マギ夢小説<紅炎寄り>
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ナマエは体を震わせて部屋の片隅に小さくなっていた。
「ええ〜?炎兄のその手、あいつが噛んだせいなの?」
「紅覇、静かにしなさい。……それで兄上、体はもう大丈夫なのですか?フェニクスは発動できますか?」
「……これしきの傷、何でもない。それで、紅明。その娘のことは……」
「一応、神官であるジュダルは呼んでいますけど……いつ来ることやら」
「気分屋だからねー、あいつ。調べるとか言ってうっかり殺しちゃいそうになるかもよー?」
「紅覇、怯えさせるような発言をしてはいけませんよ」
目の前で交わされる会話にナマエはびくびくしながら状況を把握しようとする。だがどんな状況なのかはもはや一つの道しか考えられない。
じーっと見下ろす強面の男(紅炎と言うらしい)の手に噛み付いて傷つけたことで、自分は命を奪われることになる道。
(こわい……もう、なんか何もかもがこわい……)
「おい」
「ひっ……!?」
「お前、名は」
「ナマエ、……で、です……」
「どこから来た」
「わ、わかりません……です」
「何か覚えていることは」
「な、何も、覚えていなくて……気がついたら、あ、あの、」
「俺の手に噛みついていた、か?」
「……ご、ごめんなさいごめんなさい!あああああの、わ、わたし、何も知らなくて、でででも、噛みたくて噛んだわけでは、ええと、ええと、」
体が震えながらもナマエは命乞いを試みた。
「わわわたし!な、何でもしますから、許してくださいです!」
勢いのまま頭を下げる。半泣き状態でもう必死だったのだろうと思う。
何故なら紅炎が笑っていたことにナマエは気がついていなかったのだから。
「……言ったな?」
「え?」
「兄上?」
「炎兄?」
「ナマエ。お前の命は俺が保証する、誰にもお前を殺させはしない」
「ほ、ほんと」
「ただし」
紅炎はがしっ!とナマエの肩を掴んだ。
「お前は今から俺の侍女だ。俺が許すまで側を離れることは許さん」
「え、」
「はあ!?」
紅明と紅覇は思わず声を上げて紅炎を見た。一方、ナマエはぽかーんと紅炎を見上げて声を発しない。呆気に取られる兄弟に構わず、完全に固まったナマエを紅炎は紅覇の侍女に「すぐにこの娘の身なりを整えろ」と預けた。
練紅炎。
それが自分の主人になる男の名前だと改めて教えられた後、ナマエは様々な場所を案内された。しかし煌帝国の城内は一回だけで覚えられるほど小さく狭くない。つまり、下手に歩き回ると迷うのだ。
迷ったら迷惑がかかる。迷惑になったら殺される。そういう考えでいたナマエは極力、紅炎の側に控えるようになっていった。それを知っているのかはたまた知らないのかは定かではないが、紅炎は今までの侍女の誰よりも近くにナマエを置いている。
そのことが侍女たちの中で醜い嫉妬を抱かせていた。
「あなた、今日は一人で紅炎様の部屋を掃除してくれるかしら?」
「え……」
紅炎の部屋、と言われても第一皇子の部屋は決して少なくない。さらに広さも造りも身分に相応しいものなので充分な配慮をしなくてはならない。通常は必ず複数人で掃除を担当するものだが、今日はそれをナマエ一人でやれと言う。
わかりやすい嫌がらせである。
「私たち、あなたのように暇ではないの。他の侍女は別の仕事を受けているから、頑張って励むことね」
くすくす、と悪意の込められた微笑を浮かべながら侍女たちは立ち去っていった。一人残されたナマエは小さく息をついて掃除を始める。
こういうことはたまにある。紅炎の目が届かないところで目立たない程度に嫌がらせをしてくる侍女たちにはナマエは若干慣れ始めていた。
