藍色に染まる
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夜の静けさを壊すように音が鳴り、その音の方を見れば時計が深夜の時間を知らせていた
同じ体勢で作業をしていた為か体を少し伸ばせばパキパキと小さく音が鳴りどっと疲れが押し寄せる
『ふう・・・あと少しだけやろうかなあ』
どうせ
息抜きでもしようと引き寄せられる様に外へ出て見上げる
『今頃皆はもう楽しんで帰った後かなあ、私も行けばよかったかな』
今日は隊関係なく花見を理由に集まる事になっていた
私は大勢の催しは嫌いではないが得意でもない、それに仕事も今日中やらねば明日痛い目を見るのは自分だと思い断った
もう一度深くため息を吐いて桜を見上げれば風に揺られて数枚花びらが舞う、それを目で追いながら下に視線を移すと小さく折れてしまった枝が目に入る
『ありゃ…、可哀そうに』
少し萎れた桜が2つ程ついておりそのまま枝を手に取れば落ちた花も綺麗だなと眺める
すると足音とともに声がした
「こんばんは、一人で花見かい?」
『・・・うぇ?!』
驚き振り向くと、普段は見ない顔が見えた
『あ、藍染隊長!こんな所にどうしたんですか?』
「自分の隊を見回りして帰ろうと思っていたら、更木隊長に頼まれたんだ
まだ残っている奴がいるから帰らせろとね」
『はあ…何も藍染隊長の事パシらなくてもいいのに、なんだかすみません』
「気にしなくていいよ。ところで、君は参加しないのかい?」
『自分は仕事も溜まってたので良いんです、こうやってのんびりする方が好きですし』
他の隊長と会話をしない事も無いがこうやって2人きりになる事も少なく、緊張して先ほどの枝をくるくると指で回す
「では、僕と2人ならどうかな」
『…っえぇ!?帰る所だったんじゃないんですか?』
「そのつもりだったんだがね、こうやって会話する事も少なかっただろう?君とはゆっくり話をしてみたかったんだ」
隊長がそういうならと二人で縁側へと近寄ったついでに部屋の明かりを消せば藍染は不思議そうな顔をしていた
『ふふ、何してるんだって顔してますね。ほら、上を見てください』
「上?⋯⋯これは、綺麗だ」
『今日は月が明るいですから、灯としては十分に感じませんか?』
木々の隙間から、桜の花々達の間から漏れる月明りは幻想のようにも見えた
「ああ、確かにこれなら十分だよ」
ふと横を見れば元より顔が良いのはあるのだろうが、藍染隊長の横顔も月明りに照らされて綺麗に輝いて見えた
「僕の顔に何か付いているのかな」
『あ、すみません横顔綺麗だったので見惚れてました』
へへ、と笑えば君は素直だねと言われる
『良いものは良いっていう主義なんです。誰かに思いを伝えられるのは常ではないですから』
「そうか…うん、確かにそれも悪くないかもしれないね
でも、嫌な事もきちんと嫌だと言わなければいけないよ」
『嫌なことですか?』
「仕事の事とか、ね」
そうやって見た視線の先には山積みになった書類達だった
『あー、親さん…いえ、真面目に仕事をしてくれる人は綾瀬川さんぐらいですから
彼が倒れたら困るんです』
「でも君が倒れても困るだろう?」
『私は倒れないですよ!見ての通り元気ですし、実はここだけの話なんですけど・・・・修練時間にサボってるときあるんです』
内緒ですよと言えばすくすと笑いあった
月が雲から大きく顔を出した時に二人をさらに照らし出し、凛は目を細め空を見た
手に握っていた桜を少し上へ掲げながらシャボン玉を吹くように花に息を吹きかける
先程よりも萎れてしまった花弁は1枚ずつ剥がれ遠くへと風に流されて行った
『あ、突然でしたよねすみません。
落ちた枝が可哀そうだったので……次は少しでも長く咲けるようにっておまじないをかけたんです』
「そんな事ができるのかい?」
『⋯⋯どうでしょう?』
少し考え込んでからそう言えばキョトンとする藍染隊長の顔がなんだか可愛くて笑ってしまった
『ふふ、特別な力がある訳じゃなくて
小さな時の記憶なんですけど⋯こうやって思いを乗せればまた巡り会えると教わったんです』
姿が変わろうともまた巡り会いたい
この美しい花たちにもまた出会いたいと続ける凛のふわりと笑う顔に藍染は惹かれ、風に揺れる髪に触れた
『あの⋯?』
「私の横顔を綺麗だと言ったね
僕には君の方が美しく見えるよ」
そう言って頬に触れる手は暖かく優しかった
凛は慣れない言葉のせいか顔に熱が集まる
赤らんだ顔が桜に色がついたように可愛らしく藍染は普段感じる事の無い不思議な感覚へと落ちる
暫く沈黙が続くと、それを遮るようにまた時計が鳴り2人を現実へ戻らせた
「名残惜しいが⋯⋯もうこんな時間か、長く付き合わせてしまったね」
『い、いえ、楽しかったです!』
「ふむ⋯⋯良ければまたお茶でもどうかな」
『⋯へ?!』
「すまない、迷惑だったかな」
『⋯ち、ちがいます。迷惑とかじゃなくて⋯私なんかでいいのかな、と』
「凛君が良いんだよ」
『な、何で名前を⋯?』
「この方が君に伝わるかと思ってね」
悪戯っ子のように笑う藍染に凛はほんの一瞬胸が締め付けられる、この感覚は何だろうと不思議に思った
「それで、どうかな?」
『ぁ、えと、是非お茶しましょう。今度は隊長のことも教えてくださいね』
「勿論、君の部屋まで送ろう」
そうして帰路に着いた凛は布団の中で脈打つ胸を抱きしめ眠った
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