恋する検事さんは強いのです
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「ナマエさん。ナユタです、失礼いたしますよ」
ノックをした後に部屋へ入ったナユタは、部屋の中に視線を巡らせて、ベッドの上にある毛布の塊に目を止める。とんとん、と触れば、少しだけ塊はぴくりと動いた。
ナユタはベッドの端に腰かけて、その塊を愛おし気に撫でると「ナマエさん」と優しく呼びかけた。
「……吐きましたか?」
こくり、と塊は動いた。
「まだ吐き気はございますか?今現在、どのような体調でございましょう?」
塊は、もぞもぞと動いて。……布団からようやく顔を出したナマエは、とても顔色が悪かった。
ナユタが「失礼いたします」と手を伸ばし、額に触れると酷く熱くて、汗もかいている。
「熱が出ておりますね。少々お待ちくださいませ、すぐにタオルと氷嚢を……」
「ナユタさん、……」
「はい。誰にも、このことは言いませんから」
「……ごめんなさい」
「ですが、レイファ様が心配していましたので体調がお戻りになりましたら、ご自分で今回のことを話して差し上げて下さい。レイファ様があなたを慕っているのは、ご存じでしょう?」
「………あまり、弱い部分は見せたくないのですけど……」
ぼそぼそと、具合が悪いにも関わらずナマエはそう呟いた。なので、ナユタは優しく諭すように、語りかける。
「強くあろうとするその姿勢はあなたの美点でございますが、あなたが弱っているのを救いたいと願う者はちゃんといるのですよ。
ですから、ナマエさんはその者たちに少しばかりだとしても甘えてもよろしいのです」
「………」
「__甘えなさい、ナマエ。婚約者となる時に交わした約束を違えるおつもりですか?」
ナユタの婚約者として国を訪れる際に、交わした約束。それは、『困っている時は互いに助けさせること』。
きっといつまでたっても甘えたがらない、甘やかされてくれないナマエにナユタが願った、『ナユタの我が儘』としてナマエに認めさせたもの。
ナマエは約束に弱い。嘘を憎むナマエにとって、約束を破るということは自身が最も嫌う嘘をつくという行為に等しいからだ。だからこそ、ナユタはこの『約束』を使ってナマエに甘えるという行為に慣れさせたかったのだ。
『約束』を持ち出されたナマエは言葉に詰まり、口を噤む。そしてベッドに横になったので、ナユタは丁寧に布団をかけてあげた。
……そして愛おしい婚約者の頭を優しく撫でることも忘れずに。
「他に、何かご入用の物はございますか?」
「……いりません」
「そうですか。何かご入用の際は、きちんと仰って下さいね」
「でも、」
「?」
「…………できるだけ、ナユタさん……早く戻ってきてほしい、です」
「__承知いたしました。すぐにあなたの元へ戻ってきますとも」
部屋を出たナユタは頬が緩むのを抑えられず、口元を隠しながら廊下を颯爽と歩きだす。
ああ……慣れない甘え方をする婚約者の、なんて可愛らしいことでしょうか。
お養父さんの仕事場が、好きではなかった。
大切な、人の運命を決める裁判という仕事はとても大事で、けれどそう理解しても裁判所という場所は生理的に受け付けられなかった。
お養父さんに渡すはずだった書類を裁判所の担当係官の人に届けたことがあった。あの日、わたしはただ書類を届けるだけの手伝い感覚で裁判所に向かい、後悔した。
裁判所に入った瞬間、脳内に流れた光景は、幼い頃に刻み込まれた忌むべき傷があることを忘れるなと言いたげに、鮮明に呼び起こされていった。
無実を怒鳴る声。威圧する嫌悪。
それは、嘘ばかりを口にする、血の繋がりだけが父である男が発したものだった。
書類を届けた後、自分がどう歩いていたのかよく覚えていない。ただ、気持ち悪くて気持ち悪くて、トイレで胃の中のものを全部吐き出して、それでも目眩と吐き気で意識がうまく保てなかったのは覚えている。