紅炎にはこのことは伝えないようにしている。話したところで空気が悪くなるだけだし、侍女たちの気持ちもわからなくないからだ。誰だって今まで自分たちが苦労して手に入れた居場所を荒らされるのは気分が悪い。居場所を荒らしている気など全くないナマエだが、きっとナマエの存在そのものが気に入らないのだろう。
(今わたしにできることは不満を抱かせないように仕事をするだけだ)
ナマエは自分が特別ではないことを知っている。ただ幸運だっただけだ。偶然紅炎に拾われ、拾われ方が普通じゃなかったと言われても現実は変わらない。だから自分はただその幸運に報いる必要があるとナマエは思う。
(……紅炎さまが帰ってくる前に掃除をしなくてはいけない部屋は……書簡室、寝室、は最低限済ませておかないと)
迅速、そして清潔にする掃除術は紅覇の侍女たちに教えてもらった。厳しく教えられたので淡々と掃除をしているが、一番重要なことは『愛する主人への感謝と敬意』だと言う。
(……紅覇さまの侍女さんたちは紅覇さまのこと、大好きなんだろうなぁ)
紅覇の世話をありがたく、嬉しそうにしているのは流石のナマエでもわかる。だが、ああはなれないとも思う。様々な意味で。
「書簡室、やっと掃除できた……」
掃除の最終チェックを終えたナマエはほっと息をついて、
「今帰った」
低い声が上から降ってきてナマエは飛び上がった。瞬間、体がぶつかった机から積み上げた本を数冊落とす。
「あ……」
「………」
血の気が引いたナマエは急いで謝って本を拾う。……と、思ったがそれよりも紅炎の動きの方が早い。
「も、申し訳ありません、紅炎さま……」
「今日は一人か」
「え!?あ、ああ、他の人たちは、他の場所を掃除していまして……」
「お帰りなさいませ、紅炎様」
いつのまにか他の侍女たちが整列しており、出迎えていた。
「申し訳ありません、彼女がどうしてもこの部屋を掃除したいと申しましたので、お任せしたのですが……どうやらその荷が重かったようですわ」
美しく微笑む侍女たちに、ナマエは静かに「申し訳ありません」と俯いた。
実際、仕事が他の侍女たちに比べれば遅いのは確かだ。紅炎の帰る前に済ませておかなければならない仕事が丁寧に、完璧にできるまでにはまだまだナマエの経験が足らないのだ。
(……元々、相応しくないのはわかってる)
紅炎の気まぐれで侍女になったが、ナマエには荷が重すぎた。
わかっている。わかっているのに。
「ではこの場はお前たちに任せる」
「え」
「仕事の邪魔になるのなら、俺はナマエを連れて席を外そう。……行くぞ、ナマエ」
ぐん、と腕の引かれてナマエは紅炎に連れて行かれる。他の侍女たちは呆気に取られ、ナマエも紅炎を見上げたまま歩き出す。
(この人は……どうしていつも)
いつも、ナマエが泣く前に手を差し伸べてくれるのだろうか。
「紅炎さま、」
「なんだ」
「どうして、わたしを侍女にしたんですか?」
「……?言っていなかったか?」
「はい」
「正体不明のお前に興味があった。俺は知的好奇心が強いからな、意外と」
「(意外と?)……わたしは、ただの他人の娘です。無力で、無知な、弱い……」
「強さも知識も磨けばどうとでもなる。だが、お前の可能性はお前だけのものだ」
「可能性……?」
「俺はお前の可能性がどう成長するのか見たい。だから側に置いた……これが理由の一つだ」
「……ひとつ?」
「ああ」
「他にも、理由があるんですか?」
「まあな」
「………」
多分、紅炎さまはその理由を教えてはくれない。なんとなく、そう思う。
けれど。
「紅炎さま」
「ん?」
「わたし、侍女の仕事をもっと頑張ります。紅炎さまの迷惑にならないように、恩を報いることができるように。だから、」
この人のことを主として誇れるように。
「もう少しだけ、側にいてもいいでしょうか」
