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痴話喧嘩
*ナマエ・ミョウジ
きっかけなんて忘れるくらいだから些細な事だったんだろう。その日はよくよく思い返せば全体を通してあんまり運のいいと言える日ではなかった。
朝から頭痛で起きたし、そしてどんよりと雨が降ってきた。気圧の変化に弱いから偏頭痛のせいでラギーくんにさえ「機嫌悪いッスね」と怖がられてしまうくらいしかめっ面をしていたし、加えて重なってしまった各授業の小レポートもある。
「主人に腹見せて媚びることしかできねえ犬ころごときが」
レオナも偏頭痛持ちだ。僕が痛かったから彼も朝からの頭痛に悩まされていたんだろう。最近は寝不足でなおかつ朝早くマジフト部の朝練はきっちりこなしていたから疲れていたんだと思う。だからこんな発言がポロッと出てしまう。
「………だったら、何?」
思っていたよりも冷たくて刺々しい声が出る。僕はジャッカルの獣人族で、キングスカラー家に仕えてる…だから正真正銘「犬」だ。犬科だから犬と呼ばれることに対しては何も思わないけど、侮辱の意味が込められてるなら話は変わってくる。
「……違ェ、今のは…」
「違わないよ、僕は君の犬だ。…それが何?」
「……何してるんスか、アンタら……ヒートアップする前に!ほら一旦二人とも落ち着いてください!」
ラギーくんが合間に入ってくるけど、ラギーくんより大きいレオナの表情は見えたままだ。睨み合うようにラギーくんを挟んで立ってるとレオナに用があるらしいジャックくんまでやって来る。
「……なんかあったんですか?」
「いや、別に。僕ちょっと出てくる」
「待て、話終わってねえだろ」
「僕はお腹を見せて媚びることしかできないみたいだからね、主人は忙しいみたいだし別の人に撫でてもらうよ」
「……あ〜………どこに行くかだけでもオレに教えてくれたり…?」
「ん〜…ハーツラビュルかな…予定は」
トレイくんがクッキーを焼いてくれてるらしいから、と付け加える。ラギーくんがグイグイと僕を押しやるようにしてレオナと別れる。
「犬か…」
1番大好きな人に言われるのは堪えるものがあるな……ひとまず約束があるしハーツラビュルへ向かおう。
「……なんかあったか?」
「目ざといね」
「明らかに何かあった顔してるからな」
ふぅと息を吐く。お前の感情は顔に出やすいとキファジ様にも言われてきたのに……表情管理はちゃんと練習しないとな。
「ん〜……獣人族ならではの感覚の話だからなあ」
「……草食か肉食かどうか…とか?」
「うん、それに近しい……わあいい匂い」
「ナマエはアッサムが好きだよな」
ミルクもくれる。獣人族がばりばり食べる様子が見たいというトレイくんの謎すぎる
「君はよく人を見てるね」
「作ったモン食べてもらうときは尚更見てるよ、ナマエはプリンとか焼き菓子よりフルーツが好きだな〜とか」
バレバレだ。
「…夕焼けの草原には枯れた土地も多い。水も貴重だしそうなると草でさえ奪い合いになることもある……だからフルーツなんて高級品なんだよ」
「なるほどな…王宮でもあんまり出てこなかったのか?」
「一般家庭に比べたら遥かに口にする機会は多いだろうけど……それでもお祝い事とか、僕が風邪ひいたときとかそういう時にしか出なかったかも?…だから梨はここで初めて食べたよ」
「あぁ……なるほど、だからあんな不思議そうな顔してたのか」
え、そうなの?梨のタルトを食べたときが初対面だったと思う。
「リンゴかと思って齧りついたんだろ?考え込む顔してたから、好きじゃないのかと思ってたが…そうか、初めてなら考え込むよな」
ニヤニヤと悪い顔をしてるトレイくんの指を軽く突く。
「少しバカにしてるね?……レオナか…」
「え、いるのか?」
「足音で分かる……はぁ」
ラギーくんたちに促されて来たんだろうか?まぁ僕も大人気なかったかもしれないけど……ていうかなんであんなヒートアップしたんだっけ?きっかけは…?と思い出しているとレオナがキッチンにやって来る。
「よう、レオナ。お前も食べていくか?」
「……いや、いい。ナマエ」
「何」
ぶっきらぼうに答えた僕に1番驚いてシュガー用のティースプーンを床に落としたトレイくんと目が合う。そんな驚かなくてもいいじゃないか、僕だって感情があるから不機嫌な日くらいある。
「……悪かった」
「そもそも……なんであんなことになったんだっけ」
「………」
黙り込むレオナを見る限り、彼も忘れたようだ。忘れるってことは大したことじゃないな。じゃあ原因は5対5の両成敗にしよう。
「ストップ。僕も主くらい選ぶよ」
隣に座ろうとしてきたレオナを右手で制するとぴた、と止まる。………少し泣きそうな顔をしてる。
「……まさか喧嘩か?珍しいな…」
「……そ、うだね。喧嘩中」
喧嘩?と少し悩んだけど…僕が意地を張ってるのはある。弱点であるお腹を見せて媚びることしかできない、と言われれば少しは揺らぐ。まず第一に僕はレオナの従者だから役立たずと言われるも同然。
そして仮にも番だと言った相手に犬ころごとき、はよくないだろう。じゃあネコ科の動物の相手を見つければいいじゃないか。
「僕じゃ力不足だったみたい」
「っ……違ぇよ」
「レオナ、手が傷つくからそんなに握らないで」
ぐっと音が鳴るくらい手を握りこむレオナに声をかける。子供のときも一度これで手から血が出るくらい手を握りしめてキファジ様と口論していたときがある。
レオナの可愛い耳はぺたん、と下がっていて尻尾も下がりきっている。………僕は顔に出ちゃうけどレオナは耳や尻尾に出すぎだ、あまりにバレバレすぎる。
「ナマエ、悪いがリドルに用があってここを空けなくちゃいけなくてな……。レオナの分の紅茶もあるが、どうする?」
「……僕が淹れるよ、ありがとう」
とにかく早く仲直りしろ、と目が語ってるトレイくんに頷くしかない。あとで理由話すか……ポットを受け取りレオナの分のアッサムティーを淹れて差し出す。隣に座ってきたレオナの覇気のなさはヴィルくんあたりが見かけたら4度見くらいするんじゃないだろうか…?
