HQ 及川
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大暴れ
*ミョウジナマエ
空気がピリッとしてた。一静たちにとって最後。私は初めて、そんで最後になる公式戦前。試合が近づくに連れて及川くんが明らかに追い込みすぎてるのが目に余ったので、5分だけでも休憩したらどうかな?と声をかけたのが良くなかった。
岩泉くん、一静、花巻くんを巻き込んだ大乱闘になってしまった。
「お前、今なんつった!?」
「い、いいから、一静…」
「いや、よくない。お前、今なんつったの?」
私だってこんなに怒られたことない。冷たさすら感じるくらい腹の底から出してる声は刺々しい声色で、指先がカタカタ震える。
「おい、掴み合いの喧嘩はすんな!」
「……」
国見ちゃんたちを見ても呆然としてる、渡くんあたりがコーチ連れてきてくれるといいんだけど……どこにもいないから呼びに行ってくれたのかもしれない。
「素人でも目に余るから言われてんじゃないの?」
「だから!ちゃんと考えてオレはやってるってば!」
「ス、トップ!!!」
2人の顔にボールを強めに押し付ける。膝が震えてうまく立てないけどなんとか踏ん張る。
「っ……、もう18歳でしょ……座って」
「ナマエ、」
「いいから座る!…及川くんも!あぐらじゃなくて正座!」
「すっごい震えてるけど大丈夫?」
花巻くんに頷く。ふう、と息を吐く。怒鳴り声や喧嘩がとっても苦手なだけ…いや突き飛ばされて尻もちついたのもちょっと痛いけど…!なんなら足も捻ったし…一度の尻もちに色々巻き込んで怪我しすぎじゃない?
「はい右手出してください」
「……え、何?」
「いいから出す」
気まずそうな及川くんが右手を出してくるので私の右手を上に乗せ、一静の右手には私の左手を乗せる。これでお互いの利き手は封じたので殴り合うにしても威力は出ないだろう。
「まず……一静手ぇ出したのよくない」
「それはナマエのこと突き飛ばすからだろ」
「そしたらやられた私が殴ればいい話で、一静は手を出すのはダメ。及川くんは、コーチと監督も同じこと3日前に言ってたよね。どうして監督してる人の言う事聞かないの?皆の目に余るってことだよ」
「………」
「私に5分だけでも休んだらって言われたくらいで余裕なくなるくらい追い込まれてるなら、5分じゃなくて今日と明日もお休みしたほうがいいと思うけど」
「………ごめん、その通りだね」
「一静も及川くんの半身に鉄が入ってたからよかったものの、あそこのドアみたいに窪みができたらどうするの?」
「待って、オレ人間だから鉄入ってないよ」
「でも人間の体とは思えないほどの鈍めの音したし……証人もいるし…」
ほんと、なんか重いものが高所から落ちた時みたいな人間からこんな音なる?って音が聞こえた。そんで今平気そうにしてるのが一番おかしいと思う、鉄でも入ってないと説明つかない。
先生が来てこってり絞られてた及川くんと一静をよそに私はそそくさと保健室へ向かう。足首が痛すぎる……。折れてないよね?いや歩けてるから繋がってるかそうだよね……。先生が不在だから適当に湿布を貼って適当にテーピングを巻いて固定する。及川くんがやってたの真似してみたけど、固定されていい感じかも。その上に靴下と長ジャージ履けばバレない。
「おとぼけちゃん、大丈夫?」
「うん。グミ摘んだ」
花巻くんにそう返す。おお、バレてない。
「摘んでんじゃねえ」
岩泉くんに軽くチョップされて思い切りよろめいた。あ、やばいバレたかも。なんかすごい圧感じる。
「おい足見せろ」
「嫌です、すけべ!」
「マジではっ倒すぞこの野郎」
やばい、グーの手がわなわなふるえてる。そんな状態の岩泉くんからゲンコツなんかされたら、私の頭蓋骨凹んだまま元に戻らなくなる…!頭を守りながら軽い捻挫だよ、と断りを入れてみる。
「へえ、軽い捻挫?」
「…え、何そのか…い゛っ!!?!」
