HQ 黒尾
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どうしようもない
*ミョウジナマエ
クリエイターイベントに承諾して中身をどうするか毎日ほかのダンサーたちと詰めていく。渋谷らしく見た目の個性が強い人が多く、東京って感じがする。連日チームで移動してリハして調整して…と繰り返しイベント本番もミスなく終えた。知り合いの人以外で名前を呼んでくれる人が増えたのがうれしい。
「あの」
黒髪のショートヘアの子に引き止められる。なんかみたことあるジャージの気もするけど…私としては面識はない。
「はい?」
首を傾げると、堰を切ったようにその子がまくし立ててくる。
「遊びみたいな踊りでチヤホヤされていいですね!人生楽そうっていうか…」
「………え?」
暴言とも取れる言葉が理解できなくて頭が真っ白になる。その子はその後も可愛くないとか露出で売ってるんでしょとか、冗談でも笑えないことばかり言ってくる。
「いや、あの…」
「何してんの?」
もう帰ってくださいと言おうとしたら地を這うような冷たい声が聞こえる……黒尾くんだ。女の子はそこまで背が高くないから顔も見えるけど、見たことないくらい怖い顔してる。あ…見たことあるような気がしたのはジャージが同じなんだ。
「く、黒尾先輩…」
「何してんのって聞いてんだけど…なんか色々ひでーこと言ってなかった?」
詰め寄る黒尾くんは怖くて私もその子も後ずさりしてる。
「い、いいよ…感想は人それぞれだから」
「感想じゃなくて侮辱ね?誹謗中傷ともとれるし今の内容普通に訴えられるけど…?お前ここで、何してんの?」
後ろには研磨もいる。
「研磨……黒尾くんとめてよ」
「無理だと思う。詰められても自業自得でしょ」
研磨も止める気はないらしい。イベントで喧嘩なんてご法度だから!と黒尾くんと女の子を引き剥がす。
「黒尾くん、大きいんだから凄まないで……これ以上長引くならカフェに全員連行するけどいい?」
そう言うと女の子は泣きそうな顔をしながら無言で立ち去ろうとする。その腕を黒尾くんが掴み、カフェ行こうかと有無を言わさない笑顔で言うもんだから私も行くしかなくなる。
「ちなみに俺の大学の後輩ね。少し前にサークルのマネやりたいっていうから理由を聞いたら俺が好きだから、って。そういう邪な気持ちでマネされるのは勘弁だし応えられないってハッキリ断ってます」
「研磨……なんとかしてよ青筋立ってるよ」
「ああなったら無理、収まるまで待と」
我関せずの研磨は呑気にアイスティーを飲んでる。こんなに胃が痛いのは私だけなの…?
「ナマエちゃんさっき何言われてたの?最後の方しか聞こえなくてサ」
「……いや…遊びみたいな踊りでって……それが1番、悔しかったかな…」
「へぇ、どこから遊びでどこから本気か分かるんだ。経験者?」
「研磨、やめて」
研磨まで黒尾くんみたいに怒ったらもう収集つかない。確かに頭が真っ白になるほど衝撃的で悔しいけど……。私がもっと精進しなきゃいけないんだから。
「お前……俺らにもそれ言えんの?人選んで言ってんなら超ダサいよ」
「すみませんでした…」
声が震えるその子を見やる。ぼたぼたと涙を流してるのをみて自分でも驚くくらい冷ややかな笑みが浮かぶ。
「泣けば……反省してるしって許されると思ってる?泣きたいのこっちなんだけど」
いきなり酷いこと言われて、それが勝手な八つ当たりだなんて良い迷惑。被害者ぶるのもいい加減にしてほしい。
「…帰ろ、もう話すことない」
3人で帰路につく。遊びか……。そうだよね、資格があるわけでもないし遊びみたいな仕事と思われても仕方ないのかもしれない。でも歌手にはそういうこと言わないのに、何が違うと言うんだろう。歌声で表現しているかと、体で表現しているかの違いなのに。
「気にしちゃだめ」
「うん」
「ナマエはナマエのやりたいようにやればいいんだよ」
研磨はずっと昔からそう言ってくれる。お母さんより広い寛大な心で私を応援してくれてる。
「うん、大丈夫」
研磨は用があるからと先に別の電車乗り継ぎ、私と黒尾くんの二人きりになる。この間の失態もあるからちょっと恥ずかしいけど…沈黙が苦にならないと思ってる…少なくとも私は。
「マジでごめん」
「黒尾くんのせいじゃないでしょ?それに誹謗中傷言われるって一流の証っていうじゃん」
「…無理してない?」
「無理はしてない、ちょうどこの間ご飯食べながら話したことだなあって思ったの」
「あぁ、身体表現学?…気にしてないならいーけど」
「なんだろ、ムカつきはするけど怒りを引きずるかって言われたらそうじゃなくて……有無を言わさないくらいになるにはって考え方になる……かな」
そう言うと1番ストレートに伝わったのか、なるほど。と黒尾くんが呟く。
「少なくとも…俺はずっと残ってるよ、初めて見に行ったやつとか…女の子3人とユニット組んでた回とか…最近K-POPアイドル流行ってるじゃん?アレをにわか程度に見るようになって気付いたんだよ、俺ナマエちゃんが考えるコンセプト…って言えばいいのかな。それすごい好きなんだなーって」
