TWST × とうらぶ
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With へし切長谷部
*ルーク・ハント
おや、あそこに居るのは…。
姿勢よくベンチに腰掛けて前を見やるその人間は、人の形こそしているものの人ではない。
付喪神と呼ばれる大切にしているものに宿る神の一種だというヘシキリハセベくんの本体は、腰にかけている刀だという。
特別に所持を許されている彼はオンボロ寮に住んでいるトリックスターの使い魔、と紹介を受けたのは記憶に新しい。
「ルーク、何やってんの?」
「今朝ぶりだね、ヴィル。ほらあそこ、トリックスターの使い魔くんが神妙な面持ちで座り込んでいて…」
「覗き見?アンタ……どっかのライオンみたいに噛みつかれても知らないわよ」
「主命がない限り俺は刀は抜かん。しかしじろじろと見るな」
いつの間に背後にやって来ていたヘシキリくんに驚きながら振り返る。音も気配も匂いもしなかった……さすが付喪神といったところだろうか?
「すまないね、ヘシキリくん。君の姿勢の良さに感心していたんだ」
「ふん……お前たち、主を……その、見てないか?」
「あら、いっっっつもべったりなアンタが見失っちゃったの?珍しいこともあるのね」
ヴィルに同意見だ。トリックスターはヘシキリくんのことを強いて言うなら忠犬と言い表していた。そのくらいヘシキリくんは常に彼女の側に仕え必ず視界の中に入っていた。言い淀んでいる節があるのを見る限り、見失ったというよりか……
「主を………怒らせてしまった。謝罪をしなければならないんだ」
「喧嘩かい?」
「違う。俺が至らないせいだ」
サバナクロー寮生のような耳が見えてきそうなくらいしょんぼりとした様子が、彼女に非はないと否定する際には耳が立ち上がるのさえ見えてくる。
「だってアンタ過保護というか過干渉だもの。鬱陶しいって怒られたとかかしら」
ヴィルがキツく言うと口を結んで黙り込むヘシキリくんの様子を見るに、正解のようだ。
「お、俺は……主の役に立とうと」
「役立ってないって言われてないのに何勝手に凹んでんのよ……少しはラギーの図々しさを見習ったら?」
確かに、ヘシキリくんの謙虚さはもう少し削ってもいいかもしれないね。
「あ、長谷部いたいた……ヴィル先輩、ルーク先輩こんにちは」
監督生の声が聞こえた途端、花が咲いたように顔を上げたヘシキリくんの瞳はキラキラしている。まるで仕事から帰ってきたご主人を健気に迎える子犬のよう。
「アンタのこと怒らせたって肩下げてたわよ」
「だってお風呂までついてこようとするから……」
「し、しかし主!あの幽霊ども以前脱衣所で主に悪戯を……」
「悪戯ごときで叩き切ろうとしちゃうから怒ったんでしょうが」
「ただの悪戯ではありません!主を覗こうとするなど……!」
二人とも中庭だということを忘れてどんどん声が大きくなる。両手をぐ、と握りしめて怒る仕草が全く同じでなんて微笑ましいんだろう。長い間一緒に過ごしてると聞いてはいたけれど、仕草まで似てくるなんて。
「も〜っ!!埒があかない!長谷部なんてしらない!しばらく一人にして!」
「そ、そんな……主ぃ……」
「おや……そんな小さくならないで、ほとぼりが冷めたら彼女もヘシキリくんの言い分を分かってくれるさ」
大きな背丈をこれでもかと小さくして屈み込んでしまったヘシキリくんの肩に手を添えると、震えている。もしかして?と顔を覗き込むように下から窺うと大粒の涙を流している。
「ウソ、泣いてるの?」
ヴィルと顔を見合わせる。子供のように泣きじゃくり始めたヘシキリくんの背中を擦って落ち着かせる。
「で……私のところに来たのか」
「トレイン先生にはご令嬢がいたはず。ヘシキリくんにアドバイスするなら適役かと」
愛猫のルチウスを大事そうに抱えたトレイン先生にはご令嬢が2人いたはず。経験者ならヘシキリくんと監督生が今後同じように衝突してしまわないよう、アドバイスを貰えるだろうと今も泣きじゃくるヘシキリくんの腕を引っ張りやってきた。
