HQ 菅原
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可哀想じゃない
*ミョウジナマエ
「可哀想なんかじゃないです」
つい、頭に血が上って言い放ってしまった。向こうは心配してくれてたのに。
静止の声も聞かず帰路につく。
事の発端はすごくシンプル。
帰り道に体育館前を通っていたら、体育館に複数あるあのガラガラなる鉄製の扉が開いていて、そこからボールが私の頭に直撃しただけ。いや流れ弾にしてはすごい威力だったけど……少しよろけただけ。
今朝はお母さんと言い争うように家を出てきた。お姉ちゃんは私達に付き合わせてしまって可哀想、弟のりくはりく自身じゃどうにもできないことで悩むことになって可哀想、と零された。
今日は入学してすぐで、まだ授業もそこそこに自己紹介をするほうが多い。今年の3月にこちらへ引っ越してきたばかり、理由も弟の療養に付き合う形でと大まかに言えばかわいそー、とクラスの何人かが口にした。
私は望んで宮城の…おばあちゃん家に来たし、やっと家族揃って一緒に住めるようになったからむしろ嬉しかったんだ。なのに可哀想可哀想っていろんな人に言われてピリついてたんだ思う。異なる県、しかも東北じゃなくて関東から来たとなればすこし線を引かれてるような空気感で、馴染めてないのは私じゃなくても分かるだろう。
そんな中で「女の子に頭にボール当てるなんて…田中、可哀想なことすんなよ〜」と投げかけられた言葉がトリガーになってしまった。それで冒頭の言葉を、半ば睨むように優しそうな上級生と怖そうな上級生にぶつけてしまった。
「あ、ちょ…君!」
静止の声も聞かず校門から出ていく。今日はりくの小学校に寄って迎えに行くように頼まれているから。
「ねね!」
「りく〜!きれいな学校じゃん、よかったね」
周りの子たちが高校生だ、と私を好奇の目で見ている。中学生の先輩すら大人に見えたのに、高校生なんてこの頃の年齢の子たちには相当大人に見えてるんだろうな…。私も近所の中学に通うお姉さんたち、すっごい遠いような存在に見えたもんな…。
「自己紹介ちゃんとできた?」
「できた!外遊びできないから、図書室案内してくれた子がいてね…」
何かと病気がちで喘息持ちのりくを気にかけてくれる子がいたようで良かった。
「ねねは?」
「ねねは…これからかな…緊張しちゃってダメだった」
こっちから行かないとだめなんだけどね、と言うとねねなら大丈夫だよと言われる。少しの気まずさを抱えて家に帰る。うちは共働きだから夜まで二人とも帰ってこない。できるときは夕飯やせめてものお風呂や軽い掃除は私の分担。
制服から楽な服に着替えて課題をこなして洗濯物を取り込む。さっさと畳んでお風呂を作る。りくもやる!ときたので、机の上を拭くようにお願いする。私が作る必要もあるので献立は冷蔵庫のドアに書いてある。今日は唐揚げか。炊飯と下味つけるところくらいまではやっておこう。
準備を終え、りくの勉強を手伝う。入院中もなるべく教えるようにはしていたけど…教える勉強なんてしたことないからちゃんと学力が上がってるのかはものすごい不安。市販品のじゃない学校からもらったドリルをやらせてみればすらすら解いてる。
「うん、全問正解!」
よかった、ちゃんと身についてた…。そうこうしてるとお母さんたちが帰宅する。お風呂とからあげの下味もつけて炊飯までが完了してることを伝える。
少しお母さんとぎくしゃくしてるような気がする。あんまり食欲もわかなかった。受験を終えて、あっという間に引越し作業をして卒業式してすぐ宮城に来て烏野に入学してきた。環境の変化によるストレスかな〜なんて自分でも楽観的に考えるようにしていた。
私みたいな状況でも不幸だと思える材料はたくさんあるから。わざわざ見つけて突いて悲劇ぶるのも馬鹿らしい。
「明日…クラスの子に頑張って話しかけて…今日の二人に謝らないとな…」
学校で配られたジャージじゃなくて、きっと部活のだったと思う。……ってことはどう考えても先輩だよなあ〜!!!
