逆転裁判・ナユタ夢
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おはようございます。ご機嫌いかがですか、御剣さん」
朝、検事局の花壇に水をあげていると聞いたことのある物腰柔らかな声色が聞こえてきたので、振り返るとそこにいたのはやっぱり柔和な微笑を浮かべる国際検事、ナユタさんだった。
わたしは「おはようございます」と挨拶をしてから、養父、検事局長にナユタさんの来訪をお伝えするべく、一時的に応接室にお通しする。
「しばらくお待ちください。検事局長は、別の案件について他の方と話をしているようで……」
「そうですか。ではその間、拙僧とお話でも致しませんか?」
「……わたしと、ですか?」
「ええ」
「………わたしとお話して、検事さんに楽しんでいただけるか…」
「そのような気遣いは無用ですよ。拙僧は貴女とお話しできる、それだけで楽しいのです」
「…では、ええと……検事さんの出身国の、クライン王国がどんなところなのか聞いてみたいと思っていたんですけれど…」
「拙僧の説明でよろしければ、喜んで」
ナユタさんは終始、にこやかにクライン王国についてお話してくれた。クライン王国、霊媒と神秘の国と言われる国には養父の知り合いが修行に行っているのだ。彼女は元気にしているだろうか、と思い出しながらナユタさんにお茶を淹れなおす。
「御剣さんは紅茶を淹れるのがお上手ですね」
「え」
「初めて飲んだ時にはどこの玄人が淹れたのだと驚きました。紅茶がお好きなのですか?」
「ええと、養父が紅茶を飲むので……美味しい紅茶を淹れてあげたくて試行錯誤したくらいです。紅茶が好き、とは違くて……わたしの淹れた紅茶を『美味しい』と喜んでくれる顔が好きなんです」
「……親孝行なのですね」
「これくらいしかできないので……」
「すまない、ナマエ!遅れた!」
慌てた様子の養父、御剣怜侍検事局長が応接室に駆け込んできた。まるで全力疾走してきたかのような慌てぶりにわたしはそれほどナユタさんの来訪は重要なのだろうかと思い、「では、失礼します……」と席を立った。
「ナマエさん」
ナユタさんに呼び止められて、振り返る。
綺麗な微笑で、優しい声色で。
「またお会いしましょうね」
そんな社交辞令に、わたしは特に深い意味を感じずに「はい、また」と返事をした。
いくら検事局長の養女とはいえ、わたしは検事の仕事に関われるわけではない。検事を目指しているわけでもないし、検事にならなければならないという義務もない。傍から見ればご立派な養父だと褒められるが、養父自身は自分を立派な人間だと思っていない。少しでも立派な人間になるように、自身の仕事を全うしているのだと養父は言うのだ。
「ナマエは他人に優しい子だ。それが悪いことではない、が、その優しさを誰かにとっての隙にしないようにしなさい」
優しさが弱点とならないように。その優しさが強さなのだと誇れるように。
養父は不器用に、しかし優しく笑う人だ。冷静、冷徹な人間と称された養父、御剣怜侍はけれどきっと弱さを知った、優しい人なのだとわたしは思う。
そして。
「ナマエさん。こんにちは」
一か月に数回の頻度で国際検事さん、ナユタさんはわたしと出会う。場所は検事局の花壇前や中庭で、わざわざ挨拶してくれるなんて、まめな人だと感心してしまう。
「こんにちは、検事さん。今日も、ふわふわしてますね」
「ふわふわ、ですか?」
「はい。知り合いの刑事さんがそう言っていたので……」
「それは、……宝月刑事ですか?」
「はい、ご存じなんですね」
「ええ、仕事でご一緒したことがございまして、……それだけですよ?」
「そうなんですね」
「はい、本当に、それだけなのです」
少し必死に取り繕うように聞こえるのは気のせいだろうか。うん、きっと気のせいだ。取り繕う必要など、理由などないのだから。
「あの、ナマエさん。お話ししたいことがございまして……」
少しだけ言いにくそうに、ナユタさんは言葉を発した。いつも法廷ではズバズバ弁護士を言い負かしているという話を聞いていたし、少なくともわたしの前ではあまり物怖じしない人なのに、珍しい。
「はい、なんでしょうか」
