったし、そもそも集団行動自体あまり好きでない。
クラスメイトとそこそこ会話はするが、いつも一緒にいるような人はいない。
……左近くんとはひとつ学年が違うはずなのに、なんでこんなに一緒にいるようになったんだろう?
「左近くんとは休日もなんだかんだで会ってるし……いや、同学年の友達をもっとつくれって話なんだけど」
「つ、作んなくていい!作んなくていいです!むしろ俺だけと遊んでくださいお願いします!」
……本当にそれでいいのだろうか。なんだか左近くんに甘えてしまっているようで申し訳ない。私のほうが年上なのに。
「私は左近くんだけでいいけど、左近くんは人望あるんだから私以外の人とも遊ばないと」
「…………あの、結構マジメな話してるとこホントすんません。今の"左近くんだけでいい"ってヤツ、もう一回言ってもらってもいいスか」
「え?な、なんで?」
「だってこんな都合のいいこと二度と聞けないかもしんねーし!?将来言ってくれる予定あります!?」
「ええ……」
体調が急激に良くなったのだろうか。
項垂れていた左近くんは何処へ行ってしまったんだ。
「てか待って?俺たちずっと玄関で話してる?なまえさん、流石に上がって?」
「だ、だって来たら左近くんがここで項垂れてたから……!」
なんだか元気になったらしい。いや、いいことなんだけど回復が突然だな……。
私が困惑していると「ま、とりあえず部屋行きましょっか!」と催促されたので靴を脱いで左近くんの後をついていく。
「あの時はほら、なまえさんが来たら出迎えなきゃと思って」
「体調悪いときはお布団で寝るものだよ、私の出迎えなんてしなくていいんだよ」
「じゃあお布団で聞きますね、さっきの"左近くんだけがいい"って台詞!」
左近くんは私の方へ振り返ると、ニカっと笑ってそう答えた。
「そ、そんなニュアンスだったかなあ!?」
成り行きでそんなことを言ったような気はするけど、絶対にそんなニュアンスじゃなかった!
どうやらさりげなく改変されてしまったらしい。
「……あ、やっぱ今聞きたい。俺が質問するんで、なまえさんにそう答えてほしい」
「今!?突然だなあ……」
左近くんだけがいい、なんて答えになる質問があるのだろうか。
「我ながらちょっとずりーけど……俺、なまえさんの彼氏になりたい。なまえさんは俺がいいって思ってくれる?」
左近くんは私の目をじっと見つめながらとんでもない質問をしてきた。
……こんなのほぼ誘導尋問だ。ちょっとずるいどころじゃない。
「……なんて、なまえさんは全然そんなこと思ってなかったり?」
左近くんの視線が私から逸れる。
そんなこと思ってないわけない。私、私は……。
「左近くんがいい。左近くん、だけが……いい」
一気に顔へ熱が集まってくる。
質問の回答はこれで合ってるんだっけ?もう色々とわからなくなってきた。
「……んなこと言われたら、一生離しませんからね!?」
「わっ」
び、びっくりした。左近くんが急に正面から抱きついてきた。
「そんな、俺だけがいいとか……ヤバいですって!夢?え、夢だったらどうしよ……」
「そっちが回答指定してきたんだよね!?あと夢じゃないからね、勝手に夢にしないでね」
「え、やばくね……?なまえさんが俺の彼女……!?」
─────この後も左近くんのはしゃぎっぷりは凄かった。数十分に一回は「夢かも……」とか言い出すし目が合えば距離を詰められて抱き付かれるし。
「どうしよ、なまえさんに帰ってほしくない……」
左近くんが今とんでもないことを呟いた気がする。完全に回復したらまたここに来るから、とでも言えば安静にしてくれるだろうか。
〈いま1人で、なまえさんしか頼れなくて〉
〈不在着信〉
─────背筋が凍った。
メッセージアプリを開いて、真っ先に飛び込んできたメッセージがこれだったのだから。
今日の体育祭を体調不良で休んだ後輩、左近くんからのメッセージだった。
*
これは緊急事態というやつなのかもしれない。私はすぐに早退することを決意した。
クラスメイトと担任には体調不良だと伝えた上でこっそりとグラウンドを抜け出し、体育祭に浮かれる集団を避けつつ教室へ向かう。荷物を取りに行かねばならないからだ。
〈左近くん、家にいるんだよね?私これから左近くんちに向かうから、何か必要なものあれば買って行くから言ってね〉
さっき私が送ったメッセージに返信はない。既読表示はあるので確認はしてくれたんだろうけど……いや、まさか画面を付けたまま部屋で倒れてるなんてことないよね?
