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80 置き去り
*神代くましろ
学生の頃に一度申し込みがあった。怖がりなオレと轟くんのお化け屋敷企画の取材。学生の頃は未成年だし、それどころじゃなかったのでダメと消太さんが突っぱねて終わってた。
晴れて成人してプロヒーローとして活動してるから再度テレビ番組の出演依頼。轟くんが受けるなら、と返事をしたら速攻で轟くんからのOKをもらったと連絡がきた。早すぎて疑ってLINEしたけどほんとだった。
「あぁ…いやだ…なんでOKしたの轟くんてば…」
「面白そうだなって思った」
轟くんは人並みに?びっくりしたりするけど、表に出てくる反応は小さい。それと正反対のようなオレ、皆面白がって見るかもしれないけどさ…。
TV局に入り、スタイリストさんやメイクさんに世話をされて着替えたりする。轟くんはオレが入って15分後にズレて入るらしい。一人でなんて無理です、と伝えたらスタッフさんと行くらしい。スタッフさんはオレのために明るく振る舞ってくれてるけど、明らかに気乗りしてない。仕事とはいえ怖いの嫌だもんね…大変だ…。
台本通りのオープニングを撮ったあと、スタッフさんと入る。ヘルメット型の自分を撮るカメラがある、こういうのつけるとテレビっぽいなあと思う。
「ま、待って待って早い置いてかないで…!」
怖いから早く行きましょう、とスタッフさんどんどん進む。理屈は分かるけど体がついていかない。小走りで後を追う。
「寒いし怖い…」
「出たあとってたこ焼き食べていいのかな…お腹空いた…」
オープニングのときからずっと香ってきててすごい飯テロだった。絶対終わったらたこ焼き食べる。また言ってるんですか、とスタッフさんに笑われたけどそれだけを心の支えにして暗くて怖い廃病院の中を歩き回る。でかすぎて全然今どこにいるのか分からない。
曲がり角にいたゾンビ?にビビってお兄さんがオレの静止を聞かずあらぬ方向へ走り去ってしまう。オレは残ったゾンビに壁のように立たれてお兄さんの後を追うことができず、完全に逸れる。
「え、ど、どうしよ…どう、どうしよ…」
焦りまくってライトを握る手がぶるぶる震える。適当に近くにあった部屋の中に入り、箱の中に隠れるように入る。
「は、…ひゅ…ぅ…っ」
焦りすぎて過呼吸になってきた。なんかあったときの無線とかそういうのもないからゾンビ役の人たちにお願いして出るか、自分で脱出するしかない。
とりあえずこの過呼吸をなんとかしないと…、座ってるのに立ちくらみみたいにフラフラする。
「くましろ、いるか?」
ドアが開いたと同時に轟くんの声が聞こえる。
「い、る…、いる…っ!!」
箱の蓋をどかして顔を出す。うまく声が出なくてもどかしい。
「お前…そんなとこにいたのか。ゆっくり呼吸しろ、手握ってやるから」
「どあ、しめてよ…」
「ああ、悪い」
手を握って背中を擦ってくれてるおかげでだんだんと息苦しさがなくなってく。
「治った…轟くんもスタッフさんと離れちゃったの?」
「多分だがこれドッキリだろ。先に入ったくましろは多分どっか隠れてるだろうなと思って探してた」
「思考回路バレバレなのつら…。たこ焼きの話してたら置いてかれた」
「あぁ、入口前にあったやつか?…腹減ったな」
「轟くんのお腹が返事したね。くそ、たらふくたこ焼き食ってやる…」
出ようか、と立ち上がる。逸れないようにしっかりと右手を繋がれる。
「轟くん一人で怖くなかったの?」
「?びっくりはしたが怖くはねえ。お化け屋敷だし」
「いいなぁ…。オレめっちゃ怖くて部屋で泣いてた」
「だろうな…。でもここの人たちぜってぇ触ってこねえから近くに来ても何とかなるぞ」
「撃退するみたいな言い方やめてね?」
でも確かに…。トラブル回避のために絶対に触らないように徹底されてるんだろう。こっちが予測不可能な動きをしない限り追いかけてきたりするだけか…。いやそれもめちゃくちゃ怖いけどね…!??!
