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ふたつめ


もちまる



「ふふ……ふふふ……かわい……」
遊び場の、日の当たるところに座り込んでいる雨丸からそんな音がした。
何してるんだろう、と後ろから覗き込んでみると、日差しの中でお昼寝しているらしい聖を撫でまわしているらしかった。
聖が一階にいるのも珍しいけど、これがぜーちゃんの言っていたもちまるなのかな。
「んふふー……安心だね、あったかいね~……」
語りかけるような、独り言のような。そんなことをつぶやきながら、聖を見守っている。撫ですぎると起きてしまうのだろう、撫でるのはやめたらしい。
それにしても聖、こんなに熟睡するような子だったっけ。
「ふふ」
雨丸が小さく息をのんだ音がした。この声は聖からだ。
「ふふふっあはは!」
ころんと起き上がった聖がけらけら笑っている。雨丸は、驚いたのか手が空をさまよっている。
「もー、ふふ。雨丸ってこういうことするんだねえ」
「ひ、ひじり……からかわないでよ、もう……」
「でもでもーかわいいでしょー?」
「かわいいです」
雨丸が素直に言うと、聖はまた面白そうに笑った。楽しそうでよかったけど、そういえばもちもちとは言っていなかったな……まだもちまるではないのかもしれない。そんなことを考えながら離れようと思ったとき、聖が私の目をしっかりと見ていることに気が付いた。
「雨丸、後ろ見て」
「え?あ……」
「あー……なにしてるのかとおもって、ごめんね?」
「す、ススに見られたあ……」
雨丸はそう呟くと、ゆっくりとした動きで恥ずかしそうに聖を盾にして、隠れた。
「そんなに恥ずかしいことかねえ?」
聖が雨丸をつつく。
「うぅ〜…だってえ」
「例のもちまるを期待してたんだけどなあ?」
「期待しないで!」
「なんでさー。聖ちゃんは可愛がってもらいたいカエルですよ」
「うう……聖はとってもさわり心地がいいです……」
なら触ればいいのに、という私の心と聖の声が重なった。
「でもぉ……」
「雨丸はまだ触るのに抵抗あるの?こんなに大好きなのに?」
雨丸は小さくうめくだけで、否定も肯定もしなかった。聖はわざとらしくため息をつく。
私は、雨丸はまだまともな人間なんだな……と思った。既に深く足を突っ込んでいるのだから、最後の一歩を踏み出せばいいのに。でもそうしたら、きっと戻れない。それは怖いことなのかもしれない。
自分から正気を失うということ。それはどんな感じなんだろう。
「雨丸はそのままでもいいのかも」
怖いことを無理に飲み込んだって戻すだけだし、急かしだって急いだって仕方ないし。もちまるがいる時点で、もう戻ることはないと思う。
「えー、ススは味方だと思ったのに」
「嫌われちゃうよ」
そう言うと聖は、言葉を飲み込むように黙ってしまった。
「スス……」
雨丸がこっそり私を見た。別にどちらの味方でもない。そもそも敵味方って何だ。
「雨丸はみんなのことだいすき。それは違わない」
「う?」
「ンフフ。たしかーに!よーしもっと撫でたまえ!」
雨丸はすっかり恥ずかしい気持ちになってしまったらしく、動揺しつつも要望通り聖の髪や頬を触っていた。ところで私も触っていいだろうか。
「聖、私も触っていい?」
「一度も触ってくれない事に驚いてるぞ」
お言葉に甘えて、手を握る。握り返された。私の手のようにひんやりしていて、とても肌触りがいい。指で撫でるとつるつるしていて、ずっと触っていたくなる。
「だからみんな寄ってくるのかな?」
「え?よってくる?」
当の本人は無自覚なのか。心底不思議そうな声で返事をするものだから、私こそえ?と言いそうになった。
「聖、三階にいるとき大体誰かひっついてない?」
「えぇ?……ああ、そうかも?いつもすぎて気にしてなかった」
