HQ 菅原
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1歩後進
*菅原孝支
影山と日向のドタドタのあと、俺があげたボールを田中が打った。力入りすぎたみたいであらぬ方向へ飛んでいって、も〜ちゃんとしろよって野次りながら振り返った先に頭にボールが直撃してる子が見えた。
流れ弾に慣れてる清水よりもぱっと見華奢なその子はそのままよろめいて倒れる。頭は強く打ち付けてなさそうだったからまだ安心だけど血の気が引くような光景だった。急いで駆け寄って、女の子になんて可哀想なことすんだ!と田中に向けて言った一言がその子に取って良くなかった。
「可哀想なんかじゃないです」
それだけ言い残して走り去っていったその子は影山のクラスメイトらしい。次の日、大地に頼んで探しに行こうかと思ってたらなんと向こうから来てくれた。昨日の何か思い詰めたような苦しそうな表情とは一転、眉を下げて申し訳なさそうにクッキーを渡される。謝りにくるなんて、なんて偉いんだ…て感心した。昨日は八つ当たりしてしまったので、とひたすら頭を下げられた。謝りに来てるのに道場破りスタイルで入ってきたり、部活に入部するには試練を乗り越えないといけないと勘違いしていたり、ちょっと抜けてるところがある。
すんげー可愛いなあ…って思ったからもれなく試練を乗り越えようとしてる影山に頼み込んでラインを繋げてもらった。へえ、ポケモン好きなんだ。可愛い弟くんと仲がいいらしく、「ねね」(ねえね?)と呼ばれていた。バレーコートを見る目がキラキラしていて、部活に興味あるんだろうなあと思ってマネとして皆で誘ってみるも、体の弱い弟くんのために面倒見ないと…と話していた。
日向と影山の入部をかけた試合が前日に控えた今日は夕方から台風みたいな雨が降りだした。外が真っ暗だな〜なんて思ってたら体育館横のドアが開いて、ここ数日何度も見た顔が見える。りくくんだ。
「あれ?お姉ちゃんは?」
「ぜぇ…ひゅー…っは、たすけて…、」
顔色が悪いしかなり過呼吸で苦しそうなりくくんを瞬時に担ぎ上げて座らせる。
「清水、タオル!あとあれば紙袋!」
ランドセルを降ろさせ、傘を差してても濡れてしまっている上着を脱がせる。
「大地、これやばいかも…」
「け、たい…ひゅー…ひゅ…」
キッズケータイのことか?…あ、連絡とらないと。スマホで電話かけてナマエちゃんに事情を説明する。少し声が震えてスピーカーにしてください、と返ってくる。
『りく、ねねだよ。聞こえる?…メルンのポーチの中にフック船長の右手の形ケースがあるよね?』
メルンって何!?って思いながらランドセルをひっくり返せばやたらメルヘンな可愛いポーチがある。中を開くとL字の吸引器があり、これのことか…とりくくんに手渡す。
ただの過呼吸じゃなく喘息の発作なら、薬飲めば落ち着くのは皆分かってたけど身内に喘息もちがいなくて吸引器の使い方なんて分からない。自分でなんとか吸引しようとしてるみたいだけど、うまく吸引できないのか口の横から薬が漏れている。
救急車呼ぶ…?と大地たちと話してるとびっしょびしょのナマエちゃんが半ば転がり込むように体育館にスライドしてくる。転んで足を擦りむいたのか、右足からすごい出血してる。
「すみません!ご心配おかけしました…りく、平気?」
はあはあ、と肩で息をしてるナマエちゃん、きっと小学校から走ってきたんだ。入り口でスカートの裾を絞ってたけど、まだブレザーの袖口から水が滴ってる。
手で顎や頭を固定するようにナマエちゃんが薬を吸引させ、りくくんのようやく呼吸が落ち着いてくる。よかった…。めちゃくちゃ心臓バクバクした…。ナマエちゃんは練習中断させちゃってすみません、と謝り床を拭きますと申告してきた。どんだけ自分のことを後回しにするつもりなんだろう。棚からタオルを追加で出してきて、怪我の手当は素肌に触れるので清水に任せる。ジャージが濡れてないからと着替え、ナマエちゃんは縮こまってぶるぶる震えてるのでバレー部のジャージをかける。
