HQ 及川
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タイムアウト
*及川徹
も〜〜っほんとにこの子は…!!!
合宿に来てる大学チームにローテの組み方変更の伝言をお願いした、その帰り。表情暗いな〜って見てたらボールを(もちろん加減はされていただろうけど、ナマエちゃんがよろめくくらい)ぶつけられて限界が来たのか急にニッコニコの笑顔になった。
そのあとは、明らかに俺のフォームを意識したジャンプサーブを昨日から嫌がらせをしてきてる野郎の顔面にお見舞いして、コーチたちと緊急の話し合いをして帰ってきたところ。
「わ、悪くないもん」
「………」
「アホ及川、揺らがないでくれる?……ナマエ、アレ正当防衛じゃないからダメ。悪くないのにナマエ自身に非を作ってどうすんの」
「……連絡先断っただけであそこまでされなきゃいけないの?」
「ちが、そうじゃなくて」
「そうじゃん、調子のんなよブスって一方的に言われて、部活で使うノートぐちゃぐちゃにされて、ゴミみたいに投げ捨てられて、なのに証拠はないからって何も言えないのいいことに……っ!」
「ナマエちゃん、責めてるわけじゃないよ…ゆっくり呼吸して?ね?」
ぽろぽろとまた泣き始めたナマエちゃんは昨日から相当悔しかったことだろう。溜め込んで爆発したその爆発の仕方が良くなかっただけで、彼女は被害者だ。
「そもそもボール先にぶつけてきたの向こうじゃん!」
「そうだけど……でも明確に顔面に当てるのは良くないよ、それだけは良くない」
「………じゃあ何なら良かったの…」
「あ〜まっつん泣かせた」
「ちょっと及川……」
子供みたいに泣きじゃくるナマエちゃんの目元にタオルを押し当てて涙を拭う。まっつんの言いたいことも分かる、分かるし正しい。けどナマエちゃんの言い分だって分かるし正しい。先にぶつけてきたのは向こうだ。一方的に言葉をぶつけて、ナマエちゃんの持ち物まで壊して。そこから更に一線を踏み越えたのはアイツだ。
「まっつんは、100:0でナマエちゃんが悪くない状態だったのに95:5くらいになっちゃうのが勿体無いでしょってこと言いたいんだよ」
「……じゃあ、及川くんは?」
「オレも同じ……まあ98:2くらいじゃない?って思うけど」
背中をさすっていれば落ち着いてきたのか、涙がこぼれてくるのがゆっくりになる。
「今回は……アイツがあそこまでやるって予想できなかったこともある、全員想定外のことされたからコーチたちも次の動きを考えあぐねてたし。だから、ナマエが我慢することが多くなったのは事実……本来ならもっと前にやり返すタイミングあったと思うし。ナマエはよく我慢したよ……俺が言ってんのはもう少し言い訳できるようにやりなよってこと、手が滑ったじゃ済まないでしょアレは」
「きれ〜なフォームだったねぇ、ナマエちゃん」
「及川くんのサーブに鼻が折れちゃえって気持ち込めた…」
「「ぶっ!!!」」
まっつんと思い切り吹き出す。真顔でとんでもない事言うじゃん……まあ確かに折れた方がオレもスッキリするけど…そうなると傷害になっちゃうから本当はだめ。
「何笑ってるの、私真剣だよ」
「真剣に鼻折ろうとしないで」
「は〜……おもしろ。でもほんとに怪我させたらナマエちゃんの過失になっちゃうから、次から気をつけてね?」
頭を撫でながら顔を覗き込むと頷きが返ってくる。もう大丈夫そうだな…わ、目ぱちくりして可愛い。
「…な、なに…」
「ん〜?あんなにオレのサーブのモノマネ上手なのすごいな〜って」
「ジャンプする前の踏み込み方まで同じだったもんな……ふは、思い出したら面白くなってきた」
ツボったまっつんがマッキーに回収されてった。教室に残されたオレとナマエちゃん……頭撫でてたから頭に手を置いたままなの忘れてた……急にメッチャクチャ恥ずかしくなってきた。
「……ナマエちゃん、まあさっきオレもまっつんもああ言ったけど…顔面サーブ決まったとき正直すっきりしたよ」
「…私もめちゃくちゃすっきりした……初めてやり返したかも」
「そうなんだ……ねえ、あのさ」
「?」
「マネやるって決めてくれてから今まで、結構いろいろあったじゃん……ずっとありがとうね」