気にしなくなるほどに。最初に会ったときに誰もいなかったのは、アルが近くに居たからか。
「聖、触られ続けるのってだいじょうぶ?」
犬や猫の子は触られるのが好きな子が多いけど、それ以外の子は様々だ。特に聖は皮膚が異常に荒れやすい問題がある。だから今まで、聖に対して必要以上に接触したことはなかった。
「ンーどうなんだろ?だってほら、ずっと誰かといるからねえ。ひとなみには好きだと思うなあ。もっと触っていいんだぜい」
聖はくすくすと機嫌がよさそうに笑ったので、私もしばらく手を触らせてもらった。
気持ちが落ち着いた。お礼を言って手を離す。そろそろ移動しよう、と立ち上がったと同時に、誰かが走ってくる音がした。明らかにこちらに向かってきている音の方向を見る。
「ぶえ」
見る前に突っ込んでいったらしい。目の前の聖と雨丸に。これはどっちのうめき声だったのだろう、わからなかった。
「あ、アル」
雨丸が動揺したのか揺れた声で呼んだのは、確かにアルだった。浅葱色の髪が陽の光できらきらと輝いている。アルが足音を立てて走ってきて、誰かに抱き着くという光景は、初めて見た気がする。アルが静かに歩いてきて、ゆっくり抱っこするのはよく見るけど。
「ぃでで。ちょっとアル!何すんの」
「ん~」
雨丸ごと聖を抱きしめたアルは、尻尾をぱたぱた揺らして満足げにしている。
アルは三人の中で一番、想像のしにくい性格をしている。私はよくこういう性格のようだからこうだろう、と想像して接するけれど、アルはよくわからない。寂しいときと寂しくないときの違い、怒るときと怒らないときの違い。唯一わかるのは、寂しがりやということ。
「てつ達はどーしたの。一緒に居たでしょ」
「えへへ〜聖が寂しくないかなぁ〜って」
「遊びに行かれて寂しくなったんだねかわいそうなアルちゃん」
「ちがうもーん」
寂しくなって誰かの背後に立つアル自体はよく見る。そっと近寄って視界に入り、撫でてもらったりしている。
「雨丸びっくりしてるよ」
聖がつつくと、雨丸は魂を取り戻した。
「い、いやつい……」
「なんだよう~僕がこわいのかあ」
「いや……ちょっとアルのかわいさが私の理解を超えたので……」
アルが気の抜けた声を上げて、一拍置いて聖が小さく笑い始めた。雨丸がはぁ…と長い恍惚のため息をつくと、聖の笑い声が我慢をやめたように大きくなる。私もつられて笑い声が漏れ出てしまった。
「な、なに、なんか雨丸が変だよ?」
「いや、いつも通りなんじゃない?」
「ええぇ?」
アルがここまで困惑しているのも珍しいし、聖がこんなに笑ってるのも珍しいし、雨丸がこうなっているのも初めて見る。まだ一か月しか居ないのだから、知らないことだってまだまだあるはずだ。ちょっとずつ知っていけたら、きっと楽しい。
「アルは聖のことすき?」
雨丸が、それは嬉しそうに緩んだ顔でアルに問いかける。アルは、明らかに困惑しながらも離れようとはしなかった。
「へ……す、すきだよ?」
「えへへそっかあ~」
雨丸が満面の笑みである。それはもう幸せそうに。私も嬉しいけど、多分表情には出ていない。雨丸、やっぱりもう後戻りできないところにいると思うな……と心の中で答えを出して、その場を後にした。



ンー!!!!と、朝から猛烈に怒っている子がいる。
私の足を何回も踏みつけて、唸ったり叫んだりしながら時々両手を振り下ろして叩いてきたり、エプロンを引っ張ったりして、どうしようもなく持て余している怒りと悔しさを消化しようとしている。こういう時は落ち着くまでこうさせておくのが一番いい。私は落ち着かせられるような言葉を持っていないし、今どうして怒っているのかもわからない。何もせず、受け入れることがその怒りに共感する手段だった。
「ウゥウウ……ウウウウッ」