「ありがとうございます、あったか…!」
うわ、めっちゃ可愛い。
あったかい飲みモン買ってくるよと声をかけ、二人のリクエストのココアを買う。体育館に二人の会話が響く。なんかタイミングじゃないかなって盗み聞きみたいになってしまって少し罪悪感がある。
「ねねは悪くないよ」
「……りくも悪くないよ」
「お母さんも悪くない、だれも悪くない。ねね、あの日のことでずっと悩んでるんでしょ?…僕から片時も目を離さないよね」
「……りく、気づいてたんだ」
「分かるよ、ねねは優しいから」
「でも、ねねは…喜んでたはずなのに発作起こして口から泡吹いてるりくを見たときがずっと怖いんだよ。あんなに近くにいたのに気付かなくてさ」
過呼吸も喘息の発作も、ひどいと呼吸困難になって死んじゃってもおかしくない。もっと小さい頃にナマエちゃんは発作がひどくなるまで気付けずに苦しむ様子を見てしまったんだろう。
「でもねね、今はブザーも持ってるし笛も持ってる。あの時より僕も話せるよ」
「それはそう〜なんだけどさあ…」
ナマエちゃんが過保護なくらいりくくんのことを気にかけてるのは、強すぎる責任感や罪悪感もあるのかもな…。今帰ってきましたよ感を出して会話に交じる。ココアを渡すとニコニコであったか〜い!と喜ぶナマエちゃんとりくくんのそっくりな笑顔にキュンとする。
その後はナマエちゃんのお母さんがやってきて、ナマエちゃんのようにお礼と謝罪の嵐だった。俺らを各自家まで送ってくれた。
ん〜…流石に今日ライン送るのしつこいかな…。いやでも心配だし…。ゆっくりしてね、くらいなら許されるかな…?
無難に暖かくしてゆっくりしなね!と送ると、すぐに返事が来る。
『ねね、熱出ちゃった…』
この文面はりくくんか…てか熱?!…体冷えちゃったか…。申し訳ないことしたな…。……あ、ジャージ渡しっぱなしだ。
『りくくん?ずっと寒くさせてごめんねって菅原先輩が泣いてるって伝えてね』
『なかないで〜っていってる。ねね、画面よいするから連絡返せなくてごめんなさいって』
また謝ってる…いいのに。タオルでおくるみみたいにすればよかったかな…。
『ねねはいま熱、何度か分かる?』
『39.5』
たっか…!そりゃスマホなんて見たら酔うに決まってる。土日で治るといいけど。土日しっかり休んで、お大事にねと送る。既読はついたけど日曜の夜まで返事がなかった。長引いているんだろうか?
「影山〜、今日ナマエちゃん学校来てた?」
「ミョウジさん…?いや、休みでした。風邪で熱下がんねえって」
影山も知ってるの?と返す。意外とラインとかするんだ、影山…変なスタンプしか返ってこなそうだけど。
「…正式入部のことずっと気にかけてくれてたんで…土曜、正式入部したって連絡したときに。なんか文面おかしかったんで聞いたら弟が代わりに打ってたらしいですけど…」
あぁ…そっか。影山が試練を…って言ったんだもんな。
「試練を乗り越えられてよかったなあ、影山!」
もうその話めちゃくちゃ面白かったんだぞ、と伝えるとナマエちゃんから怒られたからやめてください、と言われる。この1年コンビ、天然でかあいいなあ。
その日の夜ナマエちゃんからジャージ何日も借りっぱなしですみません、とラインが飛んでくる。
『入部待ってるしあげてもいーよ?』
『え?!菅原先輩が寒いじゃないですか…あと私には手が長すぎます…』
わ、かわい〜絵文字。確かに金曜日肩にかけたときもかなりぶかぶかだった。
『熱下がった?』
『下がりました…重ね重ね心配かけました。もう大丈夫です。菅原先輩に』
熱下がったんだ、よかった〜!の気持ちと不自然に切れた文章の続きを待つ。俺がなんだろ?
『菅原先輩に、先行でお伝えしようかなって…マネージャーの件、前向きに考えてみます。ただ、私の性格的に私もりくも、家族全員が宮城のこの生活になれるまであともう少しだけ様子を見たくて…』
『え、めっちゃ嬉しい〜!焦ることなんかないよ、ゆっくり考えてな』
ここまで送ってガッツポーズ。
『とりあえずバレーのルールの教本は買いました!』
かわ……え、待って可愛すぎない??