「……ふふ、うん!…あ、でも女の子たちとはなんていうか…仲良くはなってないけど大丈夫な関係になったから気にしないでね」
「何言ってるのさ、後輩ちゃんたち侍らせてるくせに」
「侍らせてないよ!……皆ミスコンでっていう子達だもん、ルナちゃんとかとは違うよ」
「入り口はそうだけど……今もナマエちゃんを慕ってくれてる子はそうじゃないと思うなぁ、及川さんは」
なんか随分と指先が冷たいナマエちゃんの指を温めるように握る。ナマエちゃんはずっと弱音も文句も言わずにやってきてくれてた。今回、オレたちの目に見える場所で爆発したのはむしろ良かったのかも。聖人君子じゃないからナマエちゃんも苛ついたりもちろんするだろうし。
「坂ちゃんが聞いたらひっくり返りそうだね」
「……確かに!アンタが?!ってびっくりしてそう」
「んで、アタシも見たかった〜!ってオレが小突かれる」
「及川くんだけずるい!って蹴られてそう」
止めてね???見てないで止めてねソレは??楽しそうにケタケタ笑うナマエちゃんにわざとらしく拗ねてそっぽを向くとごめんね?と顔を覗きこまれる。
……うん、ここ2ヶ月のオレの頑張りでこの距離の近さを許してもらえてるならま、いっか。
*ミョウジナマエ
一静と及川くんに別室に連れて行かれボロボロとまた悔し泣きしてしまった。そうじゃない、そうじゃないよと及川くんが根気強く説明してくれたおかげで、私も一静もヒートアップせずに済んだ。
そのあと一静は花巻くんに呼ばれ、私と及川くんが教室に残る。ずっと頭を撫でられてるけどなんでだろう?最初は及川くんのモノマネサーブをしたこと自体を怒られるのかと思ってたけど、彼の主張は一静と同じだった。
「ねえ及川くん」
「ん?」
「なんで及川くんって誤解されることも多いのに頑張れるの?」
「え…誤解?」
「うん。女の子にも男の子にも誤解されること多いでしょ」
女の子は頑張ればスターと付き合える、とか。及川くんは人当たり優しいし特にファンである子たちへの苦言もあまりない。でも第一に身を捧げているのはバレーだ。そこを超えることはない……と思う。のに、一番になりたくて及川くんを困らせた子は私が知ってるだけでも2人いるし、ルナちゃんによれば1年生の頃からそんな感じだったって。
他の部活の男子に私は絡まれることもある。今までマネを頑なにとってこなかったから気になるんだろうと思う。憶測は様々で、大半は『及川くんがモテることによる痴情のもつれを恐れている』が占めていた。
まあ、岩泉くんに聞いたらそうだって言ってたから正解でもあるけど。憶測とともに、彼への妬みに近い陰口を聞かされたのは一度や二度ではない。
チャラいとか、調子乗ってるとか、才能マンはいいよな〜とかその他諸々。チャラい……のは認めるけど、彼が誰よりも遅くまで残って自主練をしてる事とか、他校の試合のビデオを擦り切れるくらい見て欠かさず研究していることを知ってるのはその愚痴をこぼした何割なんだろう。
及川くんはきっと慣れてしまっている。良くないことでもあるし、強くなるためには仕方のないことなのかもしれないけど。
「……まあ、そうだね…オレ自身の振る舞いで軽く見られるってのはよくあるね」
「だろうね」
「でもさ、バレーってすっごく楽しいんだよ」
「うん、及川くんは楽しそうに試合するよね」
セッターはチームの司令塔。そう教わった。司令塔っていう役割の通り、及川くんは指揮者のように皆を掌握して上手くコントロールしてそれでチームを動かしてる。思い通りに動かしてるって言い方もできるし、誘導してるって言い方もできる。だから個々人の癖や思考回路、性格まで把握してこの子ならこうかなと算段を立てて動くんだと思う。
「バレーが楽しいから、勝てたら嬉しいし勝てるように技術が上がると楽しいし……なんていうか、気にしたことないのかも」
「なるほど?」
「嫌味とか言われてもニコニコしてたら向こうが勝手に怒ったり呆れたりして離れてくじゃん?コートの中に入って来たら話は別だけど」
「なるほど……及川くんの強さが分かった気がする」
生半可にバレーに向き合ってない、及川くんくらいのメンタリティじゃないと勝ち進むって難しいのかも。
「けど!オレのやり方を周りに強いるつもりもないし、薦めるつもりもないよ……だからナマエちゃんはムカつくこと言われたらまず報告!