わたしがそう言うと紅炎さまはかすかに頬を緩ませる。
「当然だ。お前は、俺のものなのだから」
「ええ〜?炎兄のその手、あいつが噛んだせいなの?」
「紅覇、静かにしなさい。……それで兄上、体はもう大丈夫なのですか?フェニクスは発動できますか?」
「……これしきの傷、何でもない。それで、紅明。その娘のことは……」
「一応、神官であるジュダルは呼んでいますけど……いつ来ることやら」
「気分屋だからねー、あいつ。調べるとか言ってうっかり殺しちゃいそうになるかもよー?」
「紅覇、怯えさせるような発言をしてはいけませんよ」
目の前で交わされる会話にナマエはびくびくしながら状況を把握しようとする。だがどんな状況なのかはもはや一つの道しか考えられない。
じーっと見下ろす強面の男(紅炎と言うらしい)の手に噛み付いて傷つけたことで、自分は命を奪われることになる道。
(こわい……もう、なんか何もかもがこわい……)
「おい」
「ひっ……!?」
「お前、名は」
「ナマエ、……で、です……」
「どこから来た」
「わ、わかりません……です」
「何か覚えていることは」
「な、何も、覚えていなくて……気がついたら、あ、あの、」
「俺の手に噛みついていた、か?」
「……ご、ごめんなさいごめんなさい!あああああの、わ、わたし、何も知らなくて、でででも、噛みたくて噛んだわけでは、ええと、ええと、」
体が震えながらもナマエは命乞いを試みた。
「わわわたし!な、何でもしますから、許してくださいです!」
勢いのまま頭を下げる。半泣き状態でもう必死だったのだろうと思う。
何故なら紅炎が笑っていたことにナマエは気がついていなかったのだから。
「……言ったな?」
「え?」
「兄上?」
「炎兄?」
「ナマエ。お前の命は俺が保証する、誰にもお前を殺させはしない」
「ほ、ほんと」
「ただし」
紅炎はがしっ!とナマエの肩を掴んだ。
「お前は今から俺の侍女だ。俺が許すまで側を離れることは許さん」
「え、」
「はあ!?」
紅明と紅覇は思わず声を上げて紅炎を見た。一方、ナマエはぽかーんと紅炎を見上げて声を発しない。呆気に取られる兄弟に構わず、完全に固まったナマエを紅炎は紅覇の侍女に「すぐにこの娘の身なりを整えろ」と預けた。
練紅炎。
それが自分の主人になる男の名前だと改めて教えられた後、ナマエは様々な場所を案内された。しかし煌帝国の城内は一回だけで覚えられるほど小さく狭くない。つまり、下手に歩き回ると迷うのだ。
迷ったら迷惑がかかる。迷惑になったら殺される。そういう考えでいたナマエは極力、紅炎の側に控えるようになっていった。それを知っているのかはたまた知らないのかは定かではないが、紅炎は今までの侍女の誰よりも近くにナマエを置いている。
そのことが侍女たちの中で醜い嫉妬を抱かせていた。
「あなた、今日は一人で紅炎様の部屋を掃除してくれるかしら?」
「え……」
紅炎の部屋、と言われても第一皇子の部屋は決して少なくない。さらに広さも造りも身分に相応しいものなので充分な配慮をしなくてはならない。通常は必ず複数人で掃除を担当するものだが、今日はそれをナマエ一人でやれと言う。
わかりやすい嫌がらせである。
「私たち、あなたのように暇ではないの。他の侍女は別の仕事を受けているから、頑張って励むことね」
くすくす、と悪意の込められた微笑を浮かべながら侍女たちは立ち去っていった。一人残されたナマエは小さく息をついて掃除を始める。
こういうことはたまにある。紅炎の目が届かないところで目立たない程度に嫌がらせをしてくる侍女たちにはナマエは若干慣れ始めていた。