『ちょっと〜、ソコは先輩に聞いてくれるんじゃないの〜??』
わざと怒った顔の絵文字を送ると焦るドラえもんのスタンプが返ってくる。
『うっかりしてました…』
はあ〜可愛すぎ。
『私まだ、菅原先輩がバレーするとこ見れてないんで早くみたいです。なんやかんやドタバタお邪魔してるだけなので』
『りくくん連れて見においでよ、土日でもいいし!』
『…あ、明日は母からの大量のお菓子を届けに行く予定です』
『また!?いいのに〜俺らだって結局アワアワしてただけだし』
『過呼吸とかを目の当たりにすると焦っちゃいますよね…でも、りくって小学5年生くらいまでずっと入院してて、看護師のお姉さんとかお医者さんとか…同じくらいの小児科にいる子達としか接してこなかったんで、ものすごい人見知りなんですよ…特に年上のお兄さんたちには。』
『田中見て固まってたもんなぁ〜あの顔面白かった!』
小学5年生まで入院…そんなに体が弱い子だったんだ。そりゃずぶ濡れになっても走ってかけつけるわけだ。
『あのメンバーの中に菅原先輩がいてくれたからまだあの程度だったのかなって思います。これが本当に誰も知らない野球部の面々とかだったらパニックになって搬送されてたと思うので…そのお礼も兼ねて!です。あと借りっぱなしのジャージも…』
『知り合いになっといて役得だ、お菓子楽しみにしてるね』
次の日の放課後、ナマエちゃんは連絡してくれたとおりでっかい箱を持って体育館へやってきた。
「ミョウジさん、どうしたの?!」
おお、日向もう仲良くなってんのか…コミュニケーションおばけの日向はすげえな…。
「あ、日向くん。入部おめでと〜武田先生いる?」
「はい、いますよ」
「うわっ!?びっくりした…」
かわいい、驚いてちょっと浮き上がってた。大地が集合をかけてナマエちゃんのもとへ集まる。
「先日は私と弟のりくが大変お世話になりました、主に母からの差し入れです。ナッツのアレルギーとかありませんよね?焼き菓子なので早めに食べてください!」
パカ、と箱を上がるとちょっと高そうなマドレーヌがズラっと並んでる。
「ピエールエルメ…」
月島がボソリと呟いた。
「ピエ?」
日向がそれに食いつくとナマエちゃんがピエールエルメ、と訂正する。
「父が東京に出張行ってて…ここ美味しいんですよ!ぜひ食べてください」
確かに駅前とかでも見たことないロゴのお菓子だ。
「ありがと!」
「あ、菅原先輩!ジャージありがとうございました」
「結局熱出しちゃって…もう平気?」
うっわ、なんかめっちゃいいにおいすんだけど…?!
「元気もりもりです!あんなに熱出したの久しぶりで、変な夢見てちょっと楽しかったです」
もらったお菓子を一旦部室にと戻ると大地に声をかけられる。
「スガお前……分かりやすいぞ」
「エッ!?」
「俺も思ってました」
縁下にも言われる。……はっず…。
「すみません……公私混同はしてないから!」
「それも見てりゃ分かる。…マネ、引き受けてくれそうなの?」
「3月にこっち来たばっかでどったばただから、家族全員が新生活になれるまでは様子みたいってさ。まあ金曜も弟発作起こしちゃったし、不安定だから心配だろうし」
「そっか…じゃ、残っていかないとな。…すっげースガのジャージからファンシーな匂いする」
「な、めっちゃいい匂いするよな?!逆に着れないんだけど…」
「菅原先輩、顔ニヤけてますよ」
ニヤニヤと揶揄う表情の縁下の背中を軽く叩く。
「菅原先輩!菅原先輩はどれなんですか?」
「ぷっ、はは…マジでルールブック買ったの?」
「大マジですよ、武田先生と同じやつでした」
武田先生も買ってたんだ…俺らに聞けばいいのに。俺はセッターだよ、と返す。
「じゃあセッター最優先でおぼえます」
ぐ…と緩みそうになる顔をなんとか引き締める。大地や縁下がニヤニヤとこちらを見ているので睨んでおく。
*ミョウジナマエ