長く唸り、エプロンを力強く掴んで、精一杯引っ張った。私の体についているので、巻き込まないように膝を折る。掴みやすくなったエプロンをめちゃくちゃに引っ張って、あっという間に千切れてしまった。ただ、びりびりと千切れる音で少し落ち着いたのか、暴力で感情を消化させるのはやめたようだ。布切れになったエプロンを握って、商業施設で迷子になってしまった小さい子みたいな顔をしている。
「えい」
名前を呼んでみる。この子は元々感情の起伏が激しい。この子自身、どうして怒るのか、どうして悲しむのかがわからなくて苦しんでいる。本当はカウンセリングだったり、専門的な病院で診てもらうのがいいのだろうけど。こういう保護施設にいる亜人が機会に恵まれることは少ない。私にできるのは、全部を受け入れることだけ。
「うぅううぅー……」
小さくなった怒りの火は消えていない。私が差し出した手を掴んで、何かしようとして、やめた。やってしまいたいけどやりたくないというような気持ちだろうか。
「スス……」
「えい。つらい?」
「うぅぅ、うぐ……」
あっという間に、目元に大粒の涙が浮かんで零れ落ちていく。もう暴れたりはしないだろう、と抱きしめて、大丈夫だよと繰り返す。私には受け入れることしかできないけれど、それがちょっとでも助けになったらいいと願う。
しばらく泣いて、落ち着いたえいが、ぽつぽつと話してくれた。
ただ、ちょっとだけ嫌なことがあった。気に入っていたぬいぐるみが見つからなくて、怒ってしまったんだと。そんなに怒る事じゃないのに、どうしてこんなに怒ってしまったんだろうって。それを制御するのがこの子の目標として、とりあえずそのぬいぐるみを探してみようか、と聞き込みをすることにした。
一階、二階、三階。話を聞ける子に聞いたり、ありそうな場所、よく忘れ物がある場所を回っても無かった。後は四階と屋上だな、と階段に足をかけたとき、後ろから針音がやってきた。どこにいたのかわからなかったが、どうやらぬいぐるみを探している声を聞き取ったらしい。洗濯物を干すときにそれらしいぬいぐるみがあったと教えてくれたので、えいと一緒にお礼を言って屋上へ向かう事にした。
「お洗濯してたんだね」
「なんでだろう……」
洗濯される理由は、汚れたから。ただ汚れた理由がえいには見当もつかないそうで、可能性の一つとしてはえいが触っていない間に誰かが汚してしまった、というものが浮かぶ。えい自身は気づかない間に汚していて、見つけた誰かがお洗濯に出してくれたのかもしれない、と言っていた。何はともあれ、すっかり見慣れた屋上への道を登り、重い扉を開く。
今日も快晴だが、すこし風が強いだろうか。力を入れていないらしいえいの尻尾が、干された洗濯物みたいに流されていた。
時々強く吹く風でばたばたと大きく揺れる服やシーツの間をぬって、ぬいぐるみの形を探す。それはくすんだピンク色のお馬さんらしいから、白色が大半を占めるこの中では目立つはずだ。
「どこかなー……あ」
腕の中で、えいが何かを見つけた声を出した。えいの見る方向は、丁度大きなシーツがはためいていてよく見えない……けれど、何か黒いものが、先の方にある。
何だろう。と、信号待ちのような気持ちでその場で見えるようになるのを待っていた。
その先にあったものは、少し赤みのある黒髪。光をはじくように濃い黒の下に、見違えようのない暗い赤色の双眸があった。
目が合ったのがわかったと同時に、腕の中でえいがびくりと怯えたように体を震えさせた。えいは小さく、力もそこまで強くはない。それはきっと、本能的な恐怖だろう。
「柊だね」
大丈夫、ここの子だよと教えるように、えいに話す。えいは、静かに息をひそめていた。
「近寄ってもいい?」
今度は、柊にも伝えるつもりで声を出す。腕の中からも前方からも返事がないので、ゆっくりと前進する。柊は、屋上のフェンスにもたれ掛かって座っていた。それなりに近づいたところで足を止める。柊はじっとこちらを見上げている。
