HQ 菅原
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1歩前進
*ミョウジナマエ
夜、ピコンと通知が来る。
影山くんだ。クラスラインから飛んできたのかな?
『ミョウジさん、頼みがある』
『影山くん、どうしたの?』
『菅原さんに連絡先渡していい?今日名前聞き忘れたって言ってて…お礼がしたいって』
あ…あぁ!!確かに私名前言いそびれた。言い合った名前はねねとりくだけだ。ねねに関してはあだ名に近いし…。
了承の旨を伝えると菅原先輩からラインが来る。試練頑張ってね、と影山くんに送りトークルームを開くとかわいい…なにこれ…。くま?のスタンプでお辞儀されてる。
『くま?ですか?』
『ぶっぶー、犬でした。
放課後ぶり!影山に無理言って繋げてもらいました、名前聞いてもいい?』
『犬でしたか…!ミョウジナマエです。わざわざすみません』
ポチポチとやり取りをすすめる。菅原先輩、なかなかユニークな人だった。影山くんの試練の内容も大まかに教えてもらった。チーム競技なら大事なマインドを培ってこいとのことで、どうやったら培った認定になるんだろう?と思いつつも、やっぱりあんな台風みたいに体育館に向かっていく影山くんには頑張って欲しいという気持ちがわく。
その日から他愛もない話をライン上ではするようになった。日常生活だと私がマネージャにでもならない限りは合わない。相変わらず影山くんは試練に苦戦しているようで、たまにハイチュウをあげると喜んでくれるようになった。
「マネージャーか…」
「!…マネ、やるの?」
影山くんに聞かれてたようだ。授業中なのに独り言つぶやいた私も悪いけど、まさか反応するとは思わないでしょう。
「うーん…やってみたいけど……やるには心配事が多くて」
「心配事?」
「うん……弟のこととか」
「…体弱いんだっけか?」
頷く。
「私達、先月にここに引っ越してきたばかりだから…誰も慣れてないし、お母さんたちもあくせくしてる。弟の面倒見れるのは私しかいないの。…喘息、いつ発作でるかわからないし…」
もう昔みたいに目の前で見過ごすのだけはしたくない。一時帰宅を言い渡されたとき、りくの好物を作ろうと母も父も張り切って買い物に出かけた。薬は手元にあるし、電話もかけれる私がりくとお留守番をしたことがある。
りくに喜んでほしくて、たくさんりくがすきな曲をピアノで弾いてあげた。キャーキャーいいながら喜んでたけど、運悪くそのときに発作が起きた。集中してピアノを弾いてた私にはりくの過呼吸が聞こえなくて、気づかなくて、1曲分終わるまで放置してしまったことがあった。薬があったから大事には至らなかったけど、振り返ったら笑顔じゃなくて苦しむりくの表情は私のトラウマの一つだ。
「そうか。元気になるといいな」
影山くんは私のこともりくのことも特に可哀想って言わないし、きっと思ってない。そういう声色で「元気になるといいな」と見たことない相手を思いやれるのは影山くんの優しさだと思う。正直私はすごく助かる。
「影山くんの試練の進捗は?」
「…程々だ」
程々なんだ。いい感じ!とかじゃなくて程々。苦戦してるのかな。
「影山くんなら大丈夫だと思うよ、その優しさがあれば。」
そうか?なんて聞き返してくる影山くんに笑いかける。
バレー部のマネージャーかあ…なんか楽しそう、かも。りくの体調が良くなって一人でお留守番できるようになれば私も部活に参加できるのかな。
数日が過ぎた雨の日の帰り道。影山くんによると今週の土日で試練の結果を示す日らしい。今日は金曜日だから、もう少しだ。春に似つかわしくないどんよりとした天気で気圧が低いのか頭がズキズキする。放課後になって雨と頭痛が酷くならないうちにとりくの小学校を目指す。
烏野に来てしまったあの日以来、りくは言いつけを守っていきなり大幅な距離を歩こうとしなくなった。まずは毎日の登下校と学校生活から。そこから余力が出たら私と散歩に行って、たくさん体力つけて今年の夏はどこか行こうか、と話した。
「いない…?」
校内放送をかけても音沙汰なし。学校側に事情を話し、キッズケータイの所持を許可されているため電話をかけても出ない。図書室や教室、階段やトイレなんかも見て回るけどどこにもいない。家に帰ったのかと思い家に電話しても出ない…。
「どこ行っちゃったんだろう……」
「もう一度校内放送かけてみましょうか、雨で聞こえてないのかも…。」
今日は習字を頑張ってたんですよ、と担任の先生が教えてくれる。なんか不安になってきた。警察に言うには早すぎる?お母さんには?これで廊下にいましたとかだったら大騒ぎになって心配させちゃうよな…いつ連絡するのがベターなんだろう?頭の中をそんなことでぐるぐると巡らせてると、着信。
「菅原先輩…?」
部活中の時間じゃ…?