「…?」
「……えっ、何怖い居ないよ…!!」
「…気のせいだな」
「怖い無理、なんでそういうことするの…!」
後ろを振り返ってきた轟くんに合わせて振り返ったのに何もいない、本物がいたみたいな反応するからボロボロ涙が溢れる。
「悪い、安心しろ。霊感ねえって神社の人に言われたことあるぞ」
涙を拭ってくれる轟くんにしがみつく。
「もう轟くんおんぶしてよ」
「それはズルだろ、歩け」
ズルって何さ!!!とぎゃいぎゃい騒ぎながら進む。
「手術室…」
「ふは、言えてなくなかったか?もう一回」
失礼な轟くんの耳元で手術室、と言うと面白かったみたいでぷるぷる震えながら笑ってるので耳を軽く抓るように引っ張る。
「王道の脅かしポイントだよね…何来るかな…」
「血まみれの医者とかか…?」
二人で予想してたとおり血まみれの患者と医者が出てきたので轟くんと逃げる。
「待って、やだ、置いてかないでっ!!」
「ぐ、るし…!!!」
首がしまってたみたいで腕をペチペチ叩かれる。腕の力を弱めると、轟くんが盾になるように間に立ってくれる。
「怖い…暗いと怖い…むりぃ…」
「泣くな。…アレだと思えばいいだろ、ハロウィンタウン。」
「……不気味さが足りないよ…」
「怖くて暗くて不気味揃ったらいよいよくましろは動けなくなるだろ」
「ジャックいるなら怖くないけどさ…ハロウィンタウンの誰好き?」
「…4人の吸血鬼か、ガイコツ下げてる木…?」
おお、分かる。可愛いよね。
「オレはえぇ?全然よって言う魔女二人と、手が蛇で髪の毛クモのあの子。かわいいよねえ」
そんな話をして歩いてると、出口らしい扉にやっとたどり着く。押して開けると、やっと外…なんて明るい…晴天だ。
「おお、脱出できた…!あ、裏切り者め…」
「睨むなよ」
スタッフさんがすごい勢いで謝ってくるのでたこやきで手を打ちますと言うと、道中モニターで確認してたらしくたこ焼き買ってくれてた。轟くんの言うとおりドッキリでホントは個々の反応を撮る予定だったけど、轟くんがオレを探して合流してくれたおかげで色々予定が変わったらしい。
「放映後の皆の反応楽しみだね」
「次は爆豪とか飯田も連れてきてぇな」
「たしかに!次インゲニウムどうですか?」
そうカメラマンさんに聞くと検討します!と帰ってくる。
「遊園地なら切島くんとかもいてほしいよね、切島くん遊園地マスターらしいよ」
「遊園地マスター…?」
「大方の遊園地行ってるから、プランとか立てるの得意なんだって!」
ディズニーもユニバもいっぱい行ってるんだとか。学生の頃からたくさん通ってるらしくて、羨ましくて覚えてる。最近はジブリのテーマパークの攻略を頑張ってるらしい。
「Neutralはpinkyとも仲がいいですよね?」
番組のMCさんにそう言われ、頷く。
「芦戸さんとは遊園地は行ったことないな…なんか食べたいものできると向こうから写真が送られてくるんで、食べ歩きが多いです。…あ、芦戸さん、ここのたこ焼き超美味しかったよ〜!おすすめはポン酢、今度食べ来ようね〜」
出汁が効いててふわっふわで、タコも大きくてかなりかなり美味しかった。珍しく2個分食べたから轟くんもびっくりしてた。
*相澤消太
この間泣きべそ書きながら撮影に向かって、上機嫌で轟と帰ってきたくましろが出演した番組を二人で見る。
「視聴率凄そうだな」