お義父さんから多少、話は聞いている。クライン王国で何やら革命のような大事件があったこと。深くは知らないがそれにナユタさんが深く関わっていて、王泥喜さんがクライン王国に残り、弁護士事務所を開いたこと。大まかに説明するとそんな感じだったように思う。
(だから、もう会うことはないのかしらと思っていたのだけれど)
そんなわたしの予想は外れ、クライン王国の摂政の役目も任され、執務が忙しいはずのナユタさんは結構な頻度で来日している。まるで、心残りがあるかのように。
(………考えすぎ、か)
ナユタさんは優秀な国際検事のままなのだ、優秀な人材に働いてもらいたいというのはどの国にいても同じであり、引く手あまたなのだろう。ここ、日本に限った話ではない。
だから。
「クライン王国に来ていただけませんか?拙僧の婚約者として」
「…………はい?」
予想を遥かに超える言葉にわたしが思考を停止してしまったのは、仕方のないことだと主張したかった。
王泥喜法介が呼ばれたのはクライン王国の宮殿内、ナユタの執務室だった。現在、クライン王国で養父であったドゥルクから引き継いだ弁護士事務所で唯一の弁護士となっているため、というか何かと色んなところから弁護以外の仕事が回ってきて法介は何かと忙しい日々を過ごしている。なのでナユタの呼び出しにも「またなんか弁護士とは関係ない仕事を回してきたのか?」と疑り深くなってしまうのも仕方ないと言える。
(でも、なんか機嫌がよかったんだよなぁ)
法介も忙しいが、それは国際検事でありクライン王国の摂政にもなったナユタといい勝負だろうとは思っている。涼しい顔をすることが割と得意なあの幼馴染であり義兄弟でもあるナユタもさすがに疲労が溜まっているだろうと法介も少し心配はしていた。しかし電話越しに聞こえたあの声は。
『話したいことがあります。必ずおいでなさい』
(……若干、命令口調だったのはともかく、しかしその声色は確かに何かを喜んでいる、ような、……そんな気がした)
その声を法介の後輩、希月心音が聞いていたら何かわかっただろうか?そんなことを思いながら法介は宮殿内を歩いていた。
そして。
「………………今、なんて?」
ナユタの執務室にて、法介は眉間に皺を寄せて目の前にいる人物を見つめてしまう。
部屋の主は実ににこやかで、清々しい微笑を浮かべて見せる。
「拙僧の婚約者、御剣ナマエさんです」
「…………」
「……ええと、いきなり婚約者として求められたばかりなのに急遽クライン王国で滞在許可を取られた、御剣ナマエ、でーす」
「ナマエちゃん、混乱して緊張もしてるのにオレを気遣わなくていいから!あと一番緊張してるのナマエちゃんだろ!?」
気まずい空気を和ませようと無理やり軽い口調で自己紹介したんだろうけど、ぎこちないし!
そもそもオレの知っているナマエちゃんはこう言っては失礼だけどそんなに明るい性格ではない。大人しくて、礼儀正しくて、成歩堂事務所にはいなかったタイプの女の子だったんだから!
……いや、そんなことよりも。
法介は微笑を浮かべたままのナユタを見据える。
「……ナユタ、婚約者って言ったな?」
「ええ」
「あの、御剣検事局長が許可したのか?」
気難しい表情が常の御剣怜侍という人物を思い浮かべ、上司であり師匠とも呼べる成歩堂龍一の言葉を思い出す。
『ああ見えて、御剣は娘を溺愛してるんだよ。まあ、御剣に似てなくてすごくいい子でね、みぬきとも仲良くしてくれてるよ』
『娘を思いやって何が悪い。私はただ、あの子が独り立ちする手助けをしているだけだ。あの子に恥じることのないよう、仕事に打ち込んで何が悪い!』
『おいおい、御剣。お前、もしかしてかなり酔っぱらってるのか?』
『酔ってなど、ひっく!いない!』
『……めちゃくちゃ酔ってるじゃないか』
………確か、そんな話を酒を飲みながらしたことあったな。あのあと、成歩堂さんが御剣検事を送って行って、大変だったらしいんだよなぁ。
「……すけ、ホースケ?」
「は!?な、なんだ?」
「人に話を振っておいて、集中して聞かないとは……」
「ご、ごめんごめん!で?御剣検事局長はなんて?」
「はぁ。まあ、よいでしょう。
……御剣検事局長殿は多少難色を示しましたが、ナマエさんの見聞を広めるという名目で拙僧に身柄を預けてくださいました」
「??じゃあ、わざわざ婚約者、なんて肩書はいらないんじゃ?」
「愚か、ですね、ホースケ。婚約者という肩書を必要とした理由は単純明快ですよ」
「へ?」