紅炎にはこのことは伝えないようにしている。話したところで空気が悪くなるだけだし、侍女たちの気持ちもわからなくないからだ。誰だって今まで自分たちが苦労して手に入れた居場所を荒らされるのは気分が悪い。居場所を荒らしている気など全くないナマエだが、きっとナマエの存在そのものが気に入らないのだろう。
(今わたしにできることは不満を抱かせないように仕事をするだけだ)
ナマエは自分が特別ではないことを知っている。ただ幸運だっただけだ。偶然紅炎に拾われ、拾われ方が普通じゃなかったと言われても現実は変わらない。だから自分はただその幸運に報いる必要があるとナマエは思う。
(……紅炎さまが帰ってくる前に掃除をしなくてはいけない部屋は……書簡室、寝室、は最低限済ませておかないと)
迅速、そして清潔にする掃除術は紅覇の侍女たちに教えてもらった。厳しく教えられたので淡々と掃除をしているが、一番重要なことは『愛する主人への感謝と敬意』だと言う。
(……紅覇さまの侍女さんたちは紅覇さまのこと、大好きなんだろうなぁ)
紅覇の世話をありがたく、嬉しそうにしているのは流石のナマエでもわかる。だが、ああはなれないとも思う。様々な意味で。
「書簡室、やっと掃除できた……」
掃除の最終チェックを終えたナマエはほっと息をついて、
「今帰った」
低い声が上から降ってきてナマエは飛び上がった。瞬間、体がぶつかった机から積み上げた本を数冊落とす。
「あ……」
「………」
血の気が引いたナマエは急いで謝って本を拾う。……と、思ったがそれよりも紅炎の動きの方が早い。
「も、申し訳ありません、紅炎さま……」
「今日は一人か」
「え!?あ、ああ、他の人たちは、他の場所を掃除していまして……」
「お帰りなさいませ、紅炎様」
いつのまにか他の侍女たちが整列しており、出迎えていた。
「申し訳ありません、彼女がどうしてもこの部屋を掃除したいと申しましたので、お任せしたのですが……どうやらその荷が重かったようですわ」
美しく微笑む侍女たちに、ナマエは静かに「申し訳ありません」と俯いた。
実際、仕事が他の侍女たちに比べれば遅いのは確かだ。紅炎の帰る前に済ませておかなければならない仕事が丁寧に、完璧にできるまでにはまだまだナマエの経験が足らないのだ。
(……元々、相応しくないのはわかってる)
紅炎の気まぐれで侍女になったが、ナマエには荷が重すぎた。
わかっている。わかっているのに。
「ではこの場はお前たちに任せる」
「え」
「仕事の邪魔になるのなら、俺はナマエを連れて席を外そう。……行くぞ、ナマエ」
ぐん、と腕の引かれてナマエは紅炎に連れて行かれる。他の侍女たちは呆気に取られ、ナマエも紅炎を見上げたまま歩き出す。
(この人は……どうしていつも)
いつも、ナマエが泣く前に手を差し伸べてくれるのだろうか。
「紅炎さま、」
「なんだ」
「どうして、わたしを侍女にしたんですか?」
「……?言っていなかったか?」
「はい」
「正体不明のお前に興味があった。俺は知的好奇心が強いからな、意外と」
「(意外と?)……わたしは、ただの他人の娘です。無力で、無知な、弱い……」
「強さも知識も磨けばどうとでもなる。だが、お前の可能性はお前だけのものだ」
「可能性……?」
「俺はお前の可能性がどう成長するのか見たい。だから側に置いた……これが理由の一つだ」
「……ひとつ?」
「ああ」
「他にも、理由があるんですか?」
「まあな」
「………」
多分、紅炎さまはその理由を教えてはくれない。なんとなく、そう思う。
けれど。
「紅炎さま」
「ん?」
「わたし、侍女の仕事をもっと頑張ります。紅炎さまの迷惑にならないように、恩を報いることができるように。だから、」
この人のことを主として誇れるように。
「もう少しだけ、側にいてもいいでしょうか」
わたしがそう言うと紅炎さまはかすかに頬を緩ませる。
「当然だ。お前は、俺のものなのだから」