「もしもし、?」
『あ、よかった!ごめん緊急で!りくくん来てるんだけど、過呼吸?起こしてて…このうさぎのポーチの中の頓服薬飲ませればいいんだよね?』
「…え、過呼吸?喘息ですか?」
『たぶん喘息だと思う、自分で来て飲み方が分からないって困ってるうちに酷くなってきちゃって…』
血の気が引くようだった。ふう、と深呼吸しスピーカーにしてもらう。
「りく、ねねだよ。聞こえる?…メルンのポーチの中にフック船長の右手の形ケースがあるよね?」
『ぜぇ…ぜぇ…うん…』
苦しそうな声にこちらも震えてしまいそうになる。全力疾走して行ったって十分以上はかかる。顔見知りしかいない今の状況で置いておくのは余計に悪化させかねない。一旦自分で飲むよう指示して、そのあと私が迎えに行く。
「それをいつもみたいに口の中に入れてボタンを押してみて、シュッて薬が来たら落ち着くはずだから…ねねの手をイメージしてやってごらん…すみません、見つかりました。お手数おかけしました!」
担任の先生に頭を下げて校門を勢い良く走って出ていく。雨で滑りかけたけど、急がないと。イヤホンを片耳に差して様子を伺うと、なんとか吸入できたっぽい。
1度派手にコケて膝から思い切り出血してるけど気にしてらんない。
「…っだぁ!!!…りく、平気?」
転がるように体育館のドアに手をかけた私にバレー部の先輩たちがぎょっとしている。会釈してスカートの水を絞って体育館へ上がる。うわ…靴下べちょべちょ…後で拭かないと。
「ねね、ひゅ…ぅ、まだ…くるしいよ…」
「よく見てて、右手はここ、左手はこう。そんでボタンを押すの…ゆっくり吸ってね」
背中を擦りながらそう指示するとやっとりくの呼吸が落ち着いてくる。よかった…どっと疲れた。お母さんに事後報告だけして…雨降ってるからおぶって行くしかないかな。
「すみません、練習中断させちゃって…」
澤村先輩たちに頭を下げる。あとはこのビショビショの床も拭かないと…。
「りくは濡れてない?」
「平気…ねね風邪引いちゃうよ」
「めちゃくちゃ走ってきて暑いから平気だよ、今日のねね史上最強に早かったかも」
惜しいことしたな〜というとりくがケラケラ笑い出す。
「こら、呼吸安定してないんだから笑わないの。床もすみません…拭きます」
「その前に!ナマエちゃん足すっげえ擦りむいてるの気付いてる?」
「気づいてはいます」
「手当しなきゃ…派手に転んだの?」
清水先輩に揶揄われる。ちょっと恥ずかしい。
「そりゃもうかなりど派手に…でも上半身は床につかなかったですよ。あ〜思い出したら痛くなってきた…」
そう溢すと、我が家では苦い薬を飲むとき、痛い治療を手当するときのおまじないをりくが歌い出す。
「はい、ディドゥルディ〜っ」
その様子にぽかん、とする先輩たちに笑ってしまう。
「素敵なパーティ〜」
「子どもも大人も歓迎だーい!」
「楽しかったらそれでよしっ」
「ハメを外して思いっきり楽しめ〜!」
「ハロウィンっ」
「ハロウィン!」
「パンプキン」
「パンプキン!」
「トリック・オア・トリート」
「トリック・オア・トリート!」
「パーティ最高?」
「たのしいね〜!痛いの終わった?」
何今の…かわいい…と清水先輩が溢すので、我が家流の痛いの痛いのとんでけです、と説明する。
「りくくんはディズニー好きなんだ?」
「ねねがピアノ弾いてくれるからね」
ハキハキ受け答えする様子をみてひとまず大丈夫そうなことを合わせてお母さんに連絡する。先日一人で来ちゃったときのことも一応報告して、徐々にねって伝えたこともこの間話した。仕事終わる直前だったみたいで、すぐに既読がつく。
お母さんが迎えに来てくれることになった。よかった、私びしょびしょだしりくをおんぶするのはちょっとキツイかもって思ってたから助かった…。
膝にガーゼを貼ってくれた清水先輩にお礼をいい、親が迎えに来てくれることを伝えて床のモップをかける。ジャージに着替えようかな…カバンの中だけど浸水してなかったから更衣室を借りて着替える。落ち着いたら体が冷えて寒いし、結構な距離を全力疾走してきたからか眠くなってきた。
「武田先生…何から何まですみませんでした。」
「いいよ!無事に元気になってよかったよ…全然迷惑じゃないからそんなに気負わないでね」
もう一度バレー部のみんなにりくの面倒を見てくれたことのお礼と練習をかなり中断させちゃったことのお詫びをしておく。