そして気が付いたら、どこかの木陰でわたしは寝かされていた。額には冷たいハンカチが乗せられていて、ひんやりとした、大きな手がわたしの手を握っている。
『ご気分は、いかがですか?』
酷く優しい声で労わる言葉に、わたしは何か言わなければと思ったが、溢れてくるものは言葉などではなく、涙と嗚咽だった。
感情がぐちゃぐちゃで、どうして自分が泣いているのか不明瞭だった。悲しかったのかもしれないし、怖かったのかもしれないし、悔しかったのかもしれない。
ただ、自分の中で消化しきれていない感情がぐるぐると駆け巡って、みっともないと思った。
たった一人の、自分が一番信じている養父の仕事が、自分の最も忘れたい過去と連動してしまうことが、腹立たしかった。
不器用だけれど優しい、本当の『父』というものを教えてくれた養父と、あの血縁関係だけが父親にあたる男が……同等なわけがないのに、『裁判所』という場所と『男』という性別だけで過剰に反応する自分の身体が恨めしかった。
『悲しいことがあったのですか?』
『うう……うううっ……じ、じぶんが、……きらいで、しかたない……っ』
『………何故、そのような悲しいことを仰るのですか』
『この世で、……わたしは、わたしが一番、きらい…大嫌い!』
優しさゆえに与えられた嘘も認められず、優しさを素直に受け入れられず拒絶から入ってしまう自分が。
ああ、吐き気がするほどに、大嫌いだ。
『……成る程』
降り注ぐ声は、日照りしたかのような心にしっとりと染み渡る、慈雨のようだった。
『あなたは、いつもそのように立ち尽くしていたのですね』
「……申し訳ございません。起こしてしまいましたね」
ひやりとした指先が、冷たく濡れたタオルを額に添えて、遠ざかっていく。
薄暗い部屋の中で、枕元近くにある明かりだけがその人を優しく照らしていた。
「……なゆた、さん」
「だいぶ熱は引いたようですね。……どうか、なさいましたか?」
「………おしごとは?」
「今日の執務は終了しております。あなたのおかげですよ」
「わたし……?」
「あなたが辛いときに仕事が滞るような無様を晒すことなどできませんから。
……あの頭の腐った家臣たちは、今後あなたに何も申せませんでしょう」
「??」
「大したことではございません。お気になさらずとも宜しいですよ。
……母上に桃を頂きました。ご一緒にいかがですか?」
小さな籠に入った桃を、ナユタさんはするすると果物ナイフで器用に皮を剥いていく。桃は完熟したものではなく、少し固めで、口に含むとさくりとした感触で、ほのかな甘みが今のわたしにはさっぱりとしていて美味しかった。
「おいしい……」
「それはよかった。拙僧はもう少し熟した、柔らかいものが好ましいのですが、ナマエさんはこちらのほうがお好きなのですね」
「……ナユタさんは、とても幸せそうに食べますね」
「国際検事をやっておりますと様々な国に赴いて、現地のぐるめを巡るのが楽しみのようになりまして。
……様々な国の食事柄、というものは飽きることはございませんね」
「そうなんですね……なんていうか、ナユタさんは何を食べても綺麗に見えるんでしょうね」
「……ナマエさん、拙僧は男、でございます」
「男の人でも綺麗なものは綺麗、でしょう?……ナユタさんは、とっても綺麗、ですよ」
「………誉め言葉と、一応受け取っておきましょう」
そうしてください、と頷いてもう一つ、桃をさくりと一口食べる。食べていたら視線を感じて、見てみると、ナユタさんがじっとわたしを見つめていた。
「な、なんでしょう?」
「ああ、……ナマエさんは小さな口をしていらっしゃると観察してしまいました」
「小さい、ですか?」
「ええ。その証拠に、拙僧は桃の一切れは一口で食べきれますが、ナマエさんは先程から数回にわたって食べきっております」