「……まずは泣きやみなさい、君の意見を聞こう」
ティッシュを差し出したトレイン先生とそれを受け取るヘシキリくん。眉が垂れ下がっている……破門でもないし、嫌いと言われた訳でもない…側にいるのを控えろと言われただけでここまで泣いてしまうのだね、忠犬のヘシキリくんは。
「……それは君が悪い。プライバシーというものが彼女にも君にもある」
「…ぷらいばしぃ…?」
「監督生には監督生個人の生活や秘密にしたいこと、個人的な物事があるだろう。全てをおおっぴろげになんて誰だってストレスになる……君の監督生の安全を思う心は立派だが、その……体が見える場所にまでついていくのは控えたほうがいい」
「……では何故、主の体が見える場所に好き勝手入り込める幽霊どもを野放しにしておく」
「……私からも厳重注意しよう、2回目の被害はあるか?」
「俺が目を光らせているからない」
「散々謝罪と更生の言葉があったんだろう?では少し猶予期間として見守るだけにしたらどうかな……2回目があったなら、君の言うとおり彼女に進言したらいい」
「……たかが背中から脅かしてきた幽霊ごときで、という顔だな」
「……何か他の訳が?」
「お前ら、主からどこまで聞いている……俺たち、刀剣と主の功績を」
座り直したヘシキリくんにこちらも姿勢を正す。彼女がサニワと呼ばれる者で、政府から任命された令で過去に遡り刀剣に付喪神を顕現させ、実体化させて戦っていたことを伝える。
「その…歴史を変えようとする奴らと少し気配が似ているのだ。匂いというか、感覚的なものだが……ここには俺以外の刀の気配がしない。元より、俺たちと主が居た国すらない故世界が違うのも理解はしている。
世界が違うということは、歴史改変を目論むあいつらがいないことももちろん頭では理解している…が、その似た気配がふと主のそばに現れると毎回空見するし……焦る」
「……それは、監督生には?」
「お伝えしていない。主を不安にさせてしまっては元も子もない……ここは平和だ、主にちょっかいをかけてくる奴らさえ可愛く思えるくらいにはな………主はよく、本丸で泣いていたんだ」
ぐ、と拳を握りしめるヘシキリくんの表情には悔しさが滲み出ている。
「俺たちひとりひとりの管理、合戦となれば舞台の編成から本丸内の資材管理、新参者への対応、口だけは達者で支援もない政府からの定期的な視察対応…他の本丸の審神者同士でのやり取り、刀剣によっては顕現してすぐは主へ反抗的だったりする奴もいる…主には辛い記憶のほうが多いだろう」
彼女はたった一人でそこまでこなして過ごしていたのか。そうは思わせない彼女の口ぶりを思い出す。
「ある日、本丸内に変装が得意な敵が新入していて……よりによって、近侍として側に仕えていた俺に変装した主が斬りつけられたことがある。
どうしても思い出すから、主を一人にしたくないんだ。突然ここに飛ばされた俺達のようにやって来たそいつらが主を狙う可能性はないとは言えないだろう」
「そうか…それでヘシキリくんは譲れないのだね」
頷くヘシキリくんにトレイン先生が息を吐く。
「怪我をしたあとの彼女の様子はどうだったんだ?」
「……気にするなと、それだけだ。……俺を始めとする誰もが気付けなかった、不甲斐ない刀だ」
おや、垂れた耳と尻尾まで見えそうなくらい項垂れてしまった。トリックスターの性格的に、本当に気にしなくていいと思って発言してそうな気もするけれど…。彼女は良くも悪くも裏表があまりない。表情に感情が出やすい部類だと思うし、それを自身で隠そうともしていない節がある。
「……君が譲れぬ事情は分かった。君の気持ちを汲んで監督生にも話は伝えるが条件がある。……まずはしっかり寝なさい、監督生同様。