私は部活動に入ったことがないから、先輩との関わりなんてほとんどない。中学の頃、同級生たちは先輩と仲いい部活とすっごく対立してた部活で極端に別れてたのを思い出す。
声をかけてきてくれた方の先輩は優しそうに見えたけど……いや、優しそうに見える人ほど怒ると怖いっていうしあの人も怖かったりして…。でも私直属の後輩じゃないしそんなに怒られたりは……いやでも失礼な言い草と態度だったよなあ…!なんて謝るか考えておかないと…。別の意味で緊張してなかなか寝付けなかった。
なんとか眠い目をこすり起きる。洗顔して拭き取りパッドして、化粧水塗って…日焼け止めは念入りに。ベタベタするからオデコや鼻筋、フェイスラインにパウダーはたいて。
眉毛が薄いから整える程度に眉毛書いて、ビューラーでまつげを上げて控えめにマスカラを塗る。クマは…できてない。
少しだけチークを塗って、保湿するためにリップをする。
お化粧禁止ではないけど、ガッツリはしたくない。遊びに行くときくらいでいいし、暑いときの維持が大変だから。
問題は顔より髪だ。ミストをふりかけて櫛を丁寧に通す。軽くアイロンをかけてオイルを毛先にまんべんなくつける。毛先だけだけど、髪の毛が長い分この作業も大変になる。オイルつけてからもう一度櫛でとかして…よし、サラサラ!髪の毛と日焼けには気をつけてきたから自慢ではある。
りくとは登校時間が違うから私が先に出る。小学生なら集団登校があるからありがたい。烏野まで徒歩20分。夏はキツそうだけど意外とこの20分間歩くのは好きだったりする。
「おはよ〜」
そう挨拶してクラスに入る。何人かから返事が返ってきてほっとしたら声をかけられる。
「ね、ミョウジさんすっごい髪サラサラだよね?!昨日から気になってたんだ〜」
「え、ありがと…!たまに切っちゃいたいけど、ここまで伸ばしたから頑張ってるんだ」
触らせて〜と頭を撫でられる。サラサラ〜とかいいにおい!って言われて素直に嬉しい。
「部活どこか入るの?」
「んー、入る予定ナシかな。みんなは?」
そう言うと結構まちまちな答え。3人のうち入る子は2人、もう1人はバイトのため入らないらしい。そうか、バイトも解禁されるのか…!りくの体調がもうすこし安定したら…2年生とかになったらバイトするのも楽しそうだな。そしたらプレゼントとか買えるし。
他愛ない話をして席につく。よかった、仲良くなれそう…かな。朝のホームルームギリギリにどか!と隣に着席してきたのは確か…
「影山くん、おはよ。ギリギリだね」
「え?…あぁウス。部活の朝練あったから」
無口なんだな…ウス、て部活の挨拶みたいのされた。何部なの?と聞くと一応バレー部…と返ってくる。
「一応?」
「今……試練みてーのあって…。それクリアできなかったら入部させねえって言われてる」
「え……!?入部するってそんな大変なことなの…??」
入部届出して入部!じゃないの…!?部活って大変なんだな…受験してここの高校来たのに部活も受験みたいなことするんだ…。
「…影山くん、次の授業国語だけど教科書は?」
「忘れた…」
見せるよ、と机をくっつける。意外とおっちょこちょいさんなのかな?怒られないから置き弁したらいいのに…。
「さんきゅ。…名前、何さん?」
「ミョウジナマエ。好きなように呼んでね」
ミョウジさん、ミョウジさん…と繰り返される。……なんか大事なこと忘れてるような…。
ん…?バレー部…?昨日私の頭にすっ飛んできたボールって…バスケットボールじゃなかったような…バレーボールだったような?!入部するにあたって試練を言い渡されるような部活の先輩に私はあんな失礼な態度を…??!
