HQ 及川
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勝ち負け
*ミョウジナマエ
初めての公式戦、2階席からの応援歌のデカさにひたすらびっくりしながらマネとしてそばで試合を見守る。1回戦2回戦と勝ち進んでいき、烏野との戦いも勝った。崩れ落ちる呪物コンビを見ながら次の試合のためにコートを空ける。
ユースジャパンに選ばれたというとにかくでかくて厚みのある人がいる白鳥沢に私達は敗れた。
「ナマエ、元気ないね」
「うん……なんか…言語化するの難しいんだけど」
塩キャラメルをルナちゃんと開封しながら話す。
「アンタの通訳3年目のアタシに任せな」
「……まず第一に、落ち込んでる」
「うん」
「次は……私やっぱりスポーツ嫌い」
「…うん」
「…その…次は………」
「あ〜あ〜泣くな泣くな!もう言わんでも分かる、負けて悔しいっていうんだよソレ!」
ルナちゃんにブレザーの袖でゴシゴシされてちょっと目元がヒリヒリする。タオルが良かった。
「そりゃ確かにマネになったのは3年になってからだろうけど、アンタそもそも松川の幼馴染でしょ?あいつも…小学生の頃からバレーやってんだっけ?遊びたい時間を部活に回してまで頑張ってきた人を近くで見てきてさ、あんなに頑張ってたのにとかあんなに努力したのにって気持ちが沸かないわけないじゃん」
「……なるほど」
試合の日、帰りのバスは悔し泣きしてる子が多かった。それは2階席で応援している子たちもいた。でも私はその時は涙すら出なかった……ショックとは違うけど、なんかぼーっとしちゃって。ルナちゃんに話して初めて受け入れられたのかも、負けたってことに。
「烏野の…なんかすごい人間離れした子たちがいるんだけど、その子たちが青城に負けたとき膝ついてコートから動けなくなっててさ」
「うん」
「烏野のお父さんに引っ張られるようにして立ち上がっててさ…私今それかも」
「うん…あんなにお菓子が好きなアンタが食べられなくなるくらい…なんていうの、松川たちが勝てなかった、悔しいって気持ちの中にアンタもいるんだよ」
「……そっ、か……」
そうなのか。ルナちゃんが3個目の塩キャラメルを口に入れ、アタシ高校野球嫌いなの。と突然呟く。
「夏にやってるやつ?」
「そーそー、甲子園。アレも似たようなもんじゃない?なんかさぁ……そりゃあの全国中継からプロに行く子もいるから、一概に悪いとは思わないけど……あの大会に必死に出てる人たちの感動搾取みたいに思えて嫌いなの。普段の練習とか、たとえばその年のキャプテンは片親家庭で…とかインタビュー入るワケ」
「よくあるね、だから今年勝ちたいです!みたいなに繋がるの」
「うん。それは立派よ、出る側にはなんの文句もないわけよ、等しく平等に頑張れって思うし。
大人の受け取り方が嫌で、だから応援しよう!みたいな。は?って感じじゃない?たとえばキャプテンが怪我してロクに練習できなかった〜とか、シングルマザーのお母さん喜ばせたい〜とか、そういう理由がなければ他の…それこそ甲子園出れなかった学校の子たちは応援に値する努力もしてないってみなされてるみたいで」
「……ルナちゃんっていい子だね」
「どんなに弱小と言われようが普段の練習はサボってようが、負けたくて出るやつなんていないでしょ。その勝ちたい気持ちに脚色加えてだからこの学校はこうなんです、みたいな風に見る人ヤなの。
それは松川たちも同じだよ、勝ちたくて必死に努力して…試合前は喧嘩もしてたんでしょ?そんなアイツらが勝てなくて、負けちゃったの目の前で見て落ち込まないワケがない!……というわけでいっぱい食え!」
「あり゛がど…」
泣きながら塩キャラメルやチョコを受け取ってるとギョッとした顔で及川くんがクラスにやって来た。
「ナニ!?坂ちゃん、ナマエちゃん泣かしたの!?」
「大声で騒がないでくんね?ほんと、なんなら理由としてはアンタだし…しっしっ」
本当に及川くんに対する態度は氷のままだ。ストーカー被害のときは協力してくれたけど、触らぬ神に祟りなしの精神は変わらないみたい。ブレザーでゴシゴシと涙を拭ってると手首を掴まれる。