「え〜めちゃくちゃ嬉しい沁みるタイミングすぎる……コンセプトか…」
「実際かなり大事にしてるでしょ?」
そう言われ頷く。そりゃ絵ひとつとったって同じ手法でも描く人が変われば印象も絵も変わるように、踊り…例えば同じジャンルのダンスで同じ曲であっても踊り手によって表現方法は異なる。
歌詞からインスピレーションを沸かせる人もいれば、音から想像して空想していく人もいるし、リズムにぴったりハマる気持ちいい動きを当てはめてパズルのように振り付けを作る人もいる。黒尾くんがいう…K-POPアイドルのようなコンセプトは確かに私が大事にしてることだ。だから自分の心情に近い歌や音を使うこともあるし、振り付けも拘る。
それをまるごと褒めてもらえてダンス…続けててよかったなという気持ちになる。素直に褒めてくれる黒尾くんにお礼を言いつつ駅で別れる。家に帰って今日のイベントの写真を整理しつつ、投稿する……私のインスタ、もう活動記録をまとめてるものになりつつあるな…そうやって使う人もいるだろうけどあまりに味気ない。今度やるワークショップのお知らせなんかも合わせて流してSNSは終わり。
「次の曲何にしようかな〜」
ふと流れてきた新曲が目に止まる。遊び人って言葉をかけた曲らしく歌詞がストレートなパンチの効いた中身だ。たまにはこういう系もいいかもな〜…やりたいことは全部やる、という歌詞に背中を押されて次はこの曲!と決めて振り付けを考える。ヒップホップなフリを入れつつ、路線変更?とびっくりされない程度に自分らしさを入れる。
次はこの曲で、こういう感じでいくよ〜とチラ見せ程度のためにストーリーで撮影する。いつも来てくれる子たちひっくり返って驚いてるだろうな……前回まで宇多田ヒカリとかだったのに急に韓国のアイドルでラップだらけの歌だから。
想定通り驚かれた反応が多数を占めてていたずらが成功したような気分になる。おお、クラスあっという間に埋まったな…はじめましての子も多い。色々準備していかないとな。
*黒尾鉄朗
咥えていたパンとスマホを落とす。……っえ?!待って、なにこれ…?何このナマエちゃん。流れてきたストーリーをもう一度再生する。ナマエちゃんは…コンテンポラリーやジャズというしっとりした感じ?の踊りがメインだと昔教えてもらった。けど、画面の中のナマエちゃんはノリノリイケイケな音楽で踊ってる……こういうのイケるんだ……。
曲もK-POPアイドルの新曲だった。もしかしなくても俺との会話が何かしらで影響出てる……?いやでもこれそんなことなかったらクソ恥ずかしい勘違いになるよな……。
「黒尾先輩」
「……何?」
「あの…先日は本当に、すみませんでした」
「俺に言っても意味ないでしょうよ……」
眉がドンドン下がって泣きそうな顔をする例の後輩を見てまあ反省してるんだろうな…って分かるけど、許してやれるような発言内容ではないなと改めて思う。
「本人は…ショック受けてたけど気にしないようにするってさ。俺は許せそうにもねえけど……表舞台に立つ人ってキラキラしてるから楽しそうとかしんどいことなさそーって思うんだろうけど…そんなことねえからな」
そう釘を刺すとはい、としっかりした返事が返ってくる。もう同じようなことはしなさそうと判断してこれ以上棘を刺すのは辞める。
『クロにもそのうち話し行くと思うから先に言うね
ナマエ、韓国に行くか迷ってるみたい』
研磨からそんなLINEがきて驚く。
『留学的な?』
『違う。
向こうのアイドル事務所のダンサーに専属でなるかどうかの話が来たんだって』
『すご……ナマエちゃんどこで迷ってるの?』
『向こうの食生活が体に合わないことと、専属はなんか違うって思うんだって
ただ次への道は開きやすいかもしれないから迷うって言ってた』
『あ〜辛いの苦手だもんな…』
『あとニンニクも凄いじゃん、向こう。ほんとに合わないから前旅行行ったときも胃薬手放せなかったって』
そりゃキツイだろうな…それがストレスになって体壊しそうな話だ。
研磨の言うとおり、数日後に迷ってるとナマエちゃんから話があったがもうその時は断る気持ちが固まっていたそうだ。割と大きな事務所に声をかけられていたみたいだけど、SNSでファンの声なんかを調べてダンサーへの扱いや見られ方をみて嫌だなと思ったらしい。
(バックダンサーなんだから前に出てくんなとか書かれててさ)
(あとはアイドルたち見たいから要らないとか)
(……そういうの、分かるんだけどそう思われてるって思いながら踊るのしんどいだろうなって思って断ることにした!)
(そっか……つかそんな言われ方してんだ)
(分かるけどね、メインは向こうで私らは……前菜的なさ)
(ダメよそういう言い方しちゃ。同じチームでコンサートでもなんでもやるんだから全員メインでしょ)
(ふふ、ありがと)