軽くであっても普通押さなくない??結構な力を込めて押されて涙が滲む。
「いだい゛……ひどい…」
「お…い、んな号泣すんな」
「痛いの押すことないじゃん……!」
金田一くんがキレイなタオルくれるからゴシゴシと顔を拭ってると及川くんの声が聞こえる。及川くんのせいで泣いてると思われなくない…けど痛すぎて右の足首まだジンジンしてる。
「……岩ちゃん、これ何事?」
「岩泉さんがミョウジさんのこと痛めつけてました」
「言い方…」
国見ちゃんのあまりにも誤解を生むストレートな言い方に思わず笑ってしまう。
「……足見せて?」
「湿布もう貼ったよ」
「テーピングは?」
及川くんの真似して巻いた、と答える。長ジャーを捲って靴下を下ろす。
「ほんとだ、上手いじゃん…オレもだけど岩ちゃんも握力ゴリラみたいなもんなんだから!痛かったでしょ、ごめん」
「ん〜…スタバのチョコチップクッキーで手を打とうかな」
「2枚までな」
やったー!ありがと、と返すと2人の気まずそうな空気も少し和らいだ気がする。ただその日からめちゃくちゃ大変だった、どこへ行くにも及川くんか岩泉くんがエスコートするように手を取るもんだからマネじゃなくて姫だって揶揄われるようになった。
あと2年生の後輩の女の子たちも私がびっこをひく姿を見て、殺意マシマシで及川くんに向かっていくからそれを止めたりするのも大変だった……。
「ぐぎ」
ちょっとした動作でズキズキ痛む。捻挫ってこんな痛いんだな…怪我や病気とは無縁で生きてきたから初めてに近い経験。今までで1番痛かった怪我ってなんだろ……。運動会で思い切り擦りむいたリレーとかかな…本当にそのくらい。病気もインフルエンザのときの高熱がしんどかったくらい…小学生で最後だから数年無縁。
「ま〜及川に突き飛ばされたら捻るわな…ドリンクは1年に任せてスコアとかあんまり動かなくて済む作業だけしてくれ」
コーチにそう言われちゃあ頷くしかない。一年生に仕事増やしてごめんね、と謝るもあの殺伐とした及川くんの空気に呑まれていた一年生たちは首を横にブンブン振ってた。
素人が口を出すな、か。まあそうだよなぁと思う。今年の4月に入部してそこからポジションやルールをなんとか頭に叩き込んで、青城の強みや弱み、県内の強豪校の試合をちらほらビデオで見ただけ。毛の生えた素人程度だろう…マネって難しいんだなぁ。
「ナマエちゃん」
なんとなくあの日から気まずいのか避けるようにしていた及川くんに声をかけられる。
体育館の西側、風が涼しい木陰のある校舎への渡り廊下がある方。そこに座ってる及川くんにここ座って、と隣の床をぽんぽんしてる。
「よっこらせ」
「……捻挫どう?まだ痛い?」
「良くなってきたよ、捻挫したことないからあとどれくらいなのか感覚が難しいけど」
「……怪我をさせちゃったことは謝ったけど……その前の発言についてまだ謝れてなかったから。八つ当たりしてごめんね、ナマエちゃん」
「……八つ当たり?」
何に?と思ってそう聞くと言いづらそうに及川くんが口を開く。
「…サーブとかの仕上がりが悪くて焦ってた。監督たちに言われてるのもオーバーワークなのも…分かってた。焦ってムカついて、正論言われて…その…」
「……及川くんでもそういうこと考えるんだ」
「…何それ、どういう意味」
「そういう……プレッシャー的な?の逆に楽しむ変人タイプかと思ってた……燃えるぜ、みたいな」
「どういうキャラとして捉えられてんのオレ……」
「一静からの情報しか知らなかったからさ、及川くんのことも岩泉くんのことも、花巻くんのことも。
及川くんは随分楽しそうにやるんだなぁって…スパイカー全員の打ちやすいボールを引き出すなんて及川くんが初めてだって言ってたもん。
よほど好きで楽しんでないとそういうのできないだろうから」
「なるほどね、そういう意味か」
「うん、そういう意味だよ。…でも自分からわざわざ集中できない要因作っちゃうのはよく分からないな、とは思う」
