バレンタインデー
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〈恋人になる前〉
「バレンタインデー、でございますか?」
そう言えば、今日はそういう記念日と呼べる催事だったことを思い出しながらも、拙僧は偶然検事局で顔を合わせた御剣怜侍検事と話をしておりました。
御剣検事の手には、綺麗にラッピングされた箱があります。
話によると、それは……愛娘から貰った手作りのお菓子なのだとか。
その話を聞きながら、拙僧はふとその娘が、……拙僧が密かに恋い慕っているナマエさんが一生懸命にお菓子を作るお姿を想像してしまいます。
(……微笑ましいですね)
そして、羨ましくも思うのです。
ただ純粋に、養父を想って贈り物をする彼女をすぐ側で見ることが出来たら。
それだけで、拙僧の心を温かくさせるモノがあるのです。
(確かバレンタインデーとは、必ずしも女性が男性に贈る催事ではなかったはず)
日本ではそれが主流ですが、違う国では男性が贈り物をすることもあると聞いたことがございます。
……あくまで聞いた話ですので、したことはないのですが。
「…………いえ。何ら関係のない拙僧から贈り物をされても、色々と困るでしょうね」
一瞬、ちょっとしたお菓子でも差し上げようかと思い、しかしすぐにその考えを捨てます。
……あまり『余計なこと』をすると、拙僧の想いが勘付かれる危険があるのです。
(それは避けておきたいところです。ただ、何ら特別ではない関係であったほうが望ましい)
そう思いながらも、理解しながらも拙僧は、御剣検事の嬉しそうな顔を思い出す。
……いつもしかめっ面で有名なあの方が、あそこまで喜ぶのもわかるのです。
「………ただ楽しく、家族とそうした贈り物をすることさえ、拙僧には難しい」
そんなことを呟きながら、拙僧はバレンタインデーに関わることはないのだと信じておりました。
〈恋人になった後〉
「………さて。お二人は拙僧に何か申し開きはございますか?」
拙僧は微笑みかけながら、お二人、我らが女王様方を正座させて話しております。
レイファ様とアマラ様は、さすがに罪悪感があるのでしょう。拙僧の言葉に「……ごめんなさい」と謝って下さります。
拙僧とて、あまりこうしてお二人を説教などしたくはないのです。
ですが、物事には限度であったり、越えてはならない一線というものがございます。
そこは、たとえ女王と言えど、家族と言えどきっちりしなければなりません。
そんな拙僧の傍らには。
「そ、そこまで怒らなくてもいいじゃないですか……」
そう言ってお二人を守ろうと拙僧を宥めるナマエさんがおります。
が、
「いいえ。こうしたことはきちんと言い含めておかねばなりません。拙僧にも、譲れないものはあるのですよ」
「…………わたしがナユタさんのために作ったチョコを、二人に先に食べさせちゃったの、そんなに怒るとは思いませんでした」
「そうじゃ!そもそもあんなに美味しそうなものを、独り占めなどずるいのじゃ!」
「そうですわよ!ナユタだけ狡いでしょう!」
「お黙りなさいませ。でしたら、せめて拙僧が帰ってきたらにしていただきたかったのですよ!
何故、拙僧が楽しみにしていたことを知っていたにもかかわらず、貴女方は食べてしまったのです!」
食べ物の恨みは恐いのですよ!と拙僧はきつく叱る。
そもそも事の発端は、ナマエさんが拙僧のためにチョコを作って下さるという嬉しいことを言ってくれたことです。
そして「裁判が終わった頃には出来上がってると思います」という言葉を信じて帰ってきたら……女王様方、つまり家族二人が先に食べているという始末。
しかも全部というわけではなく、拙僧のために残されたチョコはたった一つだけというのが、余計に腹が立つのです。
残してあるならばいいではないかという意見もわかります。
ですが、拙僧のために作られたモノだというのに粗方食い尽くされて、たった一つになってしまったという現実は変えようのない真実です。
ですからさすがの拙僧も怒っているのです。
「じゃが!ナユタは何かとナマエに料理を作ってもらっておるじゃろう!ワラワ、知ってるもん!」
「わたくしもそれには物申したいですわよ!紅茶だけでなく、ナユタはナマエと日本食のお話をしていて、作ってもらうじゃない!狡いですわ!」
「拙僧が最愛の恋人であるナマエさんに手料理をご馳走になるのはおかしなことではないでしょう!