「……人が口が小さいことを気にしているのを…どうしてそんなに微笑ましそうに見るんです?」
昔から口が小さくて、食べるのが遅ければ綺麗に食べることも難しかったと語ればナユタさんは一層、頬を緩ませた。
「ふふ、申し訳ございません。ただ、可愛らしいと思って……」
「ただ食べているわたしなんて、可愛いも何もないでしょうに」
「いいえ。……見ていてとても愛らしく、拙僧は飽きません」
……なんか、さっきと言っていることが逆転してる気がする。
「ナマエさん」
「はいはい、なんでしょ、」
「あーん、でございます」
にっこりと、綺麗な微笑を浮かべたナユタさんの手ずから一切れの桃を差し出された。口が小さいという話からのこれである。
(雛鳥と勘違いしているのかしら…)
「どうかなさいましたか?もう少し、小さく切ったほうがよろしいですか?」
「……いただきます」
数回にわたってしゃく、しゃくと桃を頬張れば、ナユタさんは楽しそうに嬉しそうに、笑ってばかりだ。
「……餌付けされてるような感覚です」
「ふふ、餌付けなどと……これでナマエさんが拙僧を、私を好きになってくださるのならば、いくらでも致しますが?」
「どこのバカップルですか……」
「何がばかっぷるですか。私はナマエさんの婚約者、でございましょう?」
敏腕の国際検事であるナユタさんに口で勝てるわけがなかった。悔しいことに。しかしそれは仕方ないのだろうと息をついた。
毎日のように、ナユタさんは好きだとか、甘えてほしいとかわたしに言葉を添えてくれる。
それはまるで、元気のない植物に日を注ぐように。
枯れてしまった部分に栄養と水を与えるように、勤勉に。
それは、ナユタさん自身の慈愛なのか、恋による愛情なのか、わからないけれど。
(………わたしを好きになってくれた、この人が)
この優しさが、このあたたかな微笑が、………あの時隣にいてくれたこの人が、どうか報われてほしい。
神さまを信じたことはないけれど、それでも、そう願わずにはいられないほどには……わたしは、あなたを想っています。
ノックをした後に部屋へ入ったナユタは、部屋の中に視線を巡らせて、ベッドの上にある毛布の塊に目を止める。とんとん、と触れば、少しだけ塊はぴくりと動いた。
ナユタはベッドの端に腰かけて、その塊を愛おし気に撫でると「ナマエさん」と優しく呼びかけた。
「……吐きましたか?」
こくり、と塊は動いた。
「まだ吐き気はございますか?今現在、どのような体調でございましょう?」
塊は、もぞもぞと動いて。……布団からようやく顔を出したナマエは、とても顔色が悪かった。
ナユタが「失礼いたします」と手を伸ばし、額に触れると酷く熱くて、汗もかいている。
「熱が出ておりますね。少々お待ちくださいませ、すぐにタオルと氷嚢を……」
「ナユタさん、……」
「はい。誰にも、このことは言いませんから」
「……ごめんなさい」
「ですが、レイファ様が心配していましたので体調がお戻りになりましたら、ご自分で今回のことを話して差し上げて下さい。レイファ様があなたを慕っているのは、ご存じでしょう?」
「………あまり、弱い部分は見せたくないのですけど……」
ぼそぼそと、具合が悪いにも関わらずナマエはそう呟いた。なので、ナユタは優しく諭すように、語りかける。
「強くあろうとするその姿勢はあなたの美点でございますが、あなたが弱っているのを救いたいと願う者はちゃんといるのですよ。
ですから、ナマエさんはその者たちに少しばかりだとしても甘えてもよろしいのです」
「………」
「__甘えなさい、ナマエ。婚約者となる時に交わした約束を違えるおつもりですか?」
ナユタの婚約者として国を訪れる際に、交わした約束。それは、『困っている時は互いに助けさせること』。
きっといつまでたっても甘えたがらない、甘やかされてくれないナマエにナユタが願った、『ナユタの我が儘』としてナマエに認めさせたもの。
