TWISTED-WONDERLAND
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社会見学
*ナマエ・ミョウジ
王宮の外…よその国に遊びに行くなんてことしたことはもちろんなかった。本や写真、映像なんかではたくさん世界の名所や観光スポットを見てはいるけれど、見に行く機会は早々ない。もはや大人になって有給申請でもしないと無理なのでは?と諦めていた。
「お願い、レオナ」
「…却下」
「いいじゃないッスか、こんなにお願いしてるんだから」
ラギーくん…!今度ドーナツあげるねと言えばどーもぉ〜!とニコニコしている。
ことは食堂で隣の席にいたデュースくんに、故郷のお祭りがあるので来ないかと誘われたこと。デュースくんの故郷は薔薇の国。一度行ってみたいと思ってたんだ…けど。レオナは首を縦に振らない。
「そっか…レオナがだめって言うなら諦める」
その本はなんだ?と聞かれるので、薔薇の王国について知りたいとリドルくんに聞いたら貸してもらえた本たちだよと返す。僕を薔薇の国の教授にでもするつもりか?という量の本を渡されて、リドルくんらしいなあと思いつつもワクワクしながら読んでいたところだった。
「……ナマエ、待て。俺も行く。……それが条件だ」
「おお、良かったじゃないスか!レオナさん急に手のひら返してどうしたんスか?」
「お前な……頭ごなしに俺が否定してるとでも思ってんのか?ナマエは王宮外に自ら出たことなんて無い。俺の付き添いで夕焼けの草原のあちこちに連れ回したことはあったが…そんな箱入りが草食動物共と旅行なんて食べてくださいと行くようなもんだろ」
「箱入り……」
「まあ一理あるッスけど…デュースくんと?オルトくんとエペルくんとシルバーくんでしたっけ?……あ〜…かなり不安なメンツッスねえ」
「僕だって身を守るくらいは…」
護身術なんかも叩き込まれてきた。そのおかげで腕っぷしはある、はず。
「草食動物4人分も守れねえだろ…ただでさえ脳天気なメンツだ。だから俺も行くって言っとけ」
2日間の帰省旅行だからその間の部活は休みと発表し、宣言通りレオナもついてきてくれることになった。デュースくんは驚いていたしレオナが満足するような祭りじゃないと注釈を入れられたが、僕が見たいのだからいいよと返す。
いよいよ薔薇の国へ入国。
「おい、どんだけ浮かれてんだ」
「よその国行くの初めてだから…わあ、綺麗だね…」
「荷物寄こせ」
背の高くて体格のいいレオナからものを盗もうとする輩は確かにいなさそうだ。素直に荷物を渡す。丘陵地帯で石灰なんかを使用した家造りが多い。時計の街というだけあって精巧な時計のお土産店が多い。今回のお祭りもハートの女王に仕えていた白ウサギを称えるお祭りなんだとか…いつも時計を持ち歩いていて、時間に厳格だった伝承はリドルくんから借りた本で読んだ。
「ナマエ先輩、レオナ先輩。道はこっちだ」
町並みや風景を見て道が逸れていたのかシルバーくんに呼び止められる。
「ごめん……夢中になっちゃった」
「ナマエ・ミョウジさんとレオナ・キングスカラーさんは旅行とか行かないの?」
オルトくんだ。ひょこ、とシルバーくんの背中から顔を覗かせてる。
「旅行ねえ…ンな暇はねえもんでな」
「僕とレオナだけで旅行なんて……ものすごく怒られるだろうね」
なんでですか?とオルトくんの向こうからエペルくんが見える。
「レオナは王子で命を狙われる身だし、僕は本での知識はあるけどよその国のことは知らないことのほうが多いからね」
「…今回って来てよかったんですか?」
おお、ひょっこりポーズが完成した。エペルくんの向こうからデュースくんが覗いてる。可愛かったから写真を撮ると4人はぽかんとしてたのが面白くてつい笑う。
「ふふ、ごめんね。可愛くてつい……まあ皆いるし大丈夫かなって。僕も護身術なんかは習ってきたし、レオナもいるし」
薔薇の王国の中でも田舎の方だとデュースくんが言っていたとおり、近代的な都市ではない時計の街に刺客や…犯罪者集団なんかが集まるとは思わない。体格が良かったり顔つきが鋭くてこういう柔らかい場所では浮くからバレやすい。
市街地のお土産店がある通りからお祭りの会場へ移動。白ウサギはいつも時計を抱えて忙しなく走っていた伝承になぞらえて、このお祭りでは迷路を走り抜けるリレー形式の見世物があるらしく参加できるんだとか。その参加するメンバーをデュースくんは探して僕にも声をかけてくれたわけだ。