胃が痛くなってきた…。あとでこっそり先輩のこと、影山くんに聞いてみようかな。
お昼休みになったら影山くんは台風みたいなスピードで教室を出ていった。早すぎて声をかける暇なんてなかったので、先輩についての聞き込み調査は諦めた。お昼どうしようかな〜と用意していると、朝話しかけてきてくれた帰宅部仲間のナツメちゃん。一緒に食べよ〜と声をかけてくれた。
「わ、おにぎり?…そういえばお婆ちゃん農家さんなんだっけ?昨日言ってたよね」
「うん、米農家!おばあちゃんのお米なんだ。」
覚えててくれたんだ…なんとなく心がほかほかする。
「こっち慣れた?……流石にまだか」
「ん〜…まだかな…卒業までは向こうにいたから、結構どったばたでこっち来たんだよね。まだ荷解き終わってない荷物とかあるし…」
早く片付けないとな。
「今日は私アルバイト面接あるから無理だけど、帰り時間合う日あればどっか行こうよ!よければ弟くんもつれてきなよ〜」
「えぇ、いいの?弟…りくって言うんだけど、最近は喘息出ることもないしお母さんに聞いてみる!…あ、すっごい人見知りだから先に謝っておくね…」
「いーのいーの、アタシも小さい頃…っていっても幼稚園くらいの頃だけど。なんか胃の調子悪くて小児科に入院してたことあるからさ…アタシひとりっ子だから、入院の寂しさもわかるし」
「そうなんだ…今こんだけ元気なら、りくも励まされるかも」
「誰も悪くないのに、皆自分が悪いみたいな感じになっちゃうよねえ〜」
誰も悪くないのに。ナツメちゃんの素直な言葉が胸に突き刺さる。確かに…お母さんも、きっと自分が悪いって思ってる。りくも、隠してるけど少なからず思ってるだろう。私だって思うときがあるんだから。
「…なんか、ちょっと楽になったかも」
「あ、絶賛だった?!も〜ほんとに誰も悪くないんだから気に病むことないよ?…っていっても病むのが人間なんだよね」
「待って、同い年だよね?色々達観しすぎじゃない?」
ベテランの看護師さんみたいな励まし方されすぎてちょっと涙が出そうだったのに、面白くて泣き笑いみたいになる。
そんなこんなで放課後に。…菓子折りとか持ってきたほうがいいかな!?と思って購買のクッキー何枚か買ってきた。
昨日の体育館をそ~っと覗く。…影山くんいたりしないかな…そしたら入りやすいんだけどな…。
全然影山くんどころか誰も居ない。台風みたいに1番に教室出ていったのに…あ、着替えてるとか??そう思ってドアの隙間から中を覗いてると、昨日の優しそうな先輩を発見。
「た、たのもー!こんにちは!」
「エッ何?!道場破り!??…あれ、昨日の!」
あ、後ろに怖そうな方の先輩もいる。
「昨日はすみませんでした!!」
「えっ?!いやいや、謝るのはこっちで…てかお辞儀深すぎない!?田中、お前がボールぶつけたのに何謝らせてんだよ!!」
「いえ、思い切り八つ当たりしてしまったので…!これ謝罪の気持ちです食べてください!じゃ!失礼しました!」
「待って待って、一旦待って!」
グイ、と手を引っ張られる。ピシ、と気をつけの姿勢になる。
「はい、座る……ぷっ、ははは!菓子折りもらっちったべ…田中、お前も座る。」
「は、ハイっす…」
三人で正座し合ってるこの図は何?これも試練…!?!
