マギ夢小説<紅炎寄り>
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戦争が終わった。煌帝国は反乱軍によって壊滅状態となり、今では練紅玉が女王として治めようとしている。……そうナマエは聞いただけで、何もできなかった。
今のナマエはシンドリア王国の宮殿で体調不良のために療養中だった。面会できるのは医師と、医師に面会を許された限られた者だけで、ナマエはずっと意識が曖昧な状態で眠っている。
「今日も眠ったまま、か」
ナマエの容体をジャーファルから聞いたシンドバッドは表情を曇らせた。また、ナマエを可愛がっていたジャーファルも同じ表情を見せている。
ナマエが体調不良になったのは戦争を終えた、その直後のことだ。身体を維持するためのルフの供給は何とか現状維持をできているが、問題は精神だ。
戦争終結後、紅炎は処刑された。その現実が、今のナマエを大きく左右しているのだろう。以来、ナマエはシンドリア王国に救助されて、ヤムライハが作った魔力蓄蔵装置の中で眠り続けていた。
だが、いつ急変してもおかしくない。何よりナマエは存在していることがおかしい、異世界の人間だったのだから。
「このままでは良くない。……早く、ルフを書き換えなければ」
シンドバッドは深く目を閉じる。思い出すのは彼女の微笑。
ルフの書き換えさえすれば、ナマエはこの世界の住人として幸せになれる。発作を起こすこともないし、何よりシンドバッドはナマエの幸せを心から望んでいるし、幸せにしたいと思っている。彼女の幸せのためなら自分の妻に迎えて、ずっと守り続けられる自信があった。
だから、可哀想であり、痛々しい姿のナマエは今の世界に相応しくない。
彼女は幸せになっていいはずだ。たとえ大事な人を戦争で失ったとしても、死人に縛られ続ける人生は虚しく辛いだけなのはシンドバッドがよく知っている。
「……また、彼女の容体で変化があったら教えてくれ」
「はい」
静かに退室する部下を見送ったシンドバッドは深く息を吐く。
戦争で勝利することは簡単だ。だが、人の心はそう簡単に変えられない。
それもまた、シンドバッドはよく知っていた。
(俺がいなくなったら、お前はどうする?)
戦争が始まる直前に、紅炎はそう尋ねた。それに対してナマエは心臓を握られたような、そんな感覚を覚えた。
考えたことがなかった質問だったのでナマエは何も答えられなかった。ただ、首を振ることしかできないナマエに紅炎は。
(お前に辛い思いをさせることになるだろう。出会わなければよかったと思うほどに、俺はお前を手放したくない。だから)
紅炎は申し訳なさそうに笑う。
初めて見た表情に、ナマエは不安に駆られた。
(俺が死んだら、お前は俺の腕から解き放たれることができるのだろうな)
紅炎さま、どうして。
ぼろぼろと涙を溢れさせるナマエを、紅炎は。
お願い、奪わないで。わたしからその人を奪わないで。
思えば思うほどに応えてくれる存在がいた。
手を伸ばせば、繋いでくれる温もりは、確かにあったのだ。
けれど。
(もう、どこにも……いないの)
ナマエは、その時に思った。気付いてしまった。
(わたしが、本当に欲しかったのは)
自分を愛してくれる存在がいてくれればいいと思い込んでいた。愛されていれば、自分は意味のある存在なのだと信じられるのだ。だから悲しみも寂しさも抱くことはない、幸せだけが心と身体を満たしてくれるのだと思っていた。
(………違う)
自分は恵まれていて、欲張りだと思う。自分を愛してくれる人は、思ってくれる人は存在しているというのに。
「………う、……ん、」
溢れる涙の冷たさに、ナマエは目を覚ます。
声がかすれて、言葉にならない。身体に力が入らない。
けれど心はたくさんの感情で溢れて止まらなかった。
(こんなにも、自分の感情があるなんて知らなかった)
自分が自分でなくなる感覚。まるで自分以外の誰かがいるような、そんな気がする。
(もう一度、会いたい)
『もう二度と、会わない方がいい』
(ここから早く駆け出したい)
『ここからもう出たくない』
(だって、わたしが欲しかったのは)
ずっとずっと、願っていたのは。
愛される自分、ではない。
自分が愛する、唯一の人だったのだ。
だから。
「あ、い……たい」
わたしが愛する、あの人に。
「紅炎、さま……に、会いたい」