君にも監督生にも、防御魔法はかけてある…私じゃなくて学園長だが。私はオンボロ寮の敷地内に検知魔法をかけてある、ゴースト、グリム、ヘシキリ、そして監督生と特に仲のいいハーツラビュルのあの二人以外が敷地内に入ればすぐに分かる。それはゴーストであってもそれ以外の生き物であっても、だ」
「……睡眠など不要、俺は元はこの刀だ」
「だが今は人間の姿だろう、監督生の力によって。
人間がいかに脆いかなんて…先代の持ち主の最期を見届けている君が一番よく分かっているんじゃないか?だからこそ監督生が怒るほど過保護に見守っているんだろう」
そう言い寄られたヘシキリくんは唇を噛んでいる。クマをきっと監督生やヴィルの見様見真似でコンシーラーで隠しているんだろうけど……肌の色が微妙に馴染んでなくて僕たちには丸わかりだ。
「もとの所では君の代わりに寝ずに見張る役目もいたんだろうが、今は一人だ。君が倒れたらどうなる?……きっと信じられないくらい自分を責めるぞ、あの子は。
そして2つめ。きちんと先程の話を監督生に伝えなさい。君と監督生は考え方が違う。物事一つの捉え方はその個々人によって異なる。だから人間には言葉があるんだ…すれ違いを解消してきなさい、拗れそうなら私かルーク・ハントに仲裁を頼めばいい」
「光栄だね、ヘシキリくんが監督生を想い慕うその気持ち…実にマーベラス!しかしその美しく強い気持ちの裏でどちらかが限界を迎えては勿体無い」
「ま、まぁべらす…?なんなんだ、お前のその謎の言葉たちは……」
*ミョウジナマエ
「あ、主……!お迎えにきてくださったのですね」
「うおっ!??いつも体格考えて飛び込みなさいって言ってるでしょ!」
嬉しくて嬉しくて仕方ない、そんな様子で私に飛び込んできた長谷部は本当に大型犬のよう。なおさら体格差考えてほしいんだけどね……背骨が悲鳴を上げてる。
「…ほら、オンボロ寮もどろ。トレイン先生、ルーク先輩、長谷部がお世話になりました。話し合います」
頭を下げて解決したら教えてくれと声をかけられるので頷く。さて、隠し通せてると思ってる目のクマの追求と過剰に私を一人にさせたがらないことについて話さないとね…。
オンボロ寮に戻って、ソファに座るように声をかける。隣に座って長谷部の顔を見上げる。…ほんとにひどいクマ…何をそんなに不安がっているの?と直球で尋ねる。隠し事はなし、主と長谷部の仲でしょうと付け加える。
「……え、そんなに気にしてたの…?」
「…はい」
「…斬りつけられたって……猫のひっかき傷のほうが跡残ったくらいじゃない」
「傷が残らなければ怪我をして良いと仰るのですか?」
「違う違う、ただの結果の比較!……長谷部、私の目よく見て」
長谷部のやわやわな頬を両手で挟んで目を逸らせないように固定する。
「う〜ん…長谷部の性格的に難しいかもしれないけど…じゃあ1つ、約束ね」
「?」
「私は思ってること、考えてること、全て口に出してます。嫌なものは嫌、好きなことは好き。それは本丸の時からそう、これは……神様に誓って言える。そのことを忘れないでね」
「承知しました」
「はい、承知したんだね?じゃあここからは君の訂正に入ります。
まず、私は貴方を不甲斐ないなんて思ったことない。あの斬りつけられた時だってそもそも本物の長谷部であったとしても、気付けないくらい近くに寄ってたことに気付けない私も至らない点だったと思ってます」
「そ、「話は最後まで聞く!」……申し訳ありません」
ならよろしい、と頭を撫でる。
「誰も悪くないし責任追及するなら皆がちょっとずつ惜しくて悪かったねってなる事件だったと思ってる。
それに、長谷部の言い分も今ならわかる。私たちもここになんの前触れもなくやってきたもんね。あとから誰か続いて来るかもしれない……それは男士じゃなくて、敵軍の誰かかもしれない。
その上で、トレイン先生から結界みたく守ってもらう魔法をかけてもらってるのは聞いたならあの人たちを信じてあげてほしいな…検知だけじゃなくて捕らえるのもかけてあるって言ってたから、長谷部が寝ずに見回りしなくてもいいんだよ」
「…主、夜寝てないのですか?」