迷路を目の前で見ると、昔読んだ小説に出てきた背丈の高い草が壁のようになる巨大な迷路だ。
「うわ……迷いそう」
「ナマエ、これ怖いんじゃねえのか?」
楽しそうに笑う趣味の悪いレオナを肘でつつく。僕が昔その小説を読んでレオナが庭で再現した迷路に迷ってしまって大泣きしたこと、まだ覚えてるんだろう。
「やめてよ、もう……人が悪いね」
「そりゃあ悪かった」
変わらず笑みをうかべてるレオナの耳を撫でる。よく動いてごきげんだ。屋台を見てると活発そうなお姉さんに声をかけられる。
「あら、獣人族とは珍しい!なにか食べる?」
「これなんですか?」
これはねえ、と耳を撫でられながら説明を受けてると後ろからデュースくんの悲鳴のような声が響く。
「母さん……!気安くナマエさんの耳触るなよ!」
「僕は平気だよ?…え、お母さん?!」
「逆だろ」
レオナもびっくりした。お姉さんにしか見えないこのディラさんはデュースくんのお母さまらしい。確かにどことなく顔つきが似ている…。デュースくんの気の強さはお母さま譲りなんだろう。
「うそ、王族の方なの…?!ごめんなさいね、知らないとはいえ」
「いえいえ」
その後ディラさんが用意してくださったお祭りの衣装に着替えることになり、デュースくんの実家へ。実家の近くには博物館のようなものがあり、中を見学したり白ウサギが吹いてたと言われる小さなラッパを吹いたけど全然皆吹けなかった。
デュースくんの実家はものすごい可愛らしいお家でテンションが上がりまたレオナに笑われた……のは全然良くて、問題はこのお祭りの衣装だ。一言で言うならファンシー。
そりゃエペルくんやシルバーくんはどちらかといえば可愛らしい顔立ちだからきっと似合うだろう。でも可愛いかかっこいいかのどちらかに分類するなら、可愛くはない僕とレオナにこれを着ろと…??
とりあえず袖を通す。か、可愛すぎる気がする…。
「ねえ、僕これ着る自信ないよ……」
「なぜだ?上半身しか見えないが似合っているぞ」
シルバーくんに真っ向から褒められてそれはそれで恥ずかしい。けど…ディラさんが用意したくれたものだし、無下に扱うわけにもいかない。扉をあけていざ出ると、皆…特にエペルくんとオルトくんが褒めてくれる。1年生に気を遣わせてしまったかな…と反省していると、レオナがやってくる。僕ら獣人族は耳が邪魔にならないようにうさぎの耳のモチーフはヘアセットからは外してくれているようだ。
「レオナがこの色彩の服着てるの新鮮……可愛いね」
「褒めてんだよなァ?ナマエも中々可愛く着飾ったことで」
褒めてるよ、と耳を撫でているとそのやり取りを聞いていたオルトくんがじーっとこちらを…特に僕の耳を見ていることに気づく。
「どうかした?」
「あ、ううん。ナマエ・ミョウジさんの耳は縦に長いからうさぎみたいに見えるなって思って」
まあ確かに…。うさぎに引けを取らないくらいよく聞こえはするよ、と返す。大きい音ももれなく拾うからそれはそれで大変だけど。ディラさんにも似合ってるじゃない!とお墨付きをもらって再び会場へ。
「僕屋台のご飯食べたい」
「端から端までとか言うなよ」
「………じゃあ厳選して5個」
多すぎるとレオナからダメの合図。アイスも食べたいしご飯系も食べたいし…。
「…?なにこれ」
「え、嘘ナマエさんたこ焼きしらないの…?」
エペルくん、そんな引かないでよ。
「タコ…どこにいるの?」
「じゃこれぜひ買いましょう!ひとつください!」
僕が払う前にエペルくんに買われてしまう。
「…ナマエさん猫舌…じゃないですよね?結構熱いんで気ぃつけてください」
一口食べると熱すぎて口の中火傷した。けど…美味しい!ソースと鰹節?と…これは青のりか。タコは中にいて、とろとろの餡の様な中の具といい美味しい。
「はふ……ふまい!」
「おい、エペル。その調子でこいつに食わせてたら破産するぞ。アホほど食うんだから見張ってろ」
アホとはなんだアホとは…!そんな食べないよ、と言い返したら端から端まで食うの検討してただろうがって怒られてしまった。
「わあ、意外……ナマエ・ミョウジさんはいっぱい食べるんだね」
「止めなきゃどこまでも食うぞ、無闇やたらに買い与えんなよ」
レオナに忠告を受けたエペルくんにごめんね、と謝っておく。そんな食べ尽くすつもりはなかったんだけど…。その後も美味しそうなミートパイやら魚のフライとポテトフライが合わさった定番のものなどをつまむ。
