HQ 及川
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交わり
*ミョウジナマエ
だれだっけ…?
キラキラした顔で私のことを覗き込む大きいワンちゃんみたいな子を前に考え込む。体格は…いい。身長も…高い。ということは…男子バスケ部とか…?
「ごめんね、私物覚え悪くて…誰くん?」
「ウッソ、3日前まっつんに紹介してもらったんだけど〜??」
「まっつん…」
その特徴的なあだ名?をつけてる子はたしか…一静と同じ部活の子か。一静と同級生はたしか他三人。もう一人は一静と同じような気だるげな雰囲気の花巻くん、いつもラムネをくれるから覚えてる。あとは……ハキハキしてる岩泉くん。
「ああ…!わかったかも」
「こんなに悲しいことある…?及川さんだよ、及川。これもう4回目なんだけどナ…」
ごめんね、と一応謝っておく。人の顔と名前を一致させるのがとっても苦手な私は昔からたくさんの人を泣かせてきたし、怒らせてきた。だからあんまり人に絡みにいくのをやめてるんだけど…最近は幼馴染の一静にバレー部のマネージャにしつこくしつこく誘われている。部活なんてとんでもない、何人覚えなきゃいけないんだか。いつも気まずくなるし、間違えると相手の人は悲しそうになる。申し訳なくて続けられたことがない。
「あ」
ぽと、とグミが落ちる。すぐ拾ったし埃も払ったからいっか。
「コラコラ、ンなもん食うな馬鹿」
「岩泉くん…げ、一静もいる…つれてこないでよ」
「連れてきたんじゃねえし、そもそも落ちたモン食おうとすんなっつってんだろ」
「だってそんな汚れてなかったし…5秒ルールっていうじゃん?」
「それ言うなら3秒だろ、3秒以内でも食うな」
えぇ…と言ってるとグミの袋を怒った顔の一静に取り上げられる。一静は怒ると私のお母さんより怖い。今まで関わってきた人間の中で怒らせると一番怖い。
「う…慈悲を…」
「だめ。…ナマエ、マネージャーの件だけど」
「やらないよ?私及川くんの名前忘れてたし」
「それがうってつけなんだよ、今まで希望してきた子たちってほぼ全員及川目当てでさ…仕事はロクにやらないし、及川も調子乗るし…」
「…うーん…一静の考えは分かった。じゃあ、なおさら私は嫌だな」
「嫌?」
「うん。一静から部活の話を聞いて皆頑張ってるのは私でも分かるよ。でも私、バレーの知識もないし…本気の人の中に中途半端が混じるのってすごく失礼じゃないかな」
「……意外」
「意外?」
及川くんが目をぱちぱちさせてるのでオデコをつつく。なんにも考えてないわけじゃないぞ。
「じゃあ俺のこと本気で応援してよ、幼馴染でしょ?」
「えぇ…ん〜考えとく」
応援くらいはできるけどもここでうん、と答えたらマネージャーのことに繋げられそうなので伏せておく。
「ナマエちゃん」
「はあい?」
「今日お昼一緒に食べない?」
「今日?今日はだめ、お昼そとに出るから」
どこか行くの?と及川くんに聞かれる。
「うん、ルナちゃんと駅前の商店に。新発売のお菓子買いにいくんだ」
「お菓子への情熱すげぇな…」
岩泉くん、少し引いてる…?さっき落としちゃったグミをゴミ箱に捨てられた。
「そ、お昼はこの子先約あるからモテ男はどっか行ってくださ〜い!」
ルナちゃんだ。おはよ、と声をかける。ルナちゃんはとっても可愛いちょっとギャルで、たしか一年生のときに及川くんを巡ってトラブルになった経緯があった…はず。隣の席で教科書を借りたときに、隣のクラスや他の学年の女の子から呼び出しを受けたりしてから嫌いらしい。まあこれに関しては及川くん自体が悪いわけじゃないんだけどね、触らぬ神に祟りなしって言うじゃん?と肩をすくめて話していたのを思い出す。
「ひっど〜…ナマエちゃん、明日は?」
「私ジロジロ見られて食べられるの苦手なんだけど…」
お断りのつもりで行ったんだけど、じゃあ皆で食べようよ!と誘われる。
「ん〜…一静いるならイイかな…何かあったらよろしくね」
訂正とか…根回しとか…。私はそういうのできない。今もクラスの子たちの好奇な目で見られるのが少し気になる。まあ肯定しても否定しても噂って流れちゃうし、私の思い通りになんてならないだろうからわざわざ訂正もしないんだけど…。
「じゃ、決まりね!」
そう言ってるんるんの及川くんは帰っていった。
「わお、イメチェン?かわいい、似合ってるね!」
「ルナちゃんの練習台。将来は美容師さんになるんだって」
ルナちゃんは私が羨むストレートな髪質だ。アイロンはしてるらしいけど、あの絹のようなサラサラな髪の毛…ひたすら羨ましい。
私はくせ毛…にしては癖は弱めなんだろうけど、かなり時間をかけないとそんなストレートな髪にならない。初対面の人には巻いてきた?と確認されるくらいにはうねりというか、まあゆるゆるな髪質。いい練習台!とヘアアレンジされるのももう三年目になるから慣れた。
今日は前髪を巻き込んで編み込みされてる。伸ばしかけで邪魔だったから助かった。
「おとぼけちゃん、あなたお箸は?」
「……わすれた…一静食べ終わったらお箸貸して」