「柊、お馬さんのぬいぐるみ、見てない?」
ここにいつから居たのかわからないけれど、もしかしたら場所を知っているかもしれない。探せばすぐに見つかると思うけれど。
まあ、予想通り返事は無かった。えいが固まったままだし、捜索に戻ろう。
「それ」
柊から視線を外した時に、柊に声がした。もう一度柊を見る。
「それ、置け」
それ。私が持っているのはえいだけだ。柊は、えいを置けと私に言っている。多分、試しているんだと思う。
「えい。柊と遊ぶ?」
固まっていたえいに話しかけてみると、びっくりしたように私を見上げた。表情に怯えは見えない。ぼーっとしていた事を指摘された時のような顔。
「柊、あそぶ?の?」
恐怖とは縁遠い、わくわくとしたものを感じた。それなら、と柊の近くでえいを降ろしてみる。えいはしっかりと着地して、特に警戒もせずに柊に近寄っていった。
「わぁ」
えいの小さな声。柊が素早く引っ張って押し倒したことで、声が吸い込まれてしまったのだろう。
そう、柊は私がどう出るかを見たかったのだろう。その結果は、きっと柊が予想出来なかったものだと思う。
「ひいらぎ!」
さっきまで怒って泣いていたとは思えないほどにご機嫌そうな声で、柊の背中に腕を回してひっついてくるとは流石に考えられなかったと思う。固まるのは柊の方だったようだ。
ここでは、それくらい警戒心が無くなる。無くなるくらいに、甘やかされる。
「柊、えいと一緒にいてあげてくれる?ぬいぐるみ探してくるね」
だからこそ、えいは自分が暴力的になることが嫌いなのだ。

ぬいぐるみはすぐに見つかり、回収して二人の元に戻ってくると、なんだか不思議な光景が広がっていた。
「おい……やめろ」
力で抵抗できるはずの柊が、言葉でしか拒否していなかった。横に座っているえいが柊の長い髪を興味津々に触っている。
迎えた時もそうだったけれど、柊は拘束が必要になる不良だったにしてはかなり穏やかだ。だから私も、気になってはいたけれど心配はしていなかった。
「スス!柊、さらさらしてる!」
「そんなに?」
「そんなに!あのねーアルンみたいな?」
「それはさらさらだねえ」
手入れなどは雨丸やエンジェルがしてくれているそうで、重く異臭がする艶のない髪とは程遠い、健康的な髪になっていた。えいは髪質のせいかぱさぱさしているから、なおさら触っていて心地がいいのだろう。柊本人はというと、不快でも嬉しくも無さそうな、無表情に困惑を一滴垂らしたような顔をしていた。
「早く、連れていけ」
声も困っているようだった。えいが残念そうにしていたが、あまり柊を困らせたくもない。えいにおいでと手で合図すると、素直に来てくれる。洗濯されたばかりのぬいぐるみを渡し、安心した様子で抱きしめたのを見てから、一緒に屋上を後にした。

えいがぬいぐるみを抱きしめたまま眠そうにしていたから三階で座らせたあとに一旦離れて戻ってきたところ、寝てしまったらしくこてっと横になっていた。そして、近くに座り込んでいる雨丸からもちもちだねえ……と呟く声が聞こえてきた。
「へへへぇかわい~ねぇぬいぐるみもちもちだねえ」
また驚かせるかな、と思いつつ覗き込んでみると、えいが寝ながらもぬいぐるみを揉んでいる様子を見てそう呟いているようだった。疑いようもなく可愛らしい姿である。気づかれないうちに行ってしまおうとその場を後にしたかった。
「もちまる!」
デン!と、効果音が付きそうな仁王立ちをしているぜーちゃんが後ろに立っていた。
「ハッ、ぜーちゃ……スス!?」
「あ、や、ごめん、つい」
振り向いた雨丸が私を見て心底驚いていそうな顔になったので、軽く謝罪を入れて立ち去ろうと思った。そうしたかった。ぜーちゃんが私に対して行かせないぞと言う意味合いで仁王立ちしていなければ。