「ん〜〜!おいひ〜」
「ナマエ先輩、もうそろそろやめておいたほうがいい。レオナ先輩の表情が険しくなっている」
シルバーくんに止められやむなく断念。そうこうしているとディラさんの屋台の前に…チンピラ?が絡んでいるのを発見。難癖をつけてタダでアイスを寄越せと言い寄るチンピラに真っ向から向かっていったのはデュースくんだった。
結果チンピラを蹴散らしたがお店の看板やら屋台の車やらをめちゃくちゃにされてしまった。これには皆怒り心頭で、デュースくんが再び謝って直すように要求するが聞く耳を持たない。
「顔は覚えたから指名手配はできるけど…」
「やめろ、お前もすぐカッカすんな」
ぐりぐりと耳を撫でられ、窘められる。実力で勝てないからって物や弱者に当たるなんて外道のすることだ。…だからチンピラなんだろうけど…。そう言い合っているとお祭りのリレーで勝ったら言う事聞いてやる、と何故か上から目線の提案をされる。100:0で向こうの過失なのになぜそんなにふんぞり返っていられるんだ…。
売り言葉に買い言葉、デュースくんは勝負に乗る。リレーのメンバー選出なんだけれど…。
「レオナはダメ。万が一狙われたら僕が間に入って失格になる」
基本相手の妨害は魔法の使用は禁止。スポーツマンシップに則って行われるので乱闘などもってのほか…となると、レオナを一人にさせるわけにはいかないのでレオナは待機。僕も出る気でいたんだけど、今度はレオナが口を開く。
「そしたらお前も駄目だろ」
「…え、なんでですか?」
「やる気満々なとこ申し訳ねェがこいつは重度の方向音痴でな、ただのリレーならまだしも全ステージが迷路仕様なら役に立たない」
「あの葉っぱの迷路じゃなければいけるよ」
「へぇ、生まれ育った王宮内で何度も迷子になって泣いて俺を呼んでたのにか?どんなコツや戦略で挑む気かお聞かせ願いたいな」
「う……すみません戦力外なので辞退します…」
「方向音痴は仕方ない、今回は致命的だからな」
「ナマエさんにそんな弱点あったなんてたげ意外だな……あ、観戦してても魔法使っちゃダメですからね」
そんな血の気の多い人間だと思われてるの?エペルくんにしないよ、と断りを入れる。
第一走者はオルトくん、その次はエペルくん、その次はシルバーくんでアンカーはデュースくんになった。応援しかできないけどごめんね、と謝ると観覧席から応援して!と皆に言われる。モニタールームのような場所に行くと、チンピラの一人がいる。たしか五人組くらいだったし同じようにあぶれたのだろう。
目があった瞬間に喧嘩を売ってくるのでディラさんの前に壁になるように立つ。ここで手を出せば失格になるぞとおどして距離を取って3人で観戦する。1ステージずつが大きい迷路になっており、様子を見てるだけでもレオナの役に立たない発言が身に沁みてくる。
「出なくてよかった…間違いなく迷うね、これは」
ステージによる妨害を乗り越えながら、寝ちゃってたシルバーくんからアンカーのデュースくんへ。続々と走者である皆もモニタールームへやってくる。薬を飲んで小さくなってしまったデュースくんはチンピラチームのアンカーに踏みつぶされそうになっている。
「ねえこれ…」
「あぁ」
これはレースの公式カメラだから運営陣も見てるはず。たとすればチンピラチームは失格を免れないだろう。もとの大きさに体が戻ったデュースくんにほっとしつつ、最後の何mかでどんどんとスピードが上がっていく。
「そうか、デュースくんは陸上部で毎朝走り込みしてるって言ってたね。…納得の速さだ」
「毎朝?そんなストイックに頑張ってるの、あの子」
「えぇ。僕らの寮の後輩も陸上部なんですけど…その子も毎朝走り込みしてるのでよく二人で練習してるって言ってました」
無事に追い抜きデュースくんが少し下手っぴなラッパを吹く。僕らのチームの完全勝利だ!レオナと言い合った通りそもそも悪質な妨害行為としてチンピラチームは失格。ぐうの音も出ない負けっぷりだ。その後再会したデュースくんとチンピラチームは舎弟のような態度になっており、わけを聞いてみると驚きの理由だった。
「へえ、まさか君もチンピラだったとは……」
「い、今は真っ当にしてますから!」
あんまり言わないでください、と耳を赤くして慌てているデュースくん。昔は金髪で、ここらで名を轟かせていたヤンキーだというから驚きだ。そしてその名は今も伝説的存在で語り継がれているというのにはレオナと腹を抱えて笑った。