ルールブックを片手に、土日はりくとなるべく練習や練習試合を見に行った。清水先輩によると烏野は昔はスーパースターみたいな選手がいた時代は敵なしと言っていいほどの強豪校だったみたい。今は堕ちた強豪なんて不名誉な名前がついてるけども、強豪時代からのコーチに教えてもらっていた2年生、3年生の安定力を軸に人間離れした身体能力の日向くん、そんな日向君を操るかのように動かせる影山くん、ブロック力を強化できる月島くん、山口くんを含めて強くなれる、と力強く話す清水先輩の目は輝いていた。
入学して1ヶ月、もうすぐゴールデンウィーク。バレー部は泊まりがけの合宿をするんだとか。我が家の今年のゴールデンウィークはどうするんだろう?二人とも仕事だろうか。
私もりくも結構大量に課題を出された。
「りく、分かる?」
「うん、ねねにまだ見せてなかったけどこの間のテスト…ほら100点!」
おお、と拍手する。すごいじゃん!夜、菅原先輩からラインが来る。競合時代の因縁校との練習試合が決まった、よかったら見においでよというものだった。
「だってさ…りく、行く?」
りくは気乗りしないようだ。
「……菅原くんのが見たいよ」
「うーん、それはそうだけど…りく、ちょっとこっちおいで。」
りくを目の前に座らせ、手を握る。
「ねねも気持ちは同じだよ、そんで…1番その気持ちを抱いてるのは菅原先輩だと思うな。」
「菅原くん、なんで試合でないの?」
「それは…コーチの考えによるものだと思うけど…。じゃあねねの場合で考えてみようか。
ねねはピアノは弾けるけど、プロのピアニストとか音大入学を狙ってる人と比べると実力不足なのはりくも分かるよね?」
「…ねねは下手じゃないよ」
「それはりくの視点でしょう?たとえば弾くときの姿勢とか、曲のテンポ、強弱…そういう観点で見たときに、ねねは技術はないって評価になると思うの。独学だしね。
ただ、たとえば近所の幼稚園や公民館で弾いてみて!って言われて、皆と楽しく歌いながら弾ける自身はあるよ。それはねねの実力だと思うの。
オーケストラに居るようなかっこいいクラシックは弾けないけど、皆が楽しくなれるジブリとか童謡は弾ける…こういうのを適材適所って言うの。」
「適材適所…」
「菅原先輩は、菅原先輩が実力を発揮できるときまで控えてるだけで諦めてるわけでもないし、影山くんに譲ってるわけじゃないと思うな…皆、勝ち進んでいきたいのはきっと同じだから。…ねねの予想だけど」
そう言うとりくは見に行こうかな、と溢す。
『練習試合、りくと行きます』
そう返信した。お婆ちゃんと仙台の神社仏閣に参拝しに回ったり、大きい図書館で1日入り浸ったり楽しいゴールデンウィークの前半を過ごした。入院生活が長かったりくは、映画や小説、簡単なパズルゲームが大好きだから何より図書館で大はしゃぎしていたのが可愛かった。
うわ、懐かしい…小学生の頃読んでたシリーズ小説の最新こんなに増えてるんだ…このレモンドーナツの話好きだったな〜。ドーナツか…。
『菅原先輩、おつかれさまです。レモンドーナツお好きですか?』
何故か作りたくなって、それをりくに告げるとおお喜び。いつもこういうのは余るから、もしよかったらと思ってラインしておく。
『レモンドーナツ?』
夜になって返事が返ってくる。もし甘いもの苦手なら、影山くんとかピエールエルメに食いついてた月島くんあたりに渡しちゃおうかな。
『今日、りくと大きい図書館に行ってわかったさんシリーズ読んでたら作りたくなっちゃって』
『ナマエちゃんが作るの??じゃ〜食べたい!』
よし、腕によりをかけて作るか!
揚げたては揚げたてで美味しいけど、熱が冷めてしっとりしても美味しいのがこのレモンドーナツ。ん〜おいしい。普通のやつとレモンアイシングをかけたやつを2個作ってラッピングしておく。
(やば…)
(何ケータイ見てニヤついてんの、スガ)
(絶賛片思い中の相手からラインでも来たんだろ?)
(大地、言い方に悪意ある〜…明日レモンドーナツくれるんだって!手作り!!やばくね??!)
(え、片思い?!だれだれ?)
(旭には教えね〜)
(どーせ明日バレるだろ…良かったな〜スガ?)
(明日しっかり周り見とくよ)
(マネ候補だし、旭も挨拶しとけよ?…あ、怖がらせないようにな、ただでさえデカイんだから)
(善処します…)