「寝てる。目のクマ、バレバレだよ……今日から長谷部が寝るまで私も寝ないからね!」
目の下を軽く突くと思ったよりしょんぼりした長谷部がうなだれてる。
「長谷部、私察せたりできないからさ…これからは長谷部が思ってることちゃんと伝えてね。そうじゃないとせっかくの長谷部の大事な気持ちを今回みたいに私が無駄にしちゃうから」
「……善処します、主…その…」
「ん?」
「本丸のときと同じように、横に並んでも良いですか…?」
「いいよ、もちろん。子守唄でも歌おうか?」
「俺をいくつだと思ってるんです、主!」
そんな一緒に寝ていい?って可愛く聞いてくるのはちっちゃい子みたいじゃん。長谷部は思ったより自分を追い詰めやすいんだな……ちょっとした強迫観念みたいになってたのかも。気長にそれをほぐしていければいいけど……。
*ルーク・ハント
「オーララ……」
「ちょっと、アンタ何その頭!!!こっち来なさい」
「あら、長谷部ご指名だよ」
先日とは打って変わってまるでシルバー君のように眠そうに監督生の後ろを歩いているヘシキリくんは、今まで見たことないくらいの寝癖のままだ。
「ぬ……?お前は…」
「ちょっと、監督生。シャキッとさせなさい…だらしがないわ、ボタンもかけ違えてるし」
「あらほんとだ。長谷部、やっぱ戻って少しお昼寝しようか」
「なりません、本日は……小てすとなるものが…」
フニャフニャの話し方から察するに、眠くて限界なのだろう。監督生から直々に話し合いは成功し、ヘシキリくんの強迫めいた考え方は訂正できたと報告を受けた。仲直りできてよかったね、と返すと監督生より嬉しそうにはにかむヘシキリくんの表情は花束のような可憐さが見えた。
「うーん………じゃあ私だけで授業行くよ、長谷部は保健室に行って」
「それも、なりません」
「相変わらず頑固ね……小ジャガに任せたらどう?二人もいれば何かあってもどうとでもなるわよ、一応ここ魔法士の名門校なんだから」
「主は長谷部が休まず働いてるの見て心痛むな〜〜少し休んでほしいな〜?……え、アレ!?ここで寝ちゃった?!!」
「電池切れのようだね……ヘシキリくん、動けるかい?」
声をかけるも寝息が返ってくるのみ。彼の体格では監督生がおぶって運ぶのは無理だろう。肩を貸して起き上がらせるように背中におぶる。
「クルーウェルにはアタシが伝えておくから、ひとまずヘシキリをちゃんと寝かしてきなさい。…部屋に一人にするんじゃなくて、メモ書き残しときなさい。絶対慌てるから」
「わ、ヴィル先輩もルーク先輩もありがとうございます…!すぐ戻ります!」
「フフ、お安い御用さ。それにしてもヘシキリくんの忠誠心には目を見張るものがあるね」
倒れるまで側に仕えるなんて、使い魔の見本のような存在だ。オンボロ寮に入り、ヘシキリくんをベッドに寝かせてる間彼女は書き置きを残している。枕元と念の為テーブルの上にもと残していた。これで勘違いして駆け回るヘシキリくんにはならずに済むだろう。
(長谷部、ただいま〜)
(……?…主…?)
(おぉ、ぐっすりだったんだね)
(…??)
(小テストはグリムと受けてきたよ、ただその話してる最中に長谷部寝落ちしちゃったから、ルーク先輩に運んできて貰ったんだ…ほら、メモ)
(……はっ!!申し訳ありません、夜まで眠ってしまうなんて…)
(いいよ、よく寝れた?顔色良くなったね…ご飯作って、食べてお風呂入って寝ようね)
(て、手伝います!るーく、にも後日お礼を…)
(おお、寝癖爆発したままだ!かわいいね)
長谷部くんにとってのトラウマ「俺が見ていないところで主が怪我をする」なので常に目ざとく見ています。
最初は我慢してあげてた審神者だけど、お風呂はいるときも脱衣所から出ていかないから我慢の限界で…という小話。従順すぎるが故長谷部くんなら起こり得そう。
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