「ふふ、いい子なのちゃんと知ってるよ。かっこよかったよ、最後の追い上げ!」
「わ、帽子ずれる……キングスカラー先輩も笑わないでくださいよ!」
すっかり舎弟のような弟分になってしまったチンピラたちにお店の修復を言い渡し、お土産を買いに行く。
「ふは、レオナ見てみて……うさぎの目覚まし時計あるよ」
「買った瞬間に砂にしてやるからな」
グルル、と唸りながら怒るレオナは服のせいもあって全然怖くない。可愛さが増してる。
精巧な木彫りの白ウサギが懐中時計を持っている工芸品をいくつか手に取る。ファレナ様たちに送るのもいいだろう、あのお方は工芸品大好きだし…。お留守番を任せたラギーくんたちには何にしようかと話すと肉でいいだろと言われた。肉はどこでも買えるじゃないか。
しこたまお土産を買って一度着替えるためにもデュースくんの実家に戻ろうと歩いていると、石造りの街なかには似合わない…エペルくんがリレーを担当したときの屋敷の中のようなカラフルな一軒家が目に止まる。正直ものすごい浮きまくっている。
「…なんだこの家…」
表札とかもない。誰も住んでないのかな…?原色カラーで塗られた屋根やドア、壁…。ドアノブまで派手だ。
「ねえねえ、皆見てみてよ…こ…れ……えっ!?」
誰もいない。耳を澄ませても匂いを辿ろうとしても匂いがしない。嘘、迷った……?誰の声もしないなんておかしい、なんかの魔法…?この家からは魔法は感じないし、誰もいる気配はなし。家に近寄ったからこうなったのでは?と思い離れるも変わらず。入るしかなさそうだ。
「…ふぅ……」
ドアノブを捻って開けると中は鏡張りのような空間になっていた。万華鏡みたいだ…。何かないかと中を見ていると、一人だけ鏡の中で動かない僕と目が合う。
「みつけた」
鏡の中の僕がそう言うと体が重く、鉛のようになり耐えきれなくなって目を瞑る。
「…おい、ナマエ!」
「っ!……レオナ…」
「ナマエ・ミョウジさん、急に道端で倒れたんだ。大丈夫?…うん、心拍や体温に異常は無いね」
「…へんな、変な家あって…」
「しっかりしろ……魔法か?」
「たぶん違う……鏡があって…鏡の中の僕が一人だけ動かなくてこっち見てた…気味が悪い」
そう言うとデュースくんが何か思い当たる節があるようで、家の特徴を言ってきた。僕が見たものと同じだった。
「それは多分……アリスの夢に連れてかれたんだと思います」
「アリス…の夢?」
「この時計の街…つーか、薔薇の国に伝わるひとつの都市伝説みてえなモンなんすけど……アリスが気に入った人間だけ異世界連れて行くっていう都市伝説があって。
異世界じゃなくて実際は夢だろうって言われてるんですけど、皆必ず同じ家に誘われるようにして中入ったり、時にはアリスが出て来てお茶飲んだり、追いかけっこしたり…アリスの遊び相手に選ばれるっていうやつです。」
選ばれたらすげーラッキーなんですよ!とデュースくんに言われる。
「気味悪かったけどな…」
「なんか言われたりしたの?遊ぼう、とか」
オルトくんに言われる。そういうハッピーな感じだったら良かったんだけどね…後味悪めなのが引っかかる。
「見つけた、とは言われたけど…その後すごい眠い…というか体が重くて目を開けてられなくて、起きたら戻ってきてた感じ」
「すぐに帰してくれたあたり無害ではないだろうか、攻撃性は感じたか?」
「ううん…家の中鏡張りで…万華鏡みたいになってたから特に何も…」
レオナに抱き起こされる。平気だよ、と言ったもののレオナは心配性だから駄目と言って手を離さなかった。ディラさんもアリスの夢を見たと言ったらラッキーね!とお祝いモード。ほんとに宝くじ当たったみたいなラッキーなことなんだな…
(レオナ、平気だよ)
(平気?…空を見て動かねえと思えばいきなり倒れたくせにか?)
(う……それはごめん…すぐ二度も誘われることないと思うよ)
(分かんねえだろ、隣にいろ)
(ふ…耳すごい動いてる)
(てめえも動かせ、俺の可愛い耳が過労死してもいいのか?)
(それは大変。鼻も合わせて働かせていただきます)
※アリスの夢〜完全捏造です。
アリス・イン・ワンダーランドがそもそもインフルのときに見る夢みたいな、話と話が繋がってない、場面転換が急という特徴で薔薇の国にあってほしい都市伝説としました。夢だけど、夢じゃないようなアリスの追体験のような都市伝説あればいいなあ。
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