「拙僧がナマエさんを一目見て恋い慕うようになり、側にいてほしかったから。婚約者という権利を欲したのはナマエさんではなく、拙僧だということ。
……それだけです」
「…………なんで目の前にナマエちゃんいるのに、そんなに惚気られるんだ?お前は」
「ナマエさんには既にお話を通してございます。といいますか、ナマエさんはこれぐらいはっきり何度も申し上げませんと察してくださらない愛すべき鈍感な方ですので」
「……こう言ってるけど、ナマエちゃん、いいの?」
話題の中心人物は、たいして気にしたような素振りはなく、「はい」と頷いた。
「恋愛に関してまったく憧れがないので、教えてもらえるならどうぞお願いします、と言ってありますし。少しでもナユタさんが嫌いだと感じたら、すぐに帰国準備していいそうですし……」
「……いいのか、それで」
「常日頃からお義父さんに、人との絆、信頼は大事なものだ、と言い聞かされていますからね。今までナユタさんのような人に出会ったことがないので、この一期一会を大事にしたいと思います」
「………レイファ様とか、アマラ様は?何か言ってないのか?」
「ええ、特には。しいて拙僧から言うならば、ナマエさんはすぐにレイファ様や母上、…アマラ様に呼ばれて行ってしまうので、拙僧との時間をあまり取らせないことでしょうか。あのお二人は、本当に……拙僧がどのような気持ちで仕事を終わらせてナマエさんとの時間を作っているのか、知っているのでしょうか」
「ふ、二人に気に入ってもらえてよかったじゃないか……」
よく話をしたら、自分の婚約者としてわざわざ遠い日本へ迎えに行ったはずのナユタが彼女と共に過ごす時間を奪われているという事実に、少し不憫だと法介は思った。
そのあと、聞いた話とおりに姫巫女であった、今では幼き女王であるレイファがやってきて、ナマエは前女王であり、母のアマラとの茶会のお茶を淹れに呼ばれた。
朝、検事局の花壇に水をあげていると聞いたことのある物腰柔らかな声色が聞こえてきたので、振り返るとそこにいたのはやっぱり柔和な微笑を浮かべる国際検事、ナユタさんだった。
わたしは「おはようございます」と挨拶をしてから、養父、検事局長にナユタさんの来訪をお伝えするべく、一時的に応接室にお通しする。
「しばらくお待ちください。検事局長は、別の案件について他の方と話をしているようで……」
「そうですか。ではその間、拙僧とお話でも致しませんか?」
「……わたしと、ですか?」
「ええ」
「………わたしとお話して、検事さんに楽しんでいただけるか…」
「そのような気遣いは無用ですよ。拙僧は貴女とお話しできる、それだけで楽しいのです」
「…では、ええと……検事さんの出身国の、クライン王国がどんなところなのか聞いてみたいと思っていたんですけれど…」
「拙僧の説明でよろしければ、喜んで」
ナユタさんは終始、にこやかにクライン王国についてお話してくれた。クライン王国、霊媒と神秘の国と言われる国には養父の知り合いが修行に行っているのだ。彼女は元気にしているだろうか、と思い出しながらナユタさんにお茶を淹れなおす。
「御剣さんは紅茶を淹れるのがお上手ですね」
「え」
「初めて飲んだ時にはどこの玄人が淹れたのだと驚きました。紅茶がお好きなのですか?」
「ええと、養父が紅茶を飲むので……美味しい紅茶を淹れてあげたくて試行錯誤したくらいです。紅茶が好き、とは違くて……わたしの淹れた紅茶を『美味しい』と喜んでくれる顔が好きなんです」
「……親孝行なのですね」
「これくらいしかできないので……」
「すまない、ナマエ!遅れた!」
慌てた様子の養父、御剣怜侍検事局長が応接室に駆け込んできた。まるで全力疾走してきたかのような慌てぶりにわたしはそれほどナユタさんの来訪は重要なのだろうかと思い、「では、失礼します……」と席を立った。
「ナマエさん」
ナユタさんに呼び止められて、振り返る。
綺麗な微笑で、優しい声色で。
「またお会いしましょうね」
そんな社交辞令に、わたしは特に深い意味を感じずに「はい、また」と返事をした。
いくら検事局長の養女とはいえ、わたしは検事の仕事に関われるわけではない。検事を目指しているわけでもないし、検事にならなければならないという義務もない。傍から見ればご立派な養父だと褒められるが、養父自身は自分を立派な人間だと思っていない。少しでも立派な人間になるように、自身の仕事を全うしているのだと養父は言うのだ。