手を出されたら先生とお母さんたち、警察に相談!分かった?」
「及川くんは?」
「え?」
「及川くんが手を出されたら?」
「そりゃコーチとかに言うよ?」
「ふぅん?ストーカーのせいで寝不足のときは隠してたのに?結局監督に言ってないでしょ、私が言っちゃったけど」
「エ゛ッ?!??ナマエちゃん言ったの?!」
「うん、実害を加えられてたから……慣れてるとかで自分をなあなあにしちゃだめだよ、誰一人欠けちゃいけないんだから」
及川くんは自分を後回しにしがちだ。ムードメーカーというより、チームの雰囲気を及川くんが誘導している時もある。そんな指揮者を失うのは戦力的にも、皆の精神的にも痛すぎる。
「はは……っうわ!??!!」
「いだ!?!!な、なに??」
猫みたいに飛び上がってきた及川くんが思い切りのしかかってきて後ろに倒れる。頭は支えてくれてた手によって床に打たなかったけど、思いきり抱きつかれてる。
「ゴキ、ゴキブリ!!ごめんオレあいつ無理!」
「びっくりしたぁ……ほら及川くん、離して退治できないよ」
「た、退治!?!」
「各教室にゴキジェットあるはずだし…」
「いやいや、飛んできたらどうするの?!」
「そしたら踏みつぶす」
「いいぃぃやめてよ〜っ!!!」
想像して震え上がってる及川くんには悪いけどちょっと面白い。確かに結構大きいな……掃除用具がしまわれてるロッカーからゴキジェットを出す。たっぷりあるからこいつ1匹くらいならなんとかなるだろう。
「ひっ!??!」
「なっ、なに?!?2匹目!?!」
「違う、なんかめっちゃでかい蜘蛛いる!!!きゃあああっ!!!!こわ!!!!きもい!!!!」
「こっち連れてこないでよナマエちゃん!!!」
「ペットじゃないもん!!!」
でかくて動きが機敏な蜘蛛がカサカサ動いてゴキブリに向かってく。これもしかして、ゴキブリ食べるやつ…?!こんなでっかいの…??!
「どうした?!なんかすごい悲鳴聞こえたけど…」
「「まっつん!!/一静…!、ゴキブリ/蜘蛛いる!!!!」」
「え、なに?どっち?」
及川くんと一静の後ろに隠れてどっちもいる、と指差す。羽音とかカサカサした移動音聞こえて背筋がゾゾゾっとする。
「あ〜……蜘蛛のほうが強いからほっとこ、はい下がって下がって」
教室のドアを閉めて二人で座り込む。びっっくりした……思い返すと及川くんのビビリようちょっと面白くて笑えてくる。及川くんも私の反応を思い出してるみたいでなんかニヤニヤしてる……失礼だな。
「ふっ、ねえニヤニヤしないでよ…っ」
「ナマエちゃんこそ笑ってんじゃん……ペットじゃないもんってウケるんだけど」
「はいはい二人でツボってねえで戻るよ、岩泉心配してっから」
一静に手を引かれてコートに戻る最中も面白くなっちゃってけらけら笑い合いながら戻ったせいで金田一くんたちにぎょっとした顔で驚かれた。
(んで、松川……どうしたんだよ、こいつら)
(てっきり泣いてるのかと思ったのに二人とも爆笑してるの何?)
(あ〜うん……なんかあそこにゴキブリとアシダカグモいたみたいでさ……それぞれに二人ともビビってお互いの反応でツボってる)
(なんか悲鳴聞こえたんはソレか……ほら、ミョウジ、アホ川。ツボってねえで練習すっぞ)
(いぃぃいやめてよ〜!って……ふふ)
(まじで辞めてくれる???先輩の尊厳なくなるから)
(元からねえだろ…はいじゃ昼前ラストだ、始めンぞ)
(岩ちゃんサラッと悲しいこと言わないでくれるかな!!)