拙僧はナマエさんの婚約者、つまり未来の夫でございますよ!?」
「それを言うのなら、ワラワは義妹になるじゃろう!!」
「わたくしは義母ですよ!!」
くっ!本当に口が達者ですね、このお二人は。
と言いますか最近のお二人はナマエさんが拙僧の婚約者になってからというもの、特に宮殿で関わる時間が増えてしまい、彼女と仲睦まじくなってしまった。
いえ、仲が悪いよりマシですが……
「とにかく!ナマエさんにおねだりするのはお控え下さいませ。貴女方におねだりされては、ナマエさんが断ることなどできるはずがないでしょう」
ナマエさんは拙僧の家族であるお二人にも弱い。
それは、拙僧が大切に想う家族だからこそなのですが……そこへ更に女王というお立場が加われば、余計にお二人の願いを叶えて差し上げたくなるというもので。
(そうした意味で、ナマエさんに甘やかすなと言っても無理がございます)
ですから、母と妹のお二人には気遣っていただきたいところなのです。
そんな拙僧に、レイファ様はむすっとした表情で。
「むー……じゃあ、ツノ頭はどうなのじゃ!?」
「は?……ホースケ?」
何故そこでホースケが出てくるのです。
「ツノ頭とて、試作品としてナマエのちょこを食べておったぞ!ツノ頭は、
『ナユタにバレると面倒なんで、黙っててください』
と言っておったがの!」
「……………………」
拙僧は自分の携帯電話を取り出し、すぐさま見慣れた名前に電話をかける。
その相手は、「もしもし?どうした、ナユタ?」と呑気な声色で返事をするので。
「拙僧に黙って、ナマエさんの作ったチョコを試食していた件についてお話がありますのですぐに宮殿へ来なさい。即刻、絶対に、です」
相手は、ホースケは姿が見えなくとも拙僧の様子がわかったのでしょう。
あのド腐れ赤ピーマンは、「……すぐに向かいマス」とだけ言って電話を切りました。
そんな拙僧を見た母上は。
「…………ナユタ。あなた、もう少し独占欲を隠しなさい。大人として、男として情けないわよ?」
あのドゥルクだって、ここまでではなかったわ。と母上が諭すように仰る。
…………いえ、拙僧がここまで感情を露わにしないと貴女方がナマエさんを独占するからでしょう!?
その後、拙僧はホースケも一緒に説教をし、ナマエさんが「とりあえず、皆さん喉が渇いたでしょうから、お茶にしません?」と誘ってきましたので、多数決で拙僧が負けてお茶会をいたしました。
「バレンタインデー、でございますか?」
そう言えば、今日はそういう記念日と呼べる催事だったことを思い出しながらも、拙僧は偶然検事局で顔を合わせた御剣怜侍検事と話をしておりました。
御剣検事の手には、綺麗にラッピングされた箱があります。
話によると、それは……愛娘から貰った手作りのお菓子なのだとか。
その話を聞きながら、拙僧はふとその娘が、……拙僧が密かに恋い慕っているナマエさんが一生懸命にお菓子を作るお姿を想像してしまいます。
(……微笑ましいですね)
そして、羨ましくも思うのです。
ただ純粋に、養父を想って贈り物をする彼女をすぐ側で見ることが出来たら。
それだけで、拙僧の心を温かくさせるモノがあるのです。
(確かバレンタインデーとは、必ずしも女性が男性に贈る催事ではなかったはず)
日本ではそれが主流ですが、違う国では男性が贈り物をすることもあると聞いたことがございます。
……あくまで聞いた話ですので、したことはないのですが。
「…………いえ。何ら関係のない拙僧から贈り物をされても、色々と困るでしょうね」
一瞬、ちょっとしたお菓子でも差し上げようかと思い、しかしすぐにその考えを捨てます。
……あまり『余計なこと』をすると、拙僧の想いが勘付かれる危険があるのです。
(それは避けておきたいところです。ただ、何ら特別ではない関係であったほうが望ましい)
そう思いながらも、理解しながらも拙僧は、御剣検事の嬉しそうな顔を思い出す。
……いつもしかめっ面で有名なあの方が、あそこまで喜ぶのもわかるのです。
「………ただ楽しく、家族とそうした贈り物をすることさえ、拙僧には難しい」
そんなことを呟きながら、拙僧はバレンタインデーに関わることはないのだと信じておりました。
〈恋人になった後〉
「………さて。お二人は拙僧に何か申し開きはございますか?」
拙僧は微笑みかけながら、お二人、我らが女王様方を正座させて話しております。
レイファ様とアマラ様は、さすがに罪悪感があるのでしょう。拙僧の言葉に「……ごめんなさい」と謝って下さります。
拙僧とて、あまりこうしてお二人を説教などしたくはないのです。
ですが、物事には限度であったり、越えてはならない一線というものがございます。
そこは、たとえ女王と言えど、家族と言えどきっちりしなければなりません。
そんな拙僧の傍らには。
「そ、そこまで怒らなくてもいいじゃないですか……」
そう言ってお二人を守ろうと拙僧を宥めるナマエさんがおります。
が、
「いいえ。こうしたことはきちんと言い含めておかねばなりません。拙僧にも、譲れないものはあるのですよ」
「…………わたしがナユタさんのために作ったチョコを、二人に先に食べさせちゃったの、そんなに怒るとは思いませんでした」
「そうじゃ!そもそもあんなに美味しそうなものを、独り占めなどずるいのじゃ!」
「そうですわよ!ナユタだけ狡いでしょう!」
「お黙りなさいませ。でしたら、せめて拙僧が帰ってきたらにしていただきたかったのですよ!