「ブレザーでやったら目ぇ腫れるから……で、何で泣かされてたの?」
「マジでアタシが泣かしたと思ってるワケ!?このアタシが!??か〜っムカつく…!」
「ルナちゃん、山姥にならないで」
「誰が山姥よ!!!せめて般若だろ!」
似たようなもんじゃん……怒りすぎて目が釣り上がってるルナちゃんは及川くんの肩を軽くパンチしてる。
「端的に言うとやっと今アンタらが負けたの悔しかったんだって自覚したみたい」
「……え、それでこんなに泣いてたの?!」
「及川くんだってちょっと泣いてたじゃん」
「そんな大声で言わないでくれるかな…?んー、ここだと目立つしちょっとおいで。ちょうど話したかったんだよね、そのこと」
ルナちゃんから貰ったお菓子を両手に及川くんに着いていく。
3階東の階段の踊り場。この先は調理室、実験室、パソコン室とかの移動教室があるだけの別棟だから人がいない。及川くんと一静が大暴れしたあとの日のように隣に座る。
「泣きやんだ?も〜びっくりした、ボロボロ泣いてんだもん……」
「ごめん…」
「いーよ。んで!大事な話です……ナマエちゃん春高分かる?」
「……春にやってるやつ」
「そそ……3年で集まって話し合って、意思確認した結果なんだけどオレたち春高まで残ろうってなった……ナマエちゃんはどうしたい?」
受験に集中するか、マネを続けるか……の確認だろう。春高、名前しか知らないけど……確かコーチは夏の甲子園、春の春高バレーって言ってた。大きくて本当に最後になる大会なんだろう。
「……マネ、やりたい」
「泣かない泣かない!次は絶対嬉しい涙流そうね…ってことで岩ちゃんたち!出てきて!お菓子持ち寄って!」
「……見ないで…」
「もぬけの殻だったから心配してたんだよ、やっと感情追いついた?」
一静から貰ったタオルで顔を隠してると手にどんどんお菓子を握られる。
「春高まであともう少ししかないけど……ナマエちゃん、マネとしてよろしく!」
及川くんの声にとりあえず頷く。受け取ったラムネを食べて何とか泣き止むと花巻くんや岩泉くんに散々な揶揄われようだった。
「!及川さん、岩泉さん……!ミョウジさんも……残るんすか!?」
あら、金田一くんなんか嬉しそう。揺れる尻尾が見える気がする。放課後に部活用のジャージで現れた私達に1年生も2年生も飛び跳ねながら迎えてくれた。
「ウシワカ打ち負かすまではやめられないよね〜って。ナマエちゃんも泣きながら悔しがってくれたことだし、お前ら…春高予選でウシワカ叩き潰して東京行くよ」
「え、泣いたんですか?」
「それ今必要な情報だった?及川くん」
「ごめんごめん!締め上げないでくれるかな!?」
そんでもってなんで皆ちょっと嬉しそうなの?泣いたのバラされて誠に遺憾なんだけれど……。
「私、バレーをしてる皆は好きだけどスポーツは嫌い。でもマネはちゃんと頑張るから……!」
「屁理屈になっちまったな…坂田の入れ知恵か?」
ノンノン、と首を横に振る。勝った、負けたでなんていうか…簡単にその人たちを頑張った人、頑張れなかった人って結論付けちゃうような気がして嫌いだと説明すると監督が大笑いしてた。
「ギャラリーなんてそんなものだ、好き勝手言うのが定石。心無いことも言われるだろうけどお互いの検討を讃えあうこともできる……試合後から本当にもぬけの殻だったのが嘘みたいだな」
「ゔ……生きてましたってば……ちょっとぼーっとしてた感じが続いてただけで…」
「何言ってんのおとぼけちゃん、あなたロクにご飯も食べなくなったってお母さんからタレコミ来てるからね。今日からちゃんと食べなさいよ」
「なに!?お前……1週間くらい経ってんだろ飯食ってねえのか?」
一静が余計なこと言うからコーチが目の色変えてすっ飛んでくる。
「断食してたわけではないのでちょこちょこつまんでますよ、ほら」
「お菓子かい……ほんとにぶっ倒れる前に今日からちゃんと飯食えよ」
はい、と返事をする。確かにずーっと頭がぐるぐるしてお腹が空かなかったからまともに食べてないかも……そう思うと急にお腹が空いてきてぎゅう、とタイミングよくお腹が鳴る。
「お腹空いてきた」
「購買も流石にパンなくねーか?」
「ちょっと潰れたサンドイッチならあるけど食う?」