轟とくましろ、フォロワーが増えそうだし反響も凄いだろう。怖がりなくましろは最初こそスタッフと仲睦まじくたこ焼きの話をしながら頑張ってお化け屋敷を進んでいたが、途中でドッキリとして置いてかれた(逸れたと勘違いしていたが)際に、各所においてあった暗視カメラで怖がる様子をバッチリ撮られていた。
「……ふ、手も足も震えてる」
「笑わないでくださいよ…怖かったんですから」
怖いだろうな、と返す。涙目で声まで震えて完全にパニックになったくましろは恐らく本来は脅かし役が入るであろう箱の中に隠れた。これには番組も意図してなかったみたいで、モニターを見ていたスタッフたちが慌ててる様子が映されている。
「過呼吸なってんじゃねえか……そんな怖かったの?」
「暗くてパニックになっちゃって……外から見るとこんな絵面なんですね…」
ひゅー、ひゅー、と息苦しそうな音がテレビから聞こえてくる。テロップがあるとはいえすごい場面だ。
場面が変わり、轟がスタート。あまり怖がらない轟は逆にスタッフを置いていく速度で進み、同じようにスタッフに置いていかれる。
『……くましろ、くましろ!いるか?返事しろ』
ドアを一つ一つ開けてくましろが居ねえか確認している。同じように逸れたであろうくましろがビビって動けなくなるのを予測したんだろう、流石付き合いが長いだけある。
『い、る…、いる…っ!!』
眉が下がりきって涙をポロポロ流すくましろがアップになる。過呼吸で苦しそうだが、本当に…顔がいいとはこのことだな。
「…お前ほんと……どんなときでも絵になるのずりぃな…」
「消太さんだってなんのポーズしててもモデルみたいじゃないですか…立つだけでハンサムなくせに…」
減らず口のくましろの鼻を摘む。手を繋いで抱きしめてもらって、そうしてようやく過呼吸が収まったくましろ。ワイプに映るスタジオにいる芸能人も微笑ましい光景を見る顔で見てる。
過呼吸が収まってからは隣に轟がいるからか、驚かされてたまに泣きながらも無事に脱出していた。エンディングでたこ焼き食べてニコニコのくましろと轟が写し出される。
「マイクがSNS凄ぇってよ……トレンド祭りだな」
1位がたこやき、2位が過呼吸、3位が手繋ぎ、4位がNeutral、くましろ、5位がショート…軒並みランキングを占拠してる。怖いからってぽろぽろ俳優みたいな泣き顔を放映したし、くましろは轟にしがみつきながら怖がる様子などが新鮮だし何より親近感が沸いたのだろう。
「くましろ、よく置いていかないでっつーよな…なんか昔あったのか?」
何気なく気になったことを聞いてみる。
「………あ〜…すぐ出張行っちゃう父さんにもよく言ってたし、めったに帰ってこない母さんと…そのサイドキックの人に言ってたような…?」
「…そうか、お前は…横にも後ろにもそっちじゃねえだろって手を引いてくれる友人をたくさん持って幸せモンだな」
「消太さんは?」
「道が逸れたら引っ張るか、お前の帰る場所が役目だろ」
「う…好き…」
オタク化してしまったくましろを膝の上に抱え直す。
(随分泣き顔可愛かったな)
(……なんか…素直に受け取れないんですが)
(すぐそうやって受け取る…くましろのえっち)
(違いますもん!!!)
(悪かった、俺もたこやき食いてえ)
(これ美味しいですよね)
(おー……轟との番組の影響か1ヶ月間あの遊園地のチケット売り切れだってよ)
(すご…なんか気軽に好きなもの好きって言いにくい…この間のポケモンのグッズも、転売とか発生してるみたいで…)
(あの〇〇が好きって箔がついたら今は売れるもんな)