「ススも、もちまるされたいんだろう!」
もちまるって、動詞なのか。そこじゃない。
「違う、たまたま通り掛かったんだ」
ぜーちゃんがいつから居たのかわからないけど、実際じっと見ているというほどは見ていないはずだし。
「ならもちまるしたいのか?」
言いたいことはわかるけれど、雨丸の心がはじけ飛びそうだからやめてあげてほしい。ちらりと様子を見ると、案の定顔を覆っていた。えいはこの賑やかさの中ぐっすり眠ったままだが。
「したいけど、雨丸いじめてるみたいになるから」
「なんで?」
ぜーちゃんの悪意のなさがまぶしい。そしてなぜか、雨丸が立ち上がった。何か、決意をしたように。
「スス」
もはや恥ずかしがっていた面影はなく、強くまっすぐな瞳が私を見ている。
「えい、かわいいと思う?」
大真面目に聞かれたらしい。雨丸にとって、晒すには恥ずかしいものだったのだろう。なら、私もしっかりと茶化したりせずに答えるべきなのではないか。
「それはもう、とても」
いつも通りに、でも気持ちは隠さない。なんたって、この子たちを可愛いと思えていなければ私はここに居ないわけで。あなたの気持ちはここで求められている物だ、と。
それを聞いた雨丸は、気が緩んだのか安心したのか。いささかゆるめすぎではないか、というくらいに表情を崩して、嬉しそうに笑い声をこぼしていた。豹変っぷりが少し怖い気もする。
「えへへへ……よかった。こうやって抱きしめてるものを揉んじゃう子って時々居るよね、かわいいよね」
えいの近くでしゃがみなおした雨丸が、一応私に伝えるつもりで呟いた。同意しつつ、何故か満足げなぜーちゃんを抱っこする。
「ぷ?」
「ぜーちゃん、雨丸心配してた?」
「しんぱい?なんで?」
雨丸に決意をさせたのはぜーちゃんが背中を押したからだと思うよ、といったところで、ぜーちゃんは不思議そうにするだけだと思うけど。
「ねえねスス、もちまるする?」
「もちまるねえ」
「もちまるっていう呼び方だけはやめよう?」
冷静な声雨丸の声がスッと入ってきたので、ちょっと笑ってしまった。流石に恥ずかしいようだ。ぜーちゃんはなんでなんでーと心底不思議そうにしていたけど、最終的にはわかったとうなずいてくれた。
そのあと、ぜーちゃんが満足して遊んでくると言うまで、ずっと髪や頬を撫でまわしていた。怪我が多いせいか、肌がかたくなっているところがあった。その感想を無意識に呟くと、すかさず雨丸からそこがまた好きなんだよねと言われた。ぜーちゃんは褒められたのが嬉しかったのか、もっと怪我するね!と言い出したので二人して止めたり。

そういえば、個室以外で柊を見たのは初めてだった。
ぜーちゃんが遊びに行ったのを区切りにしたのは同じだったようで、表情を引き締めなおした雨丸と一緒に移動しようか、というときに屋上で柊に会った話してみると、雨丸は五秒くらい硬直したのちに、それが本当かと聞き直してきたので、もう一度肯定した。
「わあ、すごい……スス、何かしたの?」
「え、いや何も。最近はあまり会いに行っていなかったから」
「そうなんだ?柊が出たって聞いたの、初めてだよ。いくら屋上でも、それこそ針音とかが見ていると思うし……今日初めて、出てきたんじゃないかな」
「そっか。とても穏やかだったよ、えいに触られても逃げなかったし、攻撃もしなかった」
危険はないと断定はできないが、少なくともここで力を行使しようとすれば不利になるのは自分だと理解しているようだし、私はあまり心配していない。雨丸もその答えに行きついたようで、嬉しそうに微笑んでいた。
「柊って、やっぱり触られるの嫌かなあ」
すっかり隠すのも恥ずかしがるのはやめたようだ。

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