「そんなに気にしなくてもいいのに…今日はこのあとどんどん雨がひどくなるから、真っ暗になる前に練習切り上げようかって話してたところだよ」
そうなんだ、武田先生優しいな…少しホッとした。皆一斉に片付け始めるので、一応手伝おうとすると菅原先輩にけが人は座ってなさい!て怒られた。
ネットがなくなった体育館の床の隅っこに座って、りくとお母さんを待つ。お母さん…ライン読んで慌てすぎて事故とか起こさないといいけど…。私自身もアワアワし過ぎちゃうのは完全にお母さんの遺伝だと思ってる。
「りくあったか…ねね走りすぎて眠いや」
「ねね、寝ちゃだめだよ!お母さんも僕も運べないよ」
分かってるよ〜と三角座りする。さむい…コートとか持ってないから冷えた体がどんどん寒くなる気がする。ふわ、とうちのじゃない柔軟剤が香ってくる。振り返ると菅原先輩が部活用の黒いジャージを肩にかけてくれてた。
「菅原くんだ」
「お、覚えてくれたの〜?二人とも寒いっしょ、自販機であったかい飲み物買うけどいる?」
「あ、お金…」
「いーのいーの!100円ちょっとなんだから!何飲みたい?」
「りく、ココアがいい!です!」
私の真似をして敬語を使ってるりくが面白くて口元が緩む。私もココアで、とお願いする。
「…今日さ、ホントはまっすぐ帰ろうと思ってたんだよ」
「うん、分かってるよ」
「なんか歩いてたら気持ち悪くなっちゃって…最初一人で薬吸ってたんだけど、なんかねねの時みたいにうまく行かなくて…ここ来たら、ねね居るかなって…」
「うん、ねねや周りに頼れて偉かったね。今日はたまたま、すれ違っちゃっただけだから…」
「ねねは悪くないよ」
「……りくも悪くないよ」
僕は分かってる、と返される。お互い無意識に避けてた話題だ。
「お母さんも悪くない、だれも悪くない。ねね、あの日のことでずっと悩んでるんでしょ?…僕から片時も目を離さないよね」
「……りく、気づいてたんだ」
「分かるよ、ねねは優しいから」
そっか、と返す。
「でも、ねねは…喜んでたはずなのに発作起こして口から泡吹いてるりくを見たときがずっと怖いんだよ。あんなに近くにいたのに気付かなくてさ」
「でもねね、今はブザーも持ってるし笛も持ってる。あのと時より僕も話せるよ」
「それはそう〜なんだけどさあ…」
ゴロンと寝転がると体育館の床の冷たさが背中に広がりぶるる、と鳥肌が背中から駆け上がる。りくとこんな話、初めてしたな…。
「大丈夫だよ、発作の回数も減ってるし」
「……早くねねと散歩しようよ、夏はどこ行きたい?」
「そりゃあもちろん、ディズニーランド!」
おお、大きく出たね。
「ねねのお年玉貯金でつれてってあげる。すごい貯まってるんだから」
「え〜?じゃあミラコスタも!?」
それは厳しいかも…と返す。1日分と新幹線代で精一杯かな…。飲み物とか食べ物とか…ビジネスホテルならいけるかも?
「お二人さんおまたせ〜…って寝てんのね」
「菅原先輩、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
はいよ、と渡されココアを受け取る。あったか〜顔や首元にぴったりつける。
「あんなにびしょびしょで寒かったべ?…今日はちゃんと風呂入って風邪ひかないようにね」
「ふふ、ありがとうございます。今日鍋らしいんであったまります」
りくはテンション下がってたけど私はお鍋好き。特に出汁が入ってるしょうゆ系の鍋、ほんとに美味しくて食べ飽きない。
(お母さん、りく発作のときに側にいてくれたバレー部の先輩たち…ジュースもご馳走になった)
(えっ、ジュースまで?…あぁもう二人揃ってお世話になって…ありがとうございます!今度お菓子持ってこなきゃね)
(クッキーは先日渡したから他のにしよう)
(いいですからね?!あ、お母さんナマエちゃんマネージャーに誘ってるんで認識だけお願いしますね!)
(マネージャー…するの?)
(えっ?!わ、分かんない…)
(ていうか夜で暗いし皆送っていきます!ワゴンだから全員入るし…はい、乗っちゃって!)
(うお、いいんですか?)
(もちろん!今日の雨は冷たくて強いしね…りく、ねぇねの膝乗ってね)
(ねね足怪我してる)
(へーきへーき、湯たんぽ代わりに乗って乗って)
(澤村先輩と、清水先輩と…菅原先輩と田中先輩と…あれ他の方々は?)
(随分前に帰ったよ、あとは迎えに来てもらってたやつもいた!残ってるやつはナシ!)