お弁当バッグの中を見てもない、家に忘れてきたみたいだ。まあこんなことよくある。コンビニでご飯を買わない限りお箸ついてこないからよく忘れるんだよね。
「俺スプーンならあるけど」
花巻くんがスプーン貸してくれる。お箸とスプーンセットの使ってるんだ…。
「プーさん…ありがと」
「花巻だよ」
「わかってるよ、流石にプーさんと現実の人間の区別くらいつく」
「今のはナマエのタイミングが悪かったよ」
「俺もマッキーのことプーさんって呼んだのかと思った…」
肩を震わせて笑う失礼な及川くん。
「うわ…も〜入れないでって言ったのに。一静、お肉あげるから食べて」
「はいよ」
「そんなちっせえ弁当箱から更に中身減らすんか…」
岩泉くんがなんとも言えない顔してる。
「噛むの疲れるからね…ちゃんと3食食べてるよ?あと最近プロテイン飲んでる」
「へぇ意外」
「そーだよ、昔さあ…一静のこと好きな子にホラーマンって言われたの地味に根に持ってる」
「ホラーマン?」
私と一静はお家が隣。お互いの親は共働きで不在のタイミングも多かった。同級生だし、同じ小中だし…とよくお互い預かられたり預かったりの仲で…まあ普通の友人くらいには距離が近いから、一静を好きな子に意地悪を言われることも多かった。
私は女の子の中では身長順に並ぶと後ろの方なことが多い。加えてあんまり食べないから肉付きも良くない。ルナちゃんはスレンダーで素敵じゃんって言ってくれるけど、膝とか…手首とか指とか。良く言えば華奢で細い、悪く言えば筋張っている感じがちょっと…コンプレックスというか。
ルナちゃんやお母さんにももう少し太ったら?と言われることも多いし、不健康そうに見えてるんだとしたらそれも嫌なので太るためにプロテインを飲んでみてる。
「目標はこじはる!もちふわになるんだ…」
「じゃあ肉も食べなよ」
花巻くんのごもっともな意見が飛んでくるけど、そこはほら。カロリーは別のとこから取るから、と返す。
「つーか…不健康そうに見えてるから太りなよって言われてるわけじゃないと思うケド…あんま気にしすぎるなよ」
一静に釘を刺される。分かってるよ、と返す。
「あ、いた!及川先輩探したんですけど〜お昼私達とも食べてくださいよ」
あの上履きの色は2年生かな…?
「ごめんねえ、今バレー部でミーティングしてるから」
「バレー部…?その人は?マネージャーですか?!」
「…だれのこと?」
「アンタよ、おとぼけちゃん」
ああ、私?いやマネージャーじゃないから…誰のこと言ってるのかと思った。
「この子はまだ仮…というわけで、今日はごめんね〜」
「私いつからマネージャー仮になったんだっけ?」
昨日断ったと思ったんだけど…言葉足らずだったかな。
「ねえ、それほんとにダメ?……俺はマネしたことないから分かんないけど…バスケ部のマネの子になんで入部を決めたか聞いてみたんだよね」
「気になる。女子バスケを選ばない理由は?」
「3人の同級生に聞いたんだけど…1人目は中学の頃の女バスの空気があまりにも悪かったから。ただバスケは好きだから、サポート役に回った。2人目はバスケはからっきしだけど見るのが好きだから。3人目は2人目が毎日楽しそうに部活の話をするから気になって…だった」
…プレイヤーとして部活を選ぶとなると、試合に出たいからとかそういう気持ちがほとんどだろうけどマネの子たちって結構いろんな理由で入部するんだ。1人目の子が少し不憫に思えてしまう。楽しい環境を高校でもって夢見られないくらいしんどかったんだろうな…。
「マネに向いてる・向いてないは正直やってみなきゃ分かんないと思うけどさ…俺らとしてはナマエなら部の空気を乱す要因にならないと思うわけ。人手足りてないし、正直ナマエ1人はキツイかなって思うけど……俺らの引退までやってくれると嬉しいんだけど」
「うーん……じゃあ今日見に行ってもいい?あ、及川くん私に球当てないでね」
「いや、当てないよ?なんで??」
「一静に及川くんてどんなバレーする子なの?って聞いたときにボールで人を殺せる威力の球投げてくるし、打ってくるって震えてたから…」
「震えてたの?!?」
岩泉くんと花巻くんはお腹を抱えて笑いだし、及川くんは心外なんだけど!!と身を乗り出して一静に詰め寄ってる。
「おとぼけちゃん、そういうのこそ忘れてよ」
一年生の時だったよね、と付け加える。
ジャージに着替えて体育館へ。ちょっと緊張してカチコチになっちゃった。
練習着だと番号のギブス着てくれるからすっごく助かる。手元のバインダーに番号とその子達の特徴を書いていく。3年生4人しか名前がわからないや…野球やサッカー部並に人数いるんだな…。
「あの…ドリンク一緒に作ってもらってもいいすか?」
「あ、はい。わ…すごい量…あ、粉入れてくれたんだ…じゃあ水入れるだけ?」
「はい。アップの前に粉入れとくんですよ」
ほうほう、効率的だ。金田一と名乗った1年生は及川くんと同じ中学の後輩くんらしい。
「へえ…及川くん強いってほんとなんだ。あ、ほんとに人を殺せる威力のボール打ってくるの?」
「どこ情報ですかソレ…まあ威力は確かにすごいです、脆に食らったら青あざになりそうな」
君らで青あざなら私は骨折するのでは…??
