ひとつめ
新任
ぬるい風が体を撫で、薄暗い赤紫色の髪がゆるゆると流れた。
ススがぼうっと眺めているのは、不愛想な灰色の壁だった。硬く、無機物の塊のようなその壁には扉がついており、それが建物の外壁だという事を示している。
ススから見える範囲には、窓がない。扉も硬い金属製のもので、中に何があるのかを知ることはできない。何か音が漏れてくることもなく、聞こえるのは少し遠くから響く車の音くらいだ。雑に想像力を働かせるなら、この中にあまり楽しいものはないだろう、と考えることができるだろう。
この先のことを考えていたのか、ただぼんやりとしていただけなのかはわからない。楽しそうでも、不安そうでもない無表情のまま、ススは扉の前に進み、開いた。
三階か四階ぶんくらいありそうな壁は、巨大な囲いであったらしい。
扉を閉め、ススが前を向いて見たのは、舗装された道とその先にある建物、そこから右の方に見える広い庭。一見すると、学校のような世界が広がっていた。
花壇もあれば、芝生や遊具もある。目を引くのは、奥の方には大きな木がいくつも生えている所だろうか。その下には草花や低木があり、道となっているのだろう、草や低木が無いところから先は薄暗く、果ては見えない。森の入口のようだった。
ススはそのまま、石造りの道を進んでいく。建物の入口へと誘導するための道は右の方にゆるやかに曲がり、四段ほどの階段の前で途絶えた。
囲いとは違い、建物は愛想こそないものの、大小さまざまな窓がついている。カーテンが閉まっているものも、中を覗くこともできる窓も。入口に面している壁に至ってはほぼ全面が透明な建材で、扉も同じく。新品のように、とは思えないがよく手入れされているようで、目立った汚れや傷は見当たらない。
ここまで、スス以外の生き物の気配はまるでなかった。だが、入口の向こう、建物の中に一人、人の形をしたものが立っている。ススを迎えるために待っていたのだろう、ススを見て柔らかな笑みを浮かべた。
「おひるねの庭へようこそ、スス先生」
アコースティックギターのような、柔らかな声だった。
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