何故、拙僧が楽しみにしていたことを知っていたにもかかわらず、貴女方は食べてしまったのです!」
食べ物の恨みは恐いのですよ!と拙僧はきつく叱る。
そもそも事の発端は、ナマエさんが拙僧のためにチョコを作って下さるという嬉しいことを言ってくれたことです。
そして「裁判が終わった頃には出来上がってると思います」という言葉を信じて帰ってきたら……女王様方、つまり家族二人が先に食べているという始末。
しかも全部というわけではなく、拙僧のために残されたチョコはたった一つだけというのが、余計に腹が立つのです。
残してあるならばいいではないかという意見もわかります。
ですが、拙僧のために作られたモノだというのに粗方食い尽くされて、たった一つになってしまったという現実は変えようのない真実です。
ですからさすがの拙僧も怒っているのです。
「じゃが!ナユタは何かとナマエに料理を作ってもらっておるじゃろう!ワラワ、知ってるもん!」
「わたくしもそれには物申したいですわよ!紅茶だけでなく、ナユタはナマエと日本食のお話をしていて、作ってもらうじゃない!狡いですわ!」
「拙僧が最愛の恋人であるナマエさんに手料理をご馳走になるのはおかしなことではないでしょう!
拙僧はナマエさんの婚約者、つまり未来の夫でございますよ!?」
「それを言うのなら、ワラワは義妹になるじゃろう!!」
「わたくしは義母ですよ!!」
くっ!本当に口が達者ですね、このお二人は。
と言いますか最近のお二人はナマエさんが拙僧の婚約者になってからというもの、特に宮殿で関わる時間が増えてしまい、彼女と仲睦まじくなってしまった。
いえ、仲が悪いよりマシですが……
「とにかく!ナマエさんにおねだりするのはお控え下さいませ。貴女方におねだりされては、ナマエさんが断ることなどできるはずがないでしょう」
ナマエさんは拙僧の家族であるお二人にも弱い。
それは、拙僧が大切に想う家族だからこそなのですが……そこへ更に女王というお立場が加われば、余計にお二人の願いを叶えて差し上げたくなるというもので。
(そうした意味で、ナマエさんに甘やかすなと言っても無理がございます)
ですから、母と妹のお二人には気遣っていただきたいところなのです。
そんな拙僧に、レイファ様はむすっとした表情で。
「むー……じゃあ、ツノ頭はどうなのじゃ!?」
「は?……ホースケ?」
何故そこでホースケが出てくるのです。
「ツノ頭とて、試作品としてナマエのちょこを食べておったぞ!ツノ頭は、
『ナユタにバレると面倒なんで、黙っててください』
と言っておったがの!」
「……………………」
拙僧は自分の携帯電話を取り出し、すぐさま見慣れた名前に電話をかける。
その相手は、「もしもし?どうした、ナユタ?」と呑気な声色で返事をするので。
「拙僧に黙って、ナマエさんの作ったチョコを試食していた件についてお話がありますのですぐに宮殿へ来なさい。即刻、絶対に、です」
相手は、ホースケは姿が見えなくとも拙僧の様子がわかったのでしょう。
あのド腐れ赤ピーマンは、「……すぐに向かいマス」とだけ言って電話を切りました。
そんな拙僧を見た母上は。
「…………ナユタ。あなた、もう少し独占欲を隠しなさい。大人として、男として情けないわよ?」
あのドゥルクだって、ここまでではなかったわ。と母上が諭すように仰る。
…………いえ、拙僧がここまで感情を露わにしないと貴女方がナマエさんを独占するからでしょう!?
その後、拙僧はホースケも一緒に説教をし、ナマエさんが「とりあえず、皆さん喉が渇いたでしょうから、お茶にしません?」と誘ってきましたので、多数決で拙僧が負けてお茶会をいたしました。