花巻くんからレタスのサンドイッチをもらう。うま……。お母さんがほぼ毎日お弁当頑張ってくれてるから購買のパン買ったことないや、お菓子は制覇したけど…。けっこうちゃんと美味しいサンドイッチ。
「なんかご飯ちゃんと食べたの久々かも……ありがと花巻くん、美味しかった」
「聞き捨てならねぇがまぁ……理由が理由だ。マジでちゃんと飯食えよ」
青城のお父さんに睨まれながらそう忠告されるので素直に頷く。久々に感じてしまう練習をこなして制服に着替えて帰る。
「ナマエ!」
「ルナちゃん!」
もう真っ暗なのに校門にルナちゃんが待っててくれた。寒かったんじゃないかと思って、体育用のジャージでの上着をかける。
「清水ちゃんから連絡きてた、スマホ見た?」
「………忘れた…なんて?」
『私たちも春高まで残るよ』
おー!烏野もなんだ。わざわざルナちゃんが試合に負けて落ち込む私のために清水さんに連絡してくれたみたい。なんて優しい……!やはり持つべきものは友。
「おー、坂田さん。おとぼけちゃん待ってたの?」
「そ!烏野も春高まで残るって連絡来てたよ〜って報告がてらね…アンタもナマエ泣かせたんだから次は蹴散らしなさいよ、なんだっけ…弁慶?」
「惜しい、ウシワカだわ」
「凄かったんだよルナちゃん、なんか……塗り壁が歩いてるみたいだったの」
失礼なこと言わないの、と一静にチョップされた。けどなんか本当に分厚かったとしか形容しがたい人だった。一つ一つのスパイクが重くて音が凄かった……及川くんのサーブで骨が折れるなら、彼のスパイクだと腕がフィギュア人形のようにポロッと肩から捥げるだろうと確信した。
「おう、坂田か……暗い中待ってたのか?体育館に顔出しゃよかったのに」
岩泉くんたちも着替え終わったのか追いついてきた。部室真っ暗だ。今頃一年生が鍵を戻しに行ってるんだろう。
「一静、スマホ見た?」
「始まる前にまたぼろぼろ泣き始めた誰かさんに預かってって言われたままだったかな」
「言わんでいいでしょそれ……はい返却お願いします」
「また泣いたの?泣き虫ねぇ……ほらじゃがりこ食いな」
ルナちゃんからもらう。うま!期間限定のレモンソルト味。一静からスマホを受け取り、通知の確認をするとお母さんからだった。この一週間に比べたら当たり前に帰りの時間が遅くて心配の連絡が来てる。
「ヤバ、お母さんに色々言うの忘れてた。電話するね」
一静にそう言い人差し指を立てる。静かにしててね、と目線で合図を送り電話をかけるとワンコールで電話に出た。
『やっと見たの?!どこに居るの?ママ、ナマエ電話来たよ』
「鼓膜破れたかと思った……まだ学校。今から帰る…春高までマネ続けることにした」
『はいはい代わったよ〜…ハルコウ?……あぁ!全然春じゃない時期にやってるやつね』
イヤホンがなくてスピーカーにしてるからお父さんとお母さんの会話が丸聞こえだ。及川くんが後ろでまじでお母さんそっくり…て小さく呟いてた。
「うん、全然冬にやってるやつ。担任も成績大丈夫だからって薦めてくれた……今日のごはん何?」
『お腹空くようになった?今日はお父さんリクエストのコロッケだよ、めちゃくちゃ揚げてる』
コロッケか……!コロッケは私も好き。メンチカツだと胃もたれするけどかぼちゃとかじゃがいものコロッケは好き。
「ルナちゃんにお菓子もらってるけど、結構お腹空いてる」
『え、ルナちゃんいるの?ルナちゃ〜ん、コロッケ食べてく?』
「ナマエママ〜!いいんですかぁ?アタシもお腹ペコペコ〜」
「いっぱいある?皆1個ずつ食べてく?」
「肉まんじゃないんだから……」
間違いなく渡されるであろう一静が苦笑いしてる。隣なのにその日のおかずを渡されるのは我が家と松川家あるあるだ。帰ったらすぐご飯なのにすぐ渡してくるのはどっちのお母さんも同じ。
(あらま!3年生集合してるわ……はい揚げたてだよ〜)
(美味そ……ありがとうございます)
(んまー!サクサクじゃん)
(ルナちゃん送ってくから食べてっちゃったら?今日お母さん夜勤で居ない日じゃなかった?)
(いいんですか?ラッキー、アタシコロッケ好き)
(ほら花巻くんも、及川くんと、岩泉くんも!……お父さんはダメ)