例のストーカー化してしまった彼女だ。監督たちから担任の先生、親にまで通達が行き大きな事態になった。流石に親からも先生からも…同級生たちの目もあったからか、あの子は落ち着いた。受験も近いからという先生たちの圧に負けたみたい。
「あの件に関しては完全に誤算だったの!……あの日のオレそんな怖かった?」
小さく首を傾げてきた及川くんを見て気づく。結構気にしてたんだな、なんなら私よりも。
「及川くんがっていうより……私人の大きな声とか喧嘩してるの苦手なんだ、昔お父さんとお母さんがすごい喧嘩してた時期あって」
「えぇ?この間差し入れくれたあの二人が?」
「今はありえないくらい仲良しだし、喧嘩のことも笑い話になってるけど…私が幼稚園のときとかかな、大声で怒鳴ってさ…お父さんもお母さんに手を出すわけにはいかないでしょ?だから物投げあったりとか、ヒートアップしてる時とか髪の毛掴んでたりとかさ……それが怖くて」
「あんな仲良しなのにそんな激しい喧嘩してたんだ……じゃあ余計怖かったね、ごめん」
だからあんなに手が震えてたの?と聞かれて頷く。寒い日のプールあがりみたいに全身震えていたのは覚えてるけど、喧嘩をやめさせることに夢中でどんな感じかは覚えてない。
「あの右手の儀式はなんだったの?」
「…あぁ、アレは2人の利き手を封じたから監督たちが来るまでにもう一回ヒートアップして殴り合うとしても左手同士になるから、被害が抑えられるかなって…」
「……っふ、何それ…!」
またケラケラ笑ってる及川くん。
「だって私物理的に2人を止めるってなったらあのくらいしか思いつかなくてさ……私が間に入っても二人大きいから、こうやって頭を通り越して殴れちゃうじゃん…実際一静胸にパンチしてたし」
「ふふ、そういうことね。あれ痛かった、まっつん結構遠慮なかったんたけど」
「だってすごい音したもん…‥人体からなる音とは思えない感じの」
「なに悪口?……及川、おとぼけちゃんに謝ったの?」
「今謝って、右手の儀式の話聞いてた」
一静が覗き込んできて私の隣に座ってくる。あの日と同じ並びだ。
「正直オーバーワークはどう止めようか花巻たちと話してた時だったからどうにでもすると思ってたんだけど……ちょっとあの発言は許せなくてさ、俺が無理言ってマネしてもらってるのもあるし」
「うん……でもパンチはだめ。及川くんも痛いし、一静の手も痛いじゃん」
「そうだね……間入ってくれてありがと、あのあと国見たちにも怒られた」
国見ちゃん……臆せず意見を言えるあの子はすごいと思う。金田一くんは結構先にワーっと言い合いに参加するタイプ。一旦静かに見て鶴の一声をあげるのが国見ちゃんだ、と思ってる。
「でも及川くんの言うこと正論だからさ、私どこまで首突っ込んでいいのかはちょっと悩んだ」
「まじでゴメン…!!!どんどん突っ込んでほしい!!てか首しか突っ込まないでいて!!」
どういうこと?土下座の勢いで謝ろうとする及川くんの肩を持ち上げて姿勢を起こす。
「でも専門的な話はコーチたちいるしさ……」
「あーあ、及川のせいでおとぼけちゃんが卑屈になった。岩泉〜、花巻〜、集合」
(で?雑用だけしてればいいって結論か?)
(圧迫面接か何か?他の部活のマネの子に話聞いてみたけど、やっぱプレーに関するアドバイスしてる子いなかったし)
(確かにお前は経験はねえだろうけど、個人のプレースタイルの変化にはよく気付くだろ)
(そーそー、松川の手なんて初めて見た人はなかなかそこ見ないし)
(最近だと金田一のジャンプのタイミングのこと話してただろ、あれはコートの外から見ててなおかつ比較が上手いやつの言葉が助かる)
(あ…じゃあアレでいこうかな。素人質問で恐縮ですが…この分野は専門外なのですが…を枕詞に。天才?)
(別の意味で緊張感走るからやめろ、都度論文発表会開くな)
(ちょっとおもろいかもねソレ)
(松川、ノるな)