「ナマエは他人に優しい子だ。それが悪いことではない、が、その優しさを誰かにとっての隙にしないようにしなさい」
優しさが弱点とならないように。その優しさが強さなのだと誇れるように。
養父は不器用に、しかし優しく笑う人だ。冷静、冷徹な人間と称された養父、御剣怜侍はけれどきっと弱さを知った、優しい人なのだとわたしは思う。
そして。
「ナマエさん。こんにちは」
一か月に数回の頻度で国際検事さん、ナユタさんはわたしと出会う。場所は検事局の花壇前や中庭で、わざわざ挨拶してくれるなんて、まめな人だと感心してしまう。
「こんにちは、検事さん。今日も、ふわふわしてますね」
「ふわふわ、ですか?」
「はい。知り合いの刑事さんがそう言っていたので……」
「それは、……宝月刑事ですか?」
「はい、ご存じなんですね」
「ええ、仕事でご一緒したことがございまして、……それだけですよ?」
「そうなんですね」
「はい、本当に、それだけなのです」
少し必死に取り繕うように聞こえるのは気のせいだろうか。うん、きっと気のせいだ。取り繕う必要など、理由などないのだから。
「あの、ナマエさん。お話ししたいことがございまして……」
少しだけ言いにくそうに、ナユタさんは言葉を発した。いつも法廷ではズバズバ弁護士を言い負かしているという話を聞いていたし、少なくともわたしの前ではあまり物怖じしない人なのに、珍しい。
「はい、なんでしょうか」
お義父さんから多少、話は聞いている。クライン王国で何やら革命のような大事件があったこと。深くは知らないがそれにナユタさんが深く関わっていて、王泥喜さんがクライン王国に残り、弁護士事務所を開いたこと。大まかに説明するとそんな感じだったように思う。
(だから、もう会うことはないのかしらと思っていたのだけれど)
そんなわたしの予想は外れ、クライン王国の摂政の役目も任され、執務が忙しいはずのナユタさんは結構な頻度で来日している。まるで、心残りがあるかのように。
(………考えすぎ、か)
ナユタさんは優秀な国際検事のままなのだ、優秀な人材に働いてもらいたいというのはどの国にいても同じであり、引く手あまたなのだろう。ここ、日本に限った話ではない。
だから。
「クライン王国に来ていただけませんか?拙僧の婚約者として」
「…………はい?」
予想を遥かに超える言葉にわたしが思考を停止してしまったのは、仕方のないことだと主張したかった。
王泥喜法介が呼ばれたのはクライン王国の宮殿内、ナユタの執務室だった。現在、クライン王国で養父であったドゥルクから引き継いだ弁護士事務所で唯一の弁護士となっているため、というか何かと色んなところから弁護以外の仕事が回ってきて法介は何かと忙しい日々を過ごしている。なのでナユタの呼び出しにも「またなんか弁護士とは関係ない仕事を回してきたのか?」と疑り深くなってしまうのも仕方ないと言える。
(でも、なんか機嫌がよかったんだよなぁ)
法介も忙しいが、それは国際検事でありクライン王国の摂政にもなったナユタといい勝負だろうとは思っている。涼しい顔をすることが割と得意なあの幼馴染であり義兄弟でもあるナユタもさすがに疲労が溜まっているだろうと法介も少し心配はしていた。しかし電話越しに聞こえたあの声は。
『話したいことがあります。必ずおいでなさい』
(……若干、命令口調だったのはともかく、しかしその声色は確かに何かを喜んでいる、ような、……そんな気がした)
その声を法介の後輩、希月心音が聞いていたら何かわかっただろうか?そんなことを思いながら法介は宮殿内を歩いていた。
そして。
「………………今、なんて?」
ナユタの執務室にて、法介は眉間に皺を寄せて目の前にいる人物を見つめてしまう。
部屋の主は実ににこやかで、清々しい微笑を浮かべて見せる。
「拙僧の婚約者、御剣ナマエさんです」
「…………」
「……ええと、いきなり婚約者として求められたばかりなのに急遽クライン王国で滞在許可を取られた、御剣ナマエ、でーす」
「ナマエちゃん、混乱して緊張もしてるのにオレを気遣わなくていいから!あと一番緊張してるのナマエちゃんだろ!?」
気まずい空気を和ませようと無理やり軽い口調で自己紹介したんだろうけど、ぎこちないし!