「俺は3年の菅原孝支。こっちは2年の田中龍之介。…昨日の流れ弾は、俺がボール上げて田中が打ったやつがドアを越えて君に当たっちゃいました。…ごめんなさい」
「すんませんした…」
「い、いえあの…」
「頭に当たったしよろめいてたから気になってて…平気?たんこぶとかできてない?」
な、なんて優しい…!ああ見えて実は怒ったら怖いのかもなんて少しでも考えた自分を恥じる。
「何にもできてません…!」
「何やってんのスガ…」
体格がものすごいどっしりした先輩がやってくる。もしかしなくても部長では…??
「あ、大地〜。この子だよ昨日言ってた子、菓子折り持ってきてくれたんだべ…あれ俺らの主将の澤村大地!」
さ、澤村先輩…。会釈をすると後ろからとんでもないど美人が現れる。
「あいつはマネージャーの清水!」
「!…マネ志望?」
「いや…私は試練を乗り越えられるような人間ではないので…!」
「試練…??」
「か、影山くんと同じクラスなんですけど…入部のために試練を言い渡されてるって聞いて…私、諸事情で部活やったことないから入部するには試練を乗り越えなきゃいけないんだって今日知って…」
そう言うと菅原先輩と田中先輩は膝から崩れ落ちて笑ってる。ど美人マネージャーの清水先輩も肩を震わせて笑ってる。
「え…嘘でした!?」
「いや…スガ、清水も…。影山ともう1人に試練…って言っていいのかな、入部のために条件を出してるのは本当。でも全員に言い渡してるわけじゃないよ」
あ、特例なんだ…ってことは影山くん、きっともう一人と一緒に何かやらかしたのかな…。
「そうなんですね…部活って厳しいんだなって思ってました。ただ、私弟迎えに行かなきゃいけないので…今日も昨日の態度の悪さを謝りに来ただけですので、これで」
そう告げると謝るのはこっちの方だ、と菅原先輩が食い下がる。
「でもクッキーありがと、ありがたくいただくな!田中はシメとく!」
シメないでください…!と懇願してると、見知った声に呼ばれる。
「あ、ねね!」
「…えっ、りく!?…ひとりできたの?」
「うん、一人で来たよ!途中いろんな人に道教えてもらったけど…」
「先帰るか、図書室で待ってなって言ったのに…熱とかない?」
「ねね過保護〜、薬持ってるし大丈夫だよ。ねね、バレーするの?」
過保護じゃないよ、全く…。いつ喘息の発作起きるか分からないのに…。小学校から烏野まで確かに距離はないけど、りくには見合ってない運動量だから心配にもなる。
「噂の弟くん?カワイ〜!」
菅原先輩がやってくるとりくはもじもじして背中に隠れてしまう。
「りく、挨拶は?…も〜、ねねの服引っ張らないの。すみません、人見知りで…」
「いーべいーべ、いいお姉ちゃんもったなあ?」
う…恥ずかしい…。お辞儀をして体育館を出る。マネージャー歓迎だからね、と清水先輩に誘われる。ドキドキした…。
「ねね、カバン忘れてるよ〜!」
「大きい声で言わないで恥ずかしいから…!」
ばたばたと荷物を回収して再度菅原先輩たちに会釈。接した感じ、皆優しそうに思えたけど条件付きだされるって影山くんほんとに何したんだろ…?あんたを先輩とは認めねえ!とか言っちゃったのかな…。
ひとまずいやいや、と受け入れてもらえたかは微妙だけど昨日の態度を謝罪出来てよかった。りくと手を繋いで校門を出る。家に帰ったら念の為熱とか計らないと…。
(ねね、あの白い人かっこよかったね!)
(…あ〜、りくに挨拶してくれた人?菅原先輩っていうんだよ)
(菅原くん?また会えるかな〜)
(会えるといいね、体力つけてまた遊びに来ようか)
(うん!今日は体育の授業おやすみしたけど、ここまで来ても苦しくなかったよ)
(おぉ、よかったね。でもねねはちょっとヒヤッとしたかな…こういうのは少しずつ体に慣らさないとね)
(分かった!)