ナマエは約束に弱い。嘘を憎むナマエにとって、約束を破るということは自身が最も嫌う嘘をつくという行為に等しいからだ。だからこそ、ナユタはこの『約束』を使ってナマエに甘えるという行為に慣れさせたかったのだ。
『約束』を持ち出されたナマエは言葉に詰まり、口を噤む。そしてベッドに横になったので、ナユタは丁寧に布団をかけてあげた。
……そして愛おしい婚約者の頭を優しく撫でることも忘れずに。
「他に、何かご入用の物はございますか?」
「……いりません」
「そうですか。何かご入用の際は、きちんと仰って下さいね」
「でも、」
「?」
「…………できるだけ、ナユタさん……早く戻ってきてほしい、です」
「__承知いたしました。すぐにあなたの元へ戻ってきますとも」
部屋を出たナユタは頬が緩むのを抑えられず、口元を隠しながら廊下を颯爽と歩きだす。
ああ……慣れない甘え方をする婚約者の、なんて可愛らしいことでしょうか。
お養父さんの仕事場が、好きではなかった。
大切な、人の運命を決める裁判という仕事はとても大事で、けれどそう理解しても裁判所という場所は生理的に受け付けられなかった。
お養父さんに渡すはずだった書類を裁判所の担当係官の人に届けたことがあった。あの日、わたしはただ書類を届けるだけの手伝い感覚で裁判所に向かい、後悔した。
裁判所に入った瞬間、脳内に流れた光景は、幼い頃に刻み込まれた忌むべき傷があることを忘れるなと言いたげに、鮮明に呼び起こされていった。
無実を怒鳴る声。威圧する嫌悪。
それは、嘘ばかりを口にする、血の繋がりだけが父である男が発したものだった。
書類を届けた後、自分がどう歩いていたのかよく覚えていない。ただ、気持ち悪くて気持ち悪くて、トイレで胃の中のものを全部吐き出して、それでも目眩と吐き気で意識がうまく保てなかったのは覚えている。
そして気が付いたら、どこかの木陰でわたしは寝かされていた。額には冷たいハンカチが乗せられていて、ひんやりとした、大きな手がわたしの手を握っている。
『ご気分は、いかがですか?』
酷く優しい声で労わる言葉に、わたしは何か言わなければと思ったが、溢れてくるものは言葉などではなく、涙と嗚咽だった。
感情がぐちゃぐちゃで、どうして自分が泣いているのか不明瞭だった。悲しかったのかもしれないし、怖かったのかもしれないし、悔しかったのかもしれない。
ただ、自分の中で消化しきれていない感情がぐるぐると駆け巡って、みっともないと思った。
たった一人の、自分が一番信じている養父の仕事が、自分の最も忘れたい過去と連動してしまうことが、腹立たしかった。
不器用だけれど優しい、本当の『父』というものを教えてくれた養父と、あの血縁関係だけが父親にあたる男が……同等なわけがないのに、『裁判所』という場所と『男』という性別だけで過剰に反応する自分の身体が恨めしかった。
『悲しいことがあったのですか?』
『うう……うううっ……じ、じぶんが、……きらいで、しかたない……っ』
『………何故、そのような悲しいことを仰るのですか』
『この世で、……わたしは、わたしが一番、きらい…大嫌い!』
優しさゆえに与えられた嘘も認められず、優しさを素直に受け入れられず拒絶から入ってしまう自分が。
ああ、吐き気がするほどに、大嫌いだ。
『……成る程』
降り注ぐ声は、日照りしたかのような心にしっとりと染み渡る、慈雨のようだった。
『あなたは、いつもそのように立ち尽くしていたのですね』
「……申し訳ございません。起こしてしまいましたね」
ひやりとした指先が、冷たく濡れたタオルを額に添えて、遠ざかっていく。
薄暗い部屋の中で、枕元近くにある明かりだけがその人を優しく照らしていた。
「……なゆた、さん」
「だいぶ熱は引いたようですね。……どうか、なさいましたか?」
「………おしごとは?」