左近くんは一人暮らしだ。
普段は三成くんや刑部に色々と助けられているみたいだけど、今日はふたりとも生徒会役員として重要な役割を担っている。きっと左近くんのところへ赴くのは難しいだろうし、左近くんもそれを知っているから二人に連絡はしていないだろう。
……「私にしか頼れない」とメッセージに書いていたし、もしかしたらあまり人には知られたくないのかもしれない。
とりあえず家に行ってみて、本当に緊急事態だった場合は三成くんや刑部に連絡しよう。
*
「はぁ……つ、着いた……」
何とか左近くんが暮らすアパートに辿り着いた。走ってきたので息切れが激しい。
「えーと、部屋番号も合ってるし……うん、大丈夫なはず」
実は左近くんが住む部屋には何度か訪れている。といっても、貸し借りしたゲームや本を玄関で手渡ししただけだ。
とりあえずインターホンを押してみる。
「………………あれ?」
確実にインターホンは押したはずだ。念のためもう一度押してみる。
ピンポン、と音が響く。
……しかし、肝心の左近くんが出てこない。
出てくるどころか返事もないし……これってやっぱり、まずい状況なんじゃ?
一応携帯のメッセージを確認してみるが、特に通知はきていない。
とりあえず一度左近くんに電話してみよう。電話して出なかったら……管理人さんに言って扉を開けてもらうしかないな。あとは三成くんたちにも連絡して……ってそんなことを考えるのは後々!
着信履歴に表示された左近くんの連絡先をタップし、電話をかける。
……扉の先から聞こえてくるのは、左近くんの携帯の着信音だろうか。 本当に扉の前にいるんじゃないかというくらい鮮明に聞こえる。
左近くん、そこに、近くに……いるの?
「左近くん大丈夫!?そこにいるの!?」
ドアを強くノックしてドアのレバーを握る。当然鍵がかかって……あれ?
「開い、た?」
「……え?うそ、まじ?なまえさん?」
どうやら鍵がかかっていなかったらしいドアが開いて最初に飛び込んできた光景は、玄関先に座って項垂れていた左近くんが私の顔を見るなり目を丸くする姿だった。
「左近くん大丈夫!?私、あのメッセージ見て急いで来たんだけど、その……!」
だめだ、何から聞いたらいいのかわからない。とりあえず意識はあるし、ちゃんと私を認識できているみたいだし……。
「……体育祭」
「え?」
「体育祭、まだ終わってないっしょ……?なのになんで、なまえさんがここに」
左近くんが遠慮がちに聞いてくる。
なんだかいつもの左近くんと違う。元気がないというか、覇気がないというか。
「あんなメッセージ見たら、飛んでくるに決まってるよ……!」
「……っ」
私の顔を見上げていた左近くんは、少しばつが悪そうに顔を逸らした。
「ねえ、どこか痛い?病院に行ったほうがよさそうならどうにかして……」
「なまえさん、なまえさん、俺」
「俺、なまえさんに謝らなきゃなんねー……」
「左近くん……?」
「……体調悪いって言っても、別にもう大したことなくて。別に熱もないし、ちょっと尋常じゃないくらい胃が痛かっただけで」
「じ、尋常じゃないくらい痛いのは大したことだと思うよ!?」
尋常じゃなく痛いってどれくらいなんだ。
大したことないとは言っているけど、どうやら相当苦しんでいたらしい。
「原因もその、昨日の夜賞味期限が尋常じゃなく切れているモン食ったんで」
「なんで食べちゃったの!?」
「博徒の血が騒いで……」
「よりによって体育祭前日に発揮しちゃったんだ……」
「だから本当、別に大したことなくて。でもなんかすげー不安になって……気づいたらなまえさんに連絡してて。本当にすんません!」
「謝ることなんてないよ!そんなの気にしないでいいんだよ左近くん」
「いや、だって別に大したことねーのになまえさんにすがるようなメッセージ送って……それで、なまえさんうちまで走らせてさ」
「……体調悪い時は不安になるよ。私だって前に体調崩した時は寂しかったもの」
一人でいると不安になることも多い。特に自分が不安定な時は。それはきっと左近くんだって同じはずで。
「え!?いやいやいやそういう時は気軽に俺呼んでくださいってば!俺けっこう暇だし!暇じゃなくてもなまえさんのためならどこへでも行くし!?」
「な、なんか突然元気になってない!?」
「だってなまえさんが不安な時に側にいなかったとか、もう、そんなの……!まじで!」
「そんなに落ち込まないで!?あの時はまだ連絡先も交換してなかったし、多分顔見知り程度だったよ私たち」
そう、けっこう前の出来事だ。
左近くんは入学したてだったんじゃないだろうか。
「顔見知り……」
「うん、だって春くらいだったよ確か」
「あー、もっとなまえさんと早く仲良くなっとけば……いいなー、なまえさんと同じ学年の人たちって」
「え?どうして?」
「だってなまえさんと一緒に授業受けられるし、行事だって一緒に……修学旅行だって一緒に行けるし」
「左近くんと同じ学年だったら一緒に行動してたかもね。修学旅行とか」
「……なまえさんのほうが、俺より先に卒業しちゃうんでしょ?」
─────卒業。
まだ先のことだけど、いずれその日はやってくる。私の方が先に卒業する……当たり前のことなのに、少しだけ胸が苦しくなる。
「ひとつ学年が違うだけで一緒にいられる時間が違いすぎるとか……ずりーな!ホントにさ」
確かに、学年が違えば一緒に過ごす時間が少なくなるというのは必然的なことだ。
学年ごとの行事もあるし、公式行事での他学年との交流はそう多くない。
「……でも、私が一緒にいる時間が長いのって左近くんだと思うよ。放課後も一緒にいること多いし、きっと同学年の誰よりも一緒にいる」
「……え?まじ?」
これが実際、まじなのだ。
私は同学年に友達が少ない。入学直前に数週間の入院を言い渡され、私が学校に通えるようになった頃にはある程度グループの輪ができていた。そこに入り込む気力はなかったし、そもそも集団行動自体あまり好きでない。
クラスメイトとそこそこ会話はするが、いつも一緒にいるような人はいない。
……左近くんとはひとつ学年が違うはずなのに、なんでこんなに一緒にいるようになったんだろう?