「一静の話、あながち嘘じゃないんだ…盛ってるのかと思ってた」
「松川さんの…彼女さんとかですか?」
「へ?いや幼馴染だよ、お家隣なの。私はバレーやったことないけど…岩泉くんとか、一静が及川くんに興味ない私ならってマネに誘われてて」
よし、残り数本まできた。練習しながらこんな作業を1年生がやるのか…たしかに大変だし人手不足かも。
「本気で頑張ってる皆の隣には本気で応援できる人のほうが相応しいと思うんだけど…、一静がマネにって誘ってくるのは初めてだから。その本気を見たくて今日はお邪魔してるんだ、私も同じだけ返せるかどうか…おっも…」
「一気になんて無理っすよ…安心しました、岩泉さんと松川さん見る目ありますね」
「及川くんと花巻くんはないの?」
「花巻さんはあります。及川さんは…」
言い淀んじゃった。数回に分けてドリンクを運ぼうと廊下から体育館のドアを開けると、顔のすぐ横にボールが飛んでくる。聞いたことない鈍い音がした。
「ひゃ……」
「ナマエちゃん当たってないよね??!ごめん!」
「か、帰る…」
「待ってほんとにごめん!!!コントロールもっと上げるから!!」
土下座の勢いですっ飛んでくる及川くん。やっぱりバレー部の人たちで青あざなら私は骨折するだろう。流れ弾でもバウンドしたやつでもたぶん折れる。
「命の危機を感じました」
そう監督とコーチに言うと笑われたけど県内でもあのボールを受けて次の攻撃へ繋げることができる高校は少ないんだとか…そりゃそうだよね…ドア凹んだかと思ったもん。
部員がいっぱいいるからこその部内戦が始まる。3年生やスタメンが半々に別れての試合、監督にいろいろ教えてもらいながら見守る。
「おぉ…!すごい、及川くんの殺人ボールあげた…」
一静も凄い音鳴らしながらあげてる。すごいな…タイムアウト中二人の骨を確認したけど、ちゃんと繋がってた。鉄でも入ってるんじゃないかと思った。
私の体験入部?はあっという間に終わり、一静が着替え終わるのを待つ。
「お、どうだった?今日」
「……昔さあ、確か…中学2年生の…代替わりしてすぐの練習試合の時」
及川くんたちもわらわらと出てくる。
「…?うん」
「一静はあの時さ、身長高いからってMBに選ばれたけどブロックのコツがわからないって…手をこうやってやってたのね」
「うん」
「今日、手がこうなっててその手のときは絶対にブロック成功してておぉ!ってなった」
「へえ、よく見てんだね…まっつんどうしたの?」
「…よく覚えてたね、中学の頃言ったこととか癖とか…」
なんか思い出したよ、と返す。全試合見てるわけじゃないから確かなことは言えないけど、強豪校としてスタメンに選ばれる一静はちゃんと強くなってるんだなってなんか嬉しかった。
「他は?なんかある?」
「ん〜…あ、及川くんのさ…人を死にいたらしめるボール」
「サーブね?!誰も死んでないから!」
「私ときん、…金田一くん?が飲み物持って帰ってきたあとと、部内線のときの手首の角度が変わってたなって。ただ、サーブ単体の練習してるときより部内線のときのほうが着地が辛そうだった」
「…おい、足首痛めてんのモロバレしとんぞボケ川」
あ、痛めてたんだ。足首を見ると確かに湿布貼ってる。
「…痛いって岩ちゃん…!……ちょっとしか角度変えてないのによく気付いたね?ナマエちゃん、マネの素質あるんじゃん!」
(マネについてはちょっと家族会議の議題にするね)
(家族会議…?!)
(あぁ、そんな大それたやつじゃないから。普通の会話だよ)
(そんなことない、アルバイトの提案とかしてるよ。いつもだめって言われるけど)
(おとぼけちゃん、あなた今高3よ?今からバイト始められるわけ無いでしょうよ)
(あと、ほら。誕生日にほしいもののプレゼンとか)
(議題っつーか希望じゃね?それ)
(ええ…?我が家では議題だからなんとも…)