そもそもオレの知っているナマエちゃんはこう言っては失礼だけどそんなに明るい性格ではない。大人しくて、礼儀正しくて、成歩堂事務所にはいなかったタイプの女の子だったんだから!
……いや、そんなことよりも。
法介は微笑を浮かべたままのナユタを見据える。
「……ナユタ、婚約者って言ったな?」
「ええ」
「あの、御剣検事局長が許可したのか?」
気難しい表情が常の御剣怜侍という人物を思い浮かべ、上司であり師匠とも呼べる成歩堂龍一の言葉を思い出す。
『ああ見えて、御剣は娘を溺愛してるんだよ。まあ、御剣に似てなくてすごくいい子でね、みぬきとも仲良くしてくれてるよ』
『娘を思いやって何が悪い。私はただ、あの子が独り立ちする手助けをしているだけだ。あの子に恥じることのないよう、仕事に打ち込んで何が悪い!』
『おいおい、御剣。お前、もしかしてかなり酔っぱらってるのか?』
『酔ってなど、ひっく!いない!』
『……めちゃくちゃ酔ってるじゃないか』
………確か、そんな話を酒を飲みながらしたことあったな。あのあと、成歩堂さんが御剣検事を送って行って、大変だったらしいんだよなぁ。
「……すけ、ホースケ?」
「は!?な、なんだ?」
「人に話を振っておいて、集中して聞かないとは……」
「ご、ごめんごめん!で?御剣検事局長はなんて?」
「はぁ。まあ、よいでしょう。
……御剣検事局長殿は多少難色を示しましたが、ナマエさんの見聞を広めるという名目で拙僧に身柄を預けてくださいました」
「??じゃあ、わざわざ婚約者、なんて肩書はいらないんじゃ?」
「愚か、ですね、ホースケ。婚約者という肩書を必要とした理由は単純明快ですよ」
「へ?」
「拙僧がナマエさんを一目見て恋い慕うようになり、側にいてほしかったから。婚約者という権利を欲したのはナマエさんではなく、拙僧だということ。
……それだけです」
「…………なんで目の前にナマエちゃんいるのに、そんなに惚気られるんだ?お前は」
「ナマエさんには既にお話を通してございます。といいますか、ナマエさんはこれぐらいはっきり何度も申し上げませんと察してくださらない愛すべき鈍感な方ですので」
「……こう言ってるけど、ナマエちゃん、いいの?」
話題の中心人物は、たいして気にしたような素振りはなく、「はい」と頷いた。
「恋愛に関してまったく憧れがないので、教えてもらえるならどうぞお願いします、と言ってありますし。少しでもナユタさんが嫌いだと感じたら、すぐに帰国準備していいそうですし……」
「……いいのか、それで」
「常日頃からお義父さんに、人との絆、信頼は大事なものだ、と言い聞かされていますからね。今までナユタさんのような人に出会ったことがないので、この一期一会を大事にしたいと思います」
「………レイファ様とか、アマラ様は?何か言ってないのか?」
「ええ、特には。しいて拙僧から言うならば、ナマエさんはすぐにレイファ様や母上、…アマラ様に呼ばれて行ってしまうので、拙僧との時間をあまり取らせないことでしょうか。あのお二人は、本当に……拙僧がどのような気持ちで仕事を終わらせてナマエさんとの時間を作っているのか、知っているのでしょうか」
「ふ、二人に気に入ってもらえてよかったじゃないか……」
よく話をしたら、自分の婚約者としてわざわざ遠い日本へ迎えに行ったはずのナユタが彼女と共に過ごす時間を奪われているという事実に、少し不憫だと法介は思った。
そのあと、聞いた話とおりに姫巫女であった、今では幼き女王であるレイファがやってきて、ナマエは前女王であり、母のアマラとの茶会のお茶を淹れに呼ばれた。
1/1ページ