その瞬間、ナマエのルフが溢れると姿を変えて、飛び立った。
医師が気付いた時にはすでに遅く。
ナマエはその部屋から跡形もなく消失していた。
今のナマエはシンドリア王国の宮殿で体調不良のために療養中だった。面会できるのは医師と、医師に面会を許された限られた者だけで、ナマエはずっと意識が曖昧な状態で眠っている。
「今日も眠ったまま、か」
ナマエの容体をジャーファルから聞いたシンドバッドは表情を曇らせた。また、ナマエを可愛がっていたジャーファルも同じ表情を見せている。
ナマエが体調不良になったのは戦争を終えた、その直後のことだ。身体を維持するためのルフの供給は何とか現状維持をできているが、問題は精神だ。
戦争終結後、紅炎は処刑された。その現実が、今のナマエを大きく左右しているのだろう。以来、ナマエはシンドリア王国に救助されて、ヤムライハが作った魔力蓄蔵装置の中で眠り続けていた。
だが、いつ急変してもおかしくない。何よりナマエは存在していることがおかしい、異世界の人間だったのだから。
「このままでは良くない。……早く、ルフを書き換えなければ」
シンドバッドは深く目を閉じる。思い出すのは彼女の微笑。
ルフの書き換えさえすれば、ナマエはこの世界の住人として幸せになれる。発作を起こすこともないし、何よりシンドバッドはナマエの幸せを心から望んでいるし、幸せにしたいと思っている。彼女の幸せのためなら自分の妻に迎えて、ずっと守り続けられる自信があった。
だから、可哀想であり、痛々しい姿のナマエは今の世界に相応しくない。
彼女は幸せになっていいはずだ。たとえ大事な人を戦争で失ったとしても、死人に縛られ続ける人生は虚しく辛いだけなのはシンドバッドがよく知っている。
「……また、彼女の容体で変化があったら教えてくれ」
「はい」
静かに退室する部下を見送ったシンドバッドは深く息を吐く。
戦争で勝利することは簡単だ。だが、人の心はそう簡単に変えられない。
それもまた、シンドバッドはよく知っていた。
(俺がいなくなったら、お前はどうする?)
戦争が始まる直前に、紅炎はそう尋ねた。それに対してナマエは心臓を握られたような、そんな感覚を覚えた。
考えたことがなかった質問だったのでナマエは何も答えられなかった。ただ、首を振ることしかできないナマエに紅炎は。
(お前に辛い思いをさせることになるだろう。出会わなければよかったと思うほどに、俺はお前を手放したくない。だから)
紅炎は申し訳なさそうに笑う。
初めて見た表情に、ナマエは不安に駆られた。
(俺が死んだら、お前は俺の腕から解き放たれることができるのだろうな)
紅炎さま、どうして。
ぼろぼろと涙を溢れさせるナマエを、紅炎は。
お願い、奪わないで。わたしからその人を奪わないで。
思えば思うほどに応えてくれる存在がいた。
手を伸ばせば、繋いでくれる温もりは、確かにあったのだ。
けれど。
(もう、どこにも……いないの)
ナマエは、その時に思った。気付いてしまった。
(わたしが、本当に欲しかったのは)
自分を愛してくれる存在がいてくれればいいと思い込んでいた。愛されていれば、自分は意味のある存在なのだと信じられるのだ。だから悲しみも寂しさも抱くことはない、幸せだけが心と身体を満たしてくれるのだと思っていた。
(………違う)
自分は恵まれていて、欲張りだと思う。自分を愛してくれる人は、思ってくれる人は存在しているというのに。
「………う、……ん、」
溢れる涙の冷たさに、ナマエは目を覚ます。
声がかすれて、言葉にならない。身体に力が入らない。
けれど心はたくさんの感情で溢れて止まらなかった。
(こんなにも、自分の感情があるなんて知らなかった)
自分が自分でなくなる感覚。まるで自分以外の誰かがいるような、そんな気がする。
(もう一度、会いたい)
『もう二度と、会わない方がいい』
(ここから早く駆け出したい)
『ここからもう出たくない』
(だって、わたしが欲しかったのは)
ずっとずっと、願っていたのは。
愛される自分、ではない。
自分が愛する、唯一の人だったのだ。
だから。
「あ、い……たい」
わたしが愛する、あの人に。
「紅炎、さま……に、会いたい」
その瞬間、ナマエのルフが溢れると姿を変えて、飛び立った。
医師が気付いた時にはすでに遅く。
ナマエはその部屋から跡形もなく消失していた。