「今日の執務は終了しております。あなたのおかげですよ」
「わたし……?」
「あなたが辛いときに仕事が滞るような無様を晒すことなどできませんから。
……あの頭の腐った家臣たちは、今後あなたに何も申せませんでしょう」
「??」
「大したことではございません。お気になさらずとも宜しいですよ。
……母上に桃を頂きました。ご一緒にいかがですか?」
小さな籠に入った桃を、ナユタさんはするすると果物ナイフで器用に皮を剥いていく。桃は完熟したものではなく、少し固めで、口に含むとさくりとした感触で、ほのかな甘みが今のわたしにはさっぱりとしていて美味しかった。
「おいしい……」
「それはよかった。拙僧はもう少し熟した、柔らかいものが好ましいのですが、ナマエさんはこちらのほうがお好きなのですね」
「……ナユタさんは、とても幸せそうに食べますね」
「国際検事をやっておりますと様々な国に赴いて、現地のぐるめを巡るのが楽しみのようになりまして。
……様々な国の食事柄、というものは飽きることはございませんね」
「そうなんですね……なんていうか、ナユタさんは何を食べても綺麗に見えるんでしょうね」
「……ナマエさん、拙僧は男、でございます」
「男の人でも綺麗なものは綺麗、でしょう?……ナユタさんは、とっても綺麗、ですよ」
「………誉め言葉と、一応受け取っておきましょう」
そうしてください、と頷いてもう一つ、桃をさくりと一口食べる。食べていたら視線を感じて、見てみると、ナユタさんがじっとわたしを見つめていた。
「な、なんでしょう?」
「ああ、……ナマエさんは小さな口をしていらっしゃると観察してしまいました」
「小さい、ですか?」
「ええ。その証拠に、拙僧は桃の一切れは一口で食べきれますが、ナマエさんは先程から数回にわたって食べきっております」
「……人が口が小さいことを気にしているのを…どうしてそんなに微笑ましそうに見るんです?」
昔から口が小さくて、食べるのが遅ければ綺麗に食べることも難しかったと語ればナユタさんは一層、頬を緩ませた。
「ふふ、申し訳ございません。ただ、可愛らしいと思って……」
「ただ食べているわたしなんて、可愛いも何もないでしょうに」
「いいえ。……見ていてとても愛らしく、拙僧は飽きません」
……なんか、さっきと言っていることが逆転してる気がする。
「ナマエさん」
「はいはい、なんでしょ、」
「あーん、でございます」
にっこりと、綺麗な微笑を浮かべたナユタさんの手ずから一切れの桃を差し出された。口が小さいという話からのこれである。
(雛鳥と勘違いしているのかしら…)
「どうかなさいましたか?もう少し、小さく切ったほうがよろしいですか?」
「……いただきます」
数回にわたってしゃく、しゃくと桃を頬張れば、ナユタさんは楽しそうに嬉しそうに、笑ってばかりだ。
「……餌付けされてるような感覚です」
「ふふ、餌付けなどと……これでナマエさんが拙僧を、私を好きになってくださるのならば、いくらでも致しますが?」
「どこのバカップルですか……」
「何がばかっぷるですか。私はナマエさんの婚約者、でございましょう?」
敏腕の国際検事であるナユタさんに口で勝てるわけがなかった。悔しいことに。しかしそれは仕方ないのだろうと息をついた。
毎日のように、ナユタさんは好きだとか、甘えてほしいとかわたしに言葉を添えてくれる。
それはまるで、元気のない植物に日を注ぐように。
枯れてしまった部分に栄養と水を与えるように、勤勉に。
それは、ナユタさん自身の慈愛なのか、恋による愛情なのか、わからないけれど。
(………わたしを好きになってくれた、この人が)
この優しさが、このあたたかな微笑が、………あの時隣にいてくれたこの人が、どうか報われてほしい。
神さまを信じたことはないけれど、それでも、そう願わずにはいられないほどには……わたしは、あなたを想っています。