このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

亜人小話の小話


浅葱色団子



「アルちゃんはねえ、こわれてるんだよ」
それは、泣き出したアルを落ち着かせたあとのことだった。アルの体を抱きしめて、慈愛のような、同情のような感情を浮かべた瞳でアルを見つめているアルンが、独り言のように呟いた。
「壊れちゃった」
手入れの行き届いた髪を、優しくなでながら。
メルンは私の手を握っている。時々口元に運んではじゃれついている。
「珍しくないでしょ?親に売られて、転々として、今のご主人サマに出会う頃には可愛いわんちゃんになってた。キモチなんて無いようなものでかわいいって言われたいアルちゃん……僕らがここにいるのは、アルちゃんの精一杯のわがままなんだね」
人工的な亜人に持たされた、愛に飢えるという側面。それは時に自我を壊す。アルもそうだと、アルンは暗にそう言った。
「その中で名前だけがアル……それと僕達をつなぎとめていたんだろうね。だからこの子はメルンの名前もアルの名前も大好きなんだ」
すう、すう、と。アルの小さな寝息が続く。
「ねえスス。アルみたいに壊れちゃった子は、かわいそうなのかな」
アルンの目が私を見る。真っ直ぐ、貫くように鋭い視線。
「そうだと思う」
私の返事を吟味するように、じりと焼けるようなものを感じる。
「かわいそう、かわいそう。なら、どうする?」
「どうする?どうにも」
私ができることはない。私がすることはなにもない。
「何もしない?」
「何もしない」
「なぜ?」
「なぜ?」
アルンの言葉を繰り返す。
「助けたい?」
「アルが助けを求めるのなら、できることを探す」
「今は?」
「アルは助けを求めてる?」
「ススはどう思うの」
「アルは今幸せそうにしてる。主人に可愛がられて、ここで二人と遊べて、みんなに可愛がってもらえている。苦しんでいるように見えない」
「こうやって泣き出しても、暴れても?」
「私からは苦しんでるように見えない」
「無自覚だと?」
「アルはわかってやってる。壊れてるってそういうこと」
アルンは、私の奥底を覗くように。
私は、アルンの前ですべてを曝け出すように。
「わふん」
メルンから気の抜けた声が聞こえた。
「ススは」
アルンに向き直る。
「アルになにをする?」
「何も」
「壊れて、可哀想な子を、そのまま?」
「私にはどうでもいい」
ぐ。
と、肩を掴まれた。服は破けてないけど、肉は抉れそうなくらい力強く。私を覗こうと、間近で覗かれている。
「どうでもいい?」
奥から声がする。ここにあるのはメルンだ。
「私は救うためにいるわけじゃない。私はみんなのためにいるわけじゃないよ。私は私が幸せでいたいからここにいる。私はみんなを撫でてかわいがってお世話できたらそれでいい」
ぱちり。メルンがゆっくりと瞬いて、ふゃーっと声を出して身を委ねてきた。抱きとめる。ぬくい。耳が顔に触る。
「それを望まないなら、私は近寄らない」
アルンはアルを見つめていた。
「望んだら?」
「いつでも来て」
アルンは、私を見つめて。
アルが時々する、恍惚とした表情を浮かべた。
2/4ページ