「左近くんとは休日もなんだかんだで会ってるし……いや、同学年の友達をもっとつくれって話なんだけど」
「つ、作んなくていい!作んなくていいです!むしろ俺だけと遊んでくださいお願いします!」
……本当にそれでいいのだろうか。なんだか左近くんに甘えてしまっているようで申し訳ない。私のほうが年上なのに。
「私は左近くんだけでいいけど、左近くんは人望あるんだから私以外の人とも遊ばないと」
「…………あの、結構マジメな話してるとこホントすんません。今の"左近くんだけでいい"ってヤツ、もう一回言ってもらってもいいスか」
「え?な、なんで?」
「だってこんな都合のいいこと二度と聞けないかもしんねーし!?将来言ってくれる予定あります!?」
「ええ……」
体調が急激に良くなったのだろうか。
項垂れていた左近くんは何処へ行ってしまったんだ。
「てか待って?俺たちずっと玄関で話してる?なまえさん、流石に上がって?」
「だ、だって来たら左近くんがここで項垂れてたから……!」
なんだか元気になったらしい。いや、いいことなんだけど回復が突然だな……。
私が困惑していると「ま、とりあえず部屋行きましょっか!」と催促されたので靴を脱いで左近くんの後をついていく。
「あの時はほら、なまえさんが来たら出迎えなきゃと思って」
「体調悪いときはお布団で寝るものだよ、私の出迎えなんてしなくていいんだよ」
「じゃあお布団で聞きますね、さっきの"左近くんだけがいい"って台詞!」
左近くんは私の方へ振り返ると、ニカっと笑ってそう答えた。
「そ、そんなニュアンスだったかなあ!?」
成り行きでそんなことを言ったような気はするけど、絶対にそんなニュアンスじゃなかった!
どうやらさりげなく改変されてしまったらしい。
「……あ、やっぱ今聞きたい。俺が質問するんで、なまえさんにそう答えてほしい」
「今!?突然だなあ……」
左近くんだけがいい、なんて答えになる質問があるのだろうか。
「我ながらちょっとずりーけど……俺、なまえさんの彼氏になりたい。なまえさんは俺がいいって思ってくれる?」
左近くんは私の目をじっと見つめながらとんでもない質問をしてきた。
……こんなのほぼ誘導尋問だ。ちょっとずるいどころじゃない。
「……なんて、なまえさんは全然そんなこと思ってなかったり?」
左近くんの視線が私から逸れる。
そんなこと思ってないわけない。私、私は……。
「左近くんがいい。左近くん、だけが……いい」
一気に顔へ熱が集まってくる。
質問の回答はこれで合ってるんだっけ?もう色々とわからなくなってきた。
「……んなこと言われたら、一生離しませんからね!?」
「わっ」
び、びっくりした。左近くんが急に正面から抱きついてきた。
「そんな、俺だけがいいとか……ヤバいですって!夢?え、夢だったらどうしよ……」
「そっちが回答指定してきたんだよね!?あと夢じゃないからね、勝手に夢にしないでね」
「え、やばくね……?なまえさんが俺の彼女……!?」
─────この後も左近くんのはしゃぎっぷりは凄かった。数十分に一回は「夢かも……」とか言い出すし目が合えば距離を詰められて抱き付かれるし。
「どうしよ、なまえさんに帰ってほしくない……」
左近くんが今とんでもないことを呟いた気がする。完全に回復したらまたここに来るから、とでも言えば安静にしてくれるだろうか。
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