「ナマエ、悪かった」
「うぉ?!危な………かかっちゃうよレオナに」
ぎゅ、とのしかかるように抱きしめられてティーカップが傾く。危なかった……。鼻先をぐりぐりと押し付けられる。テーブルの上に置き直してレオナの頭をゆっくりと撫でる。
「君の悪いとこだ、言ったあとに後悔するような言葉を選ぶの」
「……」
「どこまでが本心なの?」
「…全部嘘だ」
「それは嘘、そしたらあんなの出てこないだろう?」
耳を軽く引っ張り顔を上げさせる。
「君の従者である僕も、ジャッカルである僕のこともまるまる否定したんだ」
「……」
手首に水が落ちてきて見上げると涙を流すレオナと目が合う。目を丸くしていると小さな声で許してほしい、と聞こえた。
「他のメス共……誰よりもお前がいい」
「……メスっていい方はダメ」
「ナマエがいい、酷いことを言った。……許してくれ」
ぐす、と鼻をすするレオナから目が離せない。レオナが涙を流すなんて何年ぶりに見たんだろう。耳をマッサージするように撫でるといつもより控えめに動いてる。
「…分かった。言っておくけど僕は自分で君を選んでるんだよ、餌をくれれば誰にでも腹を見せるわけじゃないから」
「あぁ…悪かった」
「……ラギーくんたちに何か言われたの?」
「だから謝りに来たわけじゃねえ」
分かってるよ、と頭を撫で続ける。甘えん坊になってしまったレオナを抱きとめてると様子を見に帰って来たトレイくんが驚きながらキッチンに入ってくる。
「仲直りしたか?」
「おかげさまで。気を遣わせちゃったね…いてて、レオナ…これ以上寄っかからないで、背骨折れちゃう」
「折れねえ」
自分の図体のデカさ分かってんのかこの子は…。はいはい、と背中を軽く叩くと少し重さがマシになる。
「パイナップルのゼリーがあるんだが…食うか?」
「食べたい…レオナは?」
「……食う」
じゃあちゃんと座って、と椅子を引く。一旦座って隙間がないくらい椅子を隣に寄せてきた。しっぽがゆらゆらと揺れて僕の左手に巻き付いてくる。変なところ素直じゃないんだから……。
「あれ……レオナ先輩、ナマエ先輩。仲直りしたんですか?」
「チッ………見りゃ分かんだろうが」
「こら…心配かけたね、もう仲直りしたよ」
涙を流したレオナとしてはこれ以上ギャラリーが増えるのは堪えるだろう。ゼリーを頂いたらサバナクローに戻るか。美味しいゼリーを頂いてお礼を言って寮に帰るとラギーくんとジャックくんが迎えてくれた。
「あ〜〜!よかったぁ……もう大変だったんスからね、ナマエさん!」
「戻ってきてくれてよかったッス」
「……あぁ、そっか……皆犬科だもんね」
そりゃ怒るし慌てるか……。また気まずそうにしているレオナの耳を撫でる。
「大きな貸し1つッスからね、トレイくんに根回ししたのオレなんだから!」
「あ、そうだったの?」
(レオナ……苦じ…強い…)
(どこへ行く)
(寝返りうちたいだけだってば…)
(……離れるな)
(離れないよ。僕の王と番は君だけなんだから)
(………悪かった、ナマエ)
(もういいよ、気にしてないから)
(…もっとこっち来い)
(いて……レオナの筋肉なんなの?岩みたいに固いんだけど…ちょっと、匂いかがないでよ)
(勝手に離れんじゃねえ)
(恥ずかしいじゃん…)
(お前だって俺の服抱きしめて寝てんだろうが)
(う…それを言われると…)
今回の功労賞…ラギーくん、トレイくん
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